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幕の外 6

本日2話更新の2話目ですが、どちらからお読みいただいても大丈夫です。


こちらはエノテラ側のお話となります。


ほのぼのしているジルヴァラ側とは違い、シリアル……じゃなかった、シリアスしております。

まぁ、私の書くシリアスなので、エセシリアスでございます。

[エノテラ視点]




 幻日様のお屋敷へ突撃しそうだったスリジエは、セウトのおかげで無事に回収出来た。

 あの後、宣言通り俺の借りている一軒家でセウトはスリジエの話を辛抱強く聞いていた。

 相変わらず理解不能なスリジエの話を、以前は「面白くて可愛いなぁ」と聞いていた俺だったが、今の俺はただただ苦笑いで聞き流している。

 

 俺の家での何度かのそんな『お茶会』を経て、セウトはすっかりスリジエの扱いを心得たらしい。

 可愛らしく詰め寄ってくるスリジエの話を適当に聞き流しながらも、きちんと的確に答えるという器用な事をしている。


 さすがセウトだ。


 俺の方と言うと、相変わらずスリジエには勝てていない。


 これが何度目のお茶会になるか数えてはいないが、俺はちょうど良いとやって来たスリジエへ冒険者ギルドからの伝言を伝えようとしたのだが、全く聞いてもらえなかった。

 スリジエがぷりぷりと怒りながら帰った後、まるでそれを見ていたかのようなタイミングでセウトがやって来た。

「何を言ったんだ?」

 開口一番に呆れ混じりで問うセウトに、俺は冒険者ギルドからの書面を差し出してみせる。

「いつまでも特例冒険者という訳にはいかないから、規定のポイントを稼いでE級へ上がれっていう感じの事を言われてるんだが……」

 スリジエはやたらと華々しい冒険者らしい依頼ばかりを好み、採集依頼などの地道なものを好まない。

 しかし、魔法が使えるとは言え、スリジエ本人あまり戦闘に向いているとはいえず、悲鳴を上げて逃げ回るだけ。

 結局、付き添っている俺が討伐して、それを冒険者ギルドへ提出する事になる。

 最初のうちは良かった。

 ネペンテスさんは新人に優しいので大目に見てくれていたのか、スリジエへもパーティーとしてポイントを加算していてくれた。

 だが、あまりにもスリジエの行動は目にあまってしまったのか、特例冒険者に関しては討伐依頼でパーティーや後見だけで倒したものはポイント加算しないと明言されてしまった。

 スリジエは「あたしが倒したのよ!」と頑張って言い張ったが通用しなかった。

 特例冒険者でなければ、戦っていない者でもポイント分配はあるのだが……。

 斥候や索敵が主でほとんど戦闘をおこわない者もいるし、かなり珍しいが回復職と呼ばれる回復魔法を使える者もいる。

 という感じの事をセウトへ話すと、深々とため息を吐かれた。

「薬草などの採集依頼も立派な冒険者の仕事だろうに」

 俺に対する呆れのため息かと思ったら、スリジエに対するため息だったようだ。

「あぁ、そうだな。実際、もう一人の特例冒険者は採集依頼や雑用でポイントを稼いでいて、もうすぐ特例冒険者から普通の冒険者へなれそうらしい」

 もう一人の特例冒険者──スリジエよりさらに幼い黒髪の幼児を思い出してそう答えると、セウトは少し驚いたような顔をして俺を見てくる。

「な、なんだ? もう一人特例冒険者がいるのは伝えてあったよな?」

「それは知っている。あの少女がやたらと文句を言っていたのも、な。彼女は、えこひいきされているのよー、と言っていたが?」

 それで驚いていたのかと納得しつつ、俺は苦笑いして首を横に振る。

「俺も最初はそれを信じてしまっていたが、直接会って会話をしたら、それはスリジエの勘違いだとわかった。もう一人の特例冒険者は、とてもいい子だ」

 ひどい行いをした俺を許してくれた相手を思い出しながらそう答えると、セウトはまた驚いたような顔をしてこちらを見てくる。

「さっきからなんだよ? 俺は何かおかしな事を言ったか?」

「……無自覚か? 先ほどからお前は、もう一人の特例冒険者の話をする時、まるで──……いや、何でもない」

 何か食べ慣れない物を食べてしまったような顔になったセウトは、彼にしては珍しく言葉を濁して途切れさせ、何かを振り払うように大きく頭を振ってから話を変える事にしたようだ。

