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54話目

意外と脳筋な主様と、それを可能にしてしまうチート。そして、さらに脳筋なっていく主様。


視点変更あります。

「お前! 逃げられたらどうするんだ!」



 オレとトルメンタが、あの方の暴挙に呆れていると、ゲース副団長の部下である騎士の一人が怒鳴りながらあの方へ駆け寄って行く。

 珍しく言っていることは真っ当だ。

「珍しい、普通に正しいこと言ってるな」

 トルメンタも同じことを思ったらしく、ある意味失礼な突っ込みを入れている。

 顔を見合わせて苦笑いしたオレ達は、ふわふわと微笑んで騎士の文句を聞き流しているあの方の元へと駆け寄る。

「幻日サマ、対策はしてあるんだろ?」

 わざとなのか、しっかり周囲へ聞こえるような声量で問いかけるトルメンタ。

 その問いに、ふわふわと微笑んでいた幻日サマがこちらを振り返り、何故か関係のない怒鳴っていた騎士がヒッと息を呑んだ音が聞こえる。

「対策というか、この中にいる敵意のある人間はもう動けませんが……」

「死んでないか、それ」

 トルメンタのキレのある突っ込みに、あの方は微笑んで首を傾げている。

 これは『殺しちゃ駄目なの?』の首傾げか、それとも『たぶん生きてはいる』ぐらいの首傾げなのか、ちょっと建物内へ踏み込むのが怖い。

 とりあえず、これだけの轟音がしても中が静かということは、犯人達は動けないことは確かだろう。

「トルメンタ」

「ああ、中へ入ろう。ここで話していても仕方ない」

 今のあの方なら、捕らえられてる被害者まで巻き込むことはしないだろう。

 チラリと窺い見たあの方は、オレ達が踏み出すのとほぼ同時に建物内へと進んでいく。

「捕らえられている子供はあの方へ任せて、オレ達は犯人を確保しよう」

 迷いなく建物内を進んでいくあの方を見送り、オレ達は外から確認していた犯人がいるであろう部屋の方へと念のため足音を殺して歩いていく。

「意外と子供には優しいからな、幻日サマは」

 小声で呟き、フッと笑ったトルメンタが思い描いた子供と、オレの脳裏に浮かんだ子供の姿は十中八九同じ子供だろう。



 特に妨害もなくたどり着いた扉の前、注意深く耳をすませてみても静寂があるのみだ。呻き声すら聞こえない。

「……生きてるといいが」

 トルメンタがボソリと呟き、オレは無言で頷いて返す。その流れで目配せをしたオレ達は、一気に扉を開ける。

 扉は抵抗なく開き、その瞬間流れ出してきたのはアルコールの匂いと男臭さの混じったむわりとした空気だ。

 大きな家具などの遮蔽物は室内になく、ポツンと置かれた丸いテーブルと複数の椅子、それに腰かけていただろうむさ苦しい男達は床に転がっている。

 いびきもかかずに目を閉じて動かない姿にドキッとするが、駆け寄って脈を確かめると微かに振れる。

「……寝ているというか、意識を奪った感じのようだな。この人数をあの距離からとは、さすが幻日サマだ」

 オレとは別の男を見ていたトルメンタが、感心したような呆れたような微妙な声音で呟いて肩を竦める。

 そこへドタドタと足音が近寄ってくる。

 増援か! なんて心配する必要のない、とても(・・・)頼りになる味方の騎士の到着のようだ。

「ここはお任せして、おれ達は幻日サマの方へ行こう。……ジルヴァラじゃないといいんだが」

「さすがに今朝怒られただろうから、おとなしく……してくれてると思いたい」

 オレ達があの方のところへ向かうと聞くと、やって来た騎士達はあからさまにホッとした顔をしている。

 確かにあの方は恐ろしいほどお強いが、何もしていない相手へ無差別に何かをされるような方ではないんだがな。

 オレは内心であの方を擁護しながら、トルメンタと共にあの方が向かった方向へと進んでいく。

 近づいて聞こえてきたのは、あの方の声ではなく子供の怯えきった声だ。内容までは聞こえないが、怯えている様子からジルではないらしい。

 ジルがあの方に怯えるなんてあり得ないからな。

「ジルヴァラじゃなかったみたいだな」

「良かった……と言ってはいけないな。さらわれてきた子供がいたということなんだから」

 トルメンタもオレと同じことを思ったらしく、安堵の表情を浮かべているが、たぶんオレも同じような表情をしているだろう。

 だが、すぐに他の被害者がいるということを思い出し、オレ達は揃って表情を引き締め、声の聞こえてくる扉を開ける。

 ドアノブが壊されているのは、鍵がかかっていたのをあの方が壊したのだろう。

「ねぇ! ロコくんは一緒じゃないの!?」

「……その呼び方は違います」

 開いた途端耳に飛び込んできたのは、そんな温度差のあるズレた会話だ。

「怪我とかはしてないみたいだな。えぇと、可愛らしいお嬢ちゃんか」

「だな。良かったよ」

 トルメンタの言葉を受けて大きく頷いたオレは、あの方へ詰め寄っている幼い少女を見る。

 年の頃はジルと変わらないほどで、明るい茶色の髪に同じ色の瞳をしたなかなか可愛らしい子だ。

 その可愛らしい見た目より気になってることが、先ほどから一つある。

