59話目
イオ家族のイメージは、アメリカのホームドラマな仲良し家族です。私の脳内イメージですが(^^)
「ここがイオの家? お店なのか?」
「そうよ! 結構流行ってるんだからね」
「確かに、お客さんたくさんいるな」
案内された先は大通りに面した雑貨屋っぽいなかなか大きなお店だ。
見たところ、並んでいるのは生活雑貨……だけかと思ったら、中へ入ってみると解体用ナイフとか魔石とかモンスターの素材とか見たことない食材とかもあって、やっぱりファンタジーなんだなと変な感心をしてしまう。
興味津々で店の中を眺めていると、店の奥から栗色の髪を撫でつけた真面目そうな渋いおじさんが近寄ってくる。
「お早いお帰りだな、旦那様、奥様、お嬢様」
お店の制服を着てるから店員だろうとは思ったけど、正解だったようだ。
年齢的にもこの店の店長とかなんだろうか。若干真面目そうな見た目にそぐわない口調な気もしたけど。
「やぁ、忙しいところすまない。この子をしばらく自宅の方で泊めることにしたから、一応君に顔を見せておこうと思ってね。名前はジルヴァラ。前に話したイオの命の恩人だよ。ジル、彼はこの店を任せているニウムだ」
「はじめまして、ニウムさん。ジルヴァラです。しばらくお世話になります」
へらっと笑って頭を下げると、ニウムさんからはニヤリとした笑顔が返ってくる。
やっぱり見た目通りじゃなさそうだ。
「おう、よろしくな、ジル坊」
伸びて来た手がガシガシと俺の頭を撫でて離れていき、ニウムさんは接客のために戻っていく。
漏れ聞こえる会話は、あの真面目そうな見た目通りの堅苦しく丁寧な口調だ。
どうやら猫被ってるらしいけど、主人相手にあれでいいのか、とか思ったが、アモルさんもイオも気にした様子はないから良い関係を築いているんだな。
ファスさんは何か用事があるって別行動だけど、二人の反応を見る限り、ファスさんも気にしてないんだろう。
「驚いただろ? ニウムは元冒険者でね、今のが素なんだよ。ずっと私の護衛をしてくれていた縁で、冒険者を引退する時に頼み込んで働いてもらうことになったんだ」
「強盗とか来てもね、ニウムがあっという間に叩き出しちゃうのよ? とっても強いんだから」
「へぇ、そうなんだ」
キラキラとした目でニウムさんのことを我が事のように自慢げに話すイオに、俺もつい興味津々でニウムさんのことを見つめてしまう。
俺とイオ。二人分の憧れに満ちた眼差しを一心に受けたニウムさんは、ちょっと落ち着かないようなので、俺達はアモルさんに促されて店の裏手にあるという自宅の方へと移動する。
店の中を通り抜けて、裏口から出たらそこがイオの家だった。
さすがに主様の家やフシロ団長のお屋敷と比べると小さいが、立派というか可愛らしい雰囲気のある白い壁に赤い屋根の二階建てのファンタジー感というか分かりやすく洋風な家だ。
「可愛い家だな。なんかイオっぽい」
「なによ、それ〜」
思わずポツリと洩らしたら、隣に立つイオからポカポカと叩かれた。痛くはないが、アモルさんから生暖かい目で見られてて居たたまれない。
「イオみたいに可愛いって意味よ、きっと」
さらに開かれた玄関扉からファスさんも姿を現し、聞こえてたのかうふふと笑いながら参戦してくる。
可愛い娘に俺みたいなどこの馬の骨かわからないような虫がついても気にしないんだろうか、この夫婦は。
いや、虫になる気は全くないんだけどさ。
「さぁさぁ、うちのイオのように可愛い自慢の自宅の中を紹介させてくれ」
あっはっはと海外ドラマの明るいお父さんを思わせる陽気な笑い声を上げたアモルさんは、俺とイオをそれぞれ片腕抱きで一気に持ち上げて、妻の待つ玄関へと向かう。
そのまま、あらあらまあまあと楽しそうなファスさんに迎えられ、やっと降ろされたのは完全に屋内へ入ってからだった。
●
「こんないい部屋使わせてもらって良いのか?」
