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63話目

フシロ団長、胃がやられないようにドリドル先生から薬出してもらってください、な回。


社会的に死ぬか、物理的に死ぬか、どちらがマシなんでしょう。

 すっかり夜も更けた頃、俺の執務室に疲れた表情のドリドルがやってくる。

 ソファに崩れ落ちたドリドルに紅茶を入れてやると、のろのろと飲み始め、しばらくしてからやっと口を開いた。



「ジルヴァラは、たぶん家出です」



「は?」


 言われた言葉の意味が理解出来ず、俺は紅茶のポットを手にドリドルの顔を見る。

 どう見ても、冗談や嘘を言っている顔ではない。

 取り落としそうになったポットをテーブルへ置き、俺はドリドルの正面のソファへ腰かけて目線で話の続きを促す。

「まず、ロコは私が怖くなって逃げた、と言っていました。かなり、うじうじと」

「そ、そうか」

 相変わらずあいつに対する容赦がないドリドルに、何だか少し安心しながら、俺は何とか相槌を打つ。

「で、それがどうして腐った貴族襲撃になったかというと、あの方の探知魔法でも見つけられないので、腐った貴族が何かしらの施設や道具でジルヴァラをかくしてるのではないか、と疑ったそうです」

「短絡的……とも言えないか、腐れ貴族はとんでもないことをやるからな。ありえない話ではないか。しかも、あいつはあの組織の残党まで狩ったせいで恨みを持たれているからな」

 俺が顎髭を撫でつけながら呟くと、ドリドルも同意を示して頷いている。

 あいつの行動を納得しかけた俺は、一番の発端であるジルヴァラの行動の謎が残ってることに気付いて、ドリドルを見る。

 わかってます、とばかりに無言でもう一つ頷いたドリドルは、さっきの疲れた表情になってまた口を開く。

「あの方は自らが創った魔法人形へ悋気を起こし、作り直すと言って破壊してしまったそうです。ジルヴァラが名前をつけるほど気に入って仲良くなった魔法人形をジルヴァラには何も言わずに。それをジルヴァラに気付かれた上に『あなたと接触するなという命令を破ったから』と説明したそうです」

 俺は思わず内心で、あちゃー、と呟いて顔を手で覆う。

「今、ジルヴァラは怒ってるのか、拗ねてるのか、悲しんでるのか……」

「一人で泣いてるのでなければいいですが。もちろん、捕まっていて欲しくもないですけど」

「あいつが襲撃してくれたおかげで、調べるべき残りの貴族は少ない。そちらの方の可能性はすぐ潰せるが、家出されたとなるとなぁ」

「見つけるのは骨が折れそうですね。何より……」

「ジルヴァラ自身が帰ることを望むのか、だな」

「はい」

 俺の言葉に、ドリドルは苦笑いして頷く。

「ジルヴァラがあの方を嫌いになったなんてことは絶対無いと思いますが、ジルヴァラはあの方からそこまで執着されているという認識が皆無ですから、何処まででもふらふらと行ってしまいそうで」

