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50話目

とある方視点からの、ジルヴァラ視点へ戻ります。


主様が今一番警戒している緑登場(`・ω・´)ゞ


セルフはじめてのおつかいスタート←

「……ちょっと興奮させすぎたか?」

 止める間もなく去っていった屋敷の主たる麗人の後ろ姿に、あたし達のリーダーでもあるソルドは反省した面持ちで頬を掻いている。

「エプレの毒に侵されたそうですからね」

 アーチェも心配そうにそう呟く中、あたし達は幻日様のお屋敷をあとにする。

 依頼達成のためのサインは、最初に幻日様からしてもらってあるので特に問題はない。

「このままギルドへ報告して、食事して帰りましょう」

「そうだな」

「ジルヴァラが元気になったら、食事に誘ってみましょうか」

「それ、いいわね」

 そんな話をしながら、冒険者ギルドまでやって来たあたし達は、そのまま入ろうとしてソルドが先頭で扉を開けたところで、三人揃った動きで回れ右をした。

 こういうところは息ぴったりで、あたし達はいいパーティーだと再認識する。


「あー! まだその女と一緒にいるのね? その女は、悪い女なのよ!? どうしてわかってくれないのよ!」


 閉まりかけた扉から聞こえたのは、うるさい小猿の元気すぎる鳴き声。

 って、小猿に失礼よね。ジルヴァラも最初は小猿って言われてたんだから。


「よし、走るぞ。俺、すごく走りたい気分だ」

「奇遇ですね、僕もです」

「仕方ないわね、付き合うわ」


 顔を見合わせて笑い合ったあたし達は、後ろから聞こえてくるキーキーうるさい声を無視して全力で駆け出す。

 あれの取り巻きなら撒くのは大変だけど、あれ自身はそこまで足は速くないし、体力もない。優れた冒険者になる! と宣言してたそうだけど、魔法使いのあたしにも追いつけないなら無理じゃないかしら、と思う。

