64話目
ジルヴァラ視点に戻ります。
モテてるというより、ジルヴァラは態度に比べて体はちょっと小さいので、お兄さんお姉さんぶりたい二人にはモテモテです(*´Д`)
「全く今度は何してやがる? 王都からわるーい貴族が、泡食って逃げ出そうとしてるぞ?」
フシロ団長のそんな意味不明な発言に、俺は無言で首を傾げて頭を撫でられていたが、あらあらまあまあ、と恐縮した様子のファスさんが慌ててフシロ団長とナハト様を家の中へと案内する。
「狭い家ですが……」
定番な台詞を口にするファスさんに対し、フシロ団長は笑顔で首を振って返している。なんか落ち着いた大人! ってやり取りだ。
俺からすれば十分広いが、確かにフシロ団長のお屋敷と比べちゃうと狭いかもしれないなと他人事のように考えながら、ファスさんとフシロ団長の後をついて歩いていると、いつの間にか俺の左隣を陣取ったナハト様から睨まれている。
どうでもいいことだが、右隣にはイオがいて、俺越しにナハト様を興味津々な表情で見つめている。
方向的に二人の視線はバッチリ合いそうなものだが、ナハト様の睨むような視線の先は俺なので絶妙に合ってない。
「えぇと、ナハト様。こちらは、このお宅のお嬢様であるイオさんです。イオさん、この方は騎士団長フシロ様の三男にあたるナハト様です」
仕方ないので、一旦足を止めた俺は、猫を総動員して厚着し、ニッコリと笑いながら二人それぞれに相手を紹介してみる。
「別に、普通に話せよ! もうお前の素、知ってるんだからな!」
「ジルかっこいい! 大人みたいよ!」
ナハト様には思いっきりしかめっ面されたが、イオは素直に感動してくれて、パチパチと手を叩いて誉めてくれたので、猫を総動員した甲斐があるというものだ。
「ナハト様、あたしはイオです。ジルの友達です!」
挙手付きのシンプルかつ元気の良い自己紹介に、ナハト様は、おお、とか吃っていたが、俺に見られていることに気付くと、ふんっと鼻を鳴らして偉ぶるように胸を反らす。
「オレはナハトだ。ジルの友達だっていうなら、特別に仲良くしてやってもいいぞ」
元気の良いイオの自己紹介と可愛い暴君なナハト様の自己紹介に、二人の背後でファスさんとフシロ団長が微笑ましげな顔をしてる。
俺はそれを見ないふりをして、二人へ向けて手を差し出す。
それぞれと握手をするつもりだったのだが、イオとナハト様は何故か了解したとばかりに俺の手を取って歩き出した。つまりは、三人仲良く横並びになって手を繋いで歩いている状態だ。
これは両手に花と喜ぶべきなのかわからないが、前方からチラチラと見てくる微笑ましげさを増した眼差しが照れ臭い。
「ジル、体調はどうなんだよ? 死にかけたって聞いたぞ」
「あぁ、心配してくれてありがと。もう平気だ。……でもナハト様、俺のこと、ジルって呼んでたっけ?」
俺の左手をギュッと握りながら、ナハト様が心配そうに訊ねてくるので、へらっと笑って答えた俺だったが、ふと気になったことを口に出してしまい、ナハト様の顔が目に見えて赤くなる。
「そ、そいつだって、ジルって呼んでるだろ! オレは駄目なのかよ!」
そいつ、とナハト様が指差したのは、俺を挟んで反対側にいるイオだ。
「あたしはイオよ! そいつなんて名前じゃないんだから!」
お貴族様な格好のナハト様に一応猫を被っていたらしいイオは、猫を脱走させてナハト様を睨みつける。俺を挟んで。
「駄目なわけないだろ。ジルって呼んでくれて嬉しかっただけだよ。だから、出来ればイオのことも名前で呼んであげて欲しいな」
「…………わかった。イオ、でいいんだろ」
ブスッとした表情で視線を外しながらも、ナハト様は改めてイオの名前を呼んでくれた。やっぱり、素直でいいヤツなんだよな、ナハト様。
