372話目
感想ありがとうございます!
プリュイとどちらがママみ強いかなぁと悩んでます(笑)
今回はジルヴァラ出番無しです。
[カイハク視点]
時間は少し遡り。
「うちのちびが寝てる間に済ませるぞ」
ジルヴァラくんが育て親の熊に寝かしつけられたの確認した聖獣様から声をかけられ、私はアシュレーさんを伴って聖獣様の後をついて行く。
ジルヴァラくんなら背中に乗せてもらって移動しているのだろうが、さすがに私達が聖獣様に乗せてもらえる訳はなく、自分の足で駆けて聖獣様について行くしかない。
「聖獣サマ、一つ質問して良いかしら?」
「なんだ」
見た目は細身の麗人ながら、凄腕のA級冒険者のアシュレーさんは息切れ一つせず、聖獣様の横で並んで走りながら話しかけている声が聞こえる。
そして、聖獣様が気軽に応じる声も。
アシュレーさんが聖獣様に無礼を働く訳はないが、何を質問するかは気になった私は無言で耳をそばだてるのみだ。
「聖獣サマ。ジルちゃんは、本当にただ森へ捨てられただけなのかしら?」
それは私も気になっていた事で、思わず息をひそめる。
「それは、我への捧げ物ではないか、という意味か? それとも、特別な存在で我が保護しているとでも?」
ピンッと立てた耳を動かし、目を細めてアシュレーさんを見る聖獣様は、気分を害した様子はなく楽しそうに笑っているようだ。
アシュレーさんがジルヴァラくんの味方だとわかっているからの反応だろう。
「両方の意味ね。いくら生まれた頃から動物達と過ごしていたからといって、初対面のテーミアスやロック鳥と普通に会話出来るとは思えないもの」
肩に乗せているテーミアスの他に、ジルヴァラくんにはロック鳥の知り合いもいるという衝撃の事実を知った私が密かに頬を引きつらせる中、聖獣様は愉快そうに笑い声を上げている。
「そういえば王都近くの森にはロック鳥がいたか。ロック鳥なら、この森にも住んでいるぞ」
聖獣様の言葉が聞こえたかのように、遠くから何かの鳴き声が聞こえてくる。
まるで挨拶でもするような軽やかな声は、何度か対峙した事があるロック鳥の声に似てはいる。
こちらは、とてもとても楽しそうな声ではあったが。
アシュレーさんも鳴き声でロック鳥だとわかったのか、軽く目を見張って声の聞こえた方向を見ている。
「そう警戒しなくとも良い。ここに住むロック鳥は、うちのちびとも仲が良い。森の中では上手く飛べず、オーガ相手に後れを取ったと反省していたがな」
警戒する私達を見た聖獣様は、楽しそうに笑いながらそんな話をしてくださったが、私は無言でほほ笑んで返すしかない。
「そうねぇ。ロック鳥が本気で飛ぼうとしたら森の木々をなぎ倒して飛ぶしかないものね」
走りながらも頬に手をあててしなを作って普通に相槌を打てるアシュレーさんには感心するばかりだ。
「──今も、不埒な人間を突けなかった、と残念がっているな」
そしてロック鳥の鳴き声が楽しそうに聞こえていたのは、私の完全な思い違いだったらしい。
ロック鳥自体を見る事は叶わなかったが、鳴き声はその後も何度か聞こえ、その度に聖獣様が通訳をしてくれた。
「ちびに会えなくて残念だ、と言ってる。次はアイツを置いてこい」
アイツが指すのは、思いがけずに同行となった貴族男性──ではなく、十中八九幻日様の事だろう。
どうやらロック鳥は幻日様を警戒して姿を現さないらしい。
「卵が孵ったら王都まで行こうか、と言ってるな」
抱卵中なら仕方ない…………とんでもない事を言われて、走りながら一瞬思考が飛んでしまった。
確定ではないので、その際はジルヴァラくんに全力で止めてもらおうと、今回はあえて聞かなかった事にしておこう。
それからしばらくして再度響いたロック鳥の鳴き声に、聖獣様の走る速度が緩む。
「……どうやら、捕まったようだな」
呟いて足を止め、いわゆるおすわりの体勢となった聖獣様は、くくっと笑いながら視線を森のある一点へ向けている。
私達も聖獣様に続いて足を止め、聖獣様が見ている方向をじっと見る。
ガサガサと藪を掻き分ける音が聞こえて来たかと思うと、二足歩行をする人影のようなものが見え、私は咄嗟に剣の柄に手をかけてしまう。
「……駄目よ。殺気を抑えなさい」
剣を抜こうとする私の手を止めたのは、やんわりとしたアシュレーさんの声と、それにそぐわない物理的に力強い手だ。
「聡い人の子だ。アレは人を憎んでいる。殺気など向けようものなら、我でも止められない」
にやりと笑った聖獣様の言葉に、どうやら私はアシュレーさんのおかげで命拾いしたのだと悟る。
「……ありがとう、ございます」
「うふふ、どういたしまして。──まぁ、あれはアタシでもちょっと殺気を飛ばしそうだったから仕方ないわ」