 まだ子供だから育つ余地はあるでしょうけど、あれには鍛えている雰囲気もない。

 同じように冒険者を目指すジルヴァラは、一緒に旅している間、ソルドやアーチェから色々習ったり、体力作りをしているようだったけど。

 まぁ、そもそも森で暮らしていたジルヴァラと体力とか身体能力を比べるのは可哀想よね。いくらあれでも。見た目だけはそこそこ可愛らしい子だから、余計に残念。



 あたし、元気な子は嫌いじゃない。


 お馬鹿でも可愛いと思える。


 多少腹黒くても、許せるわ。


 でも、あれは駄目。


 あたしへ敵意があるからじゃない。


 あたしの大切な仲間達を、まるで便利な道具でも見るような目で見るなんて。




「……絶対に許さないわ」




 低く囁いて嗤うあたしに、少し前を走る二人が心配そうに振り返って、口々に大丈夫か? と訊ねてくれる。


 恋ではない。でも、大切な仲間達。


 あたしは「まだいけるわよ」と答えて、不敵に笑ってみせる。



 もし、あれがジルヴァラまで手を出すなら、遠慮なくぶっ飛ばさせてもらうけれど。



 きっと、そこはあたしがしなくても、幻日様が完膚なきまでにしてくださるから心配はしてない。



 ひとまず、あたしはちょっと頼りない男二人をしっかり見守っていこう。



 こんなあたしを、必死に守ろうとしてくれる二人を。

 運ばれた自室のベッドで横になったまま、俺は深々とため息を吐く。

 こうなってしまうと、昼飯作りどころか夕飯作りもさせてもらえないだろう。

 主様は意外と心配性というか、俺の丈夫さを信じられないらしい。

 これだけ短期間色々しでかしてる身として、強くは言えないけどさ。

 布団を意味なくもみもみと揉んでいると、部屋の扉が開いて主様が入ってくる。その手にはあるのは謎ぬいぐるみだ。

「ありがと、主様」

 置いてきてしまった謎ぬいぐるみを持ってきてくれた主様にお礼を言い、受け取ったぬいぐるみを抱き締めて寝やすい体勢をとる。

「もう大丈夫ですか?」

「うん、ごめん。なんか、急に不安になっちゃって。ソルドさん達にも悪いことしちゃったな」

 ついついヒロインちゃんを警戒してしまうが、俺自身は乙女ゲーム関係者じゃないし、何より俺が主様を信じないとな。

「何が不安なんですか、ロコ」

 うんうんと内心頷いていた俺は、思いの外近くから聞こえた主様の声に、少しだけ驚く。

 気配も音もさせずに移動した主様は、いつの間にかベッドに上体を乗り上げさせ、俺の顔を覗き込んでいた。

 どうりで近くから声がする訳だと納得した俺は、まつ毛の本数すら確認できそうな距離の主様の瞳をじっと見つめる。

 ゆらりと揺れる炎の色をした宝石みたいな瞳は、相変わらず吸い込まれそうな美しさだ。

「ロコ?」

「ぬしさまがいれば、ふあんなんてないよ」

 眠る直前のように意識がとろとろとしてきて、ちゃんと喋れてたかはわからないが、主様の瞳を見ていて不安が跡形もなく溶けたのは本当だ。

 心配そうに頬へ触れた手に、すりと頬を寄せた俺は、へらっと笑ってみせたつもりだが、主様の反応を見る限り笑えてたのかわからない。


「そう、ですか。



 私に言ってくれれば、ロコを不安にさせるものを全て消してあげられます」


 柔らかい主様の囁きは、意識が溶けるように眠りに落ちた俺にはもうよく聞こえなかった。

「……そして、目が覚めたら次の日とか、俺最近寝過ぎだろ」

 いくら体力ある方なつもりでも、こういう時、やっぱり俺は六歳児なんだと実感してしまう。

 最近は精神も引っ張られてるのか、ちょっとしたことですぐ不安になってしまうので困る。……そもそも、前世の俺もそこまで落ち着きある大人じゃなかったんだけどさー。

 それはさておき、

「早く大きくなりたいなー」

 時計を見ると時間的には朝飯には早いけど、軽く散歩してきてシャワーを浴びたらちょうど良いだろう。

「あ、どうせなら屋台で何か買って来よう! 主様、驚くかなー」

 主様の家は郊外だけど、少し離れた所に屋台が並んでるような通りがあったのは馬車の窓から見て覚えている。

 お小遣いというか、ちょっとしたお金は旅の最中採集した物を主様から冒険者ギルドへ売ってもらって稼いだ。

 踏み台の代金払おうとしたら断られちゃったし、たまには俺のおごりの飯とかもいいよな、と思いついた楽しいサプライズにくふくふ密やかに笑いながら、俺はメイナさんから貰った普段着へ着替え、足音を殺して家を飛び出し──たところを、ランニング中だったオズ兄に捕まった。

「ジル……ジルヴァラ……お願いだから、自分が可愛らしい六歳児なんだとしっかり理解してくれ」

 何故か半泣きみたいな表情をしたオズ兄に肩を掴まれて説得され、俺はオズ兄と手を繋いで屋台のある通りへ向かうことになった。

「ちゃんとわかってるから、体力作りのために軽いランニングして、ついでに屋台で朝ごはん買おうと思っただけなのに……」

 むぅと唇を尖らせていると、オズ兄が空いている方の手で軽く俺の頭を小突いてきた。

「それがわかってないんだよ。しかし、よくあの方が一人で出歩くなんて許してくれたな」

 心底不思議そうに呟くオズ兄に、思わずビクッとしてしまう正直者な俺。

 俺の反応に、オズ兄は「まさか……」と呟いてバッと勢いよく俺の顔を見てくる。その顔からサーッと血の気が失せる。

「まさか、何も言わず出て来たんじゃない、よな?」

「……えっとー、そのー、主様は、まだ寝てるだろうから、起きる前に帰ればいいかなーって」

 てへっと可愛子ぶって見せたが、俺の可愛さ程度じゃオズ兄には響かなかったらしい。

 逆にとんでもない表情で頭を抱えられてしまった。その反応は地味に傷つくから止めて欲しい。


「ヤバいって、早く帰らせないと、オレがジルを連れ出したとか思われ……なくても、どっちにしろ、オレ死なない?」


 遠い目をして何事かブツブツ言い出したオズ兄をグイグイ引っ張って、俺は目的地へと向かう。

 早く帰らないと主様起きちゃうからな。



 通りに近づくと、早朝ながら賑やかで、あちこちの屋台から色んな匂いがしてくる。

 大きな肉の塊を焼いてる店や串焼き、甘い匂いがしてくるような屋台もある。

「オズ兄、どれが美味しい?」

 キョロキョロしながらオズ兄の手を引っ張ると、やっと正気に戻ってくれたのか、ハッとして周囲を見渡している。

「も、もうここまで来たら、早く帰らせるしかない。……ジルもあの方も、朝からガッツリ食べる感じか? なら、あそこの肉パンが美味いぞ」

 台詞の前半部は小声でよく聞こえなかったが、突然切り替えたようにオズ兄はいい笑顔で一つの屋台を指差して見せる。

 その屋台で売ってるオズ兄が肉パンって呼んだのは、前世で見たピタパン? だったかな、あれに似てるパンだ。薄い半円のパンの中に薄切りの肉とか野菜とか入ってるみたいでパンパンに膨らんでる。

