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376話目

主様が出てきたいと呪いをかけてたのか、難産でした(´・ω・`)




「敷き詰まってるなぁ……」



 火を怖がる動物もいるので火は焚かず、月明かりだけが光源の森の中では寝る時間も早い。

 洞窟の中は壁が仄かな明かりを零しているが、それも大した輝きではなく何とか色や輪郭がわかる程度しか俺の目には見えていない。

 そんな眠りの時間へ向かう洞窟の中、俺はそんな呟きを洩らして自分の周囲を見渡す。

 そこには俺の言葉通りの光景が広がっている。

 ベッド代わりの熊に座り込んだ俺の周りに敷き詰まっているのは、色とりどりで長さも毛質もそれぞれ個性的なもふもふな森の動物達だ。

 すでに微睡んでいる子もいれば、俺の方をじっと見ている子もいる。

 薄明かりの中のぼんやりとした光景だが、何故だかその光景だけは容易く見えてしまう気がした。

 記憶が実際のおぼろげな光景を補完してくれているから見えてるのかなと考えながら、地面に仰向けになっている熊に向かって後ろ向きのままためらいなく体を倒していく。

 主様宅のベッドよりは硬いが慣れ親しんだもふもふの感触にしっかりと受け止められた後、丸太のような腕で優しく抱き寄せられる。

 一振りで人間の頭なんて柔らかい豆腐のように砕いてしまう腕を持つ熊だが、俺を傷つけたことなんて一度もない。

 ノワもそれをわかっているのか、俺より先に熊の上でヘソ天してぷすぷすと寝息を立てている。

「……がう」

 あまりに豪快な寝方なせいで、ちょっと呆れた目でノワを見ている熊。それでも優しい熊は、ノワを振り落としたりはしない。

「熊が優しいってわかってるからだよ」

 熊の上でうつ伏せになった俺は、なんなんだこいつとボソッと呟いた熊のもふもふな毛皮に頬擦りしつつ、一応ノワをフォローしておく。

「……がうがう」

 お前の友だからだと視線を外してぶっきらぼうに答える熊。

「そっか、ありがと熊。大好きだよ」

「がうがう」

 俺の大好きの言葉に、自分も大好きだと即返されて照れ臭さと嬉しさから「ふへへ」と気の抜けた声が洩れてしまう。

 その状態でゴロゴロと身悶えしていたら、夜の見回りを終えて帰ってきた犬に心配されてしまい、延々と鼻先で匂いを確認されてしまった。



 数分後。



 熊の上で延々と犬の鼻先で転がされて目を回しそうな俺より先に、熊の方がキレてしまい、太い前足で犬の鼻先をどつく。

 大きく響いた鈍い音に俺の方がドキドキしてしまったが、犬は怒る様子もなく少しだけ不服そうに「ぐぅ」と喉を鳴らして、やっと俺を転がすのを止めてくれた。

 体を起こした俺は、熊の上を這うように移動して顔辺りにそっと触れて笑いかける。

「ありがと、熊」

 満足気に目を細める熊は聖獣の守り役のはずなのにそれでいいのかと一瞬思ってしまったが、出会った当初からこの二頭はこんな感じだったなと浮かびかけた突っ込みを飲み込んでへらっと笑う。

「ぐるる……」

 自分の方が偉いんだぞと拗ねた口調で訴えてる犬が甘えるように鼻先を寄せてきたので、熊の顔から手を離して、どつかれていた辺りを優しく撫でる。

 触った感じなんともなさそうなので、音が派手だっただけなのかもしれない。

 あとは、普通に犬が丈夫なのかも。


 一応、聖獣だし?


 なでなでと撫で続けているとぶんぶんと振られている犬の尻尾のせいで、小さな子達が背後でころころしたりしてるが、これはいつものことなので心配はしない。

 地面をころころしながら、楽しそうな笑い声が聞こえてきてるし、俺も楽しくなって思わずくすくすと笑う。

 俺も小さい頃は犬の尻尾にしがみついてころころされていたこともある。

 俺としては楽しかったんだけど、ころころされているところを熊とお猿に見つかって、犬は熊に連れて行かれてしまったので、危ないことをさせるなと怒られていたのかもしれない。



