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幕の外から内側へ行きたい

という訳で、毎度のごとくの、定期的なヒドインちゃん報告です。

ゲームではメインヒーローだったはずのエノテラくん。

すっかり苦労人と化して、ヒロインちゃんのフォロー頑張ってます。

底抜けのお人好しなのは、ヒロインちゃん関係なく元からなエノテラでした。

〇留守の間に。


[魔法人形視点]


 ワタクシはプリュイデス。


 タダ今、留守番ヲ任されテおりマス。


 少し前マデ留守番中ハ、タダただイツも通リ屋敷内ヲ掃除シて過ごシテおりマシタ。



 デスが、今は何故ダカ、とテモ……。



「コレが、寂シイという感情……?」



 痛むハズもナイ透キ通った胸ニ触れてミマすガ、ソコには温モリもモチロン鼓動ナンてありマセン。


「ジル……」


 無意識に口カラ溢れタのハ、主人デある幻日サマの名前──デはなく。



 ソノまま物思イに耽りタカッたワタクシでシタが、何カが近づいてイル事に気付イテ、思ワズため息ヲ吐きソウになりマシタ。



「……またデスか」



 害虫駆除モ、留守番ノ大切な役目デス。



 ふんすと気合を入れる魔法人形の姿は、名付け親である黒髪銀目の幼児とよく似ていた事に突っ込むものは存在しなかった。

[エノテラ視点]



「行くわよ! エノテラ!」

 朝早く俺の家へやって来て元気よく言い放ったスリジエに手を引かれ、向かう道筋はどう考えても幻日様のお屋敷への道だ。

「……スリジエ、いい加減にしろ。あそこにいたのは魔法人形で、モンスターなんかじゃない。倒す必要なんてないんだ」

 さすがにそろそろブチギレた幻日様によって二人揃って跡形も無く焼き払われてもおかしくない。

 俺は想像した光景に身震いしそうになるのを堪えながら、スリジエを止めようとその手を掴む。

「もう! エノテラったら、今はそんな状況じゃないのよ!」

 途端、頬を赤くしたスリジエから怒鳴られ、小声で「後でならいいよ」とか言われてしまう。

 これは絶対俺の話を聞いていないやつだ。今までの経験則でわかる。

 無意識に深々とため息を吐いてしまったが、何故かスリジエは俺をチラチラ見て満更でもない顔をしてむふふと笑っている。

 以前はこんな顔を心から愛らしいと思えていたはずなのだが、今は顔見知りの幼い子供へ向けるような感情しか湧かない気がする。

 色恋は感じない、ただただ仕方ないやつで放っておけないというか、放っておいたらヤバいことしそうで目が離せないという感情だ。



 実際、今放っておいたら一人で幻日様のお屋敷へ突撃するか、違う誰かを巻き込んで突撃するだろう。

 もう一度口から出そうになったため息を飲み込み、俺はどうスリジエを説得して止めたらいいんだと頭を悩ます。

 親友に『脳筋』と言われてしまう俺には、こういう役割は向いていない。


 お前に任せたいぐらいだと脳内でにやりと笑う親友へ向けて吐き捨てたつもりだった。


「うん? そうか? ならここは僕がお相手しよう」


 そうそうあいつならこんな感じで答え──って、え?