 確かにガッツリ系だな、と眺めていると、屋台の主人であろうふくよかなおばさんとばっちり目が合う。

「おや、おはよう、オズワルド。今日はずいぶん可愛らしい子と一緒だね」

 目が合ったのでへらっと笑いかけると、屋台のおばさんが朗らかな笑顔で話しかけてくる。

 おばさんの口ぶりからすると、ただオズ兄が常連で気付いて挨拶してきてくれたんだろう。

 オズ兄は爽やかな礼儀正しいイケメンだもんな、大概の女性はイチコロだろう。

「おはようございます、ドロシアさん。一人でフラフラしてて危なっかしいから、連れてきたんですよ」

「おはようございます、俺はジルヴァラです。よろしくお願いします」

 隣に立つオズ兄に頭を撫でられながら、ドロシアさんって名前らしいおばさんに元気よくへらっと笑って一応よそ行きモードで挨拶する。

「あらあら、ずいぶんお利口さんな子ね。おばさんは、ドロシアよ。同じ元気な子でも、ジルヴァラは最近見かけるあの子とは大違いだわ。いくら元気が一番と言っても、あれを元気で片付けられないわよねぇ」

「あぁ〜! あの礼儀知らずを元気と履き違えてる女の子でしょう? 大人に対する口の利き方が悪いぐらいなら気にならないけど、あそこまで礼儀知らずなのは駄目よねー」

 俺の挨拶は好印象なのは良かったけど、ドロシアさんは隣の屋台のオネエさんと愚痴り合いを始めてしまう。

 何となく『礼儀知らずを元気と履き違えてる女の子』が誰なのか想像出来てしまい、俺は無意識に顔を歪めて握っていたオズ兄の手に力を込めてしまったらしい。

「ジル? あぁ、そうだったな。早く帰らないと、あの方が起きて、オレもヤバくなるからな」

 俺の表情を主様関連と勘違いしてくれたオズ兄は、ニコッと爽やかな笑顔を浮かべて、

「ドロシアさん、アシュレーさん、お話中悪いですが……」

と、話しかけてくれ、やっと二人の視線が俺達の方へ戻ってくる。

「あらまぁ、ジルヴァラ、ごめんなさいね! さぁさぁ、いくついるのかしら?」

 あっはっはと豪快な笑顔で笑い飛ばしたドロシアさんは、そう言って紙袋を広げながら並んだ肉パンを手のひらで示す。

「えっと……俺と主様とオズ兄の分で五つお願いします!」

 自分の手を見つめながら真剣に指折り数えた俺は、パッと顔を上げてハンナさんへ五本指を立てて注文する。見た目的には、陽キャが片手でハイタッチしようとしてるようなポーズになったな、とかちょっと思ったりしたが、それ以上に周囲からニコニコと見られていてビックリする。