「ありがとな。イオも機嫌直してくれよ?」
「うん。怒鳴ってごめんなさい、ナハト様」
「オレも……そいつとか言って悪かった。あとさ、ジル、この間酷いこと言って……ごめん」
謝罪しあうイオとナハト様をニマニマ見ていたら、唐突にナハト様から謝罪を受けてしまい、俺はきょとんとナハト様を見つめて首を傾げる。
「その! 平民とか、髪とか目が気持ち悪いって……」
俺に通じてないと気付いたナハト様は、勢い良く言葉を続けるが、その言葉は尻すぼみになっていき、最後はほぼゴニョゴニョとしか聞き取れなくなったが、言いたい事は伝わったので、へらっと笑う。
「あぁ、それか。だったら、俺も謝らないとな。俺も怒鳴ってごめん、ナハト様」
ペコリと頭を下げて謝ると、ナハト様は、おお、とか何故かドギマギした様子で鷹揚に頷いてくれた。
「お、お前の、髪の目も、綺麗だと思うぞ!」
「あ、あぁ、ありがと? ナハト様のフシロ団長と同じ金髪も、ノーチェ様似の茶色い目もカッコいいな」
ナハト様は半ギレながら、さらに誉めてまでくれたので、俺は照れ笑いしながら誉め返しておく。
「な、な……」
「ねえ! ジル、あたしは? あたしは?」
吃るナハト様を首を傾げて見ていると、握った俺の右手をぶんぶんと振りながら、真剣な顔をしたイオが詰め寄ってくる。
「えぇと、イオは、キラキラしてる目もちょっとクルッてなってる髪が可愛いと思うし、行動がファスさんに似てるところも可愛いな」
期待に満ちたイオの眼差しを無視できず、俺は少ない対女性語彙力から何とか誉め言葉を絞り出して苦笑いする。
「あらあら、嬉しいわぁ」
そんな俺の渾身の誉め言葉に反応したのは何故かイオではなく、フシロ団長と一緒になって微笑ましく見守っていたファスさんだ。
「もー、なんでママが喜んでるのよー!」
出遅れたイオは、頬を膨らませてその場で地団駄を踏んで怒っているが、ファスさんは気にした様子もなく、うふふと笑っていた。
「おい、ジル、イオ。父上がお菓子を買ってくれたんだ。い、一緒に食べようぜ?」
「おぅ! お菓子、ありがとな、フシロ団長」
「ありがとうございます! あたし、お菓子大好きです」
俺とイオは、ナハト様へ向けて頷いて返してから、揃ってフシロ団長へと顔を向けてお礼の言葉を口にする。
「喜んでもらえて良かったよ」
そう目を細めて笑いながら答えたフシロ団長は、身を屈めて手を繋ぎ合う俺達の頭を順繰りに撫で回してくる。
俺とイオははにかむように笑い、ナハト様も、やめろよ、と言いながらもその表情は嬉しそうだった。
「さぁさぁ、お茶の用意出来ましたよ」
そんな感じで戯れていたら、いつの間にかいなくなっていたファスさんから呼ばれて、俺達は手を繋いだままお茶の用意されたテーブルの方へと移動する。
大人二人でも余裕のあるソファは、俺達三人が横並びで腰かけても余裕だったので、俺達は手を繋いでいたままの並び方でソファへ腰かける。
目の前には温められたミルクの入ったカップと、焼き菓子とチョコが並べられたお皿が置かれている。
美味しそうなお菓子に目を輝かせてる俺達の横では、
「おもたせで恐縮ですが……」
「いや、こちらこそ突然お邪魔して……」
なんて感じの大人な会話をフシロ団長とファスさんがしているが、俺は気にせず取皿にと用意されてた小皿に数枚のクッキーと焼き菓子を取る。
「はい、イオ」
手渡す先は、フシロ団長かナハト様に遠慮してるのかなかなか手を出せず、お菓子とファスさんを交互に見ていたイオだ。
「適当に選んじゃったけど、食べられないのとかあるか?」
「あ、大丈夫! ありがとう、ジル」
やはり遠慮していただけだったのか、すぐにパァッと表情を輝かせたイオは、嬉しそうに小皿を両手で受け取ってくれる。