「それより、あの奇怪な少女の話だ」

 何を言いかけたは気になるが、スリジエの話を出されれば聞かざるを得ない。

「お前の話では、後見はもう一人いるという話だったな?」

「あぁ。グロゼイユという名の男で、スリジエからはお貴族様だと聞いてる」

「その彼にも抑止力になってもらいいたかったが……」

「どうだろうな。冒険者稼業は遊びでやっているという噂で、ほとんどギルドでは見ない。それに、かなりスリジエに甘いらしい」

 俺の言葉を聞いたセウトは、そうか、と少し残念そうな口調で呟いて懐から一冊のノートを取り出す。

「これから僕が話す事はエノテラにとってはとても荒唐無稽な物に聞こえるだろう。だが……」

 重々しい口調で、また言い淀む気配を見せたセウトに、俺はにやりと笑って彼の胸辺りを軽く小突く。

「セウト。セウトが話してくれた事を俺が疑う訳ないだろ。──小難しくて、理解出来ない事はあるかもしれないが」

 わざと冗談めかせて最後の一文を付け足すと、セウトはふっと息を吐くような笑いを溢し、いつものような眼差しを俺の方へ向けてくれる。



 そうだ。小難しい事は俺にはわからないが、俺はもう信じるべきものを間違える気はないんだ。



 今俺の信じるべきものは、目の前で真剣な眼差しを向けてくる『親友』だ。



 そう思っていたのだが……。


「ここがその『げーむ』とかいう作り物だかの世界で、俺はそれの登場人物……?」


 セウトの説明を受け、想像すらした事のない話を聞いた俺は、セウトの言葉を繰り返す、そんな反応しか返せない。

 俺の反応を見たセウトは、苛立つ様子も、からかう様子もなく、ただ少し困ったように微笑んで俺の脇腹辺りを小突いてくる。

「……痛いぞ」

 そこまで痛い訳ではないが、少しイラッとして文句を言うと、セウトはふわりと柔らかい微笑みを浮かべてみせる。

「お前はこうしてここに生きているんだから、痛いのは当たり前だろう?」

 セウトの言わんとした事を察した俺は、軽く目を見張ってから大きく数度頷いて、仕返しとばかりにセウトの肩を軽く叩く。

「ぐ、この馬鹿力が……」

 力が入り過ぎてしまったのかセウトが低く呻いて顔を歪めたので、俺は慌てて手を引いて「すまん」と謝罪を口にする。

「全く……。エノテラの頭では理解出来ないかもしれないが、あの少女の言葉を信じるとしても、ここはあの少女が言う『乙女ゲーム』とやらの世界とは厳密に言えば違うと僕は思っている」

 呆れた表情をして俺に叩かれた肩を軽く回してから表情を改めたセウトは、肩を竦めて『ここ』と床を指差しながら俺には理解し難い小難しい事を口にする。

「そう、なのか? でも、俺はその、登場人物? なんだよな? 確かにスリジエは俺が話していない俺の事を知ってたりもしてたが……」

 首を捻りながらセウトを窺うと、ため息を吐いて額を軽く小突かれる。

「普通はそこで少しは疑問を抱くものだが、お前は色ボケしていたのか気づかなかったようだな。あぁ、そういえば『未来』が見えるという触れ込みだったか?」

「あ、あぁ、お貴族様の間ではそう言われていたらしい。最近は当たらない事が多いせいで、偶然だったんだとか言われて、スリジエが癇癪を起こして大変だったな」

「もしかしてだが、こうなるはずなのになんで、などと口走っていたのではないか?」

 まるでその時の怒り狂ったスリジエを見ていたようなセウトの言葉に、俺は思わず「見てたのか?」と我ながら間の抜けた事を口にしてしまい、またセウトから小突かれてしまった。

