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53話目

プリュイ、ぷるぷる。


後半はトルメンタ様視点です。

 手早く昼ごはんを用意した俺は、せっかく天気がいいので、庭の芝生に行儀悪く座り込んでそこで昼ごはんにする。

「なぁ、プリュイは普通の食べ物食べられるのか? それとも、魔力のみ?」

 固くなったパンがあったので、それをフレンチトーストにして昼ごはんにしたのだが、思ったより量が多くなってしまい、俺は食べ切れなかったそれを見ながら、洗濯物を干してるプリュイへ話しかける。

 そもそも庭で食べ始めた理由の一つは、プリュイと話しながら食べたかったからだ。

「食べられマス。必要とはしないデスが……」

「じゃあ、これ食べてもらえないか? 作り過ぎちゃったんだよ」

 主様がいたら収納してもらったり、食べてもらえるけど、帰ってくるのは夜らしいから冷めて固くなってしまう。

「かしこまりマシタ。……いただきマス」

 半透明ボディで太陽の光を青く揺らめかしながら近づいて来たプリュイは、俺が掲げて見せた皿から残っていたフレンチトーストの大きな一切れを手掴みで取る。

 プリュイ自身に皿を持ってもらい、フォークを渡すつもりだった俺は「あ」と思わず声を洩らすが、それより早くプリュイの口の中にフレンチトーストが消えていく。

 不思議なことに、プリュイの口内に入ってしまうと、フレンチトーストはすぐ見えなくなる。

 半透明だから咀嚼してる姿とか見えるかと思ったけど、そう言えば歯とか内臓も見えないし、体内に入ると見えなくなる仕様なのか、存在しなくなるのかもしれない。

「えぇと、食べさせておいてなんだけど、不調になったりしない?」

「はい、問題ないデス。トテモ美味しいデス。ごちそう様デシタ」

 少し不安になって訊ねた俺に、プリュイは笑顔を浮かべて頷き、主様よりしっかりとした感想までくれた。

「……ジル、中へ入りまショウ」

 俺がちょっとした感動を覚えていると、プリュイが唐突に体をふるりと震わせ、俺の背中を押して家の中へと半ば無理矢理連れて行こうとする。

「え? おう、わかった」

 理由はわからなかったが、プリュイの半透明の顔には緊張が走っていて、つられて俺も緊張しながら押されるまま屋内へと戻る。

「……窓の掃除スルので、今日はモウ窓に近寄らナイで」

「ん、りょーかい」

 不自然過ぎる注意だと思ったが、プリュイがあまりにも真剣な顔をしてるので、俺は素直に頷いて、窓から距離を取る。

 その際ちらりと外へと向けた視線には、家の前を通り過ぎる何処かで見た覚えのある男が捉えられた気もしたが、きっと気のせいだろう。

「……殺気を垂れ流すのは止めてくれよ。ただでさえ使い物にならない貴族のボンボン共が、さらに使い物にならなくなってるじゃねぇか」

 おれの言葉が聞こえたのか、元貴族のお屋敷という無駄に豪華な廃屋をふわふわと微笑んで見つめていた幻日サマが振り返る。

 不思議そうにゆっくりと瞬きを繰り返した幻日サマは、首を傾げて周囲を見渡している。

 おれ達の周囲にいるのは、俺の友人で同僚でもあるオズワルドと、幻日サマに怯えて今にもチビリそうな役立たずな騎士が数名。

 チビリそうな騎士達は、副団長であるゲースの野郎直属の貴族のボンボンだ。少数精鋭が向いてる今回の作戦にはそぐわないと言ったが、無理矢理押し付けられた。しかも、そのボンボン達の一人が一応この場の指揮官だ。

 さっきから幻日サマにガクブルしてほぼ何の役にも立ってないがな。

 何処かの貴族様の嫌がらせか、入れ知恵か。

 役立たずで足手まといを現場指揮官にして、突入作戦を混乱させようとする……なんて、考え過ぎか。

「私一人でもいいのですが……」

「だろうな。けど、こっちにも体面ってものがあるし、あんた一人だとやり過ぎるだろ。そもそもだが、本来ならあんたは参加出来ないからな?」

 冗談や軽口ではなく、ふわふわと微笑んでるようにしか見えない幻日サマ一人で、このぐらいの屋敷なら五分もかからず制圧というか、中にいる生物全てを消し去ることが出来るだろう。

