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44話目

ジルヴァラの距離感はバグってます。


主様は……たぶんわかっててやってます←

「よし、ジルヴァラ。風呂に入るぞ」

 呼び鈴も鳴らさなかった上、ノックもなしに俺の部屋に入ってきて笑顔でそう宣言したのは、フシロ団長んちの長男なトルメンタ様だ。かなりの傍若無人ぶりだが邪気のない人懐こい笑顔に、毒気を抜かれてしまく。

「男性の使用人の方をお願いしてたんですが」

 呆れを滲ませたドリドル先生の言葉を気にすることなく、トルメンタ様はニカッという擬音が似合う明るい笑顔を浮かべて答える。

「別にジルヴァラを風呂に入れるぐらい、おれでも出来るさ」

「そういう意味ではなくて、ですね」

 あっはは、と豪快に声を上げて笑う姿は、やはり親子だけあってフシロ団長によく似てて、俺は無言でもぐもぐとしながら感心する。

 ドリドル先生は完全に困り顔してるけど、俺はお風呂に入れてもらえるなら付き添いが誰でも構わないけど。

「おれが入れるんじゃ、何か問題でもあるのか?」

「……ありませんが」

「ならいいだろ?」

 結局、押し問答はトルメンタ様が勝ったようだ。

「ジルヴァラ、風呂行こうぜ」

 楽しそうなトルメンタ様は、早速そう誘ってくれたが、さっきから俺の状況が見えてないんだろうか。

「今、ご飯食べてるから、ちょっと待って」

「お風呂は少し休んでからですよ?」

 俺、ドリドル先生と続いた台詞に、そこではじめてトルメンタ様は俺が食事中だと気付いたらしい。驚いたようにゆっくりと瞬きを繰り返して、了解したと大きく頷いてくれたが、実はもう一つ問題がある。

「も……っ」

「あなたも。延々と食べさせようとしないように」

 ドリドル先生が止めてくれて、やっとわんこスープ状態から解放されそうだ。

 さっきから喋ろうとして口を開ける度に、主様がぽやぽやしながら無言でスプーンを突っ込んで来るので、ずっと無言で咀嚼していたのだ。

 隙をついて何とか一言喋ったはいいが、その後に大きな肉の塊を突っ込まれてしまい、まだモゴモゴと咀嚼する羽目になっている。

 今日の夕飯のスープは野菜とお肉がゴロゴロしたトマトベースの具沢山スープなので、しっかりと咀嚼が必要だ。

 朝は蜂蜜入りのホットミルク、昼はりんごを擦ったやつ。で、だいぶ食欲戻ったようだからと、夕飯はしっかりめのスープになった。

 今日のスープも、フシロ団長のところの料理人さんが作ってくれた物で、味も美味しくて感謝しかないが、まさか息子であるトルメンタ様まで俺の世話に来てくれるとはビックリだ。

「ロコ」

「ん?」

 そんな事を考えながら、楽しそうにしてるトルメンタ様を眺めていると、不意に主様から呼ばれて視線をそちらへ向ける。

「ついてます」

 グッと主様が顔を寄せてきて、え? と思う間もなく、濡れた感触が口の端に触れて離れていく。何か食べカス付いてたのを取ってくれたんだなとへらっと笑った俺は離れていく顔を見つめ、

「ありがと、主様」

と返したのだが、視界の端でトルメンタ様が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていて首を傾げながら視線をトルメンタ様へ戻す。

「なに、トルメンタ様?」

「……いや、その、あー、なんでもない」

 トルメンタ様は、何故か主様の方をチラチラ窺いながら言葉を濁しまくり、明らかになんでもなくない「なんでもない」を口にして引きつった笑顔で首を横に振った。

「そうか? 言いたいことあるなら言ってくれよ? あ、やっぱり俺とお風呂は嫌になったか?」

「それはないから心配するな」

 冗談めかせてそう言うと、思ったより食い気味な否定が返ってきて、あまりの勢いに今度は俺の方が「お、おお……」と若干吃り、食器を片付けてくれていたドリドル先生からクスクスと笑われる。