 内心での呟きだったので、今でも小さいだろという突っ込みは無かったが、熊が下から無言で俺をじっと見てきている。

「……わかったよ、もう寝るから」

 犬を撫でる手を止めて答えると、正解だったらしく熊の目が笑うように細められる。

 再びもふもふがっしりな体へと横たわって身を預けると、俺の布団になってくれようと数匹のもふもふ多めな子達が熊の体に這い上がってきて俺へ寄り添ってくれる。

 春間近とはいえ森の夜は冷える。

 主様の屋敷は全室暖房完備で肌寒さはほとんど感じなかったが、季節的にはまだまだ寒いので気遣いが嬉しい。

 そういえばと思うのは、この国だけなのかこの世界全体の話なのかはわからないが、日本と同じようにわかりやすい春夏秋冬が存在しているんだよなぁという今さらな事実だ。

 これであの乙女ゲームの中のように、暦が変わった瞬間に冬から春へ! 雪は一瞬で溶けます! とかなったら面白かったかもしれないが、さすがにそれはない。

 そんな違和感マシマシな仕様ではなく、普通にゆっくりと暖かくなっていって春になり、暑さを増して夏となる。


 動物達も季節の流れに合わせて恋の季節を迎え──……。


「がうがうがう」


 ちょっと頭良さげなこと考えてるぜ俺とか調子に乗ってこっそり笑っていたら、熊からさっさと寝ろと前足でぽふぽふと一定のリズムで叩かれる。

 慣れ親しんだ寝かしつけに、幼児な俺の体は抵抗出来ずあっという間にうつらうつらし始めてしまう。


「おやしゅみ、みんにゃ……」


 何とか口を動かして「おやすみ」を伝えた……つもりだが、きちんと伝わったかはわからない。

 けれど眠りに落ちる寸前そこここから優しい声が返ってきたので、ちゃんと伝わったのだろう。



「わふん」



『おやすみ、我らの可愛い子』



 そんな声を聞いた気がするのが、眠りに落ちる前の最後の記憶だった。

[視点無し]



「がるる……」


 大きな熊の上で動物達に囲まれた子供が寝息を立て始めると、聖獣と呼ばれる白い狼は洞窟の入口へ向けて低く唸る。

 それは『そこにいるんだろ』とでも言いたげな響きで、それが聞こえたのか唸り声の直後に赤い青年が堂々と姿を現す。

 白い狼がいるおかげか動物達は少し警戒して赤い青年を見るだけで逃げる素振りはない。


「がう」


 薄目を開けた熊は、赤い青年をちらりと見て一声鳴いたが、反応はそれで終わりだ。

 すぐ目を閉じてしまった熊だったが、丸太のように太い前足はしっかりと子供の体を包んでいる。

 赤い青年は無言のまま何を考えているかわからない表情で、じっとその姿を見ている。

 そのまま誰も何も喋らない時間が数分流れ、白い狼が焦れたようにぐるると低く唸る。

 赤い青年は白い狼の唸り声が聞こえていないかのように子供から全く目を離そうとしない。

「ぐる…………あー、通じてないのか、聞こえてないのか、無視してるのか!?」

 苛立ちを隠さない白い狼は、再度唸りかけて途中で文句を人の言葉へと変えて赤い青年を睨みつける。


「全部ですね」


 それがなにか? とでも言いたげな表情でやっとちらりとだけ白い狼を見て簡潔に答えた赤い青年に、子供と一緒にいた時のぽやぽやとした雰囲気は欠片もない。

 あるのは何処までもゾッとするような、まるで覗き込んだらそのまま引き込まれそうな──深淵を思わせるほの暗さ。


 それを嫌そうに見た白い狼は、深々とため息を吐く。


「昼間見た時は変わったのかと思ったが、やはり変わってないのか?」


 獣の顔でわかりにくいが、舌打ちでもしそうな程に表情を歪めて吐き捨てた白い狼に、赤い青年は両の口の端を上げてニィと笑う。



「……私は私だ。変わったように見えたというなら」



 そこで言葉を途切れさせた赤い青年が見ているのは、こんな騒ぎの中もピクリともせず熊の上ですやすやと眠っている小さな子供だけ。



「わかってんだろうな? うちのちびを泣かせたら、例えお前だろうと……」



 やっときちんと自分を見た赤い青年の瞳に、白い狼は軽く目を見張って、その言いかけた言葉は中途で途切れて霧散する。



「この洞窟の奥に転移陣を刻ませてもらいますから」



 白い狼の反応を気にした様子もなく、有無を言わせぬ口調で告げてぽやぽやと微笑んだ赤い青年の姿は暗い洞窟の奥へと消えていく。

 何でもない事のように赤い青年は口にしたが、転移陣とは文字通りどれだけ遠く離れた場所だろうが繋いでしまう、便利だがその分とんでもない技術のはず。

 なのに、暗闇へと消えていく赤い青年の表情にそんなとんでもない発言をした雰囲気は欠片もない。


 子供がいる辺りは白い狼の魔法によって仄かな明かりで包まれているので、夜の洞窟ながら明かりもなしに歩く事が出来るのだが、赤い青年が消えていった洞窟の奥は、普段使っていない場所なので魔法の影響下にはなく、普通の人間なら明かりも持たずに行動するのは困難だろう。

