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49話目

とある方視点から始まり、ジルヴァラ視点へ戻ります。


ホラー映画かよってぐらいに、ひたひたと近づいてくる気配(*´Д`)

 久しぶりに会ったヘルツさんと酒場で酒を酌み交わしていた俺は、ふと『幻日』様のことを思い出して話題にしてしまった。

「そうだ、ヘルツさん。俺ら、少し前まであの幻日様と一緒だったんですよー?」

「あ゛?」

 ヘルツさんのドスの効いた声を聞いてから、俺はやっとヘルツさんがかなりの『幻日』様嫌いだったのを思い出す。

 助けを求めるように周囲を見ても、アーチェとソーサラはさっさと宿に帰ってしまったし、ヘルツさんのお仲間もみんな酔い潰れ、一人だけ素面っぽいウェーバさんには視線を外された。

「あ、あの、ヘルツさん……そのあの方、そこまで悪い方では……」

「あの野郎、ヘラヘラヘラヘラしやがって! しかも、なんだ? あんな可愛らしい子を何処から連れてきやがった? まさか、誘拐か? 脅してるのか? 可哀想に、あんなに働かされてよぉ〜……」

 これは幸いというか、ヘルツさん、酔っ払って俺のこと忘れてるし、話も聞いてないな。

 ヘルツさんの雄叫びのような独り言を聞きながら、俺は残ってるエールをちびちびと飲む。

 遅い時間なんで、俺とヘルツさんのお仲間以外の客は酒場にはいない。

 マスターも慣れてるのか、カウンターの向こうで苦笑いして肩を竦めているので、とりあえずうるさくて追い出されるなんてことはなさそうだ。

 最初は聞き流していたヘルツさんの大きな独り言だが、よく聞くと気になる内容を言っていて、今さらだが耳を澄ませてみる。いや、澄ませなくても聞こえるんだけどな。

「あんな変な名前つけて呼びやがって……ジルぼうずには、ジルヴァラって立派な名前があるんだぞ……」

 泣き上戸と化したヘルツさんは、ぐすぐすと鼻を鳴らしながらジョッキに残っていたエールを煽り、そのまま机に突っ伏して眠ってしまった。

「リーダー寝ちまったっすね」

 呆れた様子で話しかけてきたのは、さっきこちらを見ないふりしてたウェーバさんだ。

 ヘルツさんが寝落ちしたので、俺へ話しかけてきてくれる気になったらしい。

「幻日様と何処かで会ったんですか?」

「何日か前、王都方面の野営地で会ったっすよ」

 そう言いながら近づいて来たウェーバさんの手には、エールの入ったジョッキがあり、それは俺の前に置かれる。

「ほら、おごりっす」

「あ、ありがとうございます」

 残り少なかった生温いエールを飲み干し、俺はお礼を言って冷えたエールを一気に煽る。

「で、幻日様の話っすよね。さっきも言ったっすけど、王都寄りの野営地で会ったっす」

「あの……っ! ヘルツさんがジルヴァラって言ってましたけど、それってどんな子でしたか?」

 まさか同じ名前の子供をたまたま『幻日』様が連れてるなんて偶然ないと思うが、俺はそうぼかして訊ねる。期待して裏切られるとショックはでかいし。

「どんな子っすか? えぇと、黒い髪に銀の目をした、人懐こくて可愛い子っすよ。うちのリーダーなんか、メロメロになって、結構本気で連れてこようとして、幻日様から睨まれてたっすよ」

 死ぬかと思ったすよ、と冗談めかせているが、そう語るウェーバさんの表情は固く、顔色も明らかに悪い。

「俺の知ってるジルヴァラみたいですけど、あの幻日様が……?」

 道中の素っ気ない態度を思い出す限り、ウェーバさんの語る反応が想像出来ない。

 どちらかと言えば、さぁさぁどうぞ、と差し出しそうだが……。





 あの時、俺はそう思い、俺から話を聞いたアーチェとソーサラも似たような感想だった。

 その後、しばらく行動を共にする間も、ヘルツさんからは『幻日』様への悪口と、娘さんへの愛と、ジルヴァラの可愛さが語られたが、時々出てくるジルヴァラへ執着している『幻日』様の話だけは信じられなかったのだが……。




