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377話目

ジルヴァラ、ほとんど喋らない回です。




「ん……」



 眠りの中で主様の気配がした気がして目を開けた俺だったが、目に入ってきたのは薄茶色のもふもふのみ。

 しかも、何だか息苦しい。

 なんなんだと寝惚けた頭を必死に回転させていると、


「ちゃぁ……」


という可愛らしい声が聞こえてきて、色々と腑に落ちる。


 いつの間にかノワが俺の顔面に張り付いて寝ていたようだ。

 手を伸ばして熟睡して脱力しているノワを剥がすと、まだ周囲は暗いままだ。

 時計なんてないので正確にはわからないが、暗さ的に夜中の三時ぐらいだろう……と思う。

 落ち着きなくもぞもぞとしていると、俺が起きたことに気付いた熊が体勢を変えてうつ伏せで寝転ぶ体勢へと変わり、俺はその懐に抱え込まれる。

 ベッドな熊の寝返りで、俺の布団をしてくれていた小さい子達がころころ落ちたようだが、彼らはこれぐらいで怪我をしたりしないので心配はしてない。

 実際、すぐに何事もなかったように寝ぼけ眼で起き出した小さい子達は、揃ってきょろきょろと辺りを見回して俺を見つけると、俺めがけて熊の懐へと潜り込んでくる。

「がふ……」

 くすぐったいのか若干熊が困惑の声を洩らすが、小さい子達は気にした様子もなく再度俺の周囲を固めてすやすやと寝息を立て始めてしまう。

 周りから聞こえてくる穏やかな寝息と温もりに誘われ、俺は先ほど感じた主様の気配のことも忘れて目を閉じる。

 某国民的アニメの眼鏡の少年には負けるが、俺も寝つきの良さには自信がある。

 睡魔でふわふわとした頭の中、そんな誰へ向けてかわからない自慢をしながら、俺は再び穏やかな眠りの淵へと落ちていく。


「がう」


「きゃうきゃう」


「ぴゃっぴゃっ」


 寝たか、寝たね、寝た寝た、そんな動物達の楽しそうな声を子守歌にして。

[ショウジョウ視点]




