40話目
気付いたら40話目です。ここまで、お付き合いいただき、ありがとうございますm(_ _)m
まだ書きたいシーンがいくつかあるので、もう少し続きます(^^)
そして、やっと乙女ゲームでの主様の立ち位置が少し判明。
ジルヴァラの死因も判明です(`・ω・´)ゞ
ふわふわゆらゆら。まとまらない意識は生温いお湯の中を漂っている。
俺が俺を取り戻してまず思ったのは、そんな感じだった。
手足を動かしたつもりだが、自由にはならない。
まるで夢の中みたいだ、とぼんやりと思ったところで、ここは夢の中なんだろうと理解する。
『ふーっ! やっと、手に入ったぜ! 上手いこと考えたよなー、DLCで攻略対象者追加なんて……』
口から勝手に言葉が出てくる。
少し思い出してきた。これは、俺が死ぬ少し前の記憶だ。
自宅へと帰る道すがら。歩道橋を上っていく。
『これって結構高いから、給料日まで待たなきゃいけなかったし……。見ないようにしてたけどネットでは大騒ぎしてたみたいだな』
手にしてるのは、DLCを買うために必要なカードだ。キャラと金額の書かれたそれは数種類ある中で一番高い物で、安めな給料でカツカツ生活な俺では、給料日を待たないと手を出すには躊躇いがあったのだ。
『でも、これで噂の攻略対象者に会えるなー』
立ち絵で見た姿は、今歩道橋の上から見てるこの夕陽みたいな綺麗な髪で……。
うへへ、と自分でも正直気持ち悪い笑い方をしていると、手が滑って持っていたカードを取り落としそうになる。
『おっと……』
はしっと手を伸ばしてしっかりとカードを握り締めて安堵したのは一瞬で。
『へ?』
思い切り手を伸ばした俺の体は歩道橋の微妙な高さの柵を越えてしまい、重力という逆らえる訳のない力に引かれて、落ちる。
響くクラクション、一瞬の衝撃。
せめてもの幸いなのか、俺の意識はほとんど痛みを感じる間もなく真っ黒に染まって『俺』は──。
「しんだのか……」
思いがけず出た声は現実のものとなり、真っ暗な視界の中、掠れきった声が鼓膜を揺らす。
通りで主様に関する乙女ゲームの記憶がなかったんだな、と夢を反芻した俺は、何となく安堵する。
主様に関しては、本当にただの一目惚れだったらしい。
前世でも今世でも。
ここでやっと目を開けようとするが、目やにが酷いのか少し抵抗があって開きにくい。
やっと瞼を開けて見えた世界は、生理的な涙で歪んでいたが、自分が寝かされているのが主様の寝室だとわかって、意識を失う前の記憶を辿る。
「おれはジルヴァラで……ぬしさまがすき……」
記憶を辿る前に、念のため声に出して、今の現実の確認をしておく。たまにある展開だと前世に引っ張られて、とかあるし。
掠れきった声で確認のため呟いてはみたけど、俺に関してそんな心配はゼロだったようだ。
全く動じたり、懐かしくなったり、寂しくなったりはない。
あのオムライス作りの記憶の辺りが、俺のそういうしんみりのピークだったようだ。
何だか少し虚しくなりながらも、俺は体を起こそうとしたのだが、鉛でも飲み込んだように体が重い。
「あれ?」
先ほどから思っていたが、やたらと声も出しにくい。まるでしばらく喋ってなかったかのようだ。
起き上がるのを諦めてベッドに寝転んだまま天井を見つめて、改めて最後の記憶を辿る。
「たべて、にげて、つかまって、けられて……」
順番に呟いてみたが、記憶はそこまでしかない。最後に見たのは、お供のはずなのに何か偉そうな雰囲気の滲み出た、何処かで見覚えのある嫌な男の顔。
「どこで……?」
ただでさえあまり優れてるとは言えない俺の残念な記憶力だ。すれ違った人間ぐらいなら覚えている訳がない。
何処かでしっかりと顔を見ていた相手のはずだ。しかも、覚えようと意識して。
人間社会に出て日の浅い俺には、人の知り合いは少ない。
