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57話目

暴走特急ジル。


かなり、前半後半で温度差がある展開となりました。


グロ……くはないですが、朝から読んで暗くさせてしまったらすみません! なるべくストック作って走り抜けたくはありますが、更新止めたくもないので上げていっちゃいます。

「傷、残ってますね……」


 さっき入ったんだろと説得したが、全く聞く耳を持たない主様は、俺と一緒に浴室の中にいた。

 主様は俺を洗おうとして力を込めすぎて転ばせたので、何とか体を洗うのは自分でさせてもらえることになったが、先に浴槽に浸かってじっと見てくるので落ち着かない。

 主様が見て呟いているのは、脇腹にある傷跡のことだろう。まだ傷跡が新しいからどうしても目立つ。

 ちなみにどうでもいいが、主様は脱いだらすごい系な細めマッチョだった。魔法主体な戦い方をしているとは思えない体型とだけ言っておこう。

 髪の毛は先に洗ってもらった。髪を洗う時の力加減は完璧なのに、何故体を洗おうとして俺を押し倒すことになるのか謎だ。

「主様、少し詰めてくれよ?」

 泡を流し終えた俺は浴槽へと近寄ると、浴槽のど真ん中に陣取る主様へ声をかける。

 いくら俺がまだ六歳児サイズで、浴槽が大きめだとしても、ど真ん中に入られると入りにくい。

「はい」

 ぽやぽやと微笑んだ主様は、すぐに移動してくれたのはいいが、腕を伸ばしてきて浴槽の外にいた俺の脇の下に手を差し込んできて、そのまま抱えて浴槽内に運ばれる。

「ふぁ〜……」

 気持ち良さから思わず声を洩らすと、主様からくすくすと笑い声が聞こえてくる。

 お湯に浸かると気持ち良くて声出るよな、普通。

 トルメンタ様は問答無用で背後から抱え込まれる羞恥心を煽る体勢での入浴だったが、向かい合っての入浴も意外と気恥ずかしい。

 これは、まぁ主様の顔面の良さのせいもあるんだろうけど。一番の原因はガン見してくるからだ、どう考えても。

 お返しだと主様をしげしげと眺めるが、芸術品みたいな体型してるぐらいで特に普通の人間と変わらない。

「ロコ? どうかしましたか?」

「主様見てただけ」

「……何かありましたか?」

「綺麗だなって見惚れてた。ごめん、見過ぎだよな。トルメンタ様には、後ろから抱えられて入ったからさぁ」

 主様が見てくるからお返しだとは言えないので、誤魔化すようにへらっと笑ってると主様の腕が伸びて来て、持ち上げられて主様の足の上に移動させられる。

「…………」

 しばらく無言で近距離になった主様を見つめるが、楽しそうにぽやぽやしてるので、無言のままそっと体を反転させる。

「ロコ?」

 え? という反応をする主様に、俺は遠慮なく背中を預けて寄りかかる。体勢を安定させるため、足は主様の伸ばされた足を跨いでいる。

「こっちの方が落ち着くだろ?」

 顔だけで振り返った俺に、主様は何処となく残念そうな顔をしてた気がしたが、すぐにお腹辺りに回された腕により、しっかりと体が密着する。

「確かに落ち着きますね」

「そりゃ良かった」

 主様の満足げな声を聞きながら、俺は温まってきた体にほぅと気持ち良さからのため息を洩らす。

「そういえば、主様怪我してなくて良かった」

「怪我、ですか?」

 ぐりぐりと後頭部を主様の肩口辺りに押しつけてポツリと洩らすと、主様から不思議そうな呟きが返ってくる。

「だって、さっき血の臭いしてたから。みたところ怪我してないみたいだし、返り血だったんだろうけど……」

 心配したんだからな、と呟くと腹に回っている腕に力がこもり、さらにギュッと抱き締められる。