 しかし、赤い青年は自らの手さえ見えないような暗闇を前にしても昼日中の道を歩くように進んで行き、何の不自由も感じていないようだ。


「ちょ、ちょっと待て! 転移陣だと!? 何考えているんだ!」


 言われた内容が衝撃的過ぎたのか、固まっていた白い狼は、数度瞬きをしてから慌てたように赤い青年を追って動き出す。

 眠っている子供を慮っているのか小声で怒鳴るという器用な技を披露しながら、白い狼は赤い青年にまとわりつくようにして何とか止めようとしているが、赤い青年は止まらない。

 しばらく進んでちょうどよい場所を見つけたのか、やっと足を止めた赤い青年は、白い狼を見て不思議そうに首を傾げてやっと口を開く。


「ロコが喜びますから」


 先ほどとは違う蕩けるような微笑みと共に告げられた言葉に、白い狼は目を見張って赤い青年を見る。

 月明かりも届かない暗闇の中だが、双方夜目がきくのかきちんと見つめ合っている。


「……は? まさか、ちびがここへ来やすいようにするためだけの転移陣を刻む気かよ?」


 赤い青年の発言に呆れを隠せない白い狼だが、子供がここへ来やすくなるという事実が嬉しいのか、ふさふさの尻尾が暗闇の中ゆらゆらと揺れている。


「ならいい……」


「うほうほ」


 子供が簡単に来られるという利点で白い狼が赤い青年に許可を出しそうになっていると、様子を見に来たらしいショウジョウによって止められる。


「うほうほほうほほ」


「あ、あぁ、わかってる、わかってるから。……すまないが、この森へ来やすくなるので安全面から許可出来ない」


 困った顔をしたショウジョウから、穏やかな口調ながらビシッと言われた内容に、大きく頷いてみせた白い狼は赤い青年へそれを伝えて前足でたしたしと地面を叩く。

 ここにあの子供がいたなら、転移陣なんて刻んだら危険な相手の侵入を許してしまいます、とショウジョウの言葉を赤い青年に伝えただろうが、白い狼はそこまで赤い青年に気を使う気はないらしく自分の言いたい事だけを伝える。

 赤い青年はそんな扱いを気にした様子もなく、にこりと微笑んで両手を広げて、これでどうだ、と言わんばかりの表情をして白い狼とショウジョウを見やる。


「陣のもう片方は結界で守られた私の屋敷の鍵のかかっている奥まった部屋に。それを起動させるには、私の魔力を鍵とする予定ですが?」


 まさにぐうの音も出ない安全対策と言えそうな内容に、白い狼はちらりとショウジョウへと視線を向ける。


「うほ。うほほ、うほ」


「万が一があるかもしれない……確かにな」


 ショウジョウから細かい点の突っ込みをされたらしく、白い狼は独り言のように呟いて大きく頷く。

 赤い青年は表情を変えないまま、次の言葉を紡ぐ。

 その表情は、これを言えば納得するだろうと言わんばかりの自信に溢れている。



「私の許可がない者は通さないように。



 ──何より、転移陣を起動するのに必要とする魔力量を、只人ではそうそう用意出来ないと思うのですが?」




 子供がいたなら、主様ぽやドヤ顔してる、と独特の感想を抱いただろうが、ここに子供はいない。

 いるのは白い狼とショウジョウだけ。

 そして、赤い青年のこの言葉は決定打となり、いくつかの追加事項が出された後、人など踏み入る事のない聖獣の森の聖域とも言える洞窟の奥に、赤い文字で真円と、その中に複雑な文様が描かれた陣が出来たと知るのは、描いた張本人と許可した聖獣。


 それと、聖獣の守り役たる二頭の獣のみだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



決して主様の圧力に負けた訳ではなく、転移陣を森へ刻む展開は元から考えてました。


あえて転移陣に関して説明を長々書きませんでしたが、これはジルヴァラが知った際に色々質問してくれるでしょう。

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