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47話目

色々文句を言いたいけど、結局言葉に出来ず、無言で見つめる主様。

「いくら俺がのぼせたからって、家中冷やしたら、みんな風邪引くからな?」

 自室へ戻る道すがら、主様の手を引いて歩いている俺は、ふんす、と気合を入れて少し常識外れな主様の行動を注意する。

「はい」

 ぽやぽやと微笑んでる主様はわかってるのか微妙だが、素直に頷いてくれている。

 視界の端では、ドリドル先生とフシロ団長は苦笑いし、トルメンタ様は苦虫をダースで噛み潰したような何とも言えない顔をしてる。主様がぽやぽやしてるせいで反省してないように見えたんだろう。

 反省……で思い出したが、俺はフシロ団長に言わなければならないことがあったのを思い出して足を止め、主様の手を離す……ことは出来なかった、主様がしっかりと俺の手を握ってたから。

「そうだ、フシロ団長、この間言い忘れちゃったんだけど、せっかくもらった服駄目にしちゃってごめんなさい!」

 ぶんぶんと振ったが離れなかったため、俺は主様と手を繋いだまま勢いよくフシロ団長へと頭を下げて、ずっと気になってたことを謝罪する。

「そんなこと気にしてたのか。大丈夫だ。服のことなんか、誰も気にしてなかっただろ? ノーチェもナハトも、ジルヴァラが無事かどうかばかり気にしてたぞ? 部屋に花飾ってあっただろう? あれは庭師のヘルマンからだ」

「……そっか、ありがと。庭師さんにも、ありがとって伝えといてくれるか」

 嬉しくなってえへへと照れ笑いしながら、そういえばといつの間にか部屋に飾られていた可愛らしいピンクの花を思い出して、フシロ団長に庭師さんへの伝言を頼む。

 意識を取り戻してから、ずっと気にかかってたことがなくなり、体まで軽くなった気がしててぽてぽと数歩進んだ俺は、そこではたとフシロ団長の発言に引っかかって再び足を止める。

「…………ナハト様も?」

 ノーチェ様は心配してくれそうだが、ついでとばかりに出て来たあまりも思いがけない予想外な名前に、俺は瞬きも忘れてじっとフシロ団長を見上げる。

「そうだ。俺とノーチェの話を立ち聞きしたらしくてな。『あの生意気な平民のガキは死んだりしないよな? 勝手に死んだりしたら、父上捕まえてくれよ』だそうだ」

「つ……」

 ツンデレ? と言いそうになって俺はその言葉を飲み込む。そもそも、これはツンデレじゃないだろ。

 無茶言うよなぁ、と付け足しながら、俺にナハト様の言葉を伝えてニヤニヤと笑うフシロ団長は、何処か嬉しそうだ。

「そっか……。今度、フシロ団長のお屋敷、遊びに行ってもいいか? みんなに、直接お礼も言いたいし、ナハト様にも『死んでねぇよ』って伝えたいし」

 離される気配のない主様の手をブンブンと振り回しながら、俺もつられて頬を緩めてお願いすると、頷いたフシロ団長からぐりぐりと頭を撫でられる。

「もちろん構わんぞ。ノーチェもメイド達も、新しい服を用意して待ってるからな」

「え?」

「こいつが離れないなら、また正装は必要になるだろうからな」

 戸惑う俺に対し、フシロ団長はそう言って主様の方をちらりと見ると、不敵に笑って見せる。

 男臭い格好いいその笑い方に、俺は戸惑いもフシロ団長の微妙な言い間違いも気にならなくなり、おおーと感動して見上げていたら、俺が動かないことに焦れたらしい主様により捕獲されて部屋まで運ばれることになった。

「な、なに……?」

 自室のベッドまで運ばれ、フシロ団長達を見送った俺は、さてと寝直そうとしていたのだが、主様がベッドの側から離れない。なんだったら無言でガン見してきてる。

 で、思わず吃ってしまったのだが、主様はまだ無言だ。

「心配しなくても、おとなしく寝るぞ?」

 意識のない間にベッドへ増えていた謎のまんじゅう型のぬいぐるみを抱き締めながら、ほら、とベッドへ横になって布団を被ってみせるが、まだ主様は不安なのかガン見してきてる。

「……えぇと、おやすみ?」

 色々諦めた俺は無言の主様に挨拶をして、一抱えあるぬいぐるみをしっかり抱き締めて目を閉じる。

 見られすぎてて、さすがに眠れないかな、と思ったのは俺の杞憂だったらしい。

 すぐに眠気はやって来て、うつらうつらしていた俺の腕の中から、ふかふかのぬいぐるみが逃げ出した気がしたのは夢だったのか……。




「うん、夢じゃない」


 夢だけど夢じゃなかった。


 某国民的アニメ映画でそんな台詞があったなぁと脳内で呟いた俺は、いつの間にかふかふかもちもちなぬいぐるみと入れ替わっていた主様から腕を離す。

 寝る前は確かに腕の中にいたのはぬいぐるみだったのに、目を開けると主様だったのは謎……というか、たぶん主様が上手くぬいぐるみを抜いてそこへ入ったんだろうけど、本当にどうやったんだろ。