 ジルヴァラに会える訳はないだろうがと王都へやって来た俺達三人は『トレフォイル』というパーティー名で活動をしていた。

 そこに冒険者ギルドで指名依頼があると言われ、依頼主の名前を聞いたら、この国の騎士団長で仰天し、会って詳しい話を……となって出て来たジルヴァラの名前でさらに仰天したのはいい思い出だ。

 しかも、話をしたいという依頼で呼び出された先は、王都にあるという『幻日』様の家だ。

 てっきりあの豪快で人の良さそうな騎士団長に保護されたものだと思っていた俺達は、さらにのさらに驚いて、段々感覚が麻痺しそうとか思ったり……したこともあった。

「……あれ、幻日様だよな?」

 実際訪れた『幻日』様の家で俺達を迎えたのは、満面の笑顔を浮かべたジルヴァラをしっかりと抱っこして現れた『幻日』──幻日様だ。

「当たり前でしょう。お誘いを受けて来たのですから」

 現実を受け入れられなくて、思わずそんな当たり前なことを小声で呟くと、アーチェからは当たり前な答えが小声で返ってくるが、表情は俺と似たりよったりな表情してると思う。

 ソーサラだけは、やっぱりね、と言わんばかりのしたり顔で頷いていて、固まっている俺達の尻を叩いて、先を行く幻日様の後へ急き立てて続かせる。

 立派な暖炉の前の高そうなソファへ案内された俺は、落ち着かなくてソワソワしてたが、涼しい顔をして微笑むアーチェも似たようなもんだと思う。

 ソーサラは……ジルヴァラを膝の上に招いて、存分に愛でている。

 こういう時、女は強いというか、ソーサラが特に強いんだな、たぶん。

「ソーサラは強いですね」

「あぁ。俺なら絶対無理だ」

 ボソッと吐かれたアーチェの呟きに、小声ながらはっきりと同意する俺。

 そんな俺達の視線の先には、ソーサラの膝の上に乗せられているけらけら笑っているジルヴァラ──ではなく、それを微笑みながら穴が開くほどガン見している幻日様の姿があった。

「これ、俺達生きて帰れるか?」

「ジルヴァラがいれば、なんとか……?」

 そんな俺達の心配をよそに、ソーサラは恍惚とした顔で幸せそうに笑っていた。

「そ、それで、ジルヴァラ、俺達に話を聞きたいんだって?」

 そろそろお腹がいっぱいになってきて、ソーサラさんのあーん攻撃をやんわりと断った俺に、ソルドさんがやたらと緊張した面持ちで話しかけてきた。

 久しぶりに主様と会ったから緊張してるんだな、と微笑ましく思いながら、俺は大きく頷いてソーサラさんの膝から飛び降りると、パタパタと駆け寄ってソルドさんとアーチェさんの隙間によいしょとお邪魔する。

 二人がけのソファだが大きめなので、小さめな俺ぐらいなら何とか間に入れた。

「おう! 冒険者になるにあたって、先輩の話を聞きたくてさ。冒険者ギルドへ乗り込もうと思ったんだけど、フシロ団長から止められて、ちょうど良い時にソルドさん達が王都にいるってわかったから指名依頼出させてもらったんだよ」

 一連の流れを説明してニッと笑って見せたが、ソルドさんもアーチェさんも、何か複雑そうな表情をして苦笑いを浮かべている。

「……迷惑だったよな」

 二人の反応に、ソルドさん達からしたら子供の我儘みたいなもんだよな、と今さらながら気付いてしまい、浮かれていた気持ちは一気にしおしおと萎んでいき、へたりとしてソルドさんの足へ顎を乗せて凹む。

