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369話目

本日2話更新となります。


こちら1話目です。


出来ればこちらからお読みくださいm(_ _)m




「……森にいる間は、少しその毛の塊を優先しても良いです」



 しばらくしてから、かなり不承不承な感じで主様がそう呟いた。

 主様と犬の間でやっと話し合いが終わったらしい。

「ありがと、主様! 犬ーっ!」

 主様が離してくれたので、伏せて待ってくれている犬へ駆け寄って遠慮なくもふもふの海へと飛び込む。

「犬の匂いだぁ」

 遠慮なくくんかくんかと匂いを嗅いでいると、少しだけ嫌そうにぐると唸る声が聞こえてくる。

 それでも俺の好きなようにさせてくれる犬。

 なんだかんだ優しいよな、犬も。

 俺が白いもふもふの中に顔を埋めていると、犬は体を丸めるように体勢を変えて包み込んでくれる。

「ふふ、こうやってもらうのも久しぶりだな」

「わふわふわふ」

 お前が勝手に出て行ったからだろ、と拗ねたような声で文句を言われるが、人の言葉を使わなかったのは聞かれたくないからか。

「うん、ごめんな。こうやって、また会えて嬉しいよ、犬」

 お腹辺りにしがみつくようにしてぎゅうぎゅうと抱きついていると、お貴族様が熊へ話しかけている声がやけにはっきりと聞こえてしまう。



「先ほどから犬と呼んでいるように聞こえるのだが、聖獣様は狼なのではなかったか?」



 俺に聞こえたということは、もちろん犬にも聞こえていたらしく、俺が目を見張るのと抱きついている犬の体がビクッと大きく揺れるの同時で。



「いぬ、せいじゅうさまなの……?」



 驚いたせいでやけに拙い口調になってしまったが、何とか訊きたいことを口に出す。


「余計な事を……っ」


 俺の問いかけに答えた訳ではなさそうだが低く響いた唸り声のような声に、お貴族様が「も、申し訳ございませぇん!」と叫んでるのが聞こえてくる。

 お貴族様半泣きなんじゃと思ったが、そちらを見る余裕もなく、俺は犬のもふもふな毛皮に埋まったまま、じっと犬の顔を見つめる。

「わふわふ」

 自分はお前だけの犬だ、と聞きようによってはかなり問題のある発言をした犬は、ベロベロと俺の顔を舐め回す。

「もう、くすぐったいからやめろって! わかった、わかったから!」

 つまりは自分は聖獣じゃないし、狼でもないし、今まで通り犬として扱っても良いぞって意味なんだろう。



 俺は本当のことに気付いてしまったが。



 とんだ茶番かもだけど、俺と一緒にただの犬として過ごす時間が好き……って自惚れても良いのかな。

 そんな意味を込めて犬をじっと見つめ、へらっと笑って見せたら、生意気だとがぶがぶと甘噛みされる。

 自分じゃわからないけど、見た目的には捕食されてるように見えるかも。



「ひぃ〜っ!?」



 あ、またこのタイミングで目を覚ましちゃったらしい、あの間の悪い女の人の悲鳴が聞こえ、すぐ静かになる。

 あらあらとユリアンヌさんの声が聞こえてくるから、三度目の気絶をしちゃったぽい。

 二度あることは三度あるって言うけど、実践しなくたって良いのにね。



「さすがジルちゃん、慣れてるのね」


「どう見ても捕食中なんですが……」



 保護者組なアシュレーお姉さんとカイハクさんから苦笑い混じりの感想が聞こえる頃、やっと甘噛みが終わり、犬がふふんっと鼻息を洩らす。

 ドヤッとした犬が見ているのは、すんっと表情を抜け落ちさせて佇む主様だ。


「……後で覚えてろ」


 それは俺への言葉なのか、犬へものなのか。


「本当に心が狭い男だ」


 犬がポツリと呟いた言葉は、人の言葉だったのでたぶん主様へ向けたものだろう。

 睨み合う主様と犬の雰囲気は、なんか腐れ縁の友人みたいな気安さがある気がして、深く考えず犬へ問いかけてみる。

「主様と犬って、俺を森から連れ出す前に挨拶した時が初対面じゃないのか?」

「……わふん」

 まぁなと気の抜けた感じの反応なのは、それ以上喋る気がないということだと思うが……。

 気になった俺が無言でじっと見つめると、犬はふいっと視線を外し、滅多に触らせてくれなかった尻尾で俺の気を逸らそうとしてくる。

 誤魔化す気満々の犬の行動だったが、俺には効果てきめんで。極上の触り心地に逆らえず、全身でもふもふを堪能する。

 俺が大人しくなったのを見計らったように、酷く冷ややかな犬の声が聞こえてくる。

「心配するな。この世は弱肉強食だ。人が動物を狩る事を責めたりはしない。──今回のように卑怯な手を使い、不当に痛めつけるというなら別だが」

 いつもわふわふ言ってる犬とは別物に聞こえてしまう人の言葉で。

 もふもふに包まれてその表情は見えないが、きっと聖獣らしい凛々しい姿でアシュレーお姉さんと騎士さん達へ見せているんだろう。