 意味なく手をワキワキさせながら、モゾモゾと主様の腕の中から抜け出した俺は、首を傾げて主様の寝顔を見下ろす。

 今日もばっちり完璧な美しい寝顔だ。

 しばらく主様の寝顔を堪能した俺は、俺の抜けた主様の腕の隙間に逆にぬいぐるみを押し込み、ベッドから降りて顔を洗うため洗面所へ向かう。

 まだ少し体は重いが、動けないほどではない。

 ここで無理をしてまた倒れたりしたら心配かけてしまうから、無理はしないで家事ぐらいにしておこう。

 家事ぐらいとはいうけど、家事は結構重労働だし。

 まぁ、うちで今の俺に出来る家事なんて、料理と少し掃除するぐらいだけど。

 顔を洗い終えた俺は、早速キッチンで踏み台を冷蔵庫の前まで持ってきて、朝食のメニューを考える。

 主様がいなくても料理出来るようにと、ドリドル先生が色々食材を補充してくれたので魔法で動いているというある意味ファンタジーな冷蔵庫の中身はかなりの充実ぶりだ。

 無意識に納豆とお茶しか入ってなかった前世の冷蔵庫と比べていて、それに気付いた俺は苦笑いして卵とチーズを取り出す。

 スープはフシロ団長のところの料理人さんが作ってくれた物がまだ残ってるから、それを温めておく。

「チーズオムレツ、リベンジしよ」

 前回はスクランブルエッグの親戚みたいな見た目だった上冷めちゃってたから、今度はもう少し美味しそうに作りたい。

 そう気合を入れ直した俺は、早速ボウルの中に卵を割り入れて、かき混ぜ始めた。

 そして出来上がったのがこちらです。


 脳内でそんなナレーションが流れる中、俺は皿に乗せられた細長く四角いフォルムの黄色の塊を前に頭を抱える。



「上手くできたけど……これじゃあ玉子焼きだよ……」

 おかしい。途中までオムレツを作ろうとしていたはずなのに、ふと気付いたら卵を薄く焼いてくるりと巻くのを繰り返していて……。

 あれ? とちょっと思いながらも、真ん中にチーズを入れた玉子焼きが出来ていた。

 確かに、前世ではオムレツ作るよりも、こういう玉子焼きかオムライスばっかりだったけど、まさかこんな風に手にクセがつくほどだとは思ってなかった。

「……半分に切って、食パンに挟むか」

 玉子サンドの亜種で、厚焼き玉子を挟んだサンドイッチが存在してるんだし、不味いってことはないだろう。

 そのまま流れで、思いついた玉子焼きサンドを作ってみたが、厚焼き玉子のサンドされた物より正直見すぼらしい。

「ま、これは俺が食べればいっか」

 出来上がったサンドイッチを皿に乗せて、俺はもう一つオムレツを作るために卵を割る。

「オムレツ、オムレツ……」

 さっきの二の舞にはならないよう、ブツブツと呟きながらシャカシャカと卵を掻き混ぜる。

「で、フライパンに流し入れて……」

 フライパンをじっと見つめてオムレツ作りに集中していた俺は、いつの間にか側に立っていた主様に気付いて目を見張る。

「お、おはよ、主様」

「……おはようございます」

 驚いて吃った俺を気にせず、ぽやぽやと挨拶を返してくる主様の視線は、俺ではなく皿の上に置かれている玉子焼きサンドを見つめている。

「主様の分、今焼いてるからちょっと待ってくれよな」

 スープは温まってるし、パンも各種買ってもらってあるので、オムレツを盛りつけて朝食で良いだろう。

 あ、早く背が伸びるように牛乳も。

 思いついた考えに、ミルクピッチャーに牛乳を注いでスープを盛った皿と共にお盆に乗せ、未だにサンドイッチを見ている主様へ持たせる。

「運んでもらえるか?」

「いつものところでいいですか?」

「うん、頼むな」

 お盆を運ぶ主様をちらとだけ見やり、その後はフライパンから目を離さず気合を入れた結果、なかなか綺麗なオムレツが出来上がり、俺は達成感に酔いしれながら崩さないようにそれを皿へ乗せる。

「主様には肉感足りないか……?」

 俺には十分な量だが意外と大食いな主様用にと、漫画でしか見たことなかった繋がってるぶっといソーセージを四本冷蔵庫から取り出して、オムレツを焼いていたフライパンでそのまま焼いていく。

「鳴いてる鳴いてる」

 名状し難い音を立ててフライパンの中で転がるソーセージに、俺がくくくと肩を震わせて笑っていると背後から不意に抱き上げられる。

 主様が戻ってきてたのには気付いていたが、まさか抱き上げられるとは思わず、俺は目を見張って俺を抱き上げている主様の顔を見上げてしまう。

「な、なに? なんかあったのか?」

「ロコが泣いてる、と……」

 俺を両手で抱き上げていて手が塞がっているせいか、そう呟いた主様は俺が何か答える前に顔を寄せてきて、唇でやたらと目尻辺りへ触れてくる。

「え? あー、鳴いてるのはこっち。俺じゃないって」

 俺の独り言を聞いて、俺が『泣いてる』と勘違いしての行動らしいけど、思いがけない勘違いにへらっと笑いながら、フライパンの方を指差してみせる。

「ちょうどいい感じだな。さ、朝飯にしようぜ? 心配させてごめんな?」

 唇で何度か触れてやっと納得したのか、主様は俺を片手で抱え直し、もう片方の手で俺が用意していた朝食の残りをお盆に乗せて歩き出す。

 ぽやぽや微笑みながら、主様があまりにも流れるように作業するので、止めることを思い出せたのは、ソファに降ろされた後だった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


オムレツしようとしたら、玉子焼きになったジルヴァラくん。


ナハト様、ツンデレる。

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