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42話目

過去は振り返らない男ジルヴァラ←


少しだけ森の家族の面子判明。猿以外にもいたようです。そもそも猿扱いしたのは主様か……。

 意識がふわふわする。


 今度は見慣れた森の中だ。


 夢だとわかる夢。明晰夢って言うんだったけ。


 降り注ぐ陽射しの中で、今よりさらに小さな俺は、フシロ団長より大きな本家熊なもふもふ家族に抱えられていた。

 同じ時期に子供だったもふもふ達があっという間に大きくしっかりとしていく中、いつまでもふにゃふにゃな俺はいつも仲間達が心配そうに見つめてくれていたのを覚えている。

 毛も頭以外に生えてこないから、腕とかあちこちペロペロ舐められたりもした。

 で、一人でしっかり歩けるまでは一番安全であろう大きな熊に抱えられ過ごすのが日常だった。

 その時の夢を見てるのだろう。

『がう』

『がうがう?』

 熊が話しかけてきて、俺も答える。

 優しい眼差しも含めて、やっぱりフシロ団長に似ている。

 顎髭ジョリジョリどころか、全身でジョリジョリだ。

 まぁ、熊の毛は全くジョリジョリはしてなかったんだけどね。

 俺が小さくなったせいか、そもそも本物の熊なんて前世で見たこともなかったせいか、今思えばかなり大きな熊だった。

 あとは、いつもいた訳ではないけど、真っ白くて熊にも負けてないサイズの大きな犬もいた。

 白い犬はあまり触らせてはくれなかったけど、俺が寂しくなったり悲しくなってたりすると、大きなふっさふっさの尻尾で俺の全身を撫でて、よく地面に転がして遊んでくれた。

 あの二頭がいてくれたなら、あの日、あのオーガだって撃退してくれたかもしれない。

 でも、過去は変わらない。

 あの日、あの二頭はどちらもあそこにいなかった。

 運が悪かったと言えばそうなのだろう。

 森の中……というか、この世は弱肉強食なんだから。


 仲間の仇をとろうだなんて殊勝なことは思ってない。けど、いつか俺だけの力でオーガを倒せたら、森へ報告に行こう。



 俺はここまで元気に大きくなりましたって。



 優しい夢の中、もふもふな熊の毛皮に顔を埋めてくふくふと笑いながら、一人そんなことを思う。

 起きた時、少しでもこの温もりを覚えていたいな、と思いながら、俺の意識は優しい夢から離れていった。

 半覚醒状態のぼんやりした俺の顔に、さらさらと何かが当たる。

「もふ、もふ……」

 寝惚けながらそのさらさらな何かをはしっと掴む。

「なんか、ちがう……?」

 掴んだそれは、やたらと艶々してひんやりとした触り心地で、あまり覚えのない触り心地に俺はぼんやりとした視線を自らの手へと視線を向ける。

 ぼやけた視界に映るの俺の手が掴んでいるのは、夕陽みたい色の何かで。

 この色には見覚えがある。というか、大好きな色だ。

「ぬしさま……?」

「はい」

 呼びかけると即応えがあり、俺はハッとして無意識ににぎにぎしていた物から慌てて手を離す。

「ご、ごめん!」

 掴んでいた手を離すと、しっかりと握ってしまっていた物はさらさらと俺の手から逃げていく。

 それはやはりというか、思った通り主様の綺麗な夕陽色の髪だった。

 背中の中ほどまである長さのそれは、結ばれていないので俺の顔へと垂れてきていたらしい。

 そこを寝惚けてた俺が握ってしまったんだろう。

「……なんで?」

 そこまで考えて、寝ている俺の顔に髪がかかる状況というのが意味不明で首を捻るが、ぽやぽやしてる主様はいつも通りぽやぽやしてる。

「ロコが息をしてるかしっかり見てました」

「まさかのせいぞんかくにん……」

 脱力してると、部屋の扉がノックされて、湯気の立つ皿の乗ったワゴンを押して見覚えのある凛々しい美人なメイドさんが現れる。

「フュアさん?」

「はい。覚えていただけてるなんて光栄です」

 ニコリと笑う顔も凛々しいフュアさんは、ベッドの脇までワゴンを押してきて、俺が食べやすいようにとクッションを背中にあてがって楽に上体を起こしておけるようにしてくれる。

「ありがと、フュアさん」

「いえ。お食事をお持ちしましたが、召し上がれそうですか?」

「おう」

 自分で食べられる意味も含めての返事だったのだが、フュアさんはスープの乗ったトレイを渡してくれることはなく、無言で微笑まれてスープを掬ったスプーンが口元へ近づいてくる。

