表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/399

41話目

まだ喋り方が戻らないジルヴァラです。


一応、ジルヴァラだって考えてるんです←

 驚いて咳き込み過ぎた俺は、飲ませてもらっていた水を全て吐き出してしまい、結果、俺を抱えていた主様の服とベッドを汚してしまった。

「ごめん、よごしちゃって……」

 しゅんとして謝る俺の頭を撫でてくれてるのは、主様の手ではなくドリドル先生の優しい手だ。

 主様は着替えるついでにお風呂へ行き、ベッドの方は屋敷の管理をしてくれている人が片付けてくれるそうだ。

 屋敷の管理してくれている人に、俺は未だに会えてない。

 それはどこかに置いといて、主様のベッドはしばらく使えなくなってしまったので、俺はドリドル先生に運ばれて自分の部屋のベッドへ腰かけていた。

「私は気にしませんし、もちろんあの方もそんな些細なことは気にしませんよ」

「せっかくもらったふくも、だめになったよな……」

 皆似合ってると誉めてくれたあの服は、たぶん俺の吐いた血とか諸々でもう使い物にならないだろう。思いの外、そのことがズンッと心を重くする。

「服ならいくらでも買い替えられますが、あなたの命は一つしかないんですよ? いくら美味しそうだからといって、知らない相手からもらった物をほいほい食べてはいけません」

「そう、だよな。ごめんなさい、ドリドルせんせ」

 柔らかい口調ながらも、ドリドル先生の声には怒気が滲んでいて、俺はさらにしゅんとしてしまい、頭を下げて謝罪する。

 さすがに不謹慎だったかと反省してると、ドリドル先生の手がポンポンと俺のお腹辺りを軽く叩く。

「いきなりはお腹が驚くでしょうから、夜は薄いスープから試してみて、大丈夫そうなら少しずつ普通のご飯にしましょう」

「ん」

 もちろん逆らうような事ではないし、へらっと笑って素直にコクリと頷く。

 ドリドル先生はそんな俺の顔をじっと見つめ、何かを堪えるように体の脇で拳を握っていたが、


「……本当に、間に合って良かった。グラナーダ殿下がいらっしゃなければ、あなたを助けられたかわからなかったんですよ?」


と、血を吐くような苦しげな言葉と共に、ギュッと俺を抱き締めてくれる。

「やっぱりあれ……」

 ドリドル先生からの本気の抱擁に、俺は思わず口から転がり落ちそうになった呟きを飲み込み、やっと少し力が入るようになった腕でドリドル先生に抱きつく。

「ありがとう、ドリドルせんせい」

「当然のことをしたまでです。



…………で、ジルヴァラ。やっぱりあれ、の続きはなんでしょうか?」

「え、えっとねー……」

 とっさにヤバいと思った俺は、子供だからわかんない的な顔をして全力で誤魔化そうとしてみたが、ドリドル先生には効かず、ニッコリと笑って無言で見つめてくる圧に負けてしまった。




「まさか、エプレを毒だとわかっていて食べていたとは……。そうですよね、森育ちですから、知ってますよね」

 暗い顔をして一人で自己完結して頷いているドリドル先生に、教えてくれた相手はもふもふ達だとも言えず、俺はバツの悪さから視線を外してシーツをギュッと握り締める。

 さっきまでとは違う渋面になってしまったドリドル先生は、ベッドの端に腰かけて無意識なのかブツブツ言いながら俺を抱き寄せ、俺の頭を撫で回している。

「なんて馬鹿な事を……」

「あのときは、あれがいちばん、いいとおもったから……」

 今思えば、俺の行動は浅はかで本当に馬鹿すぎたと思う。

 別に自分で食べなくたって、方法はあっただろうし、もっと主様を頼れば良かったのだ。

 俺が「この実、毒あるのに似てる!」とか言えば、主様ならきっと信じてくれたし、万が一信じてくれなかったとしても食べないでいてくれただろう。

 子供を免罪符にして撃退するなら、悪戯っ子なムーブでぶん投げるとかもありだったかもしれない。それだったら被害は無さそうだし。食べ物は無駄に……いや、そもそもあれは毒だから誰も食べられないから食べ物とは言わないか。

 俺にはちょっと子供らしさ(?)が足りてなかったようだと反省する。次回に活かしていきたいところだ。

 ドリドル先生に撫で回されながら、そんな風にうむうむと考え込んでいると、いつの間にかベッドに寝かされていて、シパシパと瞬きを繰り返す。

「……あなたはもう少し大人に頼りなさい。一眠りして夕飯にしましょう。フシロ団長のお屋敷の料理人にスープを作ってもらうことになってますから。あなたはすっかり向こうの使用人にも気に入られたようですね。フシロ団長があなたの具合を伝えたら、使用人達の方から提案があったそうですよ」

