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48話目

ジルヴァラ視点から、とある方視点です。しばらくとある方視点続きます。

「どうだ? 前の冷めたのより美味しいだろ?」

 ちびちびと牛乳を飲みながら、俺はオムレツを食べている主様の反応を窺う。

「卵とチーズの味がします」

 ぽやぽやと返ってくる感想はいつも通りだが、食べる速度は少し早めなぐらいなので、口には合ったようだと俺は安堵に胸を撫で下ろす。

 早々にオムレツを食べ終えてしまった主様は、あむあむと機械的にロールパンを食べている。

「こうして食べても美味しいと思うぞ」

 ソーセージを齧っていた俺は、籠からロールパンを取ってナイフで適当に切れ目を入れると、そこにソーセージを挟んで主様へ渡す。

 まぁ即席ホットドッグみたいなもんだ。

 ちゃんと齧ってないやつで作ったのだが、パンを受け取った後も主様の視線は皿の上にある俺の齧りかけのソーセージを見ている。

「こっちは俺の! 食べ足りないのか?」

「ロコが食べたいです」

 苦笑いした俺の言葉に、主様はいつもののんびりした仕草とは違い、即答してコクリと頷く。

「確かに他人が食べてるのって、美味しそうに見えるけどさぁ」

 仕方ないなぁと笑った俺は、少し見すぼらしいと自分用にしたサンドイッチの半分を主様の皿へ置き、減っていた牛乳も追加で注いでやる。

「もっと量増やすか?」

「……食事は足りてます」

 はぁとため息を吐いて答えた主様は、俺の頬をするりと撫でてから、俺の置いたサンドイッチを一口で食べてしまう。なんだかんだ言っても、やっぱり量が足りなかったようだ。

「主様、特に好き嫌いはないんだよな?」

「ええ。基本的に食べられない物はありません」

 それは好き嫌いとかではなく物理的な意味なんじゃとは思ったが、これ以上訊いても無駄だろうと俺は質問を諦める。

 食べる様子を見て俺が判断すればいいか、と一人頷きながら、俺は齧りかけにしていたソーセージを口へと運んだ。

 朝食を終えてソファで一休みしながら俺は、とある人達の来訪を待ってぬいぐるみを抱えてソワソワとしていた。

「ロコ、落ち着きなさい」

 あまりに興奮して見えたのか、主様に捕獲されてぬいぐるみと一緒にもちもちと揉まれていると、呼び鈴が鳴る。

「来た!」

 勢いよく駆け出そうとした俺だったが、主様は離してくれなかったので、そのまま主様付きで玄関へと来客を迎えに行くことにする。


 歩くのは主様だけど。


 相手を確認せず躊躇なく扉を開ける主様を見て、そういえばドアスコープとかないけど、防犯とか大丈夫なのか、とか今さらなことを考えてしまったが、たぶん魔法でわかるんだろう主様なら。

 開かれた扉の向こうにいたのは、見慣れた懐かしい三人組だ。

「こんにちは! 久しぶりだな、ジルヴァラ」

「お招きいただき、ありがとうございます。ジルヴァラ、元気でしたか?」

「お邪魔します。……相変わらず小さくて可愛いわね、ジルヴァラ」

 主様、俺の、順番に挨拶してくれた三人を、俺は満面の笑顔で迎える。

「来てくれてありがとう、ソルドさん、アーチェさん、ソーサラさん。入ってくれよ……って、俺の家じゃないけどな」

 そう、俺が待ってたのは、一緒に旅をしてくれていた『トレフォイル』の三人だ。

 と言っても、旅してる時はまだパーティー名が決まってなくて、この名前はこの間決まったらしいんだけどな。

「あはは。あの有名な幻日様のお屋敷にまさか入れるなんてなー」

「あなたは……失礼な発言は止めなさい」

「でも、さすが高位冒険者って言いたくなるのはわかるわ」

 相変わらず仲良しな三人は、賑やかにそんな会話をしながら俺(とぬいぐるみを抱いた主様)の後をついてきている。

 服装は旅の間に見た物より小綺麗というか、きちんとした服装だ。ま、ソルドさんとアーチェさんは、胸当てとかマントとかないぐらいでほとんど変わらなく見えるが、ソーサラさんは魔女な黒いローブ姿から、淡いピンク色のワンピース? ぽい格好でかなり印象が変わって見える。あと、ローブより胸が目立つ。

