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67話目

主人公を痛めつけたい悪癖バッチリ出ちゃってます(*>_<*)ノ


まぁ、ジルヴァラは全く痛めつけられず、周囲がダメージを喰らってますが←

 しっかり目覚めた俺は、改めて周囲を見渡してみる。

 どう見ても……というと失礼だが、明らかにイオの家ではないのはわかる。もちろん主様の家でもない。

 だけど、この部屋に自体には見覚えはないが、何となく内装には見覚えがある。


 フシロ団長のお屋敷?


 そう呟いたつもりだったが、口から出たのは空気が洩れるような音だけ。

 え? となった俺は、今度は意識して声を出そうとしてみるが、やっぱり出てくるのはヒューヒューという空気が洩れるような音だ。

「(声が出せない?)」

 喉に触れてみるが、特に外傷とか異常がある訳ではない。

 一旦落ち着こうと、他に体の異常はないか、確認するために体を起こして周囲を見渡す。

 視覚異常なし。

「(ここ、着替えに使わせてもらった部屋か?)」

 嗅覚も異常なし。

「(高そうないい匂いする)」

 触覚も……。

「(ベッドふっかふかだー)」

 主様の家のベッドより高そうかも、とふかふかのベッドを体全体でばふばふと楽しんでると、扉の方から小さく吹き出すような音が聞こえる。

 聴覚も異常がなかったようで何よりだと開き直りながら、俺は吹き出した犯人を窺う。

 微笑ましげに俺を見ていたのは、やはりというか想像の範囲内だったフシロ団長の屋敷のメイドであるフュアさんだ。

「目が覚めましたか、ジルヴァラ様」

「(おぅ! どうして俺ここにいるんだ?)」

 自分の状態も忘れて普通に笑ってフュアさんへ問いかけると、フュアさんの顔色がサァッと一気に青褪める。

「(フュアさん? 大丈夫か?)」

 さらに問いを重ねて、俺は自分の声が出なくなっていたことを思い出して、何か書く物がないか辺りをキョロキョロ見回してたのだが、気付くとフュアさんの姿は消えていた。

 ベッドの上にぺたんと座り込んで首を傾げていると、バタバタと忙しない足音がして一応ノックらしき音と同時に勢い良く扉が開く。ちなみに扉は内開きだ。

 ビックリしすぎて謎な一言も付けてしまったが、飛び込んできたのはいつも通りの登場なドリドル先生だったのでひとまず安堵の息を吐く。

「(ドリドル先生ー、声出ないんだけどー)」

 声が出ないことはわかっていても、ついパクパクと口を動かしながら喉を指差して説明していると、近寄って来たドリドル先生は困った顔をして、俺の唇へ人差し指を宛てる。

 シーッとして、って意味かと素直に口を閉じた俺は無言で首を傾げる。ま、そもそも声出ないんだけどね。

「無理に喋らなくていいですよ。声が出ないんですか?」

 声を出しそうになると、困った顔をしたドリドル先生は俺の唇から指を離し、パンパンに見える鞄からノートぐらいな大きさの黒い板を出してくる。

 どうやって入ってたのかちょっと驚いていると、ドリドル先生はその黒い板を俺に渡してきて、さらに白い棒みたいなのを握らされる。

「首を振るか、ここに文字を書いて答えてくださいね」

 今度は無言でコクリと頷く俺。

 笑顔のドリドル先生に、いい子いい子と頭を撫でられ、照れ臭くてへらっと笑う。

「いつから出ないんですか?」

 ドリドル先生の問いに記憶を辿る。最後に声を出した記憶は、主様にブチギレ……ぷちキレた時だ。その後、血圧上がり過ぎて倒れたのか? そんな事を考えつつ手を動かして文字を書いていく。

『倒れる前は出た』

「倒れてから、ですか……」

 俺の答えを読んだドリドル先生の表情は、何だかとても複雑そうだ。

「口を開けて」

 あーんと口開けると、変な器具で舌を押されて、喉の奥まで覗き込まれる。前世でも疑問だったけど、何が見えるんだろ、これで。

 俺が、おえっとなったところで、器具は口内から出されて、ドリドル先生から両頬を挟まれる。

 治療の一環かと思ったが、ドリドル先生は困ったような顔をして俺の目を覗き込んでくるだけで。

 俺はドリドル先生の行動の意味が分からず、頬を潰されたまま瞬きを繰り返していた。

 全く自分の状態も気にせず、無邪気に私を見て瞬きを繰り返すジルヴァラを見ながら、私は昨日の出来事を思い出していた。




「ジルヴァラが見つかったんですか!」

 ジルヴァラ保護の一報を受けて私が呼ばれたのは、騎士団本部でもあの方の屋敷でもなく、何故かフシロ団長の屋敷で。

 多少の違和感は抱きつつも、迎えに来たオズワルドと共にフシロ団長宅へと乗り込……お邪魔させてもらった私は、挨拶もそこそこにジルヴァラが寝かされているという部屋へと足早へ向かう。

