370話目
本日2話更新です。
こちらは、2話目です。
ちょいグロなので、苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
[商人視点]
私は王都でかなりの知名度のある商店を経営する商人だ。
順風満帆な経営ではあるが、目障りな商店が一つある。
最近頭角を現してきた店で、目障りな理由は、店主が調子に乗った小生意気な若造なのだ。
確か店主の名前はアモルとかいったか、とにかく目障りなのだ。
私は目障りな若造を叩き潰すため、店を大きくしようと少々後ろ暗い事に手を出してしまった。
その結果、儲けは大きかったが、後ろ暗い者達の繋がりが出来てしまったが……儲けの前には小さな事だ。
最近の儲け話の相手は、少々頭の足りていないお貴族様だ。
偉ぶった態度の典型的なお貴族様で、おだてればいくらでも金を払う、扱いやすい相手だと思っていたのだが……。
実際、金払いは悪くない。
しかし、普通のお貴族様が興味を持つような女子供をいたぶる遊びには嫌悪を示す。
興味を示すのは、珍しい生き物のみ。
ならばそれを捕らえて売りつけようとしたが、正当な取り扱いのものでないと買う気はないと断られる。
このままでは大損をしてしまうと、役人に袖の下を渡して、正当に保護された動物達だと書類を作らせて何とか買わせる事が出来たのだが……。
次は学習し、一度捕まえた動物達をわざと保護させて、そこへ一枚噛んでお貴族様へ買わせる予定だった。
あの数の扱いの難しい動物達を移送して逃がす事など、するはずも出来るはずもないと高を括っていたのだが……。
それがまさか冒険者と騎士を護衛につけ、聖獣の森への移送からの解放を実行するとは、夢にも思わなかった。
慌てた私は、お貴族様を焚き付け、『冒険者は所詮平民、きっと金に目が眩んで動物達が酷い目に遭わされる。その前に買い戻すよう話をつけなければ』と動物達を正当に取り戻そうと画策した。
道中、接触して動物達を買い戻そうとしたが、堅物そうな騎士はとりつく島もない。
このままでは、お貴族様から前金で受け取っている仲介料を返さなければいけなくなる。
本当に馬鹿過ぎるお貴族様で、興味を惹かれたからと、あの化け物のような幻日相手に接触しようとして騒動を起こした時は、正直放り出したかった。
その後、裏の仕事の相棒である冒険者達に指示を出し、馬車の中から動物達を奪う作戦を練った。
幸いにも御者の一人は私の息のかかった者だったため、動物達の乗る馬車の速度をわざと緩めさせるまでは順調にいったのだが……。
結局、役立たずの冒険者が連れ出せたのは猫一匹。それすらも何者かに襲われて奪われるという体たらく。
私は、作戦の変更を余儀なくされ、余計な金を払って馬を使い潰し、騎士達の先回りをする事にした。
ちょうどあの役立たず共も足止め程度には役に立ってくれた。
狙うのは聖獣の森へ動物達を解放した直後だ。
どうせ入り口辺りで適当に逃がす事を『きちんと保護して解放』と宣うだけだ。
そこをまたごっそり捕まえ、お貴族様には『森に適応出来なかったようで保護しました』と売りつける。
騎士達は逃がした後の動物達の行方に興味などないだろう。
万が一、逃がした動物達と同種な事に気付かれ、疑われたとしても証明出来はしない。
私は堂々と、
「道中で捕獲いたしまして……」
そう宣うだけで良いのだ。
確認など誰にも出来やしないだろう?