 ふん、とやけに気合の入ったトルメンタ様の様子に、俺はへらっと笑ってドリドル先生と目線を交わし、無言で小さく肩を竦めておいた。

「主様、トルメンタ様にタオル貸してあげるからなー」

 全裸の俺は脱衣所の扉から顔だけ出して、何処かにいるであろう主様へ声をかけてから、俺はパタパタと浴室で待つトルメンタ様の元へと戻る。

 主様は耳がいいらしいので、聞こえただろう、たぶん。聞こえてなかったとしても、タオル貸したぐらいで怒るような狭量じゃないからな、主様は。

「悪いな、着替え持ってきたがタオル忘れるとは……」

 浴室の中で待っていたトルメンタ様は、先にシャワーを浴びてたため髪が濡れてペタンとしていて、その表情と相まって謝罪す姿はシャンプーされる前の大型犬のようだ。

 もちろんトルメンタ様も全裸なんで、見た目はムキムキな大型犬だ。見事に割れてる腹筋は、服を脱いでる最中、遠慮なくぺちぺちさせてもらった。

 広めな浴室のおかげでトルメンタ様がいても狭さは感じず、俺はシャンプーを手に取り、まずは髪を洗おうと思ったのだが……。

「ジルヴァラ、ほらじっとしてろ」

 抵抗する間もなく、ひょいとトルメンタ様から捕獲されて、風呂椅子の上に座らされる。

「え?」

「目閉じてろよー」

 逃げると思われたのか、トルメンタ様に後ろからピッタリと抱え込まれ、抗議する間もなく頭からシャワーをかけられる俺。

「シャンプーかけるぞ? 泡入るから口も閉じてろよー」

 他人を洗うのに意外と慣れてるのか、作業を進めるトルメンタ様の手には迷いはなく、俺はおとなしく指示に従って口を閉じる。

 というか、俺は怪我してる訳じゃないから自分でシャンプーも体洗うのも出来るけど、という当たり前の突っ込みは、楽しそうなトルメンタ様の様子にし損ねてしまったため、結局されるがまま体まで洗ってもらうことになった。




「いい湯だな、ふんふーん」

 トルメンタ様に背後から抱えられて一緒に浴槽へ入るという、かなり羞恥心を掻き立てられる体勢だが安定感は半端なく、思わず上機嫌に鼻歌を歌ってるとくくくと笑われ、背もたれにしてる体が揺れてお湯が波打つ。

「ジルヴァラは風呂好きなんだな。うちの弟は大違いだ」

「弟……ナハト様か? 一緒にお風呂入ってるんだ? 仲良しだなー」

 あのナハト様をトルメンタ様が抱えてお風呂に入ってる光景を想像してくすくす笑っていると、トルメンタ様からは何処か寂しげな呟きが返ってくる。

「どっちもだ。ま、ほんの小さい頃だけどな」

「ナハト様はまだ小さくないか?」

 視界の端で、トルメンタ様が手の平を下へ向けて左右に揺らし、これぐらいだ、と高さを示すので、思わず突っ込んだら、また笑われて体が揺れる。

「ナハトより小さいジルヴァラが言うと、違和感があるなぁ」

「小さい言うな! これから育つ予定なんだから」

 トルメンタ様の笑みを含んだ言葉に、ムッとして頬を膨らませてると、フッと柔らかく笑った気配と共に、頭にトルメンタ様の顎らしきものの感触と重みを感じる。

「ニクスもナハトも、誘っても一緒に入ってくれなくなったよ……。ナハトはあんな感じだし、ニクスは……」

「ニクス様はもう結構大きいから仕方ないだろ。ナハト様は……照れてるとか? きっと嬉しいと思うけどな、誘われれば。ニクス様に関しては会ったこともないからわからないけど」

 個人的見解だが、トルメンタ様みたいな兄貴がいたとして、俺ならお風呂誘われれば嬉しい。まぁ、これは俺の前世である日本人の『裸の付き合い』気質なせいもあるのかもしれないが。

「そう、かな?」

「ニクス様はわからないけどナハト様は、トルメンタ様もフシロ団長も忙しくて寂しかったのかもよ? 多少嫌がられても、フシロ団長と一緒になって構い倒してみろよ。せっかく家族一緒にいるんだからさ」

 なんで俺にはグイグイ構ってくるくせに、実の弟達には微妙な遠慮をしてるのか謎だが、トルメンタ様の方も照れ臭さもあるのかもしれない。

 フシロ団長の方は、逆にやりすぎてウザがられてるとか? スキンシップ激しめだもんな。

 そんな人生相談じみた話をしたせいか、俺は思いの外長風呂になっている事に気付かず、何だか思考がふわふわしてくる。

「別に風呂にこだわらなくてもいいけどさぁ、風呂はなんか、こう、きょりが、ちぢまるから……」

 ふにゃふにゃ笑って、力の入らない体を支えようと体を反転させて、遠慮なくトルメンタ様の首へ腕を回そうとしたのだが、お互い濡れているせいかぬるりと滑って背中からお湯の中へ落ちる。

「おい! ジルヴァラ!?」

 トルメンタ様の慌てきった声を最後に、俺と意識はゆっくりと沈み込んでいった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


幼児に熱いお風呂はよくないですが、ジルヴァラ自身が熱めのお風呂好きなのです(*ノω・*)テヘ


いつもは限界前に出ますが、今日はトルメンタ様と話し込んでしまいました(*´∀`)

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