 逆に、生きて捕らえろという命令の方が幻日サマには難しいな。

 相手はフーリッシュ男爵と繋がり、幻日サマが溺愛してるジルヴァラを傷つけたのだ。

「溺愛されてる本人に自覚ないって、なかなかな問題だよな」

「今朝も一人でふらふら買い物に出てたよ。本当にいたずら子猫みたいで困る」

 何故かやたらと幻日サマに睨まれている親友は、おれの陰に隠れるようにしながら、朝の出来事を思い出してるのか困ったように笑っている。

「オズワルドが見つけなかったら、変な奴に絡まれるか……」

「それこそ、ここの主に見つかって連れ去られてたかもね」

 自分達で口にしたくせに恐ろしくなったおれ達は、血の気の失せた顔を見合わせてから、微笑みながらぴりぴりしている幻日サマの後ろ姿を見やる。

「……ちなみにだけど、本人は溺愛してる自覚あると思うか?」

「命を捨てる覚悟があるなら訊いてみればいいんじゃないか?」

 緊張をほぐす為軽口を叩き合っていたおれ達は、やっと動き出した指揮官によって若輩者ながら先陣を切る役目を仰せつかった。

「トルメンタ、オレが先を行く」

「馬鹿言うな」

 そんな会話後、しばし睨み合ってため息を吐いたオレ達は、苦笑いをして同時に屋敷の裏門から足音を殺して建物へ忍び寄っていく。

 おれ達の背後から続く気配はなく、有り難いぐらいだ。

 あんなドタドタ歩かれたら、素人にだって気付かれてしまう。

 しかも、ここにいるのはあの『人身売買組織』の生き残りな上、幻日サマから生き延びた男とその男が集めたであろう仲間だ。かなり用心深いだろう。

 ドタドタ歩いてるお飾り騎士など、体のいい的にされかねない。

 今のところ、気付かれている様子はなく、近づいて張り付いた廃屋からは、複数の男達が話す声と……微かな子供のような泣き声が聞こえてくる。

「っ!」

 それはオズワルドにも聞こえたのか、目を見張って声を上げそうになるオズワルドの口を、反射的に手で塞ぐ。

 おれ自身は何とか気合で飲み込んだ。

「まさか……」

 それでも微かな声は洩れてしまった。

 脳裏を幻日サマが常に連れ歩いている黒髪の子供の姿が過ぎってしまったせいだ。

 泣き声はかなり小さくくぐもっていて、あの子供かどうか以前に、性別すらわかりにくい。

 一番最悪であろう想像を振り払おうと思うが、作戦決行直前に聞いてしまった『いたずら子猫』エピソードが邪魔をする。

 幻日サマの屋敷内にいれば、強固に張られている結界がジルヴァラを守ってくれるだろうが、もし何かに惹かれて自分からふらふらと出歩いてしまったら? 想像内のジルヴァラは、それこそ本物の子猫のように、蝶でも追いかけて何処かへ走っていきそうだ。

「うわー、すげぇ有り得そう……」

「たぶん、オレも同じこと考えたよ、トルメンタ」

 硬い表情で声を潜めた会話をしたおれ達の視線が揃って向けられるのは、ボンボン騎士達が怯えるため離れて待機させている幻日サマの方だ。


「…………………………って、いないし」


「うわぁ……」


 潜入作戦だということを辛うじて思い出して思い切りしそうになった突っ込みを小声でして、おれ達はキョロキョロと周囲を見渡す。

 おれ達の様子で遅ればせながらボンボン騎士達も異常に気付いたのか、ガチャガチャやり始める。

 それと同時ぐらいに、おれ達は目立つ夕陽色をやっと見つけられた。

 その現在位置は──、




「〈吹き飛べ、砕け散れ〉」



 敵のアジトである廃屋の正面玄関前。



 強大な魔力が集まるのを感じたが、止める間もなく元豪邸の分厚い玄関の扉が吹っ飛んで……。

 あはは、と乾いた笑い声を上げながらおれは、



 まぁ一瞬で焼き尽くされてないだけいいか。



 なんて、軽く現実逃避する。


 ちなみにだが、この場の責任者にあたるはずのボンボン騎士は、早々に意識を手放してしまったようだ。


 気を失ってる方が、逆に幸せかもしれない。

いつもありがとうございます(*´∀`)


以前は視点変更する際に[視点変更]とか入れてたんですが、入れないと視点変更したってわからないんですかぁ?的な感想をもらって入れなくなったんですが、入れた方が分かりやすいかなぁとちょっと悩んでたり。

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