「俺のことなんか探すわけない、とか思ってそうな気はするんだが。とりあえず、これ以上あいつが兇行に走る前に、残りのジルヴァラ誘拐犯候補を潰していく」

 肩を竦めてニヤリと笑った俺の言葉に、ドリドルはニコリと微笑んで頷き返してくる。

「私は家出を視野に入れて探すようにジルヴァラと仲の良かった騎士達へ話をしておきます」

 そんな会話をしてドリドルと別れた後、俺は徹夜で残りの誘拐犯候補を(社会的に)潰していき、ジルヴァラはほぼ家出確定となった。

 俺はほとんど回ってない頭でそう考えながら、朝日の注ぐ窓をチラと見やって短い仮眠のため目を閉じてソファへ横になった。

 一時間程だが仮眠出来たため、頭は少しスッキリしている。

 とりあえず、全く関係のない変態にさらわれたという可能性を思いついてしまう程には、スッキリしている。

 俺は寝癖のついた髪を掻きむしりながら、ソファから体を起こす。

 それを見計らうかのように扉がノックされ、俺は顎髭を軽く撫で乱れていた服装を整えてから扉へ向けて声をかける。

「入っていいぞ」

「起こしたか、悪かったな」

 口調だけは殊勝にそう言って入ってきたのは騎士ではなく、酒飲み仲間のヘルツだ。

 冒険者であるヘルツはジルヴァラとも顔見知りなため、ジルヴァラの捜索も最低限の依頼料で受けてくれていた。

「何か手がかりがあったのか」

 目撃情報の一つでももらえれば、と思いながら訊ねた俺に、ヘルツはニヤリと笑って見せる。その表情が意味することに、俺は思わずソファから立ち上がった。

「ジルヴァラが見つかったのか! 怪我は? 無事なんだろうな?」

「慌てるな。ジルぼうずは無事だ。とある善良な家族に保護されてる。で、家出をしてきたらしいから、帰りたくなるまではうちで預かるのは構わない。だが、保護者には無事を伝えてあげたいそうだ。ったく、ジルぼうずもやっとあの野郎から離れたくなったらしいな」

 ジルヴァラの無事を聞いて一安心した俺だが、ヘルツの口振りに胡乱な眼差しを向けてしまう。

「……何処の誰だ?」

「まず約束しろ。幻日にはジルぼうずの居場所を教えるな。ジルぼうずの意志で、幻日の元へ帰りたいと言うまで、絶対にだ」

 相変わらずの子供好きの幻日嫌いなヘルツの態度に、俺はため息を吐きたくなるのを堪え、頷いて条件を飲むことを了承する。

「無事だと教えるのは構わないな? これ以上、王都で暴れられても困るんでな」

「子供を売り買いするような腐れ貴族を減らしたことだけは感謝してるからな。それぐらいならいいさ」

「わかった。俺が会いに行くのは構わないな? もちろん、あいつは連れて行かない」

「あぁ、構わない」

 最後まで『絶対にあの野郎には知らせるな』と念押ししてヘルツが教えてくれたジルヴァラの居所は、トルメンタとオズワルドが保護したという捕らえられていた少女の家だった。

 あいつにバレないように被害者の様子を見に、というのは誤魔化すのに良い言い訳だと思ったが、さらなる念押しのため、俺は一度自らの屋敷へと寄って、少女と同年代であるナハトを連れて行くことにした。

 馬車で件の家へ向かう途中、手土産として子供が好みそうな菓子を買うことも忘れない。

「父上、本当にジルヴァラの所に行くのか?」

「あぁ。会いたがっていただろう?」

「べ、別に、あいつになんか、会いたくないし!」

 口ではこう言っても、ジルヴァラと会える嬉しさから頬を染めている息子は素直じゃなくて可愛いが、その気持ちが友人に向けるものなのか少々父親としては心配になるぐらいの喜び具合だ。

「まぁ、まずはジルヴァラへきちんと謝るんだ。間違ってもいきなり『平民が!』なんて、挨拶するなよ?」

「……わかってるよ。難しいこと言えば頭良く見えるってニクス兄上が教えてくれたけど、オレには無理だってわかったし」

 ブスッとした表情ながら、ナハトは反省しているようなので、こちらは一安心だがドリドルから伝言してもらうことにしたあいつの方は少し心配だ。

 まだジルヴァラは探知魔法に引っかからないようなので、いくらあいつでも見つけられないとは思うが……。



「最悪何かあった場合は、眠らせて連れて行こう」



 ジルヴァラに会えると嬉しそうなナハトには聞かせられないであろう呟きを洩らし、俺は馬車の窓をから流れる景色をただ眺め……通り過ぎた民家の屋根からこちらを見ていた赤色は見えなかったことにした。

いつもありがとうございますm(_ _)m


書きながら、脳内にくーるーなあの某有名な白い服の女性の幽霊な歌が流れました(*´Д`)


そりゃあねぇ、嗅ぎつけますよねー(遠い目)

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