「そんなことはないわ!」

「お、おう! もちろんだ! 俺達もジルヴァラに会いたかったから、ちょうど良かったさ! なぁ、アーチェ」

「えぇ、その通りです!」

 やたらとエクスクラメーションマーク入りの台詞を発した三人は、操り人形のようにコクコクと大きく頷いている。

 反応を見る限り、嘘ではなさそうだけど、今度は別の意味で心配になった俺は、比較的冷静そうなアーチェさんの顔を見上げて首を傾げる。

「アーチェさん、本当か?」

「はい。……まさか、幻日様のお宅に招かれるとは思わなかったので」

「あぁ、それでかー。大丈夫、主様、心は広いから、普通にしてればなんにも無いって」

 会話の間もちらちらと向けられる視線の先には、確かに主様がいて、こちらを見てぽやぽや微笑んでいる。

 三人の謎の緊張感に納得した俺は、へらっと笑ってソルドさんの顔を見上げる。

「なあ、三人の駆け出しの頃の話をしてくれよ。主様に聞いても、ぜーんぶ『魔法で一発です』で終わるんだぜ?」

 苦笑いして肩を竦めてみせると、やっと緊張が解けてきたのか、ソルドさんはニッと笑って返して、俺の頭を撫でてくれる。

「それは幻日様らしいな。俺達の話で良ければ、聞かせてやるよ」



 それから、ソルドさんは自分達の駆け出しの時の失敗談など色んな話をしてくれた。

 時々、アーチェさんから突っ込みが入ったり、ソーサラさんから「それはあなたの失敗だったはずだわ」と反撃されたり。



「娼婦をしてた女の子に惚れて騙されて、身請けしてあげないと……って、身ぐるみ剥がされかけたこともあったわね」



 失敗を自分のせいにされた意趣返しなのか、ソルドさんの恋バナ? 暴露もあったり。



「ソーサラだって、護衛対象のお子さんに怖がられて、護衛依頼無くなったことあっただろ!?」



 とか、ソルドさんが反論して、ソーサラさんが魔法でふっ飛ばそうとして、主様のぽやぽやで止められたり。



「ゴブリンは群れで行動している事が多いです。見つけた時に一頭だとしても油断せず、まずは周りを探ってから襲うようにしなさい」



と、いう至極まともな助言をアーチェさんがくれたりした。



 かなりカオスだったが、すっかり緊張の解けた三人組の話は楽しくて、ためになる……ならないのもあったけど、まぁためになるものだった。

 一通り話し終えて、言い争いで息の上がったソルドさんが冷めた紅茶を飲み干し、ふと思い出したように真剣な顔になって主様の方を見る。

「ジルヴァラを連れて冒険者ギルドへ行くなら気をつけてください。最近、冒険者ギルドへ行くと妙な女の子がいて、意味分からないこと言われてやたらと絡まれるんですよ」

 ソルドさんの言葉に主様は一つ瞬きをして、興味を持った様子でソルドさんをじっと見つめ返す。

「ジルヴァラとそう年齢の変わらない子だと思いますが、僕らというか、ソーサラに敵意というか悪意を持っているみたいで……」

「その子、妙に一部の冒険者やギルド職員にやたら好かれていて、なかなか我儘……というか悪辣というか……とりあえずジルヴァラを近づけることはオススメしません」

 アーチェさん、ソーサラさんとさらに続いた警告するような台詞。それが意味する相手を俺は一人しか思いつかない。

 手のひらに嫌な汗が出て来て、拳を握った俺は思わず主様の方へ助けを求めるように視線を向けてしまう。


 俺が『あの子』に絡まれる訳なんてないのに。



「白銀の髪をした女の子……」



 あぁ、と。


 やはりという思いで目を閉じていると、ソルドさんとアーチェさんの驚く声が聞こえ、ほぼ同時に浮遊感が体を包む。


 目を開けるとそこには柔らかく微笑む主様の顔があって、変に力の入っていた体から力が抜ける。


「不安なら、私だけを見ていればいい」



 珍しい主様のですますでない発言を聞いた俺は、そっちの驚きで『あの子』の事なんてどうでも良くなり、ゆっくりと頷いて笑い返した。



「ロコはまだ体調が優れませんので今日は帰ってください」



 それとほぼ同時に、主様はソルドさん達へ向けてそう言い放って歩き出してしまったので、俺は三人にお礼もお別れも言い損ねてしまった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


バレバレでしょうが、ヒロインちゃんはあれです。

ネタバレタグ追加しないいけないですかね、これは。

嫌いな方もいるでしょうし。

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