 ノックをすると中からフシロ団長の声が聞こえたのと同時に、私は扉を勢い良く押し開ける。

 扉に何かに当たったのか、鈍い音が聞こえた気もするが気にしない。

「ジルヴァラは?」

「……そこだ」

 重々しく答えるフシロ団長が、あちゃあ、という表情で一瞬開いた扉の方を見たので、私も何となく視線で追う。

 無表情で額を赤くしたあの方がベッドの方を見つめて彫像のように立ち尽くしている。

 私は何も見なかったことにして、真っ直ぐ最初にフシロ団長が示していたベッドへ向かう。

「え? ちょっと、ドリドル先生!」

 何故だか慌てているオズワルドの言葉は聞き流しておく。

「寝ているところを無理矢理連れてきたんでしょうか?」

 私がベッドへ近寄って覗き込んでも、ジルヴァラは目覚める気配もないどころか、身じろぎすらせず微かな寝息を立てている。

 この様子なら抱き上げても目覚めなかったのでは、といつもよりさらに様子のおかしいあの方をちらりと見やると、珍しく動揺したような反応を見せる。

 訝しんだ私はフシロ団長へと視線を戻し、視線でおど……問いかける。

「……あー、あいつがジルヴァラの説得に失敗して怒らせて、立ち去ろうとしたジルヴァラを魔法で眠らせたんだよ」



「「はぁ?!」」



 奇しくも私の背後でジルヴァラを心配そうに見ていたオズワルドと上げた声を重ね、揃ってあの方を振り返る。

「本当に、あなたは、どうして、言葉で説得をしないのですか!?」

「ドリドル先生、ジルは大丈夫なんですか!?」

 あの方を叱りつける私と、ジルヴァラを心配して慌てるオズワルドの声で、なかなか騒々しくなったがジルヴァラは相変わらず目覚める様子はない。

「寝ているだけなので大丈夫ですよ。ジルヴァラの体質なのか、あの方との相性なのかはわかりませんが効き過ぎるようで、眠りが深いんです」

 そう答えながらも、私は念のためジルヴァラの小さな手を取り、脈を診る。

 脈にも触れた体温にも異常は感じられず、安堵の息を吐く私に、オズワルドも安堵の息を吐いて、キビキビと騎士団本部へと帰って行った。

 部屋に残されたのは、私とフシロ団長、眠るジルヴァラ。そして、置物のようなあの方だ。

 眠るジルヴァラの頭を撫でながら、私はニッコリと微笑んでフシロ団長とあの方を見て首を傾ける。

「で? 説得に失敗して、とは何があったんでしょうかねぇ? ジルヴァラは、あの方のことが好きでべた惚れですから、怒らせるなんて相当のことだと思いますが?」

「……」

 あの方をジッと見るが答えはなく、暗い瞳は眠るジルヴァラしか見えていないらしい。

 私は諦めてフシロ団長へと視線を移す。

「魔法人形を何も言わずに壊した件でジルヴァラが怒ったことは理解し……たんだろうな、たぶん。で、それが原因で出て行ったなら、全く同じ型で魔法人形作ればいいだろ、となったみたいでな」

 ポリポリと頰を掻いて視線を外したフシロ団長の言った台詞を理解するまで、私はしばらく時間を要した。

「まさか、それをジルヴァラに言ったんですか? 同じ型で作るから、機嫌直せとでも?」

「正確には『全く同じ型で作り直すからそれでいいだろ』みたいな事を言ったな。言い出す前に止められれば良かったんだが、俺にも予想外過ぎた」

 口から出そうになった罵倒の言葉を、唇を噛んで何とか飲み込み、私はジルヴァラの寝顔へ視線を移す。

「……それで、ジルヴァラはなんと?」


 怒ったか、泣いたか、責めたか。


 あの方の沈み具合から見るに、相当な反撃をされたと予想は出来たが、聞かない訳にはいかず、私はフシロ団長へと視線を戻す。

「『主様だって、俺と似たような子供見つけて連れて帰ればいいだろ』だそうだ」

「……それは、なかなか突き刺さる一言もらいましたね」

 直接言われた訳ではない私ですら、結構な勢いで突き刺さる一言だ。

「とりあえず、あの方は別室に放り込んでおいてください。ジルヴァラが目覚めた時まだ怒っていて、取り返しがつかないほどの追撃などあると困るので」

 あの方がいくら凹もうがどうでもいいが、理性を失ったあの方が暴挙に走った場合の被害を想像すると恐ろしいので、危険は事前に排除しておきたい。

 私の言いたいことをすぐ理解してくれたフシロ団長は、少しだけ抵抗を見せたあの方へ何事か囁いて、無事に部屋から連れ出してくれた。

 私もジルヴァラが起きた時に軽く食べられる物を頼むため、厨房へと向かおうと部屋を出る。途中、ちょうど良く通りかかったメイドにジルヴァラのことを頼んでおいた。

 この短時間で何もないとは思うが念のためだ。

 厨房へと辿り着いて、シェフの一人にジルヴァラの食事の件を相談していると、先ほどジルヴァラのことを頼んだメイドが走り込んでくる。

 さすがフシロ団長の屋敷の使用人というか、急いでいても見苦しくないギリギリな速度だ。

「ドリドル先生、ジルヴァラ様の様子が……」

 私がなにか訊ねる前に、真っ青な顔をしたメイドが口を開く。

「ジルヴァラに何かあったんですか?」

「それが……先ほど目を覚まされて元気そうにしてらっしゃったのですが、お声が出ないようなんです!」

 メイドのその言葉を聞いた瞬間、私は失礼だとか礼儀だとかを何処かへ吹き飛ばし、廊下を全力で駆け抜けていた。

 そして、いくら心配してもし過ぎでないであろう無邪気な子供は、喋れなくなったという異常事態が起きているとは微塵も感じさせない態度で私を迎えてくれた。




 子供特有の柔らかな頰を堪能しながら、ここまでの回想を終えた私は、不思議そうに私を見つめているジルヴァラの銀の目を見つめ返す。



「ジルヴァラ、まだあの方を怒ってますか?」



 シパシパと瞬きをしたジルヴァラは、少しだけ困ったように微笑むと、ことさらゆっくりと唇を動かして私へ言葉を伝えようとしてくれる。



「(怒ってるよ)」



 ひとまずあの方を追い出したのは、正解だったようだ。

いつもありがとうございますm(_ _)m

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