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383話目

夏休みのおかげか、作品がいくつかランキングに入っております。

ここで感謝を述べさせてください。

いつもお読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m




 先日、アルマナさんからの助言を受けて、俺は自宅待機を続けていたのだが……。


 自宅待機終了予定は、別行動となった騎士さん達とアシュレーお姉さんが帰ってくるまで。



 たぶん一ヶ月以上かかるよなぁと思っていたのだが、それは思いもよらぬ形で終了を告げることになった。



 思いの外早く、騎士さん達とアシュレーお姉さんが王都への帰還を果たしたのだ。



 それに伴い、かなりの混乱が王都を襲ったのだが…………俺のせいじゃないよな?


 確かに主様に「早く外へ出られるようになりたい」とか「アシュレーお姉さん達大丈夫かな」とかはこぼした気はするけど……。

[視点無し]




 ──時間は少し遡り。


 賑やかな子供が赤い青年に連れられていなくなり、途端に静けさを増したような気がする森の中に、双子の片割れの騎士は警戒するように落ち着きなく周囲を見渡してこそりともう一人の片割れへと話しかける。

「……なぁなぁ、ちびがいなくなった途端にガブッといかれたりしない、よな?」

 不謹慎というか空気を読まないというか、とりあえず今言うなよな一言に話しかけられた片割れが反応するより早く、ふっ、と鼻息を吐いたような音が響いて、原因となった双子はビクリと肩を揺らす。

「大変申し訳ありません。部下が失礼を」

 即座に反応して謝罪をして頭を下げたカイハクに、鼻息の主であった聖獣は、鋭い歯を見せつけるように笑ってみせる。

「気にするな。その程度の軽口で気分を害するほど、我は狭量ではない。もちろん、うちのちびがいなくなったからといって、お前達をぞんざいに扱ったりもしないさ」

 通訳が出来る子供がいないため人間の言葉を使って答えた聖獣に、一同は反応の大小はあれど揃って安堵した雰囲気を漂わせる。

「人の王には『この程度の事で大袈裟な謝罪はいらない』と伝えておけ。王族なぞに出張って来られても、我には何の利もない」

 ふんっと鼻息混じりで吐いて捨てた聖獣に、カイハクは真剣な表情で頷いている。

 聖獣がそんな事を口にしたのは、今回の謝罪行脚が上手くいかなかった場合、次の手として王族自らが聖獣の森へ参り、聖獣へ直接謝罪するという話があったからだ。

「……確実に伝えます」

「ま、そもそもお前達に会ってやったのは、うちのちびを可愛がってくれているからだからな」

 言外に『王族だろうが来ても会う気はない』と告げた聖獣は、子供が念入りに梳いてくれて美しい尻尾を見せつけるように揺らしている。

「お……私達は、とても貴重な体験をさせていただいたんですね」

 感動したようにそう呟いているのは、琥珀の目を輝かせたオズワルドだ。

「王族サマでも会えない方と会えたのよねぇ」

 その隣でうんうんと頷くのはユリアンヌだ。

 同じオネエさん仲間のアシュレーの方は困った子達ねとばかりに無言で微笑んでいる。

 穏やかな空気の流れる中、のっそりと動き出したのは聖獣の傍らに控えていた守り役の大きな熊だ。


「……森の入り口まで送ろう」


 落ち着いた低い声音で告げた熊が森の入り口へ向け歩き出し、騎士達とアシュレーはそれぞれ聖獣へ頭を下げてから熊の後を追う。


 聖獣より寡黙で道案内の間も熊は無言だったが、子供に関する話題を後ろの面々がし始めると、あからさまに耳がそちらの方へ向けられる。

 それに気付いたカイハクとアシュレーは、さり気なく子供に関する話題を多めに振るという気遣いを見せながら森の中を進んでいく。

 守り役たる熊が一緒なので、普通の森の中より安心感があるぐらいの道行きだ。

 このまま何事もなく森から出られるかとカイハクとアシュレーが無言で目線を交わし合うのと、一番子供と仲の良いオズワルドが子供を心配して、今言わない方が良かったであろう一言をつい口にしてしまう。



「……でも、ジルヴァラ、しばらくは屋敷から出られないかもしれないから、少し退屈してしまうかもしれませんね」



 オズワルドの言葉の意味をすぐに理解出来たのは、すでに『その理由』に気付いてがあえて黙っていたカイハクとアシュレーだけ。

 他の騎士三人は不思議そうな表情でオズワルドを見て、オズワルドから『一緒に旅立ったはずの自分達が帰っていないのに、ジルヴァラだけ王都にいたら悪目立ちして転移陣がバレるかもしれないと考えた』という説明を受けて、それぞれ子供に対して同情的な反応をする。