「ジルヴァラちゃんって言うのね。アタシはアシュレーよ。お買い物邪魔しちゃってごめんなさいね。アタシのことは、アシュレーお姉さんって呼んでもいいわよぉ」

 俺がわたわたしてると、一番近距離でガン見してきていたオネエさんなアシュレーお姉さんが、くねくねとしながら人懐こく話しかけてきてくれる。

 そうなのだ。俺の脳内で『オネエさん』と変換されるアシュレーお姉さんは、オネエさんだ。

 綺麗な人だけど、ピッタリとした服に包まれた体には一切の丸みはなく、逆に主様よりムキムキかもしれない。主様の裸見たことないけど。いっつもふわっと服着てるし。

「よろしく、アシュレーお姉さん。アシュレーお姉さんも、ドロシアさんも、呼び難かったら、俺のことはジルって呼んでくれ……です」

 せっかく被った猫が秒で脱走してしまい、俺は笑って語尾で誤魔化そうとしたが、誤魔化せる訳もなく微笑ましく見られて終わった。

「うふふ、お貴族様じゃないのよ、そこまでかしこまらなくてもいいわよぉ。そもそも、子供の口の利き方ぐらいじゃ、アタシも、ドロシアさんも気にしないわよぉ」

 近所のおばちゃんがしてたような手つきで気にするなと手招きみたいな手の振り方をするアシュレーお姉さんに、俺は笑って「ありがと」とお礼を言って頭を下げる。

「丁寧な喋り方難しくて。一応、主様お手本にしてるんだ……ですけど……」

 そう続けた俺がへらっと笑って肩を竦めると、屋台に並んだ商品の向こう側でアシュレーお姉さんが何か身悶えしてる。並べられている商品のアクセサリーぽいのが落ちないかちょっと心配だ。

「そうか? なかなか上手だったぞ。借りてきた猫みたいで可愛い。あの方みたいな迫力はないけどな」

「主様って、迫力あるか?」

 口調といい笑顔といい、ほわほわした癒やし系だと思うけど。そう伝えたら、オズ兄が名状し難い顔をして天を仰いだ。

「オズ兄?」

「というか、今気づいたけど、いつもはフシロ団長相手でもそんな丁寧な言葉使ってないよな、ジル?」

「…………そう言えばそうだな」

 オズ兄のもっともな指摘に、ハッとした俺は、首を傾げながらオズ兄へ視線を向ける。

「おや、アシュレー、私達いつの間にか騎士団長様より偉くなってたみたいだねぇ」

「うふふ、みたいねぇ。光栄だわぁ」

 俺とオズ兄のやり取りに、ドロシアさんとアシュレーお姉さんはくすくすと笑い合っていて、バツが悪くなった俺がそっぽを向いていると、目の前に紙袋が現れる。

「お待たせしたね、ジルぼうや。落とさないように気をつけてお帰り」

「ありがと、ドロシアさん。えっと、いくらになりますか?」

 まだ温かい紙袋をしっかりと抱え、俺は肝心の代金がまだな事に気付いて、慌てて財布代わりの布袋を取り出し、ドロシアさんを見上げると何故か目を見張ってから吹き出して、声を上げて笑い出した。

「おやまぁ、オズワルド、男ぶりを上げたもんだね。こんな可愛らしい子にサッと奢ってあげるなんて」

「しかも気づかれないうちに払っちゃってるのは、好印象よねぇ」

 おほほうふふと笑い合うドロシアさんとアシュレーお姉さんの会話を聞き、俺はしゅんとして隣に立つオズ兄を見上げる。

「オズ兄、俺、ちゃんとお金持ってた……」

「気にするな、ジル」

 せっかく主様とオズ兄に奢ろうとしたのに、逆に奢られてしまうと事態に、俺は色んな感情がぐるぐるしてどんな顔をすればいいかわからなくなる。

「ありがとう……」

 それでも嬉しい気持ちはあるし、俺は何とかへらっと笑ってオズ兄にお礼を言う。

「ジル? なんでそんな泣きそうな顔してるんだ? オレ、なにかしたか?」

 上手く笑えてなかったのか、俺の顔を見て困った様子になったオズ兄に、俺は慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「大丈夫、なんでもないよ。オズ兄も一緒に朝飯食べてけよ。ドロシアさん、アシュレーお姉さん、またなー?」

 誤魔化すように俺がそう言って立ち去るための挨拶をした時だった。



 ふわり、と不可視のナニカが体を撫でていく感覚がして目を見張り、体を強張らせる。

 この感覚には既視感がありすぎた。


「どうした、ジル? 帰るんだろ? あの方が起きるぞ?」



「もう遅い、オズ兄。見つかった……」



 俺の手を引いて歩き出したオズ兄という構図は行きとは逆だが、そんな突っ込みを入れる余裕は今の俺にはない。

 ん? という顔をしながらも歩き続けていたオズ兄の足が唐突にピタリと止まる。

 つまり手を引かれていた俺の足も止まる訳で。




「ロコを返しなさい」




 行く手を遮るように立つのは、いつも通り微笑む主様。


 ぽやぽや笑って柔らかな口調で告げる主様に、「あ、これは迫力あるかも」とか場違いに思ったのはオズ兄には内緒だ。

いつもありがとうございます(*´∀`)


ジルヴァラ、学習しない子です。バレなきゃ大丈夫っしょって、ある意味主様のことを甘く見てます(*´Д`)


ヒロインちゃん、悪評だけ振り撒いていくスタイルです。

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