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46話目

トルメンタ様は、良くも悪くもおぼっちゃまです。


親子仲は良いですが、トルメンタ様は騎士団長になる気は薄そうです。


とりあえず、トルメンタ様、お口チャック←

「聞いたぞ? ジルヴァラを湯あたりさせたんだってな?」

 仕事帰り、ジルヴァラの様子を伺いにあいつの家へ寄ると、最近可愛くなくなった息子その一が暖炉前のソファで凹んでいた。

 ドリドルから理由を聞いた俺は、ニヤリと笑いながらさっきの台詞を口にしたのだが、返ってきたのは疲れ切ったようなため息だ。

「おいおい、そこまで凹むな。ただの湯あたりだろ?」

「……そこはもうそんなに気にしてない。いや、ジルヴァラが目を覚ましたら謝るつもりだけどさ、それより幻日サマの目が怖いんだよ」

 その言葉を聞いて、思わず納得してしまった俺は、あーと短く声を洩らす。

「大丈夫だ。ジルヴァラが目を覚ませば、すぐお前から興味が移るさ。起きてるジルヴァラは、目が離せないからな」

「確かに。悪戯な子猫って感じだもんな、ジルヴァラは」

 俺の軽口に答える声は内容はともかく未だ暗く、俺は訝しんでトルメンタの正面のソファへ座り、その顔を覗き込む。


「どうした?」


「いや、幻日サマがジルヴァラを気に入ってるとは、わかってたつもりだったんだけどさ甘かったなぁって……」


「あぁ、そういうことか。確かに、あいつを知ってるやつほど、聞いても信じられないだろうな」


「……あれってさぁ、ジルヴァラは気づいてないよな?」


「ない。伝えても、自分の方が好きだ、とか言われて終わるか、そっかなぁと照れて終わるだろうな」


「うわー、どっちもありそう。というか、下手に伝えてジルヴァラに警戒心とか抱かせたら、おれ殺されない?」


「殺されない……と否定は出来ないから、止めておけ。国のために、お前を切り捨てたくはない──父親として」


「ん。とりあえず、ジルヴァラが危なくなる事はない訳だし、余計な口出しはしないさ」




 そんな臨時家族会議のような会話を俺達がしている横で、ドリドルはのんびりとお茶を飲んでいる。

 こいつは色んな意味で本当に大物だ。

 俺ですら、口移しで薬を飲ませてるの初めて見た時は言葉を失ったが、ドリドルは普通に流していた。

 きちんと薬を飲ませていれば、飲ませ方などどうでもいいのだろう、ドリドルにとっては。

 そんなことを考えていた俺の耳に、会話相手をそのドリドルへ変えたトルメンタの声が聞こえてくる。

「そういえば、ジルヴァラは森で暮らしてて、エプレが毒だって知らなかったんだな」

「いえ、名前は知らなかったそうですが、きちんと動物達は危険な物だと教えてくれていたそうですよ」

「はぁ!? なら、なんで食べたんだよ、あんなヤバい物……」

 会話の流れがそれこそヤバい方へ流れていきそうで、俺はため息を吐いて声を荒らげたトルメンタを止めようとして……そこで本当に止まってしまった。



「ロコは、知っていて食べたんですか? あれが自分には毒になるものだと……」



 そこにあったのは、空になった水差しを持って、ふわふわと微笑んでいるようにしか見えない顔でこちらをみているあいつの姿で。

 口にされた言葉から、誤魔化すことも不可能だと悟った俺は、深々とため息を吐いて腹を決め、逃げようとしたトルメンタを座らせて、近づいてくるあいつと向き合った。

「何故、そんな愚かな真似を……」


 吐き捨てるようなその一言で、気のせいではなく物理的に部屋の温度が下がり、暖炉の火が凍りつく。

 かろうじて私達が凍らないのは、この屋敷の中にジルヴァラがいるからだろうと、遠のきそうな意識の中で私は他人事のように考える。

 それでも、この大きな駄々っ子に言わなければと、喋ろうとしたフシロ団長を制してニコリと笑って見せ、何回も繰り返した台詞を口にする。

「何度も言いますが、それは、ジルヴァラがあなたを好きだからです。間違いだとしても、あなたに毒であるエプレを食べさせないよう必死に考えた結果、ああやって口に含み、こっそり吐き出そうとしたらしいです。失敗してしまったようですが」

 ついでに、ジルヴァラの子供らしい浅はかな、それでいて一途で真っ直ぐな可愛らしい作戦を伝えると、少しだけ冷気が弱まった気がする。

 寒さでガタガタしながら私の言葉を聞いて「ええー」という呆れ顔をしているあたり、トルメンタはさすがフシロ団長の息子といえる肝の据わり具合だ。

 フシロ団長は説得を私に任せてくれる気なのか、私の視線に気付いても大きく頷くのみだ。

「私は、エプレの毒では死にません。ですがロコは……」

「簡単に死にますね。でも、ジルヴァラはあなたが苦しむ方が嫌だったんです」

 私が気合を入れてぴしりと言い切ると、あの方の奇妙な色をした瞳は、迷うように揺れる。

「幻日サマには効かないって知ってたらやらなかったんじゃ」とか、無粋な言葉が聞こえたような気もするが、すぐグフとかくぐもった音がして聞こえなくなったので気のせいだろう。

 物理的に凍りついた空気が少し溶けかけた頃、パタパタという軽い足音が近づいて来て全員が大なり小なりハッとした表情になる。



「え? なにここ、すげぇ寒くないか? うわ、暖炉の炎凍ってるし……」



 室内の状況を知る由もなく、部屋を見渡して驚いた声を上げた小さな人影は──、



「フシロ団長、来てたのか」



と、物理的にもとんでもない感じになっている部屋の空気に気付いているだろうに、呑気な笑顔でフシロ団長に駆け寄ろうとして、あの方に簡単に捕獲された。



「へ?」



 きょとんとして腕の主を見上げた人影──ジルヴァラは、間の抜けた声を洩らして首を傾げている。


「ジルヴァラって、危機感どこ置いてきたんだ?」


 先ほどまでの凍りついた雰囲気が霧散し、トルメンタからそんな呑気な呟きが聞こえてくる中、あの方は指でゆっくりとジルヴァラの首周りを輪でも描くようになぞっている。

 その表情はまるで猫の子の顎の下でもくすぐって愛でているようで、見てはいけないものを見てしまった気分になって、私は視線を外す。

 そこで同じように視線を外したらしいフシロ団長と目が合い、苦笑いして肩を竦められてた。

 気付くと、凍りついていた暖炉の火はゆらゆらと動き出し、室内の温度も平常に戻ったようだ。

 私がひっそりとため息を吐く傍ら、トルメンタは盛大に安堵のため息を吐いて、フシロ団長から小突かれている。



 そんなある意味豪胆なトルメンタよりさらに豪胆と言えるのは、



「なんか暖かくなってきたけど、主様冷やし過ぎてたのか? あ、もしかして、俺がのぼせたから、冷やしてくれようとしたのか? ありがとな」



と、ふにゃっと笑い崩れて、この状況とあの方を受け入れてしまっているジルヴァラだろう。

いつもありがとうございますm(_ _)m


フラグ壊しというかヤンデレ回避というかシリアス逃亡というか、まぁ、ジルヴァラはメンタルは普通ですが、回復力パネェ感じの子です。


主様は、まだ首輪を諦めていないようです。

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