 実際は、子供としては常に大好きな相手といられるのでそこまで苦には感じていなかったりするが、それを彼らが知る術はなく……。


 そして、当然子供の話題だったので、丸みのある耳をぴこぴこと動かしていた熊もばっちり聞いていた。

 考え込むように目を閉じた熊は、しばらくしてカッと目を見開くと唐突に「がうっ!」と吠えて、人間達をびくりとさせる。

 空気を震わせるような熊の吠え声は、歴戦の騎士とA級冒険者を慄かせる程の迫力があった。

 その吠え声に応えてのそりと姿を現したのは、つい先ほど別れたばかりの聖獣だ。

「……いや、お前が我を呼びつけるなよ」

 呆れ切った声音ながら聖獣は苛立った様子もない辺り、二頭の普段の力関係がわかるやり取りだ。

 人間達が恐る恐る様子を窺う中、真剣な顔をした熊は聖獣へ向けて、

「がうがうがう」

と何事かを訴えかけている。

 それを聞いた聖獣は、いわゆるお座りの体勢になって首を傾げ、人間達の代表者であるカイハクの方へと視線を向けて口を開く。

「わふ…………じゃなかった、お前らが王都へ帰り着かないと、うちのおちびが大手を振って外を歩けないのか?」

 一声鳴きかけてから、人間の言葉で喋り直した聖獣は、どういう事だと言わんばかりにカイハク達を睨みつける。

「いえ、決してそういう訳では……。ですが、ジルヴァラくんは聡い子ですので、私達が帰っていないのに自らだけが王都にいるというのは、余計な注目を浴びると気付いて、外出を控えようとするだろうと思いまして……」

「そうね。ジルちゃんなら、きちんと転移陣の危険性にも、それがここへもたらす影響もきっとわかるもの」

 恐縮して答えたカイハクの言葉に、アシュレーがさらに付け足して説明すると、聖獣は落ち着きなく尻尾を揺らして考え込む様子をみせる。

 熊を含めた全員が聖獣の動きを見守る中、しばらくして聖獣がしたのは



──遠吠えだ。



 静かな森の中に聖獣の遠吠えが響くと、微かなざわめきが生まれ、ゆっくりと近づいてくる。

 その気配に警戒する人間達の目の前に森の木々をかき分けるように姿を現したのは、翼を使わずとてとてと歩いてくる巨大な鳥だ。

「……あぁ、噂のロック鳥ですか」

「昨日の鳴き声の子よね。……王都近くの森の子よりずいぶん大きいのね」

 巨大な鳥を見たカイハクとアシュレーが小声で囁きを交わす背後では、若い騎士達が目前に現れたロック鳥の迫力を前に言葉もなく固まっている。


「がうがう」


「ぴぃー」


 人間達の反応を気にする様子もなく、のんびりとして聞こえる会話をする聖獣とロック鳥。

 何度か鳴き交わした後に聖獣が一つ頷くと、ロック鳥はその巨体を地面に伏せさせる。


 戸惑う人間達を他所に、聖獣は颯爽とロック鳥の背中へと飛び乗ってみせる。



「さぁ、乗れ。我が王都まで送ってやろう」



「「「「「「っ!?」」」」」」



 さすがのカイハクとアシュレーすら固まる中、熊といつの間にやって来ていたショウジョウの手によって、六人の人間達はあれよあれよとロック鳥の背中へ乗せられてしまう。



「あの、聖獣様……」



「あぁ。気にするな、ついでだからな。危険に見えるだろうが、魔法で落ちないようになっているから、遠慮なく寛ぐといい」



 何とか止めないと、と意を決して話しかけたカイハクの台詞を遮った聖獣は、全くカイハクの伝えたい事を察しようとはしない。



「……転移陣で帰るより目立っちゃうわね、アタシ達」



 諦めたのか開き直ったのか、アシュレーがポツリと呟く中、ロック鳥の巨体は不思議と木々を傷つける事なく宙に舞う。



 風の音が轟々と鳴り響く中、独り言のように聖獣が呟く。



「さて、我が森にちょっかいをかけたらどうなるか」




 その身に刻むがいい、人間共。






 そんな感じで王都へ姿を現す事になった聖獣──それと乗り物なロック鳥によって恐慌状態になる王都で、一人恍惚とした笑顔を浮かべる少女がいる事は、聖獣ですら知らなかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると励みになります(*^^*)



残りのメンバーも、ダイナミック帰宅となりました。

聖獣(犬)も、人外さんと負けず劣らずの過保護です。


ちなみに、ジルヴァラには本当にそこまでダメージありません。たぶん、プリュイと仲良く遊んでると思います。


次回更新は幕の外予定です。

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― 新着の感想 ―
お外に行けないならと お庭にミニプールならぬ水場とか造って 主さまにとっての目の肥やしとか起きていそう
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