65話目
今回短めです。
駆け抜けたいのでストック作ってましたが、思うように進まないので、一話ずつ投稿しますm(_ _)m
感想ありがとうございます!数字だけでも嬉しいですが、やはり文字にされるとさらに嬉しいです!
「なぁ、ジル、オレすっげぇ睨まれてるんだけど」
「……気のせいだって」
「ねぇ、ジル……あの人……」
「……気のせい、気のせい」
「悪い……閉じ込めてたはずなんだがな……」
俺の小っ恥ずかしい家出理由を語るにあたり、窓に貼りつく麗人は全力で見ないフリをすることにして、俺はフシロ団長を筆頭とする引きつった表情の聴衆に向けてへらっと笑ってみせる。
その途端に、窓の方からピキピキとなかなかヤバそうな音が聞こえたのは、俺の聞き間違いだ。
「俺が家出……じゃないか、独り立ちしようとしたのは、その上手く説明出来ないんだけどさ」
俺が話し始めると、ナハト様の方から「そのまま話すのかよ……」とかも聞こえたけど、ひとまず流しておく。
「俺は怒りたいんだけど、主様はそれを悪いことだとは思ってなくて、実際悪いことじゃないんだけど、それを俺は悪いというか気に入らなくて……」
自分で言ってて何言ってるんだ状態になってガシガシと髪を掻き乱してると、テーブル越しに伸びて来たフシロ団長の大きな手から頬を撫でられる。
「大丈夫だ。大まかなことは聞いている。あいつが作った魔法人形とジルヴァラは仲良くなったんだろ?」
「……うん。名前もつけさせてくれて、主様いない間、ずっと話し相手になってくれたんだよ」
光に透ける青い体を思い出して寂しさを滲ませてポツリポツリ答える俺に、何かを察したのか両側からナハト様とイオが無言で寄り添ってきてくれている。
「そうか。──でも、あいつはジルヴァラに何も言わず、その魔法人形を壊してしまった。そうだな?」
改めて第三者から突きつけられた現実に、俺が頷き答える前に、両側から鋭い声が上がる。
「っ! なんだよ、それ! そいつ、何考えてるんだよ!」
「そうよ! ジルと仲良くなったのに、なんで壊しちゃうの!?」
ナハト様は顔を真っ赤にして怒ってるし、イオは今にも泣き出しそうな顔で怒っている。
自分のことのように怒ってくれる二人を見て、俺は自分の中でモヤモヤとしていたモノがきちんと形になった気がする。
「そうだよな、俺も怒れば良かったんだよな。嫌われたくなくて、飲み込んで、でもやっぱりちょっと主様にムカついてたんだな。あと、俺自身にも」
「あいつにムカつくのはわかったけど、どうしてお前自身にもムカつくんだよ」
相変わらず俺より怒っているナハト様が、窓の方をチラチラと見ながら訊ねて来たので、俺は窓の方を見ないように目を伏せて答える。
「もともと、俺と仲良くなった魔法人形を主様が作り直すことにしたのは、俺と接触するな、っていう命令を魔法人形が破ったからなんだよ。だから、それに気付かずまとわりついた、察しの悪い俺にムカつく、みたいな?」
「なによ、それ、ジルわるくないじゃないのぉ……」
感情表現豊かなイオは、ついに泣き出してしまい、おろおろしたナハト様が何とか泣き止ませようとするが、イオは俺に抱きついて本格的にえぐえぐ泣き始める。
俺も泣き止ませようと背中をさすったら、余計に泣かれてしまった。女の子の扱いは難しい。
「な、なんだよ、そんなに泣くなよ……」
ギャン泣きのイオにつられたのか、何だかナハト様も泣きそうな顔になってきて、もう俺までつられて泣きそうだ。
そんなこんなで三人でピッタリくっついてうるうるしていると、戻ってきたファスさんに驚かれてしまう。
「あらあら、どうしたの三人揃って泣きそうな顔して。何か悲しいことがあったのかしら?」
完全に泣いているイオがファスさんに抱き上げられ、うるうるしていた俺とナハト様はフシロ団長から抱えあげられる。
「……つまり、ジルヴァラが家を飛び出したのは、あいつに怒りをぶつけられず、でも抱いた怒りを飲み込むことが出来なくて、衝動的に飛び出した、で合ってるな?」
「ん、そんな感じ」
フシロ団長に頬を顎髭でじょりじょりされながら確認するように訊ねられ、俺はその的確な表現に感心して大きく頷く。が、反対の腕で抱えられているナハト様のジト目に気付き、慌ててフシロ団長の顔を押し退けようとする。
「父上……そういうの、セクハラっていうんだって、母上が言ってたぞ」
しかし、聞こえた台詞は呆れ混じりで。あのジト目はナハト様がヤキモチ妬いてるのかと思ったら違ったらしい。何だったら真逆だ。
「フシロ団長、ついにパパうざいーって言われたのか?」
「そもそも、オレはパパなんて呼んだことないからな」
「今から呼んでも構わないぞ」
ニッと笑ったフシロ団長を、ナハト様は嫌そうに見てるが、そんなやり取りのおかげか泣き出しそうなナハト様の雰囲気はすっかりいつも通りだ。
フシロ団長は俺にしたみたいに顎髭でじょりじょりして、ナハト様から全力で拒否られているが、ナハト様はなんか嬉しそうに見える。
「俺がパパって呼ぶ?」
フシロ団長とナハト様の仲良し親子ぶりが羨ましくなって、思わずそんなことを言ってしまい、口に出してから後悔する。
「ご、ごめん、忘れ……」
「父上! 父上がパパなら、ジルは俺の弟になるのか?」
「そうなるな。俺がパパなら、ノーチェはママだな」
俺の言葉が聞こえてないのか、ナハト様は興奮した様子でフシロ団長を見上げて訊ね、フシロ団長は笑顔で大きく頷いている。
何だかとんでもない方向へ話が進み始め、俺は助けを求めようとファスさんを探すが、そう言えばさっき泣き疲れて眠ったイオを抱いて、寝かせてくるわ、と小声で囁きながら離れていったのを思い出す。
「いや、あの……」
俺の言葉が届く様子もなく、途方に暮れた俺はなんとなくずっと見ないようにしていた窓の方を見る。
──まだガン見されていて、瞬きすらしない刺すような視線に、全力で視線を外して見なかったフリをしてしまった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
皆様、良い黄金週間をお過ごしください。