「ゲームのシナリオを知っていれば……まぁ、未来が見えるようには振る舞う事は可能だろうし、外れればついついそんな台詞を口にするだろうな、あの少女の性格なら」

「えぇっと、すまない……つまり、スリジエには未来がわかっている、という事なのか?」

 セウトの説明を聞いた俺が、おずおずと訊ねるとため息混じりに返される。

「まったく……。先ほど僕が言っただろう? ここは厳密に言えばあの少女の言うゲームとやらの世界ではないかもしれない、と」

「……言っていたな」

 理解はしていなかったが覚えていた感が相槌に出てしまったのか、セウトは無言でため息を吐いてから言葉を続ける。

 今度は小突かれる事はなかった。

「あくまでもこの世界は、あの少女が言う『乙女ゲーム』とやらの世界によく似た世界でしかないんだろう。だから、同じ名前で同じような生き方のエノテラのような登場人物がいても、あの少女の記憶通りには動かない事もある」

「……そういえば、スリジエはセウトも冒険者なのかと気にしていたな」

 初対面でのセウトとのやり取りを思い出して呟けば、うむとばかりに大きく頷かれる。

「あぁ。自分の知る世界(シナリオ)に近づけようと僕を冒険者にしようとしていた。それから考えられる怖ろしい仮説があるのだが──」

 そこで言葉を切ったセウトは、痛みを堪えているような複雑な顔をして俺を見て言葉を続ける。


「あの少女はゲームとやらと違う展開を起こしていると思われる相手を許せず、排除すらしようとするかもしれないという事だ」


 言葉は理解出来た。セウトは俺でもわかるように噛み砕いて話してくれるから。

 たまにそれでもわからない事はあるが、それは俺の方の問題だ。


 って、今はそんな話じゃない。


「排除、とは……」


 わかりたくなくて、そう返していたが、俺には心当たりがいくつかあった。


 もう一人の特例冒険者であるジルヴァラを「偽者!」と罵り、自分の居場所を盗ったと憤る姿。

 今ならわかる。どう考えてもスリジエの言いがかりだ。

 幻日様は別に特に子供好きな訳ではなく、ジルヴァラだから可愛がっているようにしか見えない。

 ジルヴァラと出会う前にスリジエと出会ったとしても、スリジエを溺愛するとは思えない。

 それに、何度か「なんで死んでないの」という妄想にしても不穏な発言をしていた。

 ゾンネさんの家へ突撃した時にも口走っていた気がする。



 そんな内容を何とか整理してポツポツとセウトへ話すと、やはりなと暗い表情で呟いた。

「この予想は正直外れていて欲しかったんだが……」

 セウトはそれ以上は口に出さず、無言で俺の肩をポンポンと叩くのみだ。

 セウトの言葉の先を聞くのが怖ろしくなってためらっていると、玄関の扉が勢い良く開かれる。



 他人の家でそんな事をする相手に心当たりがあり過ぎて、俺は引きつっている自覚のある表情のまま扉の方を向く。

 そこにはキラキラとした笑顔を浮かべているスリジエがいて。

 しかも、いつもの冒険者活動している時のワンピース姿ではなく、貴族のお嬢様らしくきちんとしたドレスを着ている。

 きちんとしたドレスといっても、俺からしたら、やたらとひらひらしているぐらいの感想しか出せないが。


「エノテラ、行くわよ! やっとストーリーが動き出したんだから!」


 そんな俺の反応など気にしてないんだろうスリジエは、ドレスだというのに大股で近寄って来る。


「あら、セウトもいたのね。……あなたの妹も死んでくれないからストーリーがちゃんと進むか心配だったけど、さすがあたし。何とかなるものね」


 セウトを見てスリジエが何かブツブツと口にしたが、興奮しているのか常よりさらに早口で俺にはほとんど聞き取れなかった。