天井を見つめたまま、むぅと声を上げて唸っていると、突然視界が主様の美しすぎる顔で埋まる。
いくら主様の顔が小さめでも、距離が近すぎて視界いっぱい主様だ。
びっくりし過ぎて思考がすっかり斜めに上に走った俺は、一つ深呼吸して何とか落ち着きを取り戻すと、目を見張って固まっている主様へ、へらっと笑いかける。
「おはよ、ぬしさま」
まだ声が上手く出せないので、カスッカスで聞き取りにくいのは勘弁して欲しい。
俺を見つめたまま、全くぽやぽやしてない主様は、まるで精巧な彫像のようで少し怖い。
「……もう起きてくれないのかと思いました」
そう呟く主様の表情は、乾き切っていて涙もないのに泣いているように見えて、俺は困惑する。
なんでこんなにシリアスなんだ? と。
「おれ、ちょっとねてただけだよな?」
声が掠れてるのはあんな所で倒れてたから風邪でも引いたせいで、体が重いのも以下同文。
そんな軽い感じで問いかけると、真上にある主様の顔からストンとなにか落ちたように表情が消える。
「ぬしさま?」
美形の無表情は余計に怖いから止めて欲しい。
思わずおずおずと呼びかけると、不意ににこりと笑った主様は、かぷりと俺の頬へ噛みつく。
「ふぇ……!?」
痛みはないが、驚いて間の抜けた声を上げる俺に、主様はさらに甘噛みしてくる。
今度は首の辺りを噛まれた。
主様のサラサラの髪の毛が当たってくすぐったい。
「ぬしさま、おこってる?」
戯れるというより、上手く表せない感情を行動で示しているような気がして、俺は主様をじっと見つめて問いかける。
「……わかりません」
やはりというか、返ってきたのは困惑したような迷子のようなそんな表情と頼りない言葉だ。
「なにが、いやだった?」
乾いてひりつく喉を持て余しながら、俺は幼子へ問うようにゆっくりと尋ねて主様を見上げる。
「……ロコがいなくなるのが」
主様の答えを聞き、あの時走って主様から逃げたように見えたのか、と一人で納得して頷いてると、何故だか小馬鹿にしたようにため息を吐かれた気がする。
「ロコの目が覚めて、本当に良かったです」
確かめるように俺の頬をぷにぷにと押し潰し、もう一度大きく息を吐いた主様は、やっといつもみたいにぽやぽやして俺をベッドから抱き起こす。
やたらと丁寧な扱いと、やたらと重い体と、やたらと乾いた喉に、俺は今さらちょっとあれ? となって主様の顔を見上げる。
「ぬしさま、おれ、なんじかんねてた?」
え? と言いたげな顔をして俺を見た主様は、少し首を傾げて視線を中空へさ迷わせる。
計算してるような仕草に、俺は嫌な予感を覚える。
一晩二晩程度の計算でここまで悩むか、と。
少し待って答えが出たのか、主様はぽやぽや笑いながら俺の口元へ吸い飲みを近づけてくる。
起きてるんだから、普通に飲めるけどと思ったが、喉の乾きには勝てず素直に吸い飲みを口に含む。
流れ込んでくる水はひんやりとしてて、主様が魔法で冷やしてくれたんだろうな、と思って感謝しながらしみじみ飲んでると、
「ロコは五日間寝てたので、百二十時間です」
と、いうなかなかな爆弾を放り込まれ、盛大に咳き込んでしまい、最終的に呼吸困難になりかけ、待機しててくれたらしいドリドル先生が駆け込んでくる大事になった。
いつもいいねありがとうございますm(_ _)m
私の持ってるのが某大手ゲーム会社の携帯機なので、カードというのはあれです。コンビニとかにおいてある、まんま俺や、みたいな掛け声かけるキャラの仲間が描かれてるあれです。
主様は、いまいち人の情緒とかわからず、言葉でどうやって自分の気持ちを表現したらいいのか迷った挙げ句、とりあえず噛んでおくスタイルです←
誰彼構わず噛むわけではなく、もちろんジルヴァラのみですが、ジルヴァラには「見た目より野性的だよな」とか思われてそうです。