「しようにんさんたちから、ていあん?」

 ドリドル先生の手によって布団に埋められながら、その優しい笑顔を見上げて問いかける。

 どうでもいいことだが、ずっと口調がつたないのは別にここで今さら子供ぶってみた訳ではなく、喉がガラガラ過ぎて上手く発声出来ないのだ。

「ええ。交代交代でここへ来てくださり、あなたの身の回りの世話を手伝ってくださってたんですよ。……あの方は、少々生活能力に欠けてますので」

「あー……」

 主様をフォローしようと口を開けたが、結局フォローの言葉は思いつかず、俺はへらっと笑ってドリドル先生から目線を外す。

 目線を外してはじめて部屋の扉が薄く開いていて、そこからフシロ団長が覗いていることに気付く。

「フシロだんちょー?」

 掠れた声で呼びかけると、ゆっくりと扉が開かれて、フシロ団長が部屋へと入ってくる。

 やたらとゆったりした歩き方のせいもあり、その姿はいつもよりさらに熊っぽい。

「フシロだんちょ、しようにんさんたち、ありがと……っお?」

 ベッドの側で足を止めたフシロ団長は、無言で俺へと覆い被さるように上体を倒してきて、そのまま布団ごとギュッと抱き締められる。

「このねぼすけめ……」

 少し掠れた声で囁かれ、不覚にもちょっと泣きそうになったが、抱き締めてくる力が一向に緩まないことに気付く。何だったら、徐々に力がこもってきてる気がする。

「ちょ、と、くるし……」

「……心配かけやがって」

 耳元で囁かれた声は少し震えていて、俺は自分の馬鹿な行動を……悔やみはしない。きっと、また同じようなことが起きて、主様を助けられるなら、俺はまたしてしまうだろう。

 ただもっと上手くやれたと反省はしてるんで、もっと周囲へ心配かけないようにスマートにやりたい。

「お前、またやる気だな?」

 内心で呟いてたのに、何故かバッチリフシロ団長にはバレたらしく、据わった眼差しで睨みつけられ、お仕置きだ、と顎髭で頬をジョリジョリされた。

「もー、やめろよー」

 身を捩りたいが布団ごと抱き締められてるので、逃げ場がない。こんなことしてるから、ナハト様にウザがられてナハト様反抗期になったんじゃないよな?

 そんな思いから、脳裏に浮かんだナハト様が言いそうな言葉を思わず口に出してしまう。

「ぱぱ、うざい……」

 とか言われないか、と続けようとした俺の言葉は、思った以上に衝撃を受けているらしいフシロ団長の姿を見て、口内に消える。

「……パパ呼びもいいな。うちのガキ達は、皆堅苦しく父様とか親父呼びだからなぁ」

 俺をむぎゅむぎゅと抱き締めながら、フシロ団長はブツブツとなんか呟いている。

 思った以上に衝撃を与えてしまったようで申し訳なくなり、慰めるようにスリスリと額を擦り寄せる。

 これは俺が落ち込んでたりすると、もふもふ達がよくやってくれた。

 だいぶ前世思い出してきたのに、懐かしく思い出せるのが森での生活なのはなんでだろうな。

「本当に、もう、あんなことは止めてくれ。俺もドリドルも……あいつも、心臓が止まるかと思ったぞ」

「ごめんなさい、フシロだんちょー…」



 もうしないと断言出来してあげられなくて。



 猫の子にするようにぐりぐりと頭を撫でられてけらけらと笑ってると、患者の為なら誰にも遠慮することがないドリドル先生によりフシロ団長が引き剥がされる。

「あまり無理はさせないように。少し休みなさい、ジルヴァラ」

 五日間も寝てたから眠くないなんてことはなく、薬の匂いがするドリドル先生の手が瞼の上へ置かれ促されるままに目を閉じると、途端に引き込まれるように眠気が訪れる。

「あい……」

 次見る夢は、あの懐かしい森の中がいいな。

 そんな事を思いながら、俺の意識はゆっくりとあたたかく優しい闇へ染まっていった。

いつも反応ありがとうございますm(_ _)m


心の栄養ドリンクです(ㆁωㆁ*)


それはさておき、ドリドル先生とフシロ団長には、お馬鹿な行動がバレましたが、主様は気付いてません。

主様は、『自分のためにジルヴァラが命賭けた』なんて、思いもしません。気付いたら……どうなるんでしょうねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