 それが原因であの方も先程からふわふわとした微笑みを陰らせて、渋面なんだろう。

「オズワルド、気付いてるか?」

「あぁ。任せてもいいか、トルメンタ」

「了解。ここで幻日サマにキレられても困るからな」

 当然トルメンタも気付いてたのか、オレの言葉に大きく頷いて笑うさまは頼りになる。

 そのまま人好きのする笑顔を浮かべたトルメンタは、少女の対応に困っているあの方へ近寄っていく。

 彼に任せれば安心だ。あの方に任せるよりはよっぽど。

 しゃがんで少女と目を合わせて笑いかけるトルメンタに、少女は少し驚いたようにゆっくりと瞬きを繰り返している。

「やぁ、小さなお嬢ちゃん。おれはトルメンタ。お嬢ちゃんの名前を教えてくれるか?」

「あたしはイオよ。ねぇ、騎士様はロコくんを知ってる? このわからず屋な人と一緒に旅してる男の子よ」

 腰に手をあてて、ふんっとばかりにあの方を可愛らしく睨む少女──イオお嬢さんはなかなか勝ち気な女の子らしい。

 微笑ましく思って笑っていると、あの方から睨まれてしまった。

 やはりあの事が気に食わないのだろう。

「オレはオズワルドだ、よろしくお嬢さん。その男の子ってのは、真っ黒い髪に銀の目をした、お嬢さんと同い年ぐらいの子で合ってるかな?」

 あの方から睨まれてしまったオレは、任せることを諦めて、トルメンタの隣へ並んで一緒にイオお嬢さんへ話しかける。

「そうよ。騎士様、ロコくんを知ってるのね?」

「オレはまだ見習いなんで、騎士ではないんだ。でも、その呼び名で呼ばれている男の子は知ってるよ。で、お嬢さんに忠告というか、警告がある」

 オレの言葉にパッと表情を輝かせたイオお嬢さんに、オレは微笑みながらも重々しく告げる。

「あら、何かしら? 見習い騎士様」

「その……お嬢さんが使っている呼び名は、その赤毛のお兄さんだけが使う特別なモノなんだ。出来れば使わないであげて欲しい」

「そうなの!? だから、さっきからこのわからず屋は、あたしに同じことしか言わないのね! もう! だったらそう言えばいいじゃない」

 ぷんぷんと頬を膨らませて怒り出したイオお嬢さんには、幸いというか捕らわれていたことに対する恐怖は見えない。このためにわざとはぐらかしてイオお嬢さんを怒らせたのか、と感心してあの方を見たが、全くこちらを見ていない。

 オレの深読みし過ぎだったらしい。

「ねぇ、なら、なんて呼べばいいの? 会えたら、呼べないの困る」

 怒りを収めたイオお嬢さんは、今度はしゅんとしてオレの服を掴んで、あざとい仕草で小首を傾げて訊ねてくる。

 こんな幼い少女のあざとい仕草なんて、ただ可愛いだけで、オレは頬を緩めて、

「だったら、ジルと。ジルヴァラというのが、その子の本名だからね」

と、微笑ましく思いながら答える。

「わかったわ! ありがとう、ならジルって呼ぶわ。……でも、どうしてロコなのかしら?」

 無邪気に喜んで、またすぐに首を傾げるイオお嬢さんに、オレとトルメンタは顔を見合わせて微笑む。元気そうで何よりだ。

「お嬢さんは一人でここに?」

「うん、そう。街中でパパとママはぐれちゃって、気付いたらここに捕まってたのよ」

 最悪よ、と大人びた仕草で肩を竦めるイオお嬢さんにオレ達が気を取られていると、いつの間にか部屋の中にあの方の姿がない。

「ねぇ、あたし、ジルに会いたいの! 会わせてもらえる?」

 オレの服を掴んで、イオお嬢さんがしおらしくおねだりしてくる。

 オレはイオお嬢さんの頭を撫でながら、無言でトルメンタへ目配せした。

「そうだな。まずは、お嬢ちゃんのご両親に無事な姿を見せてあげようか。抱き上げさせてもらっても構いませんでしょうか」

「うふふ、構わないわ」

 淑女に話しかけるようなトルメンタの対応が気に入ったのか、イオお嬢さんは声を上げて笑って抱き上げられている。

 オレはその間にスッとその場から離れ、人気のない建物内をあの方の姿と、念のため残党がいないか確認しながら進んでいく。

 結果、最後の一室であの方は見つかり、残党は一人もいなかった。

「実行犯はこれで全員捕まりましたね。あとは、貴族側……」

「違います」

「え?」

 闇に染まりつつある部屋の中でもぼんやり浮かんで見えるあの方は、オレの言葉を簡潔な否定で遮り、微笑みを消して窓の外を見つめている。

 何に対する否定かわからず聞き返してしまったオレに、あの方からの視線が突き刺さる。




「ロコにあれを食べさせて、蹴り飛ばした屑がいませんでした」




 あの方からの殺気か、それとも覚えた嫌な予感のせいか、オレは怖気立つのを感じながら、闇へと沈む窓の外へと視線を向ける。



「ジル……」



 頼むからせめて家の中でおとなしくしていてくれ。



 聞こえないであろうが、願わずにはいられなかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ジワジワ増えていく数字に励まされて、ポチポチ書いてます(`・ω・´)ゞ

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