 辛うじて『妹』『死』という単語だけは拾えてしまい、ハッとして隣にいるセウトを見て──見た事を後悔しそうになる。

 しかし、放っておける訳もなく、俺は手を伸ばしてセウトの腕をしっかりと掴む。


 先ほどセウトが俺へしてくれたように、俺がここにいると力を込める。


「……馬鹿力が」


 また同じ言葉で罵られてしまったが、俺を見るセウトの表情はいつものセウトのもので、俺は安堵の息を吐いてセウトの腕を離す。


「もう! 何やってるの!? さっさと行くわよ! 迎えがそこまで来てるんだから! しょうがないから、あなた達も紹介してあげるわ!」


 そんな俺達のやり取りを見たスリジエは落ち着かない様子で地団駄を踏み、俺の腕を掴んで外へと引っ張っていこうとする。

 以前の俺なら苦笑いしてスリジエに連れられるままになってしまっただろうが、今の俺は違う。

 ぐっと床を踏み締め、スリジエの勝手にはさせない。


「スリジエ、落ち着け。一体何が迎えに来たというんだ?」


 スリジエに訊ねる時は、怒鳴らず簡潔にわかりやすく妙な誤解をさせないように落ち着いた声音で。


 ま、セウトからの助言なんだが。


 その効果はてきめんだ。

 ピタリと動きを止めたスリジエは、少しだけ不思議そうに俺を見上げていたが、すぐに何かを思い出した様子でふふんと鼻を鳴らして得意げな表情で外を指差す。


「本当はあたしが動物達を返しに行って聖獣と出会う予定だったのに、あの動物達があたしに懐かないからストーリーが変わっちゃったのよ!? でもでも、あたしはやっぱりヒロインなのね! ちゃんと聖獣の方から会いに来てくれたんだもの!」


 自信満々に言い切る姿に、そうなのかと納得しそうになったが、呆れ顔をしたセウトとひんやりと存在を主張してくるブレスレットのおかげで、そうはならないだろ、と内心で突っ込む余裕が出来る。

 ここで言い争ってもスリジエは納得しないだろうし、外が騒がしいので『何か』が来ているのは事実だろう。

 モンスターだとしたら、俺は街を──大切な人達を守らないといけない。

 そう考えた俺は、セウトに目配せをしてやんわりとスリジエの手を外させて声をかける。

「スリジエ、少し待ってくれ。準備……」

 準備をして、と俺が最後まで言い切る前に、気の短いところのあるスリジエは待っていられなくなってしまったらしい。


「もういい! せっかくメインヒーローのエノテラを聖獣と会わせてあげようと思ったのに! 後でもったいなかったって後悔しても遅いんだから!」


 それこそせっかく可愛らしいドレスを着ているというのに、行儀悪く地団駄を踏んで俺の言葉も聞かずに去っていってしまう。


「……相変わらず嵐のような子だ」


 セウトがポツリと洩らした言葉に、俺も無言で頷いて同意してから、ふと不安になってスリジエの消えた扉の方を見る。


「一人で行かせて大丈夫だろうか? いや、俺もすぐ様子を窺いに行くのだが……」


「自己顕示欲の強いあの少女が一人で行くとは思えない。たぶんだが、もう一人の後見の所へ行くだろう」


 愛剣を装備し、そわそわと出かける準備をしながら呟くと、セウトがすぐに否定してくれて「その点は心配するな」と苦笑いされる。



 やたらと『その点』の部分に力がこもっていた気がしたのが気のせいでないとわかったのは、騒動の現場に到着した後だった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです。


セウトに関して、皆々様たぶん察せられてるでしょうが、まぁもうしばらくお付き合いください。

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