66話目
まずは再び感想ありがとうございます(*´Д`)
そして、誉めていただきましたが、こんな内容でなんか申し訳ありませんな更新内容となりますm(_ _)m
ジルヴァラは大物というより、ただ何も考えてない子です。主様だし、まっいっかーなノリです←
「なぁ、結局、フシロ団長は何しに来たんだ?」
全力で主様の方へ向きそうになる視線を剥がし、フシロ団長を正気に戻すべく、一番最初に訊ねそびれた質問を口にする。
というか、一番最初に訊ねるべき質問だったとも言える。
「実は、行方不明の子供の安否を心配してたら、無事に保護されているという連絡をもらってな」
「……あぁ、それでイオに会いに来たのか」
未だに降ろしてもらえないのでフシロ団長に抱えられたまま、俺は一人で納得して頷いてなんとなくフシロ団長のぶ厚い胸板をペチペチと叩く。
「俺のせいでさっきはちょっと泣かせちゃったけど、捕まってた時のことはあんまり怖がってないみたいだぞ。両親であるアモルさんとファスさん、それに直接助けてくれたっていうカッコいい騎士様達のおかげだな」
そう言ってへらっとフシロ団長に笑いかけると、深々とため息を吐かれた。
厚い体が膨らんで萎むのが面白くて見ていると、同じように面白くて見ていたらしいナハト様と目が合う。
くく、と笑い合った俺達は、両側からペチペチとフシロ団長の安心感抜群な胸板を叩き、またくくく、と笑い声を洩らす。
段々と楽しくなってきてそのまま二人でペチペチと叩いていると、窓の方からの異音がどんどん大きくなってきている気がする。
一瞬そちらへ気を取られかけると、再度フシロ団長から、はぁ〜というため息が聞こえてきて、視線をフシロ団長へ戻す。
「…………いや、あのなぁ、行方不明だったのはお前だからな、ジルヴァラ」
「嘘だろ? ジル、行方不明なのか!? 大変だ……って、ここにいるじゃん」
俺がきょとんとしてると、俺より早く復活したナハト様が俺が行方不明だということを俺を見ながら驚き、見事なノリツッコミを披露してくれた。
「それは、探して見つけられた結果だからな?」
呆れた顔をしてナハト様を見たフシロ団長は、俺にしたようにナハト様へじょりじょりと頬擦りして、止めろよーと嫌がられてる。
「俺が行方不明って、主様ならすぐ見つけられるだろ? だから、主様に俺を探す気がなかったから見つけられなかっただけなのに、行方不明扱いなのかよ」
「いや、あいつはすぐ探知魔法で探したらしい。ジルヴァラ、どうやってあいつの探知魔法から逃れたんだ? おかげで、あいつはかなりご機嫌斜めなんだが」
ナハト様へのじょりじょり攻撃を止めたフシロ団長は、軽い口調ながら真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
「俺に主様の探知魔法から逃れるなんて出来る訳ないだろ? つーか、俺じゃなくても無理なんじゃ……」
「本当に、何もしてないのか? 何か身を隠すようなことは?」
「一応、人目を避けて移動したりはしたけど、そもそも探知魔法から逃れる方法なんて知らないからな?」
疑っているフシロ団長に、少し怒りを露わに睨みつけて見せると、フシロ団長は、おい、と声を荒らげて呼びかけてくる。
荒々しい呼びかけに驚いた俺が目を見張るのと、俺の腰を掴んだ何者かの手が俺を引っ張るのはほぼ同時だった。
「──嘘です。なら、どうして私にロコが見つけれなかったんですか」
思いの外近くで聞こえた拗ねた声音が、俺を引っ張って抱き締めたのが主様だと知らせてくれる。
フシロ団長は主様の接近に気付いてたのか、というか、おい、というのは主様へ向けた声だったんだろう、こちらを見る表情は苦笑いだ。
フシロ団長に抱き上げられているナハト様は、俺と同じく主様の接近に気付いてなかったらしく驚いて目を見張っている表情は年相応で可愛らしい。
「ロコ、私を見て……」
あえて見ないようにしていたが、抱き上げられた上に顎を掴まれてしまい、俺は意を決して主様の顔を見上げる。
