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6話目

いいねありがとうございますm(_ _)m


反応があると嬉しい現金なタイプなので、いいねでニマニマしてます(^o^)


今回、ジルヴァラほとんど喋りません。

「何者だ。ここに近づくことは控えてもらいたい」

「こんな夜更けに来るとは、不審者だと斬り捨てられたいのか」



 松明と焚き火の明かりだけが闇を照らす中、闇から現れるように近寄ってきた赤毛の青年へ向けてそう声をかけたのは、大きなテントの前で立ち番している揃いの鎧を着た男達だ。

 この国の紋章が刻まれた鎧はこの男達が騎士団所属の騎士である証で、テントの中にいる人物の身分の高さが伺われる。

 騎士であろう男達は、自分達の警告も聞かず歩み寄って来る青年に思わず腰の剣へ手をかけるが、片方が何かに気付いたように視線を伏せて口内で呟くと、青年へ視線を向け直して問いかける。

「赤毛の長髪に青い瞳の麗人──もしや、『幻日』殿でいらっしゃいますでしょうか?」

「……そう呼ばれることもありますね」

 青年を主様と呼んで懐いてる子供なら、なんか嫌そうな顔してる、と見抜けるだろうが、初対面であろう騎士達は気付ける訳もなく、ただ穏やかに微笑んでいるように見える青年へ警戒を解いて笑顔を向ける。

「フシロ団長にご用事でしょうか?」

「すぐお繋ぎいたします!」

 青年の答えを待つことなく、立ち番していた騎士の一人がテントの中へと駆け込んでいき、テントの前にはもう一人の騎士と青年が残される。

 会話はないが、騎士からは憧れに満ちたキラキラとした視線が、青年へと向けられている。

 青年はそんな視線を全く意に介さず、テントの方向をじっと見つめているだけだ。

 しばらくしてテントから出て来たのは、呼びに行くと消えた騎士と、その騎士より大柄な体に鎧を着込んだ金髪男性だ。ガッチリとした体型で日に焼けた顔は整ってはいるが、顎髭をしっかりとたくわえているため、ジルヴァラがここにいたなら「クマみたいだ!」と感心していただろう。

 『フシロ団長』であろう金髪男性は、青年の姿を確認して目を見張るが、すぐに笑顔になって青年へと近寄り、バンバンと肩を叩きながら話しかける。

「よくここがわか」

「聞きたいことがあります」

 肩を叩いていた手を弾かれた上、話しかけた言葉をぶった切られ、金髪男性──フシロは驚いた様子で大きく目を見張る。

 しかし、そこには不快さや怒っている様子は微塵もなく、ただ青年の言葉に驚いただけのようで、青年との付き合いは長いらしい。

「久しぶりに会った友人に挨拶もさせてくれないのか」

「……」

 見た目だけは憂える麗人な顔をして面倒臭そうなため息を吐いた青年に、立ち番をしている騎士達からは感嘆の吐息が洩れている。

「俺の部下を誑かすな。ったく。で、何を聞きたいんだ?」

 苦笑いを浮かべ、見るな見るな、と立ち番の騎士達へ手を振ったフシロは、あらためて青年へと問いかける。

「綺麗な黒い髪に銀の目の子供を探してます」

「……子供? 事件のことで何かあった訳じゃないのか?」

 ん? と首を傾げたフシロは、青年の言葉が予想外だったらしく、顎髭を撫でながら立ち番している騎士達へ視線をやる。


「「我々はまだ何もうかがっておりません!」」


「相変わらずのんびりしてるというか、面倒臭がらず、口で説明しろ」

「話す前に、彼らがあなたを呼びに行ったんです。ロコは何処ですか?」

 ふいっと子供じみた仕草でフシロから視線を外した青年は、それ以外聞きたくないとばかりに、接続詞も付けず問いを繰り返す。

 常にない焦りの見える青年の態度に内心で驚きつつも、フシロは顎髭を撫でながら、記憶を辿っているようだ。

「確か炊事担当が洗い場の所で倒れていた子供を保護したと報告があったな。その子供は黒髪銀目だったか?」

 すぐ思い出せた報告を繰り返しながら、自身の目で子供を確認していないフシロは、確実に見たであろう立ち番の騎士達を振り返って声をかける。


「確かに見事な黒い髪の子供でした!」


「目は閉じていたのでわかりかねます!」


 打てば響くような自らの部下の答えに、フシロは満足そうに笑って青年を見やる。

「だそうだ。黒髪なんて珍しいもん、そうそういないだろうし、お前が探してる子供で間違いないな。ま、ついでに、お前に聞きたいこともあるから来てくれ」

 肩を竦めておどけてみせたフシロは、こっちだ、と手招きをして青年をテントの中へ誘う。

「……倒れていた、とはどういうことです?」

 テントの中へと入って開口一番に尋ねてきた青年に、フシロは苦笑いしてゆっくりと首を横に振る。

「保護したとまでしか俺も聞いていない。様子を見に行こうとしていたところだったんだが、お前が連れならちょうどいい。強面の騎士ばかりで怯えさせていたらかわいそうだからな」

