379話目
狭量な主様。
「ジル、どうカしましタカ?」
急なプリュイの登場に戸惑っていたせいで俺がいつものように駆け寄らなかったので、プリュイを心配させてしまったようだ。
いつも通りてちてちという擬音付きで歩み寄ってきてくれたプリュイに、時間差で『会いたかった』という気持ちが湧き上がった俺は犬の背中から飛び降りようとして──察した熊から前足で捕獲されて、そのままプリュイへ手渡される。
「あ、ドウも」
俺を受け取ってお礼を言うプリュイ。
「がう」
うんうんみたいな感じで視線を交わし合って通じ合うプリュイと熊。
「……大丈夫なのに」
そう呟いてちょっと拗ねてる俺。
そんな俺達を見て、微笑ましげな表情でうほうほ笑っているお猿。
「ちゃあ?」
プリュイを見上げて、なんでコイツここにいるんだ? と不思議がるノワ。
ノワの一言で突っ込むべきことを思い出せた俺は、プリュイへギュッと抱きついて埋まりながら、そのつるりとした顔を見上げて訊ねる。
「なぁ、プリュイ。会えたのは嬉しいけど、どうやってここに? ずっとついて来てたのか?」
「……ソレは、幻日サマから説明シテもらいマス。ソンな事ヨリ、ジルの家族、紹介シテ欲しいデス」
俺にとってはかなりの驚きだったが、プリュイにとってはそんなこと扱いらしい。
まぁ、確かに俺も大好きなプリュイに大切な家族を紹介したいから、後回しで良いか。
そう切り替えた俺は、へらっと笑うと自らの胸を軽く叩いて大きく頷いてみせる。
「もちろん! まずは……」
一番最初は熊──ではなく、自分から紹介しろという圧をかけてきている犬を紹介し。
続いては一番お世話になっていた時間の長い、ある意味ママみ溢れる熊を紹介し。
お猿を紹介しようとしていたら、小さめもふもふな子達が突っ込んできたので、まとめて紹介する。
それで最後に「あらあら」と笑っているお猿を紹介して、森の家族達を紹介終了だ。
ケレンとカナフの二頭は今いないのもあるが、どちらかと言うと近所の仲良しお兄さんポジションなので、まぁちょうど来たら紹介するぐらいで良いかなと思ったりしている。
「皆サン、ジルの事ガ大好キなノデスね」
俺の家族達の自己紹介を聞いたプリュイは、そんな一言を笑顔と共に言った後、ワタクシも負けマセンから、と小声で呟いてて、俺は嬉しさと照れ臭さを誤魔化すためプリュイのひんやりボディに顔を埋める。
そのままうりうりと顔を動かしてプリュイと戯れていると、腰に誰かの手が触れて、そのままプリュイから引き剥がされる。
「ロコ」
誰かなんて濁さなくても相手は誰かわかっていたのだが、唯一無二の呼び名で確信を得てへらっと笑いながら腕の持ち主を見た俺は、軽く目を見張ることになる。
俺をプリュイから引き剥がした相手である主様は、珍しく不機嫌そうな表情をして自らの腕の中に閉じ込めた俺をじっと見ている。
「ロコ」
「えっと、おはよ、主様?」
俺の名前しか呼ばない不機嫌さんに困惑を隠せない俺だったが、とりあえず朝の挨拶をしてみる。
俺の挨拶に対して、うむという感じで軽く頷いてくれたが、主様の反応はそれだけだ。
もしかして、主様が不機嫌になるような緊急事態が発生してプリュイをここに呼んだのか? と思いついて、プリュイを振り返ろうとしたら、こちらを見ていろとばかりに顔を掴まれる。
頬がぷにっと潰されているので、今の俺はかなり間抜けな顔をしていると思うが、その顔の原因となっている主様の表情はぴくりとも動かない。
「ぬしさま?」
不明瞭な発音ながら呼びかけると、やっと主様の表情が動いて宝石色の瞳で俺をじっと見つめてくる。
「にゃに? おれ、にゃにかした?」
別にあざとキャラ狙って猫語を喋ってる訳ではなく、主様の手が離れないから少々喋りにくいのだ。
だから、視界の端で自分の真似をしているとドヤ顔でんにゃんにゃ鳴いている翼の生えた猫は、ちょっと静かにして欲しい。
ちらりと見ただけでそんな俺の気持ちが通じる訳もなく、んにゃんにゃ鳴き続けていた翼の生えた猫は、お猿によって連れて行かれてしまった。
おかげで静かになったことにホッとしながら見送っていたら、俺を抱く主様がやっと俺の名前以外の言葉を口にする。
「……何故、朝、私達の家でのように起きなかったのですか?」
「へ?」
しかし、結局その内容を理解出来ず、間の抜けた声を洩らして瞬きを繰り返すことになる。
つまり主様は俺が朝寝坊したから怒っているのか? としばし悩んで結論づけた俺は、なんにしてもまずは謝罪だよなと言葉を紡ぐ。
「ねぼうしてごめ……」
「何故、いつものように起きなかったのですか?」
俺の謝罪に対して食い気味に同じ質問を繰り返され、俺は驚いて目を見張り、恐る恐る主様の様子を窺い見る。
そこにあったのは怒っているというより、何かに困惑しているような迷子じみた主様の顔で。
その顔の意味はわからないが、怒っている訳では無いらしいと少しだけ安心した俺は、もう一度落ち着いて主様の言葉を思い出してみる。
いつものように。
私達の家でのように。
そう繰り返していたけれど、何が『いつもの』なんだろ?
確かに主様の家ではほとんど寝坊をせずほぼ毎朝早く起きられていたけど、実家だと気が抜けちゃって寝坊した件か? と悩んだ俺は、まずは主様の手をやんわりと押して解放してもらう。
そうしないと喋りにくいし、また翼の生えた猫を興奮させちゃうからな。
主様もそれほど力を込めていた訳でもないので、顔を掴む手はすぐに外されたのだが、視線は外れない。
「えぇと、朝寝坊したから怒ってるんだよな? 実家だから気が抜けちゃって……」
「それは、私達の家では安心出来ていないという事ですか」
俺の言葉を中途で遮った主様は、じとりとした暗い眼差しで俺を見ながらそんな予想外なことを訊ねてくる。
「わふわふん」
俺の反応が遅れてしまうと、俺の代わりとばかりに犬が笑い声混じりで「そんなの当然だろ」と主様をからかい始める。
さっきも言っただろとかも言ってるから、どうやら主様は犬にからかわれたせいで不機嫌だったようだ。
主様をからかう奴なんてほとんどいないもんな。
主様、からかわれるのに慣れてないんだろうなぁ。
主様の不機嫌さの理由がわかって微笑ましさからほっこりしていた俺だったが、俺を抱きしめる手に力がこもり始め、小さめもふもふな達が怯え始めたので慌てて主様をなだめに入る。
原因となった犬の方はというと、熊によって教育的指導が入ったので大丈夫だろう。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
ちなみに、朝方ジルヴァラが寝ている時に、主様と犬が寝顔を見ながらやり取りした結果、
「そりゃ、お前信頼されてないんじゃね?」
「警戒してるから眠りが浅くて起きるんだろ」
みたいな事を言われて、マジか!? となったという流れです(゜∀゜)