 そうやってスッポリ主様の腕の中に収まっていると、お湯の温かさもあって眠くなってくる。

「ぬしさまがいたいのいやなんだからな」

 半分寝ながらも、むぅとして訴えていると、首筋に背後から主様の顔が埋まったようだ。

「私は死にません」

「だからって、いたくないわけじゃないだろ。ぬしさまをいじめるのは、ぬしさまでもゆるさないんだからな」

 ボソリと吐かれた主様の言葉に、ほとんど寝ながらも何か必死に反論した気はする。




「気はするんだけどなぁ……」




 気付いたら朝で、主様の隣で寝てたんだけどな。

 くぁ、と欠伸を噛み殺しながら、ベッドから降りた俺は、主様の完璧な寝顔を堪能してから洗面所へ向かう。

「あ、プリュイ、おはよ!」

 一回見つかったからか、プリュイは隠れる様子もなくモップで廊下を掃除をしていて、俺は遠慮なくそのぷるぷるボディに抱きついて挨拶する。

「おはようゴザイマス、ジル」

 だいぶ慣れたのか、プリュイは笑顔で挨拶を返してくれ、俺をくっつけたまま掃除を続けていく。

 今はひんやりとして長くはくっつけないが、夏場は離れたくなくなるかもしれない。

「暑くなったら、プリュイと寝たいなぁ」

 そんな馬鹿げたことを考えたせいか、思わず願望が口から出てしまい、おかげてプリュイのきょとんとした顔という初めての表情を見れた。

「ごめんごめん。プリュイと寝たら、ひんやりしてぷるぷるで気持ち良さそうだなぁって思ってさ」

「そういう意味でしタカ。ワタクシは、構いませんヨ」

 納得した様子で頷いたプリュイは、そう言ってつるりとした顔を笑顔にしてくれたので、俺も嬉しくなって笑いながら念押しする。

「いいの!? なら、暑くなったら俺のベッドで一緒に寝ような、プリュイ」

「…………ハイ」

 かなり躊躇ってからプリュイがコクリと頷いてくれたのを確認して、俺は笑顔のままパタパタと洗面所へ向けて駆け出した。

 走り去ったジルヴァラを見送るプリュイの背後には、いつの間にか幽鬼のように青年が佇んでいて。

「どうしてロコはあなたに懐いているんですか?」

 前置きなく話しかけられたプリュイは、驚いた様子もなく振り返り、ゆっくりと首を傾げて見せる。

「さぁ、ワタクシにはわかりかねマス」

「……私はロコと接触するなと言ったはずです」

 常に浮かんでいるふわふわとした微笑みを消した青年は、暗く揺れる瞳でプリュイという名になった自らが創った魔法人形を見つめる。

「命令違反はわかっておりマス。……ドウゾ、消すナリ、壊すナリ、幻日サマのお気に召すヨウに」

 自らの死を恐れる様子もなく口にし、プリュイは微笑むようにつるりとした顔面を揺らす。

 その姿は、もとより自分はそういう存在だとなんの疑いもなく受け入れているようだ。

 ただ一瞬、全く揺るがなかったプリュイの視線は青年から離れ、ジルヴァラが去った方へ追うように向けられるが、すぐにまた何事も無かったように戻される。時間にしたら、ほんの瞬き数回の間の出来事だ。

「創るのも少し手間なんですがね」

 まるで粘土細工でも作り直すような軽さで呟き、青年は躊躇う素振りすら見せずプリュイへと手を伸ばす。




「……ジル、ごめんナサイ」




 守れナイと知りながら約束をシテ。




 プリュイの微かな呟きも、その心の中で呟かれた声も、暗い瞳をした青年の心を揺らすことはなかった。




「プリュイ?」



 顔を洗い終えてキッチンへと向かおうとしていた俺は、ついさっき別れたばかりのプリュイの声が聞こえた気がして振り返る。


 しかし、そこには誰もいない。

 