主様が怒ってはいないだろうと予想していても、俺のバツの悪さが無くなるわけではない。
「……えぇと、見たけど」
見上げた完璧な美貌は何だか少し窶れて見えて、俺はバツの悪さも忘れて主様の頬へと手を伸ばす。
「主様、具合悪いのか?」
思わずそのまま触れようとしてしまってから、正気に戻った俺は中途半端なポーズで手を止める。
「ロコがいなかったんです、ずっと探していたのに……」
その体勢のままで常とは違い、ぽやぽやしてない主様をボーッと見ていると、中途半端で止まっていた俺の手に主様の方から顔を寄せてくる。
視界の端では、フシロ団長がナハト様を抱えたままそっと離れていくのが見える。イオを寝かしつけて戻って来たファスさんも連れて。
すりすりと俺の手に頬を寄せている主様をちらりと見て、気を利かせてくれたんだな、と思って心の中で感謝していると、俺の気が逸れたことに気付いたのか、こっちを見ろとばかりに手を甘噛みされる。
「……本当に探してくれてたのか?」
ほぼ痛みはないが、味わうようにあむあむと齧りつかれてふやけるかもしれない。そんなことを頭の隅で考えながら、俺から一時も離れる気配のない瞳を見つめ返して首を傾げる。
「ずっと……ずっと……ずっと探知魔法で探して、範囲も隣国まで広げました……」
あむあむする合間の、恨み節じみた歌うような声まで美しい主様の呟きに聞き惚れていた俺は、言われた内容を理解するとカッと目を見開く。
「嘘だろ、俺が家を出てから、ずっと探知魔法使いっぱなしだったのか? しかも、隣国まで?」
魔法使いではない俺はそれがどれだけ大変かは理解出来ないが、絶対普通ではないし、やばいやつだ。
あむあむとされてない方の手を主様の頬に添えた俺は、さっきまでのバツの悪さも忘れて主様の顔を覗き込む。
「魔力切れとか、平気なのか? 何処か苦しいとかは?」
そこでやっと俺の手を離した主様は、その俺の手を自らの胸元辺りへ触れさせる。
「ロコがいなくなってから、ずっとここが変でした」
「でした……ってことは、今は平気なのか? ドリドル先生呼んでもらうか?」
主様見た目は人だけど人外らしいし、ドリドル先生でも無理かな、と思いながら触れさせられた主様の胸元をそっと撫でる。
とくんとくんと一定のリズムで鼓動が伝わってきて、ちょっと寝そうになってしまい頭を軽く振る。
今は絶対寝てはいけないと、気合を入れ直して主様を見上げると、不思議そうに首を傾げているので、とりあえず体調とかは大丈夫そうだ。
それを確認した俺は、緊張から唾を飲み込んで、主様をじっと見つめる。
「あのさ、主様はどうして俺が家を飛び出したのかわかってるのか?」
「……私が怖くなったからでしょう?」
ニコリと微笑んだ主様に、俺はニコリと微笑み返して、触れたままだった主様の胸元を少し強めにペシッと叩く。
もちろん強めと言っても本気で叩いてないし、俺が本気で叩いたとしても主様にはダメージは無いだろうと思ったのだが、思いの外ビクッと体を震わせた主様にほんのちょっと心配になる。
「ごめん、痛かった? 主様なら平気かと思ったんだけど……」
「ロコ……」
叱られた大型犬みたいな顔をされてしまい、湧き上がってきた罪悪感を何とか飲み込んで、ふいっと視線を外す。叩いたのはダメージないみたいだし。
「俺が主様を怖がる訳ないだろ」
俺が少し怒ったようにそう言うと、主様は安心したようにぽやぽやして、ぐいっと顔を近づけてきて俺の瞳を覗き込んでくる。嘘吐いてないか確かめてるのかもしれない。
「──ロコは私が魔法人形を壊してしまったから出て行ったと、あの医者は言いました」
「まぁ……間違いではない、かな」
「なら、私が怖くなったんでしょう?」
「だから、なんでそこに繋がるんだよ」
デモデモダッテなわからず屋主様に俺はへらっと笑って、さっき叩いてしまった辺りを優しく撫でる。
「例えるのも難しいよな、主様はあんまり他人にも物にも興味ないし……」
無言でじっと見てくる主様を見つめ返し、俺は何とか俺の感じた遣る瀬無さを主様に理解してもらえないかと頭を悩ませてると……。
