368話目
シリアスが長続きしない子、ジルヴァラ。
なんでお貴族様が俺の後ろに乗ってるんだと主様がぷち切れたりとか、ウザい! とブチギレた猫が俺の腕から抜け出したりとか、一悶着あったりもしたが、無事に大移動は終了。
到着したのは俺のトラウマになっている血塗れだった泉のある広場だ。
もちろん血の跡などはもう何処にもなく、オーガが大暴れした痕跡もわからない。
捕まっていた動物達は、外の出身の子もここで暮らすことを選んだので、ここでお別れだと俺を揉みくちゃにしてからそれぞれ森の中へと消えていった。
酷い扱いをされた子はいないみたいだったけど、揃って「白いのが嫌だった」という証言を残していったのが謎だ。
動物達に揉みくちゃにされた俺は主様に抱き上げられ、匂いを上書きするように頬擦りされまくっている。
熊と犬はドン引きしているが、人間組は見慣れてしまったのか生あたたかい眼差しで見られてる。
俺はもう諦めた。
お貴族様は熊の背中から下りた後、名残惜しそうに熊へ話しかけているのが見えてる。
その視線がふいにこちらを向き、お貴族様はそういえばと言いたげな表情を浮かべる。
主様を見てるのかと思ったら、俺の方らしい。
何を言われるのかと気になって、ついつい耳を澄ませてしまう。
「どうやったら、あの子供のようにあなた方の言葉を理解出来るようになるだろうか」
聞こえてきたのは、そんな真剣な口調での不思議な質問だ。
お貴族様はどうやら動物達の言葉を聞き取れないらしい。
年齢を重ねると耳が聞こえにくくなるみたいだし、いわゆる周波数とかの問題だろうか。
「主様、耳が良くなる魔法とかあるのか?」
「遠くの音を拾うような魔法はありますが……」
ふと思いついたので主様へ訊ねてみたら、即座にそんな答えが返ってきた。
頬擦りは継続中。器用だ。
「その魔法使えば、お貴族様も動物達の言葉、ちゃんと聞こえるようになるかな?」
集音するってことだから、周波数的な理由で聞こえないなら駄目かなぁと思っていると、俺達の会話が聞こえてしまったのかお貴族様が目を真ん丸くしている。
そんな魔法があったのか!? って驚いているのかなぁとゆるキャラっぽい姿に和んでたら、お貴族様はゆっくりと瞬きをして首を傾げて口を開く。
「わしは、君のように動物達の言葉がわかるようになりたいという意味で言ったのだが……」
言葉はきちんと聞こえていたが理解出来なくて、俺は先ほどのお貴族様のようにゆっくりと瞬きをして主様を見る。
「……主様、動物達の言葉って、普通にわかるよな?」
おずおずと問いかけると、主様はぽやぽやと微笑んで首を傾げる。
サラサラと流れる主様の夕陽色の髪に見惚れていたら、
「わかりません」
と言われたのを一瞬聞き流してしまった。
慌ててぶんぶんと首を横に振って主様の答えを拾い上げた俺は、思わずアシュレーお姉さんの方へ視線を向ける。
もしかして、主様だけわからないのではという可能性に期待して。
「アシュレーお姉さん……」
「ごめんなさい、ジルちゃん。ジルちゃんがあまりにも普通に動物達とお話してるから、言いそびれちゃったの。お姉さん達は、動物達の言葉はわからないわ」
申し訳なさそうに微笑んで告げられた言葉に、儚い期待は打ち砕かれた。
「そう、なんですね」
つまり俺は──。
動物とお話してる痛いやつだと思われてたのか。
「いやいや、違うからな、ジル! ちゃんとジルが動物達の言葉がわかるって事は理解してるから! 疑ってないから!」
ショックのあまり心の声が駄々洩れていたらしく、少し離れた所からオズ兄が勢い良くフォローしてくれる。
ユリアンヌさんと双子もうんうんと頷いてくれてるし、カイハクさんも微笑んで頷いてくれる。
皆良い人だと感動してたら主様からぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
言葉にすることが苦手な主様なりの慰めが嬉しくて、ふふと自然と笑い声が溢れる。
「……人里に行ってかなり経つが、気付いてなかったのかよ」
俺がくふくふ笑っていたら、呆れを隠さない犬が人の言葉で突っ込みを入れてくる。
「しょうがないだろ。俺にとっては、動物達と話せるのは普通のことだったんだから」
笑いを引っ込めた俺は、開き直って犬に答え、突っ込みと共に寄せられた黒い鼻を手を伸ばしてペシペシと軽く叩く。
しっかりと湿り気があるので犬は健康なようだ。
今さらだが、なんで犬と熊が突然人の言葉を喋り出したのかと思ったけど、俺以外通じてなかったのが理由だと時間差で気付く。
「ぢゅぢゅっ?」
やっと気付いたのかと俺の肩で顔を洗っているノワも呆れている。
「ノワは気付いてたんだな」
「ぢっ」
当然だろとドヤってるノワは可愛いが、先ほどまで俺の首元で丸くなって眠っていたので尻尾に寝癖が付いている。
それを含めて可愛いけど。
「ん? テーミアスとは珍しい」
ノワに気付いた犬が、ノワを見ながらふんふんと匂いを嗅ぎながら首を傾げる。
「ノワは俺の大事な友達なんだから食べないでくれよ?」
「こんな腹の足しにもならない生き物食うかよ」
俺の言葉に犬は不満そうに鼻息をふんっと吐いて、俺とノワ、ついでに不機嫌さを隠してない主様の髪を揺らす。
「わかってるけど、念の為だよ」
「ぢゅわっ」
食われる前に逃げるぜと謎の対抗心を燃やしているノワをもふって寝癖を直してやってると、犬からガン見される。
「……久しぶりだから、思い切り撫でさせてやらない事もないぞ」
黙って首を傾げてたら、ふふんっと再び吐かれた鼻息と共に、そんな嬉しいことを言われてしまい、俺はへらっと笑うと主様の腕を抜け出して犬へ飛びつこうとし──失敗した。
「主様、離してくれよ」
「嫌です」
ジタバタしてみたが、がっしりと腰を掴んだ手は離れず、言葉で頼んでみたがすげなく断られる。
「おい、嫌がってるだろ。離しやがれ」
ぐるると唸り声混じりに人の言葉で犬も説得してくれるが、主様は無言でふいっと視線を外す。
「聞こえないふりをしてんじゃねぇよ、この性悪!」
がうっと吠えて主様を威嚇する犬、あくまで無視する主様。
「うちのちびが我々の言葉がわかるのは、幼い頃からそれだけを聞いていたからだ」
「……うぅむ、では、わしも森に籠もればわかるようになるのか?」
「わかるようになる可能性はあるかもしれないが、その前に食い殺されるだろう」
「……そうか、今こうして無事なのは、あなた方といるからか」
俺達のやり取りを全く気にせず、寛ぐ熊へ色々と話しかけて答えてもらっているお貴族様。
「混沌としてるわねぇ」
アシュレーお姉さんがポツリと零した言葉に、俺と騎士さん達が大きく頷く中、主様と犬の争いはまだ終わらない。
「ぢぅ」
いい加減止めろよとノワが俺を見て言ってくるが、俺には荷が重いので、聞こえなかったフリをしてノワをもふっておいた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
ついにサラッと指摘されました。
動物達の言葉わかってるの普通じゃないよ、と。
熊によるとチートではなく、育った環境だと推測されてます。
両親がバウリ◯ガル……違った(*´艸`*)バイリンガルで、幼い頃から二つの言語聞いてると、両方話せるようになるらしいですからね。