「ジル、オレのも!」
さて次は自分のをと思った俺の目の前に、ん! と小皿を差し出してきたのはナハト様だ。
俺はナハト様の行動の意味がわからず、首を傾げてしまう。
何故なら、ナハト様の頬には焼き菓子の欠片がついているし、指先には溶けたチョコがついていたからだ。
つまりは、遠慮していたイオとは違い、普通にバクバク食べていたのを視界の端で捉えていた。
「ん!」
悩んでいたら小皿を押し付けられ、俺は首を傾げながらもナハト様が食べていなかったであろう物を何個か選んで小皿へ乗せて、待ちの体勢なナハト様へ渡す。
「……ありがとな」
はにかんだ笑顔でお礼を言われたので正解だったらしいが、ナハト様の謎行動の理由はわからないままだ。ま、喜んでるみたいだし、なんでもいいか。
「俺も、もらおうかな」
俺は一人呟いて小皿を手に取ろうとするが、その直前に左右から伸びて来た手がガシッと小皿を掴む。
「え?」
思わずそう洩らして、手の持ち主であるナハト様とイオを見ると、俺を挟んで無言で見つめ合ってるが、小皿を掴んだ手が離れる気配はない。
「あらあら」
「ジルヴァラは人気者だな」
外野からそんな声がするが、ナハト様とイオは無言で見つめ……睨み合ってるので、苦笑いした俺はお腹を擦ってアピールする。
「あー、俺、お腹空いたなぁ。ナハト様とイオが食べてみて美味しかったの教えて欲しいなー」
我ながらかなりの棒読みだが、ナハト様とイオは素直に反応してくれて、俺の小皿へ溢れんばかりにお菓子を積み上げてくれる。
「これ、美味かった!」
さらに、ナハト様は特に気に入ったらしいフィナンシェらしき焼き菓子を摘み、俺の口元へ押しつけてくる。
「あぁ、ありがと……っ」
反射的にお礼を口にしたら、開いた口にそのまま焼き菓子を突っ込まれてしまい、俺は目を白黒させながら何とか焼き菓子を咀嚼する。
うん、間違いなく俺の知ってるフィナンシェだった。この世界でもフィナンシェという名前なのかは知らないけど、ナハト様オススメなだけあって美味しい。
名前がわからないから無難に焼き菓子と呼んでおくけど。
「ねぇ、ジル、これも美味しかったよ」
むぐむぐと口いっぱいな焼き菓子を咀嚼していると、期待に満ちた眼差しのイオからクッキーを差し出される。
これは断れないやつだと肩を落とした俺は、焼き菓子を飲み込んで、次はイオの差し出したクッキーをパクリと口内へ。
さっきの焼き菓子も美味しかったけど、このクッキーも美味しい。
甘ったるくなった口内を、ホットミルクでリセットしてると、ナハト様とイオが俺の前の小皿へクッキーやらチョコやらを積み上げている。
どう見ても、俺が二人へ分けた量より遥かに多い。
「なぁ、俺こんなに食べきれないって……」
そう情けない声で訴えても、楽しそうな二人の手は止まらない。
俺が力なく笑っていると、じっとこちらを見ているフシロ団長に気付く。
ファスさんはフシロ団長のためにお茶のお代わりを用意しにキッチンへと行ったので、今ここにいるのは俺達とフシロ団長だけだ。
「ジルヴァラ、家出をした理由を教えてくれるか」
ついに来たか、と思う俺の隣で、ナハト様は「え!?」と驚きの声を洩らし、イオは俺の腕をギュッと掴んでくる。
「……わかったよ」
フシロ団長相手に誤魔化しが効く気もせず、俺は諦めを滲ませて笑うと、何から話すべきか視線をさ迷わせた結果、窓に貼りつく主様を見つけて…………全力で見えないふりをした。
いつもありがとうございますm(_ _)m
いやーハーレムですよー(棒読み)
前書きにも書きましたが、一人っ子と末っ子が世話焼きたいだけです。
そして、ダイナミック家政婦は見たをしている主様。