「私にも、お気に入りの『物』ぐらいあります」
憮然とした表情の主様がそんな言葉を呟き、なんの脈絡もなくギュッと逃さないようにするかのごとく抱き締められる。
お気に入りの物は、自分だってこうやって離さないっていうのを再現してくれたらしい。
「そっか。ならわかってもらえるかも。もしもだけど、誰かがその主様のお気に入りの物を盗ったり、壊したりしたらどうする?」
「跡形もなくぶち殺します」
間髪入れずに即答され、俺はほとんど言われた内容を聞き取れなかったけど、瞬き一つない表情的には、ムカつきます、とかかなとそのまま話し続ける。
主様は瞬きもせず、抱き締めて密着したままの俺をじっと見て、きちんと話を聞いてくれてるようだ。
集中し過ぎで、さすがにちょっと怖い……口には出さないけど。
「じゃあさ、そのお気に入りの物を盗ったり壊したりしちゃった相手が、主様の大事な人だったら?」
「……無理なのでは?」
「無理……?」
わかりません。想像できません。そんなことはありえません。ぐらいの回答もあるかな、と思っていた俺は、心底不思議そうな主様から返ってきた言葉に、こちらも不思議そうに首を傾げる。
「自分で自分をどうにかするなんて無理でしょう?」
とろりと溶け出しそうな美しい宝石色の瞳に見つめられ、甘やかな声音で囁かれた言葉を聞いた俺は──納得して大きく頷く。
「そうだな。主様自身が主様に何かするなんて無理だよな」
うんうんと何度も頷いていたら、ため息を吐いた主様から今度は鼻先をがぶりと噛まれた。
言葉で説明出来なくなると噛みつくの止めて欲しい。
あと、立ち聞きしていたフシロ団長、残念な子を見るような目で俺を見てるのはなんでなんだ?
「だーっ、全くそこから進んでないのか!」
ナハト様はファスさんに預けたのか、一人で立ち聞きしていたフシロ団長は、俺と目が合うとドカドカと足音を立てて近寄って来る。
「つまりは、ジルヴァラはお前が魔法人形を壊したことを悲しくもあり怒ってはいたが、それをしたのが魔法人形の持ち主であるお前なことと、そのお前のことを大好きだから怒るに怒れず、衝動的に飛び出したんだ! そうだな、ジルヴァラ!」
俺が回りくどく説明しようとしていた事を一気にぶちまけたフシロ団長に、俺はシパシパと瞬きをしながらも勢いに負けてコクリと頷く。
「そうなんですか? ロコはそこまであの魔法人形のことを?」
「うん。好きだったし、仲良くなったし、俺のせいだったし……」
初耳です、みたいな反応の主様に、俺は寂しさを覚えながら、あの美しい青を思い出す。
「なら、全く同じ型で創り直しますから、それでいいですよね」
だから、いくら主様でもその一言は飲み込めなかった。
呆然と主様を見ると、本気でいい考えだと思ってるみたいでぽやぽやして微笑んでいて。
ここでまた言いたいことを飲み込めば、また同じ事の繰り返しになると、俺は唇を噛んでゆっくりと首を横に振る。
「どうしてです、ロコ?」
「ならさ、主様だって俺と似たような子供見つけて連れて帰ればいいだろ」
「おい! ジルヴァラ!」
「だって、主様が言ってるのは、そういうことだろ!」
主様がぽやぽやを陰らせ、フシロ団長は珍しく俺に向かって怒鳴るが、俺はもう折れる気はなかった。
主様に嫌われたくないけど、ここで俺が頷くのは、主様にとっても良くないことだと思うから。
力の抜けた主様の腕から抜け出して床へと飛び降りた俺は、行き先も決まらないまま数歩進み……そこで記憶はブツッと途切れる。
次に目覚めた俺を迎えたのは、見覚えのない天井だった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
ジルヴァラの一言は書いてて、私にも突き刺さりました(´・ω・`)
ジルヴァラは、自分が主様好きなことは揺るがないし疑わないけれど、主様から好かれてる認識は皆無なので、こんなすれ違う会話になります。
そして、相変わらず言葉で説得出来なくなると実力行使に走る主様。




