55話目
ジルヴァラ視点からのプリュイ語りです。
短いです。
「っくしょい!」
別に寒い訳でもないのに突然出たくしゃみに、俺以上に驚いてぷるっとしたプリュイから、俺はふかふかな白い毛布に包まれて暖炉前のソファに安置されてしまった。
そろそろ夜と呼べる時間帯となり、窓の外は暗くなってきたが、主様はまだ帰ってこない。
そういう心配はしてないが、やっぱりなんか心配だ。
「って、なんかおかしいし」
声に出して矛盾した自分の脳内に突っ込んでると、プリュイからさらに気遣わしげな視線が向けられる。
「ジル、薬いりマスカ?」
「大丈夫だよ。傷はもう塞がってるし、エプレの毒の影響も完全に抜けてるからな」
薬箱を手に問いかけてくるプリュイに、俺は大きく首を横に振る。
「夕飯どうしよう……。主様帰ってくるなら何か作ろうかと思ってたけど、なんか適当に買ってきちゃ……「却下いたしマス!」」
まさかのプリュイから全力ダメ出しを喰らい、俺は抜け出そうとしていた毛布の中に再び潜る。
「んー、じゃあ、なんか作るか……。冷蔵庫の中、何あったかなぁ」
ふかふかな毛布は頬擦りしてると陽だまりの匂いがして、肌触りが似てるせいもあってもふもふな家族達を思い出してしまい、ちょっと寂しくなる。
「逃げた皆、大丈夫だったかなぁ……」
呟いた声も、自分の耳で聞いてても情けなく聞こえる。
記憶が戻った直後は前世の記憶に気を取られ、そちらのことばかり考えていたが、少し落ち着いた今は皆のことをよく思い出す。
だから、この間もあんな懐かしい夢を見たんだろう。
体が温まってきて、うつらうつらしている俺の視界に暖炉の炎を反射しているプリュイの青い体が映る。
「きれいだなぁ……」
揺れる水面を見つめているような気分になり、俺は誘われるようにゆっくりと目を閉じていった。
●
ワタクシに、呼称はありまセン。
ワタクシは幻日サマより、生み出された唯一無二のモノ。
ワタクシは、ワタクシしかおらず、よって、ワタクシは呼称を必要としまセン。
ワタクシの仕事は、幻日サマの住まわれる環境を整えるコト。
ただソレダケが、ワタクシのすべきコトでシタ。
しかし、それはある日カラ、突然変わりマシタ。
家の中に、小さナ生き物が増えマシタ。
ソシテ、ワタクシの仕事も増えマシタ。
幻日サマは、ワタクシが、あの小さナ生き物と接触スルコトを好まズ、ワタクシは密やかに仕事をしていまシタ。
静かな幻日サマとは違い、あの小さナ生き物は騒々しく、ワタクシは不思議な感覚を抱きマシタ。
そっと気付かれないヨウに見守り、観察をしマス。
小さナ生き物は、元気ヨク、きらきらきらきらして見えマス。不思議デス。
ソンなある日、小さナ生き物は、鉄錆タ匂いヲ漂わせて帰ってキテ、動かナクなってしまいマシタ。
幻日サマは、ズット側にいまシタ。
小さナ生き物は壊レタと思い、処分するか訊きまシタ。
そうシテ、ワタクシは、初メテ、死という恐怖を覚えまシタ。
小さナ生き物は、元気にナリマシタ。
マタ元気に動き、ワタクシは見守り続けマス。
珍しく幻日サマだけ出かけ、小さナ生き物ダケ、残りマシタ。
コッソリ近寄り、ブランケット、かけようと思いマス。
ワタクシを見ると、普通の生き物は怯えテ逃げテしまいマス。ダカら、コッソリデス。
遠くカラ見てた、小さナ生き物がすぐ目の前にイマス。
近くで見てモ、小さいデス。
ふくふくとして、あたたかソウデス。
まろやかな頬に触れてミタくなって、思わず手を伸ばシテしまい、身動いだ小さナ生き物に驚いて声を上ゲテしまいマシタ。
起きてシマッタ小さナ生き物。
鏡のヨウな目が、不思議ソウにワタクシを見てイマス。
次に聞こエルのは、悲鳴、怒号、拒絶、ドレでショウと思うワタクシに対し、返ってキタのは、好奇心に満ちた瞳と質問でシタ。
そして、ワタクシは『プリュイ』とナリマシタ。
「プリュイ、ぷにぷにしてるなぁ……」
ワタクシが掃除をしてると、小さナ生き物──ジルが抱きついてきマス。
ワタクシの見た目は、人に怯えラレルと思ってマシタが、ジルは全く気にしマセン。
逆に、摘んダリ、揉んダリ、忙しなく触ってきマシタ。
そんなジルは、今待ちクタびれて、毛布の中で眠ってイマス。
睡眠を必要とシナイワタクシは、ジルを静かニ、見守りマス。
接触シテしまったのは想定外デスが、幻日サマより留守は任されテマス。
ワタクシの存在に賭ケテ、ジルには指一本触れさせマセン。
まァ、ソモソモ、幻日サマの結界を破れるモノナド、イナイのデスガ……。
ジルの寝顔を飽きズに見つめてイルと、結界にナニカ触れたのが、ワタクシにもわかりマシタ。
ふるりと震えて警戒スルワタクシは、すぐ警戒を解きマス。
ワタクシが何もしなくトモ、敵は消えるでショウ。
幻日サマの、お帰りデス。
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「プ、リュイ……?」
寝てしまっていたところを誰かに抱き上げられ、俺は目を閉じたまま眠る前まで見つめていた青の名前を口にするが、返ってきたのは何処か不機嫌そうな沈黙だ。
少し覚醒してきて、俺を支える腕がぷにぷにではなくしっかりとした感触だという事がわかった瞬間、俺はなんとか重い瞼を持ち上げる。
「ぬしさまだぁ……」
歪んだ視界に入った夕陽色と宝石みたいな青色に、俺は安堵からふにゃふにゃと笑って、確かめるようにしっかりとしがみついて……そこでまた、大好きな笑い声を聞きながら再び眠りに落ちていく。
しがみついた主様の服からは、夜の匂いと……何処か鉄錆びた匂いがした。
いつもありがとうございますm(_ _)m
プリュイのカタコトは適当なので、法則性はないです(`・ω・´)ゞ