「ジルヴァラ? どうかしたかしら?」

 そんな感じでソファへ降ろされた後も、お茶の用意を待つ間ソーサラさんをじっと見てしまっていたらしく、うふふ、と笑いながら声をかけられる。

「ごめんなさい。いつもの魔法使いって感じの格好も似合ってたけど、その服も素敵だなって思って見惚れてた」

 成人男性だと問題が出るかも知れない発言だが、六歳児な俺は誤魔化すことでもないので、へらっと笑って素直に答えておく。

「あら、ありがとう。ジルヴァラは女泣かせになりそうね」

「ソルドより女性の扱いが上手そうですね」

「悪かったな! でも、アーチェに言われたくないから!」

 相変わらず仲良しな(二度目)三人の会話をにこにことしながら聞いていると、俺の隣に陣取っていたソーサラさんの腕が伸びてきて、膝の上に乗せられてしまう。

「ソーサラさん?」

「あたしのお膝でお菓子食べるわよね?」

 きょとんとして見上げると、ほぼ脅迫じゃないかという目力で確認されて、俺はへらっと笑って頷いておく。

 こんなボッキュボーンなお姉さんの膝の上に乗れるなんて、幼児な今のうちだけの役得だからな。

 お茶を運んできてくれたメイドさんが、ソーサラさんの膝上にいる俺に少し驚いた顔をしたようだけど、すぐ何事も無かったようにお茶とお菓子をセットしてくれた。

「ありがと! 料理人さんにも、ありがとって伝えてもらえるか?」

 このメイドさんは、念のためあと数日来てください、とドリドル先生が頼んでくれて、色々手伝いに来てくれたフシロ団長のお屋敷のメイドさんだ。

 お客さんが来ると話したら、お屋敷の料理人さんにお菓子を作ってもらって、今日持ってきてくれたのだ。

 俺の言葉に、メイドさんは「はい」と笑顔で頷いてくれて、そのまま静かに去っていった。

「ジルヴァラ、あーんして?」

「さすがに自分で…………あ、あーん……」

 ほんのりと頬を染めて指で摘んだ焼き菓子を差し出してくる美女に、俺は気恥ずかしさから拒否しようとしたが、またソーサラさんの目力に負けてしまい、おとなしく口を開けるしか選択はなかった。

「ジルヴァラが物怖じしない人懐こい子で良かったよな、本当」

 膝に乗せたジルヴァラに恍惚とした表情でお菓子を食べさせているソーサラを見ながら、俺は心の底からそう呟く。

「ソーサラは美人ですが、子供にはことごとく避けられますからね。ジルヴァラに会ってなければ、子供の奴隷でも買うのではないかと正直疑ってました」

 アーチェの言葉はかなりの問題発言だが、ソーサラが子供から避けられるの事実であり、疑いに関して笑えない裏話を俺は知っていた。

「……あのさ、今だから言えるけど、実際それ用にお金貯めてたらしいぞ?」

 その為にかなり怪しい相手に接触も考えていたらしいが、実行する前に『ジルヴァラ』というソーサラの好みど真ん中かつ全力で懐いてくれる存在が現れてどうでも良くなったらしい。

「ジルヴァラは天使でしょうか」

 真顔でアーチェがそんな台詞を呟いてたが、正直俺も同感だ。

 ソーサラに構い倒されても嫌な顔せず撫でられているジルヴァラを見つめ、俺はジルヴァラとの出会いを思い出していた。




 先日、やっとパーティー名が決まった俺達『トレフォイル』は、先輩であるヘルツさんから推薦を受けて、子供ばかり扱うという違法な人身売買組織壊滅作戦に参加した。

 その功績もあり、俺達はかなり早いランクアップが出来た。

 まぁ、ランクアップしたと言っても、あの『幻日』様と比べたら、まだまだ駆け出しみたいなものだがな。

 『幻日』様と言えば、俺達からすればほぼ伝説みたいな雲の上の存在な高位冒険者だったが、思いがけず先日一緒に依頼をこなすことになり、旅をすることになった。

 依頼内容は森の奥に現れた謎のモンスターの調査。場所は『聖獣の森』と呼ばれる危険な場所だったが、報酬や条件も良く、調査のみで良いという話だったので、俺達は早速調査に向かった。

 森と接している小さな村へ辿り着くと、そこには先客──『幻日』様がいらっしゃって、話しかけてみたら、目的は俺達と同じだったが、依頼ではないから報酬などは俺達に譲ってくれるといううますぎる話になった。

 その代わりというか、謎のモンスターの相手は自分にやらせろ、というのが『幻日』様の出された条件で、俺は悩んだが、ソーサラが一も二も無く頷いていた。

 後で聞いたら、『幻日』様の目が怖かったらしい。

 強気な彼女にしては珍しいことだ。

 それで、俺達は急遽『幻日』様と行動を共にすることになり、謎のモンスターがオーガであることを確認……からの、『幻日』様による瞬殺劇を目撃することになった。

 その際にオーガに追われて森から飛び出してきたのが、薄汚れた毛皮をまとった、小猿みたいな幼児だった。

 意外なことに『幻日』様は、その幼児を抱き上げて村まで連れ帰ることにしたらしい。

 巨大なオーガの死体はどうしようか悩んでいたら、村までは『幻日』様が収納魔法で運んでくれることになった。

 あまり大声では言えないが、実はアーチェはほんの少しエルフの血が流れていて、『幻日』様のように収納魔法も使えるのだ。あちらほど容量は大きくないが、このオーガなら解体して重要な部分だけにすれば何とか入れられそうだ、と本人も言ってるので、村へ帰ったら解体しようという事になった。