「ロコはそれぐらいでは怖がりません」

 どこか憮然とした呟きを青年が洩らすと、フシロは驚きを隠さず青年をまじまじと見つめている。

「ずいぶんと、人間臭くなったな」

「……何がです?」

 訳がわからないといった様子で見てくる青年に、フシロは何でもないと手を振って、垂れ下がった布で仕切ったテントの奥へと青年を連れて入る。

 そこには簡易なベッドに寝かされた黒髪の子供の姿があり、治療のためか上半身は裸にされていて脇腹の傷が露わになっていた。

 痛々しい子供の姿に眉を顰めるフシロの横で、青年は表情を無くして、静かに眠る子供を見下ろしている。

「フシロ団長、どうされましたか?」

 上役であるフシロの登場に、子供の治療をしていた白衣姿の医師は驚きを隠せず、フシロの隣に立つ青年を窺いながらおずおずと声を掛けてきた。

「いや、そのまま続けてくれ。子供の具合はどうだ?」

「傷自体はあまり深くはありません。傷の形状からすると、リンクスに襲われたのではないかと思われるのですが、亜種か変異種なのかわかりませんが、爪に毒があったようです。洗い場で倒れていたのはそのせいではないかと。しかし、こんな幼い子に治療すら施さないとは、どんな親なのでしょう」

「……治療はされていなかったのか?」

 医師へ問いかけるような言葉ながら、フシロの鋭い視線は隣に立つ表情の読めない麗人へ向けられている。

「たぶんこの子が自分でしたのではないかと。傷に効く薬草を貼ってタオルを巻いてはありましたが、巻きつける力は弱く、大人の力で巻いたとは思えません」

 フシロの視線に気付いていないのか、青年は無言で子供を見つめているだけで、答えたのは治療を施している医師だ。

 薄い胸を苦しげに上下させている子供の頭を優しく撫でながら、医師は怒りを抑えているのか淡々と告げる。口調だけは淡々としていたが、その表情は隠しきれない怒りで歪んでいる。

「毒とは、どれほどのものだ? 解毒は可能なのか? まさか、このまま亡くなることはあるまいな?」

「もともと即死はしないような毒です。獲物を弱らせて、捕らえ易くするためのものなのでしょう。すぐ治療をしていればここまで酷くはならなかったんでしょうが、今は全身に毒が回ってしまい、発熱している状況です。解毒薬はすぐに用意は無理です。今は熱冷ましを飲ませ、傷を洗って化膿止めを塗ったところです。あとは、この子自身の回復力を信じるしか……」

 医師は昏々と眠る子供の頬を撫でながら重々しく言葉を紡ぎ、痛ましげな顔で傷へガーゼを宛てがいながら、その上から包帯を巻くため意識のない子供を抱き起こそうとする。

 それを無言で止めたのは、ずっと無言で佇んでいた青年だ。なんの前触れもなく、唐突に医師の腕から子供を奪い取ったのだ。

 フシロの客人らしい麗人の突然の行動に、医師は驚きを隠さず目を見張るが、すぐに子供を抱き上げた相手を睨みつける。

「何をなさるのですか!? その子は今安静にする必要があるんです! お戯れは止めてください!」

「治療はこちらに任せておけばいい。お前に他人の治療が出来るのか? こんな状態になって倒れるまで気付かなかったんだろう? その子をベッドに戻すんだ」

 あえて青年が気にしているであろう点を抉り、フシロは青年を説得しようとするが、青年は困惑した表情を浮かべて子供を離そうとしない。

「……ロコは私の連れです」

「それはわかってる。だが、その子には今治療が必要なんだ。人間の子供なんざ、お前と違ってちょっとしたことですぐ死んじまうんだよ。まさか、そんな状態の子を連れ歩く気か?」

「疲れてない、と……大丈夫だと、言いました」

 拗ねたようにしか聞こえない反論をして、医師からは何なんだコイツと言わんばかりの視線を向けられながら、青年は腕の中で苦しそうな呼吸を繰り返す子供をじっと見つめている。

「俺はその子と話したことはないが、想像は出来る。たぶん、お前に迷惑をかけたくなかったんだろうな。何処かで拾った子なんだろ? 迷惑かけたら置いていかれるとでも思ってたんじゃないか?」

