373話目
おネエさんとレディ通じ合う。
「あっ! アシュレーお姉さんだ」
お猿に抱っこしてもらっていたため目線が高くなっていた俺は、いち早く森の中を歩いてくるアシュレーお姉さんを見つけて、ぶんぶんと手を振ってみる。
「可愛いお出迎えありがとう、ジルちゃん」
小さく手を振り返してくれたアシュレーお姉さんは、近寄って来てお猿と何事か目線を交わし合っている。
レディな部分で通じ合うものがあるのかなぁとアシュレーお姉さんとお猿を交互に見ていると、アシュレーお姉さんからくすくすと笑われてしまう。
「ジルちゃん、可愛らしいけど、紹介してもらえるとお姉さん嬉しいわ」
「はい! お猿はお猿で、とっても優しいレディなんです。お猿、この人はアシュレーお姉さんっていって、お猿と同じぐらいレディで、強くて優しいんだよ」
アシュレーお姉さんにお猿を、お猿にアシュレーお姉さんを紹介して、二人(?)が仲良くしてくれたら嬉しいなぁという気持ちを込めて笑っていたら、お猿から柔らかく抱きしめられる。
ちなみにお猿の全力ハグは大木が簡単に折れるので、俺を抱きしめるにあたって相当気を使ってくれていると思う。
俺を抱きしめて頬を寄せた体勢で、お猿がアシュレーお姉さんに自己紹介をした。
「うほ」
「アシュレーよ、ジルちゃん大好き仲間としてよろしくね」
通訳するまでもなく、アシュレーお姉さんはお猿が何を言ったかわかったかのような挨拶を返して微笑む。
それを見たお猿は嬉しそうに笑い返し、俺がいかに可愛い幼児だったかを語り出した。
「うほほ、うほ」
ちょっと恥ずかしくて通訳するのを躊躇っていたのだから、アシュレーお姉さんは普通に、
「そうよね、ジルちゃんは今も可愛いから変な虫がつきそうで大変なの」
なんてピンポイントな相槌を返している。
視線を交わして笑い合っているし、なんか通じ合っちゃってるようだ。
仲良くなる分には悪いことなんて何にもないので、うふふ、うほほ、と笑い合っているアシュレーお姉さんとお猿を見ながら、俺もへらっと笑っておく。
俺がへらへらと笑っていると、主様から「ロコ」と呼ばれ、パッと顔をそちらへ向ける。
犬や熊やお猿が呼ぶ「ちび」も特別だけど、主様だけが呼ぶ「ロコ」は一等特別だ。
たぶん反応する速度でバレバレだとは思う。
お猿を警戒させるからと距離をとってもらっていたのだが、いつの間にかかなり近くまで来ていて、そこでそわそわぽやぽやしている。
「お猿、主様も紹介させてくれよ。えっと、俺の大好きな……相手だから」
大好きな『人』ではないかと、ちょっとだけ言い淀んだりもしたが、主様大好きな気持ちだけは存分に込めてお猿へ主様を紹介する。
「うほうほほ……」
「え……、お猿も犬みたいなこと言うんだな。髪の色は夕陽色だし、瞳は宝石みたいで綺麗だろ? それに強いけどちょっと抜けたところもあって、可愛いんだよ?」
心配性なお猿は「そいつは危険」と盛んに訴えてくるが、俺は手を伸ばして主様の頬に手を添えながら主様の良い所と可愛い所を説明してみる。
主様はというと、我関せずなぽやぽや顔で頬に添えられた俺の手に高速で頬擦りしているが、それで主様の機嫌が直るならいいかと放置一択だ。
「……うほ?」
俺渾身の主様アピールが効いたのか、本当に? と呟いたお猿の眼差しが変わった気がする。
警戒の眼差しから、なんか呆れたような感じに……。
ま、まぁ、警戒心が薄れて打ち解けたってことで良いよな、たぶん。
●
お猿の腕から主様の腕へ移動して、主様にも慣れてきた小さめもふもふ動物達を抱えてもふっていると、犬と一緒に帰って来たカイハクさんが視界に入る。
カイハクさんは一人ではなく、縄でぐるぐる巻きにした二人の男を連れていた。
生気のない虚ろな表情をした二人の男は、こちらを見た瞬間ビクッとなって「ひぃ~っ!」と悲鳴を上げ、それぞれ別方向へ逃げ出そうとする。
しかし、男達は縄で繋がれていたため、つんのめるようになって引き戻されぶつかり合い、もつれあって地面へ転がる。
悲鳴を上げて転がった男達に驚いて、動物達が俺の腕の中から逃げ出し、お猿の後ろに隠れてしまう。
確かに安全性では俺の腕の中よりお猿の後ろの方が安全なので、そちらにいてくれた方が俺も安心だ。
男達はというと、それでも芋虫のように地面を這って逃げ出そうとしていたが、アシュレーお姉さんは慌てる様子もなく優雅な足取りで近寄っていく。
うふふと艶やかに微笑んだアシュレーお姉さんは、グッと上体を倒して男達へ顔を近づけて口を開いた。
「逃げると、あの『レディ』に追いかけられるわよ」
小声だったのでアシュレーお姉さんの声はほとんど聞こえなかったが、逃げると云々みたいな言葉が途切れ途切れに聞こえてきて、男達は壊れた人形みたいにガクガクと首を縦に振り始める。
男達を見下ろしながらアシュレーお姉さんがちらりと色っぽい流し目を向けるのは、さらわれて帰って来た小さな子達を世話しているお猿だ。
お猿もアシュレーお姉さんの流し目に気付いて、うふふと笑い返してウィンクをしている。
アシュレーお姉さんとお猿はすっかり通じ合って、仲良しで俺も嬉しい。
俺がほっこりして笑っている間も、主様は俺の頬をもちもちと揉んで満足そうにぽやぽやとしている。
俺はもう色々諦めてされるがままになりながら、おとなしくなってしまった男達の顔を見る。
せっかく保護されたんだから、おとなしくして一緒にいれば無事に森から出られるのにな、と思いながら。
恐怖に染まったその顔には見覚えがある気はしたが、何処で見たかは思い全く出せない。
大したことじゃないかと思考を放棄した俺だったが、近づいてきたお貴族様が、
「わしが商人に頼んで雇わせた冒険者と雑用係だ」
と驚きの声を上げたことで先ほど逃げ出した男達だと気付いたが、やはりどうでも良いことだったので男達から視線を外して、少し気遣うような表情をした主様にへらっと笑顔を向けておくのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
証拠用に生かされていた奴らです。
お猿はちゃんと手加減の出来る淑女ですから(*´∀`*)