「誰よ! 急に進路を遮るなんて無礼よ! あたしは男爵令嬢なんだから!」


「おや? 君の話では『身分を笠にして偉ぶったりしない素敵な子』ではなかったか?」


 スリジエの怒鳴り声などどこ吹く風で不思議そうに微笑み、俺の方へ視線を向けてわざとらしく質問してきたのは、つい今さっき脳裏へ思い浮かべた姿。


 黒みの強い灰色の髪に、良く言えば思慮深い性格ととれなくもない性格の表れた深い緑色の瞳。


 親友の妹曰く『黙っていればエノ兄さんよりモテるのに』と言われる、俺の唯一無二の親友で。


 名前はセウト。妹が好き過ぎる少し残念な男だ。


「本当にそんな子なら、僕の可愛い可愛い妹の友達にと思っていたんだが……」


 そう言いながら親友──セウトがちらっと見てくるのは俺の顔だ。


 声に出されなくともわかる。


「エノテラ。色ボケでずいぶんと目が曇っていたみたいだな」


 というか出された。思い切り出された。


「コレの何処が『妖精みたいで天真爛漫な可愛い子』だ」


「あはっ! エノテラったら、あたしのことそんな風に言ってくれてたの?」


 さすがスリジエだ。


 笑顔のまま毒舌を吐くセウトから、自分に対する良い反応だけを拾い上げて、毒舌自体は華麗に聞き逃したらしい。


「………………どうなってるんだ、コレの耳は」


 頬を染めて照れ笑いするスリジエを初めて見る生き物を観察するように気持ち悪そうに眺めてから、助けを求めるように俺へ視線を向けてくるセウト。


「スリジエは…………とても前向きな性格なんだよ」


 その視線を避けながら何とかスリジエを擁護する言葉を紡いだが、返ってきたのは呆れたような眼差し。ついでに鼻で笑われた。


「……あぁ、そのようだな」


 感情のこもっていないセウトの同意の言葉も気にならないのか、スリジエはえへへと相変わらず照れて笑っている。



 少し前までは可愛らしく見えたその笑顔は、そんなに褒めないでよという的外れな言葉も相まって、今はもう別世界の生き物に見えてきてしまった。



 そんな俺達のやり取りを気にもしないスリジエは、当初の目的を思い出してしまったらしく、パッと表情を明るくする。


「うふふ! あたしはこの世界のヒロインなんだから、暗い顔なんてしてられないわ!」


 道を遮っていたセウトの脇を駆け抜け、少し行った所でこちらを振り返ったスリジエが笑顔でそう言い放つ。


 こうなった彼女は止まらない。どうやら幻日様のお屋敷まで行くしかないようだ。


「…………この世界のヒロインというのはなんだ?」


 色々諦めた俺の側に寄ってきたセウトが、そんな事を訊ねてくる。


「あぁ、スリジエはたまに変な事を言うんだよ。お貴族様方は、あの子は未来が見えてるのでは! みたいな事を言ってるみたいだな」

「未来が見える……、それにヒロインとはどういう意味なんだ?」

 真剣な表情でブツブツと呟くセウトに、俺は肩を竦めて笑ってみせる。

 夢見がちな幼い少女の発言を本気にするなんて、セウトも可愛い所があるな。

 そんな事を考えたのがバレた訳ではないだろうが、セウトがじろりと俺を睨みつけてくる。

「……未来が見えてるというのは、彼女の能力か何かなのか?」

「さぁ。夢で見たとか言ってた気もするが、突然『あそこには〇〇があるの!』とか言い出して、ダンジョンとか色々見つけてるんだ。まぁ、それも最近は外れる事もあるみたいだが……」

 スリジエを見失わないようぴったりとついて歩きながら、セウトの疑問に答えていく。

 問われて俺も初めてスリジエの能力に対して疑問を抱く。

 セウトの反応を見ると、今まで気にしなかった俺の方がおかしいのかもしれない。

「スリジエ、最近は夢で未来を見ないのか?」

「仕方ないでしょ!? だって、おかしいのよ!? 死ぬはずのキャラが死なないし、イベントもちゃんと起こらないし! フラグだって……」

 思いついてスリジエに話を振ると、振り返ってキッと俺を睨みつけ、早口で一気にまくし立てる。

 あまりの勢いに驚いて、ほとんど聞き取れなかった俺は、反射的に「す、すまない、そんなつもりじゃなかったんだ」と謝罪してスリジエの頭を撫でて誤魔化すしか出来なかった。



「キャラにイベントにフラグ……? まさか、な」



 そんな俺の隣でセウトが小声で何事か呟いていたが、こちらは小声過ぎて俺の耳には拾えなかった。



 ただ思慮深い緑色の瞳で、値踏みするようにスリジエを見つめていて。



 湧き上がった不安をかき消すため。



 あと、一番今気にすべき事である幻日様宅への突撃を止めさせるため、俺は頼りになる親友へ相談を持ちかける。




「……まずは行って何をする気なのか聞き出し、その内容に対しての説得をすべきだな」



 俺の拙い説明で何とか幻日様の危険性とスリジエが勘違いで暴走している事を伝えると、ジトッとした眼差しになりながらもセウトはきちんと助言をくれた。


「スリジエ! 今日は一体何をしに幻日様のお屋敷へ向かうつもりなんだ?」


 声を張り上げて問いかけると、スリジエは『仕方ない子ね』と言いたげな表情をして足を止めてくれる。

 セウトの助言のおかげで、とりあえず足は止めさせられて一安心だ。


 何を言い出すか不安ではあるが。


「うふふ。実はね、今あの人は王都にはいないのよ? やっとあたしが立てたフラグが機能したの! だから、留守の間、家の中をあたしが綺麗にしといてあげるのよ! それで、帰ってきたら一緒に食べられるようにお料理作って待ってるの!」