 子猿を悪辣で卑怯なニンゲンによって殺され、喪失感と憎悪で狂いそうだったわたくしの前に現れたのは、聖獣様と守り役様。

 子を失ったわたくしを心配してくださり、様子を見に来てくれたのだと思う。

 そんなお二方は、とある存在を連れていて、わたくしは目を離せなくなる。



「うほ……」



『ニンゲンの子』


 わたくしは気付けばそう呟いていた。


 そう。


 守り役様の背中に乗せられていたのは、憎たらしいニンゲンの……産まれてそう時の経っていないように見える幼い子供。

 小さな手で守り役様の毛皮を両手でギュッと掴み、そこにちょこんと存在していた。

 黒い毛色の毛皮は頭にしか生えておらず、わたくしから見たら寒々しいとしか思えない姿。

 手も足も……何処もかしこも細く、わたくしが突いただけで死んでしまいそうな弱々しい存在。

 何故そんな存在がこの森の中に、と聖獣様を窺い見ると、『森の中に捨てられていた』と説明される。

 聞いた瞬間、目の前が赤く染まるそうな憎悪が湧き起こる。

 子を失ったばかりのわたくしには、子を捨てるなどという外道が存在するなど信じられない。

 抑えきれなかったわたくしの殺気で鳥達が飛び立ち、森の中がざわめく。

 聖獣様と守り役様が声をかけてくださっているのは聞こえたが、自らを焼く激情を持て余したわたくしを止めたのは、小さな小さな声。



「あぅ?」



 我が子とは違う。けれど、幼子特有の愛らしい声に、わたくしは声を発したニンゲンの子を見る。

 遭遇したニンゲンは、大概がわたくしを見て怯え逃げ惑う。それから外れるニンゲンは、わたくしを素材として見ているだけ。

 きっとあのニンゲンの子も、怯えて泣き出すだろう。

 わたくしはそう思いながら、守り役様の背にいる子を見る。


 ニンゲンの子は泣きもせず、不思議そうにわたくしをじっと見ていて。


 しばらく見つめ合った後、ニンゲンの子はゆっくりと月の光のような色をした瞳を瞬かせ──ふにゃふにゃと笑顔を見せた。

 一欠片の警戒心も見せる事なく、それどころかわたくしをじっと見つめてあぅあぅと可愛らしく鳴きながら手を伸ばしてくる。

 あんな短い腕ではわたくしに届くはずも無い。

 あんな頼りない足では立ち上がる事も出来ないだろう。

 それなのに、わたくしへ向けて必死に手を伸ばす。


「がう!」


 危ないぞと聖獣様が声をかけるのと、体勢を崩したニンゲンの子が守り役様の背中から落ちそうになるのは同時だった。



 その瞬間、何も考えず自然とわたくしの体は動いていて、気付いた時にはわたくしの両の腕の中にはあたたかく柔らかいニンゲンの子が抱かれていた。

 目を見張って動かない様子に、何処か痛めたのかと心配してしまったが、すぐぱちぱちと大きな目を瞬かせて自らを抱くわたくしを見上げ、またふにゃふにゃと笑う。


「あうー」


 嬉しそうにそう一鳴きしたニンゲンの子は、短い腕を伸ばしてわたくしの顔へと触れてくる。


『化け物!』


『なんておぞましい!』


『近寄るな!』


 わたくしを見たニンゲンは、そんな事しか口にしない。

 わたくしがニンゲンの言葉を理解しているとは知りもしないだろうが、恐怖で歪んだ顔で口汚く罵られるのが常だ。


「あうあうあうぅ」


 だが、このニンゲンの子は、楽しそうに声を上げて笑ってわたくしの顔に触れてくる。何を言っているかは全くわからないが。


「がうがう」


 守り役様は理解しているのか、わたくしにおとなしく抱かれているニンゲンの子へ『あまり背中で暴れるな』と注意している。

 その後、助けてもらったお礼を忘れてる、と守り役様から言われたニンゲンの子は、理解しているのかわからないがわたくしをまっすぐ見つめ、


「あうあ、あうー」


と言いながら抱きついてくる。


 わたくしの腕の中にあるのは、少し強く抱いただけで壊してしまいそうな柔らかく小さな、そしてあたたかい体。


 かつて失ったあの子ではない。けれど、一度失ってしまった温もりが帰ってきてくれた気がして。


 わたくしは今までした事もないほど必死に力加減をしながら、腕の中に収まっている小さな体を抱きしめる。

 怯えられるかと思ったが、腕の中のニンゲンの子は一瞬きょとんとした後、嬉しそうにきゃきゃと笑い声を上げながら短く頼りない手足をばたつかせる。

「うほうほ」

「あうー!」

 わたくしの言葉は通じていないはずのに、ニンゲンの子はまるで応えるように声を上げる。

 込み上げる愛しさは失った子へ向けたものなのか、わたくしにはわからない。

 今はただ、目の前で笑顔を向けてくれるこのニンゲンの子が愛おしい。

 あやすように腕の中の体を揺らしてやると、笑い疲れたのかすぐにうとうとし始めて、わたくしの腕の中で目を閉じて眠り始める。

 警戒心の欠片もない無防備な小さな体を再びギュッと抱きしめ、わたくしはその寝顔にそっと頬を寄せる。



 この子は決してあの子の代わりではない。


 

 ──でも、今度は決して誰にも奪わせない。



 そう強く思いながら。





 そう誓ったはずなのに、森へ侵入してきたモンスターによって作られた隙に、わたくし達の大切なあの子は森の外へ連れ出されてしまった。

 あの子はニンゲンなのだから、いつかは……と覚悟していたけれど、これは急過ぎる。

 連れ出したのは聖獣様の知り合いだというけれど、お腹を空かせて泣いてないかしら、寒くて震えてないかしら、と心配ばかりしてしまっていた。

 

 そして、今日。

 久しぶりにあの子に会えたのは嬉しかった、余計なニンゲン達とよくわからない生き物と一緒だった。

 あの子を可愛がってくれるならわたくしはニンゲンだろうとそれ以外だろうと我慢出来る。


 だが──。


 あの子に害をなすというなら、わたくしは……。



「お猿ー!」



 出会った当初よりはしっかりした声で、出会った当初と同じ顔をして笑いかけてくれる、わたくし達の可愛い『おちび』ちゃん。


 わたくしはいつも通り、完璧となった力加減で駆け寄っていた愛しい子を抱きしめるのだった。

 

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



熊視点かお猿視点か悩んで、お猿視点です。


ちなみに熊はぶっきらぼうだけど、ジルヴァラに甘々です(*´艸`*)

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