 犬は本当は犬じゃなかったけど、俺の前では犬のままで良いと。


 犬の尻尾にしがみつくようにえへへと笑っていた俺は、あやすようにゆらゆらと揺れる尻尾に揺られ、あっという間にうつらうつらと眠気を誘われてしまう。


「わふ」


「がう」


 そんな俺を見て、熟年夫婦のような短いやり取りをした犬と熊。


 うつらうつらとしていた俺の体は熊へと預けられ、何処かへ運ばれる。たぶん子熊のように襟首を咥えられて、ぶらんぶらんと。

 運ばれた先は、俺が熊と一緒にずっと住んでいた洞窟の中だ。

 うっすらと開けた目で懐かしい我が家を確認した後、俺は熊のどっしりとした体に包まれて眠りに落ちるのだった。

[オズ兄視点]



 立ち上がればオレでも見上げるような巨大な熊によってジルが運ばれていき、残されたのは白い犬──ではなく、白き狼。


 それと対峙するオレを含め人間が数名。


 幻日様はいつも通り……ではないか。

 ジルを連れて行かれたせいか、かなりピリピリしている。


 ジルから「犬!」と呼ばれて尻尾を揺らす、大きな犬に見えない事も無かった人懐こい存在は、そこにはいない。

 ジル相手に人懐こさを感じさせていた雰囲気は霧散し、白き狼を聖獣たらしめる神々しさが対峙するオレ達人間を威圧するようだ。

 金に輝いて見える瞳でオレ達を順番に見据え、最後にカイハク副団長で視線を止めた白い狼──聖獣様はゆっくりと口を開く。

「うちのちびに気を遣ったか? 先ほども言ったが、この世は弱肉強食だ。報復などする気はない、今回の件に関しては、だがな」

「……寛容なお心に感謝を」

 低く響く声に物理的な圧力すら感じる中、カイハク副団長は顔色一つ変えず返して深々と頭を下げる。

 聖獣様の発言から、何故囚われた動物達を返す旅路にカイハク副団長が随道したかを今さら悟ったオレは、反射的に同僚達へ視線を向けてしまう。

 反応は二つ。

 マヒナとホークーは、双子らしくよく似た驚き顔でオレを見返し、マジかと口を動かして声なく紡いだようだ。

 しかし、口調と仕草以外は完璧で非の打ち所がなく、ゲース副団長が抜けたもう一人の副団長になるのでは噂されているユリアンには、驚いた様子はない。

 さすがというか、何かあるとわかっていたらしい。

「……遥か昔っていう程じゃないけれど、すこーし昔にオイタをして聖獣様の不興を買ったせいで、一夜で滅びた国があったって話を聞いた事があるの」

 オレの視線に気付いたユリアンが、自身の持つ情報を小声で教えてくれた後、バチンッと音がしそうなウィンクをくれる。

 そんな話があったなら、カイハク副団長がついてくるのも当然かとオレは納得してしまう。

 聖獣様の機嫌一つで、我が国は吹き飛ぶのか……というか、聖獣様と幻日様が本気でジルを取り合って争ったとしたら……。

 想像した光景の恐ろしさにオレは無意識に洞窟の方へちらちらと視線を向けてしまう。

 無性にジルの無邪気な笑顔が見たかったが、一度眠ったジルがなかなか起きないのは今までの付き合いでよくわかっている。

 吐きそうになったため息を飲み込み、オレ達がここへ来る原因の一端であると思っていた貴族の男を見る。

 露悪的ですらあった貴族の男は、何も考えていなかったただの愚か者だと判明してしまった今、警戒するのも馬鹿馬鹿しい。

 今も緊迫した空気の中、聖獣様を少年のような眼差しで真っ直ぐ見つめている。

 そこには恐怖はなく、ただただ憧れのような、恋するような、そんな色しか浮かんでいない。

「当然だが、この森の中で何に襲われようが、それは自己責任だ。人が動物を狩るように、狩られるモノになる覚悟はあるのだろう?」

 聖獣様はちらりと貴族の男へ鬱陶しそうな視線を向けたが、反応はそれだけだ。

 聖獣様の視線はすぐにカイハク副団長へと戻り、笑い声を含んだような声音で嘯く。

 その視線はカイハク副団長から離れ、何処か遠くを見つめるように森の木々の間へ向けられる。

 オレもそちらを向いてみたが、見えているのは鬱蒼とした木々だけだ。



「えぇ。何が起ころうとも、自己責任ですから」



 微笑んで答えるカイハク副団長の言葉。

 それは森へ入る前にあの貴族の男とお供の商人へアシュレーさんが告げたものと同じものだ。



 そのはずなのだが、やけに冷ややかに聞こえたのは、オレの気のせいなのか。



 答えはない。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



2話目が主人公サイドじゃないので、セットで上げてしまいました。

ちょいグロなので、苦手な方はご注意ください。


久しぶりのざまぁです。

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