「僕の収納魔法では、時間停止は出来ないので、移動は急いだ方がいいですね」

 アーチェがそう言い出したので、俺が解体をして、アーチェとソーサラは念のためもう一度森を見て回ることになったが、オーガの消えた森は静かなものだったらしい。

 ちらりと大きな熊と真っ白な巨大狼を見たそうだが、どちらも全く敵意はなく、遠くからただ静かに見つめてきただけだそうだ。

 村長に話を聞いたところ、あれは聖獣の森の守り神的な存在らしい。

 こちらがなにかしなければ、絶対襲ってくることはない。村長はそう語っていた。

 そういえば、と思い出すのは、解体したオーガの死体にあった獣の爪跡だ。

 オーガの致命傷は明らかに『幻日』様による首の切断だが、爪跡も浅くはなかった。

 それほど古い傷跡ではなかったので、この爪跡の主と戦って敗走中だったのかと頭の片隅で想像してたが、その守り神的な熊か狼と戦ったのだろう。

 そんな推理を三人で話し、ふらりとやって来た『幻日』様を捕まえて話しかけていたら、そこに思わぬ闖入者が現れる。

 それは、艷やかな真っ黒い髪に好奇心に輝く銀の瞳を持つ五・六歳の幼子だ。

 色彩も目立つ無邪気な子猫のような幼児が、あの薄汚れた小猿みたいな子供だとはすぐには気付けなかった。

 人懐こい子供は『ジルヴァラ』だと名乗り、自身が捨て子だったと衝撃の告白をしてきた。

 その上、真剣な目で冒険者になりたいと語り、最終的に『幻日』様の一言で一緒に行くこととなった。

 ついてくる許可をしたというか『幻日』様は、ジルヴァラの事なんかどうでもいいと思ってるようにしか俺には見えなく、他の二人もそこは同意見だった。

 実際、一緒に旅している間も、俺達はジルヴァラを気にかけたが、『幻日』様はいつも微笑んでるだけで、認識しているかすら微妙だった。

 ジルヴァラ自身は『幻日』様のそんな態度を気にした様子は欠片もなく、逆に疎まれても気にせず『幻日』様のお世話をしていた。

 ポーッとしている相手に食事をさせたり、洗濯をしたり、意外と不注意なので色々フォローをしたり。

 主様! と『幻日』様を不思議なあだ名で呼び、全身で好意を示していた。

 もちろん俺達にも懐いてくれて、子供好きだが扱いに不慣れなアーチェにも気に入られ、ぎこちない仕草で頭を撫でられてるのを何度も見た。

 特に色んな意味で子供好きだったソーサラは、でろでろという擬音が付きそうな程溺愛し、奴隷買おうかしらとお金を貯め、犯罪にでも走るんじゃないかと心配していたのが嘘のようだ。

 もともとソーサラがそんな馬鹿げた事をしそうだったのは、子供好きなのに子供から怖がられるせいだったのだが、ジルヴァラは物怖じしない上、ソーサラの好みど真ん中。

 このまま、ジルヴァラはずっと俺達と来てくれると思っていたが、まさに別れ道となった場所でジルヴァラが選んだのは『幻日』様だった。

 全力で引き留めたが、結局ジルヴァラは『幻日』様と行ってしまった。

 生きているジルヴァラと会えるのは、これが最後ではないか。

 縁起でもないが、俺はそこまで考えてしまっていた。





 気分的にかなり暗くなってしまったが、目的地だったシュクへ無事辿り着いた俺達は、依頼達成の報告をし、さらにオーガの素材を売った金も入って懐が潤った事もあり、しばらくシュクでゆっくりすることにしたのだった。

 そして、そこで先輩であるヘルツさんパーティーと出会い、思いがけずずっと気にかかっていた子供の名前を聞くことになる。

いつもありがとうございますm(_ _)m


また少し乙女ゲーム要素が匂ってますが、ジルヴァラ気付きません(*´Д`)


ソーサラさんの立ち位置は、ジルヴァラがいなければ、最終的に倒される態度の悪い先輩冒険者(攻略対象者誘惑する)でした(`・ω・´)ゞ

今はマナーのあるショタ好きさんです←


好みは元気で素直な俺っ子です。見た目はわんこ系より子猫系が好みです。もろジルヴァラです。

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