382話目
何かおかしな事があっても、あの方だからな、で済む人外さん。
「それで、どうしてついて来ちゃったんだ? いくら転移陣があるからって、森へはなかなか戻れないんだぞ?」
主様から降ろしてもらった俺は、しゃがんで翼猫と物理的に距離を縮めて問いかける。
しゃがまなくても、降ろしてもらった時点でかなり距離は縮んでたけど、気持ちの問題だ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、翼猫は不機嫌そうにパシパシと尻尾で床を叩きながら俺を睨んでいる。
「んにゃんにゃ、にゃっ!」
お前が一緒に帰ろうって言ったんだろ! と可愛らしくキレ散らかす翼猫に、俺はポリポリと頬を掻いて視線を反らす。
「いや、確かに一緒に帰ろうとは言ったけど、それは聖獣の森へって意味で俺について来いって意味じゃ……」
「にゃっ!? にゃにゃにゃー!?」
驚いた様子で目を見張った翼猫は、すぐに、騙したな!? と詰め寄ってくるが完全なる濡れ衣だ。
さっきも言った通り、俺が言った『一緒に帰ろう』は聖獣の森へって意味だし、そもそも翼猫だけに言った訳じゃない。
そこまで言ってしまうとさらに怒らせそうなので黙っていると、怒り狂っていた翼猫の声は徐々にトーンダウンしていく。
「にゃんにゃぁ……?」
一緒にいられないの? といつもの強気な態度は何処へやら、弱々しく問う翼猫の声に、思い切り心を揺さぶられてしまった俺は、主様へ視線をやり──無言でぽやぽやしてるので改めて肩上にいるノワへと視線を向ける。
「どう思う、ノワ。この子、ここで暮らしていけると思うか?」
「ぢゅぅ。ちゃっ、ぢゅぢゅ!」
「大丈夫だと思うか。え? それより、ここのボスの許可は取らないのかって?」
俺に問われたノワは腕組みをしながら大きく頷いて見せてから、ちらりと視線を向けた先は、ぽやぽやとこちらをガン見している主様だ。
確かにと納得した俺は、翼猫を抱え上げて立ち上がり、主様と向かい合う。
プリュイはいつの間にか姿を消していたので、そちらには事後報告しておこう。
今はまず主様から許可をもらわないと。
「話は聞いてたと思うけど、この子もここで暮らしても良いか?」
おずおずと話を振ってみたが、主様は無言でぽやぽやとしながら、一瞬視線を何処かへ向ける。
たぶん見たのは転移陣のある方向だろう。
さっき叩き出すって言ってたし、このままだと下手すれば外へ放り出されるかも、と俺は腕の中の翼猫をひしっと抱きしめながら主様を見つめて、
「えっと、ブラッシングもするし、お風呂にも入れて綺麗にするし、トイレも覚えてくれるだろし、その辺で爪研ぎとかさせないから! ……駄目か?」
と一気にまくし立てる。
ノワは小さいからそこまで抜け毛とか諸々気にもならなかったが、翼猫は今の俺がかろうじて抱えられるサイズの大きさの猫だからなぁ。
生き物なので当然ご飯は食べるし、毛も抜けるし、出すものも出すだろう。
自分で言っておいて、これは駄目かもしれないなぁと思いながら、じっと見つめて主様の反応を窺う。
「……わかりました」
数秒後、主様から返ってきたのは予想外な承諾の言葉だった。
断られるか、もう少し条件を出されるかと思っていたが、やっぱり主様は優しいな。
翼猫の悲しげな声が効いたのかもしれないな。
これだけ可愛らしい子があんなに悲しげに鳴けば、猫好きじゃなくともグラッとするよな。
猫の下僕だと名乗っていた前世の友人なら、即落ちだろうけどな。
理知的で普段はクールな感じなのに、猫が関わると少し様子のおかしくなる前世の友人を懐かしんでいたら、腕の中の翼猫が前足で俺の頬をてしてしと叩いてくる。
「んにゃにゃにゃ!」
「ごめんごめん! 君がいいなら、ここで暮らしても良いって。ほら、主様にお礼言おっか」
僕を放置するな! と不機嫌そうな翼猫の前足の下というか、脇の下辺りを持つようにして主様の方へ顔を向けさせる。
「にゃぁ……? にゃあにゃあにゃ」
一瞬きょとんとしてから、感謝してやる、という上から目線な感謝の言葉を口にした翼猫。
それをじっと見下ろす主様。
無言の時間に耐えかねた俺は、翼猫の体をさらに持ち上げて、自らの顔を隠すようにして、
「…………えぇと、よろしくにゃー?」
とかなり出来の悪い腹話術もどきを披露してみた。
まだじっと見下ろしてくる主様。
さらに無言の時間が流れる。
「にゃう」
気まずさなど気にもしない翼猫は、猫は液体を体現したように俺の手をすり抜けて床へと下りると、一声鳴いてノワと連れ立って去っていってしまった。
残されたのはじーっと見つめてくる主様と俺だけ。
「その、まぁ、うん、あれでも感謝してるから……その、ありがとう、主様」
どう誤魔化そうか少し悩んだが、結局代わりに俺がきちんとお礼を言えば良いという結論になったのでお礼を伝えてみる。
せっかく降ろしてもらえたのに、また抱え上げられてしまった。
「…………かわいい」
何を言われるかと思ったら、主様も猫派だったらしくボソリとそんな一言が聞こえてくる。
とりあえず好意的な感想を抱いてもらえたようなので、安堵からへらっと笑っていると、主様の顔が近づいて来て頬擦りをされる。
そういえばと思うのは、道中はずっと近くに誰かがいたからこうして二人きりなのは久しぶりだなぁと、主様の気が済むまで頬擦りされ続けるのだったが……。
ダイナミック帰宅して数時間後、アルマナさんがやって来て告げられた一言で、俺は少し落ち込むことになる。
「ジルヴァラはしばらく自宅待機だな」
呆然としている俺の横で、俺の反応を見て何故です? と不機嫌そうに問う主様。
アルマナさんは主様の不機嫌さに動じることもなく、苦笑いして肩を竦めてみせる。
「…………いや、他の奴らが帰ってきてないのに、ジルヴァラがうろちょろしていたら目立つだろ。こいつだけなら姿を目撃されても『あー』で納得されて終わるだろうが」
こいつと指差された主様は、アルマナさんの話に納得がいかないのか、無言でぽやぽやとしながら首を傾げている。
俺はと言うと、確かにと納得するしかない指摘を論破する案はなく、おとなしく頷くしかなかった。
しばらくはうちで一緒に過ごそうな、とノワと翼猫へ話しかけていた俺は、そんな俺の様子をじっと見ている主様に全く気付いていなかった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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もふもふ増量にゃんぺーん(笑)
そろそろタグにもふもふ成分入れるべきか悩むもふもふ率です。
翼猫ちゃん、名前はまだ未定←