動物と話せる者など存在しないのだから。
それが出来なかったとしても、きっとあのお貴族様は聖獣の森へ入りたがるだろう。
上手く誘導して奥まで連れて行けば……。
どうせそろそろ潮時だと思っていた。
お貴族様本人は間抜けで愚鈍だが、周囲はそうではないらしく、日に日に私を見る目が厳しくなってきている。
今回の件も、かなり引き留められてしまい、勤め始めたばかりの使用人を一人だけ連れて抜け出して来たと言っていた。
帰ったら下手をすればこちらへ不都合があるかもしれない。
ならば、お貴族様には森で行方不明になってもらえばいい。
私の言う事を聞かず、珍しい動物がいたと奥へ入って行き、見失ってしまった。
これでいこう。
道中何があろうとも自己責任で私に咎はないという契約は出発前に交わしている。
死人に口なしだ。
あのお貴族様を助ける可能性があるとすれば、騎士達とあちらの冒険者ぐらいだろうが。
騎士達はともかく、顔だけは良い女言葉の弱そうな冒険者とガキの冒険者には態度を悪くとるように唆した。
そんな態度をとったお貴族様を助けようとは思わないだろう。
鬱蒼とした森の中。
私は、護衛として雇った冒険者と、使用人に囲まれてよろよろと走っていた。
しばらく走り続け、足を止めて周囲を窺って安堵の息を吐く。
「よ、よし、予定は狂ったが、聖獣の森の生き物なら、どれでも高く売れるから構わない」
当初の予定では森の奥でわざとお貴族様とはぐれるつもりだったが、あんな巨大な熊がいるのは予定外だった。
だが、あれだけ巨大で恐ろしい熊だ。
足手まといのお貴族様など、すぐ殺されてしまうだろう。
唯一気になるのは、幻日などという大層な二つ名で呼ばれていたあの麗人だが、見た目がいくら美しかろうが獣相手には無意味だろう。
雇ってやった冒険者は、やたらと怯えているが、あんな細身の男の何を恐れているのか。
あぁそうだ。
綺麗な姿で生き残っていたら、恩着せがましく助けて、売り物にするのも良いな。
冒険者のガキの方も、ここの森の出身だというからには、上手く逃げて生き延びるかもしれない。
黒髪に銀目はなかなかに珍しく、見た目も悪くなかった。
アレも捕まえて、好き者で金払いの良い相手へ売りつけるのも……。
そんな明るい未来を思い描いていた私の耳に、周囲を囲む使用人達の小さな悲鳴が聞こえてくる。
「どうした? 虫でも出たか?」
声を掛けたのだが、使用人達はこちらを見る事もなく、ガクガクブルブルと震えながら何処かを見つめている。
視線の先にいたのは、後ろ足で立ってこちらを見つめているイタチに似た愛らしい動物だ。
「何を怯えているんだ」
先ほどの熊に追いつかれたならともかく、どう見ても怯えるような相手ではない。
呆れを隠さない私に、使用人の一人がぶんぶんと首を横に振り、ガクガクと震える手である一点を指差す。
そこには──。
「ひぃぃーーっ!?」
まず見えたのは滴る赤色。
それがグシャグシャとなって原型を留めていない人間だと、
まるで洗濯物のように枝にかけられて血を滴らせる人間だと、
私を護衛してくれているはずの冒険者の成れの果てだと、
壊れたように悲鳴を上げながら、理解してしまった。
理解出来てしまった。
──聖獣の森を甘く見た私は、ここで死ぬのかもしれない、と。
「い、嫌だぁ!」
私の悲鳴をきっかけに、散り散りになって使用人達が逃げ出していく。
「ま、待ってくれ……っ!」
腰が抜けて立てなくなった私を誰も助け起こしてくれない。
木々の間から重い足音と共にゆっくりと近づいてくるのは、二足歩行をする生き物の姿。
助けが来たのかと一瞬湧き上がった歓喜と希望は、すぐに絶望一色に染まる。
はっきりと見えるようになった相手は、確かに二足歩行ではあったが人ではなく、茶色い体毛に覆われた巨大な猿のような生き物だった。
こんな状況でも知性を感じさせる瞳は、明らかな殺意を滾らせて私を見つめている。
そして、その両手には引き千切られた人だった肉塊が握られている。
「がぅあ!」
まるで「ぶち殺してやる」とでも言っているような怒気に満ちた吠え声に、下半身が濡れていく感覚がある。
しかし、そんな事を気にしている場合ではない。
這ってでも逃げなければと必死に手足を動かす。
無様だろうがこんな所で死ぬ訳にはいかない。
何としてでも私だけは生き残って──。
それが私の最期の記憶だった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
はい、久しぶりの真っ当ざまぁでした(*´艸`*)
悪人は何の躊躇いもなくグチャッと出来るから良いですよねぇ(え)
私の筆力では大丈夫でしょうが、万が一気持ち悪くなってしまいましたら、申し訳ありませんm(_ _)m