「気のせい、か?」


 首を捻りながら数歩進んだ俺は、何となく嫌な予感がして踵を返して廊下を早足で戻っていく。

 すぐに先ほどプリュイと別れた場所へたどり着くが、そこにはもうプリュイはおらず、床にプリュイが使っていたモップだけが残されていた。


「プリュイ?」


 呼びかけてみるがプリュイからの答えはなく、俺は首を傾げながらモップを拾い上げる。

 とりあえず、モップをしまおうと掃除用具が置いてある部屋へ向かう途中、起きてきたばかりらしい主様と遭遇した。

「主様、おはよ。なぁ、プリュイ見なかった? モップ忘れて何処か行っちゃったみたいなんだけど」

 へらっと挨拶をしながら、今の俺には長すぎるモップを掲げてみせると、主様はいつも通りぽやぽやと微笑む。


「おはようございます、ロコ。あれなら、作り直すために消しましたが」


 ほら、と何でもないことのように微笑みながら主様が差し出してきた手のひらの上には、みかんぐらいの丸い綺麗な青い石みたいなのが乗せられていて。

 それはプリュイと同じ色をしていて。



『ワタクシは、幻日サマより造られた魔法人形(ゴーレム)の一種ダト認識してイマス』



「な、な…………っ」

 プリュイの言っていた台詞がぐるぐると頭の中を回り、喋ろうと思うのに言葉が出ない。

「どうしました、ロコ? 具合でも悪いんですか?」

 俺を混乱の渦へ叩き込んだ張本人は、全くいつも通りぽやぽや微笑んで、まるで何事も無かったみたいだ。


 実際、主様にとってはそうなのだと。


 呼称も存在しない、屋敷を管理するだけに定期的に生み出してるだけの、すぐ代えがきくような存在なのだと。


 そう理解出来てしまい、俺はやり場のない寂しさと悲しさからギュッと服の胸元を握り締める。

 ここで主様を責めるのはお門違いなのはわかってたが、口を開いたら責める言葉が出そうで俺はグッと唇を噛む。

「……どうしてそんな顔をするんですか?」

 さすがに歪んだ表情までは誤魔化せず、怪訝そうに訊ねてくる主様に、俺は笑ってみせようとしたが、上手く笑えていたかはわからない。

「作り直す……って、プリュイ、何か調子悪かったのか? 全然、そんな風に見えなかったのに」

 何とか絞り出した問いかけは、ちょっと拗ねたような声になってしまい、自分でも苦笑いしてしまう。

「ええ。あれは、私が下した『ロコに接触しない』という命令を破りました。なら、作り直さないといけないでしょう?」

 返ってきたのは、俺にとってあまりにも受け入れ難い答え。

「俺の、せい……」

 そうだ。当たり前だ。ずっと会えなかったんじゃない。プリュイが会わないようにしていたんだ。

 思い返せば、プリュイは最初から戸惑っていた。

 あれは、主人であり絶対な存在であろう創造主からの命令に背いてしまったからだったんだ。


「ロコ? 違いますよ、ロコのせいではありません」


 主様が何か言ってるが聞こえない。というか、脳が理解するのを拒否している。

 伸びて来た主様の手を避けた俺は、主様の顔を見上げてゆっくりと首を横に振る。



「……少し一人になりたい」



 俺の言葉を聞いて、主様のぽやぽやが陰ったのはわかったが、今はこの遣る瀬無さを飲み込む時間が欲しかった。

 ふらふらと自室の方へ歩き出す俺を、主様は追いかけて来ようとしたが、振り返って見つめるとその場で足を止める。



「ごめん。朝ごはんは適当に食べてくれ」



 それだけ言って、俺は自室へと向かうと見せかけて、ひとまず一階の廊下の窓から外に出て、家出してみることにした。

 今俺に必要なのは、主様の存在を感じない空間で、しっかりと落ち着いて考えることだとだと俺の中で冷静な俺が囁いたのだ。






「って、俺、何やってんだよ……」





 ──数時間後、本当の意味で冷静になった俺は、王都の片隅で頭を抱えることになった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


言い訳という名の主様フォローです(*>_<*)ノ


主様はぽやぽやした見た目のジャイ○ンです。ジルは私の物。

で、ヤキモチ酷いのですが、いまいち普通の感性がないので、普通なら名前までつけて仲良くなりかけた存在が消えたらショックだとは全く気付きません。

私が創ったモノを作り直して何が悪いんです? ぐらいにしか思ってないので、ジルがそこまで悲しんでることに気付けません。

しかも、遠回しに『お前のせいだ』的なこと言ってることにも気付いてません。

良くも悪くも自分しかいない世界。そこに初めて入れたのがジルです。


飛び出したジルですが、ここで主様ならすぐ見つけられるだろうとなりますが、そういうフラグの方はジルがきちんと建てます(`・ω・´)ゞ


そんな次回予告という名の言い訳(笑)です。

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