冷や汗を拭って感謝を口にすると、アシュレーさんからは悪戯っぽく返される。
私が気に病まないようにと気遣いも出来る素晴らしい人だ。
私達がそんなやり取りをしている間にも、アレと呼ばれた存在はゆっくりと近づいて来る。
緊張しそうになる私の横で、アシュレーさんは動揺すら見せず微笑んでいる。
「……恐ろしくないのですか?」
「そうねぇ。ブチギレたドラゴンよりは可愛いかしら」
思わず小声で訊ねると、アシュレーさんからは薄い微笑みと共にそんな答えが返ってきて、潜ってきたであろう修羅場の数の差を思い知らされる。
「うほ」
恐ろしい見た目とは裏腹に、落ち着いた声音で聖獣様へ話しかけるのは──。
「やっぱりショウジョウだわ。とても知性が高く、出来れば敵対したくないモンスターよ」
「ショウジョウ……。恥ずかしながら、初めて聞く名前のモンスターですね」
はっきりと確認出来るようになった相手を見たアシュレーさんが、モンスターの説明をしてくれる。
「そうね。とても珍しいモンスターだわ。アタシも遭遇した事はあるけれど、倒した事はないもの。森の中ではドラゴンより嫌な相手かもしれないわね」
ショウジョウの見た目は少し細身の茶色い体毛の猿系のモンスターだが、その目には深い知性と穏やかな色が浮かんでいて、とても恐ろしいモンスターには見えない。
その全身が赤黒い液体でテラテラと濡れているのを見なければ、だが。
ショウジョウは荒ぶる様子もなく、手にしていた何かをこちらへ掲げて見せる。
「…………ご協力、感謝いたします」
何を言うべきか悩んだが、良い言葉は思いつかず、当たり障りのない言葉を選んで口にする。
ショウジョウは気にした様子もなく、手にしていた物体を私達に向かって放り投げてきた。
面白いぐらいころころと転がるのは、こぼれんばかりに目を見開いてこちらを見ている男の頭だ。
「一人二人、念の為残してあるらしいが、そいつは駄目だな」
聖獣様の説明を受けながら、血を通さない布で男の頭をしっかりと包み込む。
その際に目が合った特徴的な髭のある顔は、あの貴族男性を唆し、自分の都合の良いように動かしていた商人だ。
「……何故でしょう? これが主犯格だからでしょうか?」
確かにかなりの極悪人だが、そいつは駄目という聖獣様の言葉の意味がわからず、私は布で包んだ頭をアシュレーさんに手渡しながら視線を聖獣様へ向けて訊ねる。
「まぁ、それもあるが、それぐらいなら裁きは人間に任せればいい。罪の多さからすれば、勝手に首と胴体が離れるだろ? だが、ソレは我らの逆鱗に触れた。──許せる訳がないだろう?」
表情のわかりにくい獣の顔ながら、聖獣様が笑う様は怖気が立つほど美しく、私は状況も忘れて目を奪われてしまう。
「逆鱗、ね。もしかして、ジルちゃんかしら? 道中、やたらと見ていたものね。そういえば、話がそれてしまったけれど、ジルちゃんは……」
アシュレーさんの問う声に、私はハッとして緩く頭を振って聖獣様の反応を窺う。
「あのちびは森に愛された子。それだけだ」
「うほ」
私達の視線を受けた聖獣様とショウジョウは、揃って柔らかい表情を浮かべていて、そんな言葉を返される。
「──ちなみになんだけど、コレなにをしようとしてたのかしら? 答えによっては、色々追加で追及しないといけないのだけど」
「そうですね。繋がっていた相手は多そうですから」
『コレ』呼ばわりされた商人が違法に手に入れていた動物達を売り払っていた相手が、あの騙されやすい貴族男性だけとは思えない。
「…………うちのちびを好き者な相手に売るつもりだったらしい」
口にするだけで怒りが込み上げているのか、聖獣様の方からぐるるるという地の底から響くような低い唸り声が聞こえてくる。
怒りを向けているのはこちらではないとわかっているが、正直生きた心地がしない。
「うほうほ」
まるで淑女が上品に笑っているような仕草を見せるショウジョウが何事か口にし、聖獣様から「よくやった」と誉め言葉を賜っているのを遠い世界のように眺めながら、私は帰ってからも忙しそうだと軽く現実逃避するのだった。
その後、ショウジョウは一足先にジルヴァラくんへ会いに行くと言ったようで、アシュレーさんが「血を流してからいかないと心配されるわ」と助言して感謝される一幕があったりしたが、ショウジョウのおかげで手を煩わされる事がなかったのは幸いだと思う。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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溢れ出すアシュレーお姉さんの最強感(*>_<*)ノ