 金色の目をキラキラと輝かせて「素敵でしょ!」と熱に浮かされたように語るスリジエはとても可愛い……。

 そこまで思った所で、少し前にアシュレーさんから貰ったブレスレットがひやりとした存在感を伝えてきて、冷水を浴びたかのようにはたと冷静になる。

 それとほぼ同時に、伸びてきたセウトの手が俺の腕を掴んでくる。

 指が食い込む程の強い力に、俺は目を見張ってセウトの顔を見る。

 そこにはからかうような色は欠片もなく、ただ心配するように思慮深さの滲む緑色の瞳がじっと俺を見つめている。

 わかってるぞ、セウト。俺が絆されないか心配なんだよな。

「俺は大丈夫だ、セウト。……スリジエ、留守の家に勝手に入るのはいけない事だ」

「いや、全然大丈夫じゃないだろ。何だ、その説得とは思えない説得は。どう考えても、あんなおかしな発言をしている相手に通じないだろう、それは」

 自信満々で口にした俺の精一杯の説得は、即セウトによってダメ出しを受けてしまった。

 確かに『他所の家に勝手に入っちゃ行けませんよ』的な説得では、あの状態のスリジエは止められないかもしれない。

 今度は俺が助けを求めてセウトを見る番だ。


 しかし気付くとセウトの助けをもらうまでもなく、あの宣言をした後再び歩き出そうとしていたスリジエが足をピタリと止め、じっとこちらを見ていた。

 その目は俺ではなく、セウトをジーッと見つめている。

 確かにセウトは整った顔立ちをしていてスリジエの好みだろうが、その目つきは見惚れているというより、細部まで観察しているとしか思えない。


「ねぇ、エノテラ。その人って、誰かしら?」


 ねとり。


 そんな擬音が聞こえそうな声音で、スリジエが俺へ今さらな問いかけをしてくる。

 視界の端でセウトがいかにも嫌そうな顔をして腕を擦っているのは、鳥肌が浮いたからか?


「……あのぐらいの年齢の少女がする表情じゃないな」


 そんな独り言が聞こえたが、俺の方はぐいぐいと詰め寄ってくるスリジエの相手でそれどころじゃない。

 前まではこうしてスリジエが詰め寄ってくると、頭がボーッとして酔ったような高揚した気分になったものだが、慣れたのか今はそんな事にはならない。

 だがスリジエの詰め寄ってくる勢いで若干気圧されてしまい、俺は引きつっている自覚のある笑みを浮かべながら、

「こ、こいつは、セウト。俺の親友だ」

とはっきり答える。

 少しどもったのはスリジエの勢いに驚いていたせいで、決してセウトを親友と表現する事に迷った訳では無い。

 セウトは口が悪い事もあるが、根はとても優しく、幼い頃から何度も俺を助けてくれたかけがいの無い友だ。

 仕方ない奴だと笑いながら助けてくれるセウトに俺は何度も救われ、俺もセウトとその妹の助けとなりたくて力をつけて、A級冒険者となった今の俺がある。



「え? ……ずいぶん冒険者っぽくないのね」



 どもった俺の様子など気にも留めないスリジエは、そんな事を口にしてセウトをしげしげと眺めている。

 意味がわからず首を捻る俺の横で、セウトは何か納得した様子でスリジエをひたと見据えている。

「つまり、本来の僕は『冒険者になる未来』だったんだな」

 感情の見えない平坦なセウトの呟きに、スリジエの表情がパァッと明るくなって、満面の笑顔でセウトを見る。

「そうよ! あなたもしかして冒険者になってないの? まったく、なんでストーリー通りにしてくれないのかしら……」

 セウトの言葉に、よくわかってくれたとばかりに声を弾ませたスリジエ。

 俺はスリジエが何を言いたいかわからなくてむくれられる事が多いのだがさすがセウトだ。

「……俺が冒険者じゃないと困るのか?」

「んー、そうね。エノテラのストーリーが上手く進まなくなるかもしれないわ。今からでも冒険者になりなさいよ」

 ビシッとセウトへ指を突きつけるスリジエはとても生き生きとしてキラキラしている。


 まるでそれが正しく、そうするのが当然とでも言いたげに。


 少し前までの俺なら、何も考えず疑わずに頷いていただろう。

 今は…………少し、あれ? となってしまい、すぐに頷けはしない。

 セウトはどうだろうと窺うと、貼り付けたような爽やかな笑顔を浮かべていて、俺は見た瞬間思わず逃げ出したくなった。

 この笑顔を浮かべている時のセウトはヤバい。

 今までの付き合いの長さから脳内で警鐘が鳴っている。

 しかし。


「…………そうだな。とりあえず、冒険者の素晴らしさを教えてもらおうか、エノテラの家で」


「いいわよ! あたしっていう最高の冒険者が冒険者の素晴らしさを教えてあげるわ!」



 逃さないとばかりにセウトに片腕を掴まれ、もう片方の腕はスリジエに掴まれてしまった俺に逃げ出すという選択肢は残されていなかった。





 とりあえず、幻日様のお宅へ突撃するという悲劇は防げたので、良かったんだろう、たぶん、きっと……。






 ──その頃、害虫駆除の準備をしていた魔法人形が、いつまでもその害虫が現れない事に首を傾げていた事を知る者は誰もおらず。






 その魔法人形が、突然帰ってきた創造主であり主人である赤い青年によって転移陣の安全性確認のために連れて行かれたなど、気付く者がいるはずなどなかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



出すか悩んだセウト。ついに出してしまいました。

ヒドインちゃんいる事ですし、タグに転生者複数といれるべきか悩んでいます。

あくまでも主役はジルだけで、添え物なんですが。


ヒドインちゃんは相変わらずです。


先に言っておきますが、ジルと仲良くなる可能性はほぼありません。

そして、改心とか絶対しません。

だって、自分が正しいと、自分がこの世界の主役だと思っているんですから。

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