一通り家の中を案内してもらい、最後に通されたのは、俺が泊めてもらうことになっている屋根裏部屋だ。
屋根裏部屋と言っても、俺のイメージする暗くて狭くて埃っぽい部屋とかではなく、少し天井に傾斜があるのが屋根裏っぽさがあるぐらいの秘密基地みたいな部屋だ。
大きな窓があって湿っぽい暗さはなく、綺麗に掃除されてて埃っぽさもない。少し手狭な感じはあるが、逆に落ち着く。
二階の天井から隠されてた階段を引き出して上るところなんか、まさに隠れ家みたいでワクワクしてから……プリュイも屋根裏部屋に住んでたということを思い出して、ちょっとだけ凹む。
家具はベッドとランプの置かれたサイドテーブル、小さめな四角いテーブルと椅子のセット、それと洋服ダンスだ。
興味津々でイオと一緒になって部屋を見て回っていると、洋服ダンスの前で悪戯っぽく笑ったファスさんから手招きされる。
「なに、ファスさん」
パタパタと小走りで近寄ると、うふふふと笑ったファスさんが「じゃーん!」と言いながら洋服ダンスの服が掛けられるようになっている部分を開いて見せてくれる。
中にあったのは、明らかに子供向けサイズの洋服で、どう見てもイオの服ではない男の子向けのものだ。さすがにこれが意味するものがわからないほど、俺も鈍くはない。
「これ、まさか、俺用に……?」
「そうよ。全部ジルくん用。間に合わなくて古着も混じってるけど、きちんと洗ってあるし、下着は全部新品だから」
えへんと胸を張るファスさんは、イオによく似ていて、俺は思わず吹き出しそうになる。
慌てて誤魔化したが、全員から不審げな眼差しを向けられ、俺は誤魔化すためにへらっと笑う。
「ありがとう! 泊めてもらうだけでも嬉しいのに、ここまでしてくれるなんて……」
「ジルはイオの命の恩人だ。これぐらいさせてくれ。それに、子供が危険なことをしようとしてるのを大人が見過ごす訳にはいかない」
恐縮する俺に、アモルさんは仕方ない子だと言わんばかりの表情で俺の肩を掴み、そう諭すように言って俺の目を覗き込んでくる。
「あの綺麗なお兄さんが、ジルくんを一人で行かせるなんて思えないわ。何か怒らせるようなことでもしちゃって、出てきちゃったのかしら?」
「えぇと……」
さすがにあの言い訳は無理があったのか、アモルさんとファスさんからは揃って優しい苦笑いを向けられている。
「主様は、怒ったりしてないよ」
怒るのは、ある意味相手に興味があるからだ。主様はもう俺には興味がないんだろう。
万が一あるとしたら、あの魔法人形使えなくしやがって、ぐらいだろうが、主様からしたらそれも大したことじゃない。
そう思ったら、あの時の遣る瀬無さまで思い出してしまい、俺はギュッと拳を握る。
「俺が一人で腹を立てて、でも、それは主様に言っても仕方ないことで、けどやっぱり許すには辛くて……」
「それで飛び出してきちゃったのね」
気付くと主様に言えなかった本音がポロポロと溢れ、ついでに涙まで出そうになり、目元をぐいっと拭っていると、脇から何故か俺以上にギャン泣きしたイオに抱きつかれる。
「じ、じる、ないても、いいんだからね……っ」
泣いてるのはイオだろ、と突っ込むほど野暮ではないが、素直に泣けるほど可愛い性格ではない俺は、グッと口を引き結び、イオの頭を撫でる。
「気が済むまでここにいればいい。私達はジルに味方しよう」
「ええ、そうね。わたし達はジルくんの味方よ」
「いおもみかたなんだからぁ」
ギャン泣きしたイオに抱きつかれ、さらにそのイオごとファスさんに抱き締められ、さらにさらにアモルさんからも抱き締められて、かなりの密集ぶりだ。
「……ありがと」
ほんの少し濡れてしまった声で感謝を告げれば、密集ぶりが増した上、イオをさらに泣かせてしまった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
主様、しばらく出番がなさそうです(´・ω・`)