「……付いてきたのはこの子の意志です」

「だから、治療もせず放置したと言うのですか!? こんな幼い子なのですよ! あなたへついて歩くのだって辛かったでしょうに……っ!」

 冷たく切り捨てるようにしか聞こえない青年の言葉に、医師は怒りを露わにして青年を睨みつけて声を荒げる。

「……私が頼んだ訳ではないです」

「なら、その子はこちらで預かろう。ここまでお前に迷惑をかけたくないと我慢するような子だ。自分の状態を教えてやれば、素直に聞いてくれるだろうよ」

 青年の冷ややかにしか聞こえない言葉に滲む隠しきれない色に気付いたフシロは、わざとらしく重々しい口調で告げて青年を煽り、さあこちらへ、と隙を突いて青年の腕から意識のない子供を取り上げる。

「フシロ団長、そのまま縦に抱いていてください」

 青年にまた奪われる前にと思ったのか、医師は包帯を手にフシロへ近づくと、フシロが縦抱きにしている間に手早く包帯を巻いていく。

「この子の名前は、ロコというのか?」

 明らかに、拗ねてますという表情を隠さず自らの腕の中にいる子供を見ている青年へ、フシロが苦笑いしつつ尋ねる。

「違いますっ! それは、違うのです……」

 滅多にない声を荒げる青年の姿にフシロは本気で驚いたようで、驚きのあまり子供を落としそうになった程だ。おかげで、包帯を巻いていた医師からは責めるような視線が向けられている。

「悪い、こいつが大声出す姿なんて、初めて見たもんでな。で、結局名前は何だ?」

「……知らない、ですね」



「「はぁ?」」



 あまりに予想外というか、聞きようによっては……というかどう聞いても酷過ぎる内容の言葉に、フシロと医師の突っ込む声は重なり、揃って青年を睨みつける。

 本気で興味がなくて放置してたのかこの野郎、とばかりの視線を二対向けられても青年は微笑んだままだ。

 本気でこの子供を引き取るべきかとフシロが悩んでいると、微かな声がフシロの腕の中から聞こえてくる。

「……ぬしさま?」

「気付いたか? 気持ち悪くないか? 何処か痛いとかはあるか?」

 発熱のせいか常よりあどけない声音で青年を呼んだ子供は、潤んだ銀の目を瞬かせて不思議そうに自分を抱き上げて話しかけてくる相手を見つめる。

「クマさん、みたいだ」

 そう呟くと小さな手が伸ばされて、遠慮なくフシロの顎髭に触れて、ふへへ、と気の抜けた笑い声を洩らす。

「ロコ、こちらへ」

「え……ああ、うん……」

 青年の呼び声に、熱のせいかぼんやりとした表情で頷いた子供は、いつもならすぐフシロの腕から飛び降りて青年へと駆け寄るはずだが、今は何故かそれ以上動こうとはしない。

「ロコ?」

 傷が痛むのか、具合が悪いせいか、そう考える様子もなく、何故来ないのかとぽやんと見てくる青年に、子供は年齢にそぐわない諦観したような寂しげな笑顔を浮かべてゆっくりと首を横に振る。

「迷惑かけてごめん、主様。俺のことは、置いていってくれ」

 そう告げられ、青年は少しだけ不思議そうに何回か瞬きをし、そうですか、とだけ呟いて踵を返し、何事もなかったように去って行こうとする。

「ちょっと待て! 聞きたいことがあると言っただろ。向こうで話すぞ」

 そのまま見送りそうになったフシロだが、もともと別の用件があったことを思い出して、慌てて引き止める。

「……わかりました」

 ぽやぽや笑いながらも何処か虚ろな目をして頷いた青年に、フシロはため息を吐いてテントの入り口を指差す。

「隣に俺用のテントがある。そこで話そう」

 さあ行くぞ、と歩き出すフシロだが、その腕の中には熱でぼんやりとした子供がうつらうつらしている。

「フシロ団長、その子まで連れて行かないでください!」

「っと、すまん。軽くて抱いてるのを忘れていた」

 眦を吊り上げて怒る医師に、フシロは苦笑いを浮かべて謝りながら、うつらうつらしている子供を渡す。

「さぁ、ここにいれば安心ですから、ゆっくりとおやすみなさい」

「……うん、ありがと」

 熱で潤んだ銀の瞳はベッドに寝かされても去って行く青年の背中を追い続けていたが、青年が振り返ることは一度もなく、やがて諦めたように閉じられて銀の目は瞼の裏へ消える。

 目を閉じた拍子に溜まっていた涙がポロリとこぼれ、白いシーツへと染み込んでいった。


お読みいただき、ありがとうございます。


ジルヴァラの視点から見てるので、ジルヴァラの脳内では山猫呼びでした。ですが、世間的にはリンクスという名のモンスターってニュアンスです。

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