「はい、あーんです」

「おれ、じぶんでたべられ……あ、りがと……」

 フュアさんの目力に負けてしまった俺がおずおずと開けた口に、スープを掬ったスプーンが差し込まれる。

「どうでしょう? 舌に合わない、熱すぎる、または喉が痛んで飲みにくいなどありますか?」

 凛々しい見た目通りなハキハキと通る声で質問してきながら、フュアさんが俺の顔を覗き込んでくる。

「ん、だいじょぶ。おいしいよ。おんども、ちょうどいい」

 少しとろみのあるスープは、色味的にもかぼちゃのポタージュだろう。お世辞でなく美味しい。

 へらっと頬を緩めて笑いかけると、フュアさんは何だかダメージを受けたような顔をして、ふいっと顔を背けられてしまった。

 そこまで酷い顔ではないと思ってるから、地味にショックだ。……なんてな。ヒロインちゃんとは比べられたら負けるだろうが、俺だってそこそこ可愛い子供だと思うから、フュアさんが可愛もの好きか、俺の笑顔がとんでもなくウケる顔なんだろう。なんでだろう。何だか、とても後者の気がしてきた。

「あーん」

 痛々しい自分の思考を見ないようにして、俺は誤魔化すように口を開けてフュアさんに次の一口をおねだりする。

「あ、はい。すみません……」

 俺の渾身のおねだりに、すぐキリッとした顔に戻ったフュアさんは、早速スープを掬って俺の口へと運んでくれる。

 当たり前だが、先ほど変わらず美味しい。

「んー、おいし」

 そのまま美人のあーんで美味しさを増したスープを堪能してると、横の方から刺すような視線を感じて視線をそちらへ向けると、主様がぽやぽやしつつガン見してきていた。

「ぬしさまも、たべたいのか?」

 あーんの合間に首を傾げて問いかけると、主様は「はい」と微笑んで頷くと、フュアさんをじっと見つめている。

「……かしこまりました」

 訳がわからないまま、俺が見つめ合う主様とフュアさんを交互に見やってるうちに、フュアさんには何か通じたらしく、スープの入った皿の乗ったトレイとスプーンが主様の手に渡る。

「おれのたべかけたべるのか?」

 ぼんやりと見つめてると、楽しそうにぽやぽやしている主様が「あーん?」と首を傾げてお決まりの台詞を口にする。

「……あーん」

 なんでだろう。

 凛々しい美人さんなフュアさんにあーんされるより、なんか気恥ずかしい。

 俺は目を伏せて主様の視線から逃れて、差し出されたスプーンへかぷりと食いつく。

「美味しいですか?」

「おぅ」

 力なく答える俺に対し、主様は餌付けが楽しくなったのか、ぽやぽやを飛ばしながら次から次へとスプーンを差し出してくる。止める間もなく、ただひたすらに。

「ちょ、ま……っ」

「幻日様。いきなり食べすぎるのはいけません。今日はこれぐらい」

 止めるタイミングがわからず、俺があわあわしてると、察してくれたフュアさんの手により、やっとわんこそばならぬわんこスープと化していた主様のスプーンが止まる。

「ロコ?」

「いきなり、そんなにたべられないよ。……ありがと、ぬしさま、フュアさん」

 もういらないの? と俺の名前を呼んで表情で問いかけてくる主様に、へらっと笑って返してお腹を擦って見せて、食べさせてくれた二人へお礼を言う。

 実際、もう結構お腹いっぱいな感じだ。

「あとはお薬ですね」

 そう言ってフュアさんがワゴンに乗せていた、コップに入った水と薬包紙に包まれた粉薬を手に取り、俺へと渡そうとしてくる。

 正直受け取りたくないが、飲まないとドリドル先生が怖い……じゃなかった、体調良くならないよな、と嫌々ながらコップと薬を受け取ろうした時だった。

 何故か主様の手がフュアさんの手からコップを取り、そのままの流れで水を口に含もうとする。

「幻日様、ジルヴァラ様はもうご自分でお飲みになれますので」

 それをニコリと笑って止めたのはフュアさんで、俺は意味がわからない主様の謎行動と二人のやり取りに首を捻りながらも、主様からコップを返してもらい、苦い粉薬を何とか飲み下す。

「頑張りましたね」

 口内の苦味に俺が顔をしかめていると、フュアさんが指で摘んだ丸い飴玉を俺の口内へ入れてくれる。

「ふへへ、あまい……ありがと、フュアさん」

 俺が頬を押さえて飴玉を口内で転がしている横で、主様は飴玉を入ってた瓶ごとフュアさんから受け取っている。

 主様って意外と甘い物好きなんだなーと思いながら、俺は口内から薬の苦味を消すため、飴玉を舐めることに一人没頭していた。

いいね、評価、ブクマ、ありがとうございますm(_ _)m


ジワジワ増えるのを見てニマニマしてます(*´Д`)


そして、主様が眠るジルヴァラに薬を飲ませた方法は、定番なアレです。人前でも気にせずやってたので、ナチュラルにやろうとして止められてます。

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