366話目
大きなもふもふに抱きつく幼児、可愛い。
俺が熊と犬の間に挟まれてもふもふしている間、熊と犬は小声で何事か話し合っている。
俺の頭上で行われる会話だが、たまにケレンやカナフの方へ話を振って、そちらからの答えを聞いて、また熊と犬がボソボソと話し合いを続ける。
この近距離で聞き耳を立ててみても絶妙に聞こえないあたり、何か魔法でも使ってるのかもしれない。
聞き耳を立てるのを諦めてボーッとしてると、しばらくして話し合いが終わったのか、犬が鼻先で俺を突きながら代表者は誰だ? と訊いてきたので、カイハクさんへ視線を向け、
「あの騎士の中で一番年長のあの人が、この中の代表者だよ」
と伝える。
「がふ?」
俺の答えを聞いた犬は、不思議そうにお貴族様のことを見やって首を傾げる。
確かにこの面々の中では、お貴族様様が服装とかの見た目的に一番偉そうに見えるか。
「あれは聖獣の森へ入ってみたいって付いてきた、動物好きなお貴族様だよ」
「がう?」
逃げた奴らも? と次は熊から問われ、俺は少し考えてへらっと笑う。
「逃げたのはお貴族様の護衛と取り巻きかな。たぶん、そこまで動物好きじゃなかったんだと思う」
熊見て悲鳴上げて逃げてったし。
本人……じゃなく、本熊が傷つくと悪いので付け加えなかった一言を飲み込み、こちらを見ているカイハクさんを手招きする。
ゆっくりと近づいてきてくれたカイハクさんだったが、少し離れた位置で足を止めて熊と犬の顔をじっと窺っている。
ん? と思っていると、少し困ったように微笑んだカイハクさんが口を開く。
「もう少し近づいてもよろしいでしょうか?」
さすがカイハクさんだ。無防備に近づいたりしないんだなぁと感心していると、犬は鷹揚に鼻息で応え、熊の方はきちんと「がぅ」と言葉で答えて頷く仕草を見せる。
「ありがとうございます。私は、王国騎士が一人、カイハクと申します」
「ぐるる」
王国騎士か、と低く吐き捨て不快さを露わにする犬に、その三角の耳を軽く引っ張って「カイハクさんは副団長さんで良い人だから」と小声でフォローを吹き込む。
くすぐったかったのかじろりと睨まれたが、ひとまず話を聞いてくれる気にはなったらしい。
先を話せとばかりにふんっと鼻を鳴らす犬を見て困ったように微笑むカイハクさんに、俺は大きく頷いておく。
カイハクさんは数歩だけ前へ出て距離を詰めると、まずはそこで深々と頭を下げる。
「前触れもなくあなた様の森へ入った事を謝罪いたします。言い訳となりますが、動物達を捕らえようと邪な考えを持つ者がおりまして……」
そこでちらとカイハクさんが視線を向けたのは、恋するような眼差しで熊と犬を見つめているお貴族様だ。
ついでにアシュレーお姉さんも騎士さん達もお貴族様をじとっと見ている。
あえて誰も口にしていないが、どう考えてもお貴族様が邪まな考えを持つ者だと思ってしまう光景だ。
実際そうなんだけど。
俺も流れに乗ってお貴族様を見てたら、俺達の視線の意味することに気付いたのか、顔色を変えたお貴族様が目を真ん丸くすると慌てた様子でぶんぶんと首を横に振る。
「わ、わしは、動物達を捕らえようとしてなどおらん! それは、その、ほんの少し触ってみたいとは言ったが……」
何だその恋する乙女みたいなお願いは。
熊と犬と、ついでに主様以外の眼差しが、揃って何とも言えないジト目になってお貴族様へ向けられる。
「……いや、苦し紛れの言い訳過ぎるだろ」
「もう少しマシな嘘吐けよ」
正直過ぎる双子がボソッと突っ込むと、お貴族様はさらにぶんぶんと首を横に振る。タプタプな顎のお肉がたぷたぷしてて、俺の腕の中の猫がうずうずしてる。
わかるよ、俺も少したしたしと手で叩いてみたい。
俺と猫がそんなことを考えている中、シリアスな話は続いているようで……。
「わしは本当に動物達を捕らえようとなどしておらん! ただ、あの商人が動物達を冒険者が上手く連れてきてくれる手筈になっていると、それを楽しみにしていたのだ。それが急に予定が変わって先回りをして村へ行くと……」
お貴族様の反論は徐々に尻すぼみになり、視線が慌ただしく周囲へ向けられる。
「そうだ、あの商人は何処へ行ったのだ!? あの男から説明をさせれば……。わしはいつもあの男へ高い金を払って悪人から動物達を保護させているのだ! それを説明させれば……」
唾を飛ばしそうな勢いで喋りまくるお貴族様。
あー、これは俺でもわかるやつだな。
誰か言ってやれよという空気の中、一つ大きく息を吐いた勇者はアシュレーお姉さんだ。
「失礼を承知で言わせてもらうけれど、たぶんあなた騙されてるわよ?」
「は?」
アシュレーお姉さんの突っ込みに、お貴族様が間抜け面を晒して固まる。
そこへ、冷ややか眼差しをお貴族様へ向けたカイハクさんが追撃する。
「ちなみにあなたの言う保護活動とは、ここまでの道中で息のかかった御者を使い、こちらの馬車へ侵入して動物を連れ去った事でしょうか?」
「ち、ちが…………わしは、ただ、動物達を愛でたいと……。いつも、あの商人が動物達を連れてきて……、わしは、騙されていたのか?」
反論しかけたお貴族様の言葉は中途で途切れ、答えを求めるように俺達の顔へ順番に縋るような視線を向けてくる。
その弱々しい姿は同情を誘う…………ことなんてなく、ほぼ全員が呆れた眼差しをお貴族様へ向けている。
お貴族様が自分の身可愛さに嘘吐いてる可能性もあるしな。
どうしたものかという空気を不意に破ったのは、突然聞こえてきた重みのある男性の声だ。
「いつまでくだらない話をしている? その愚かな人間は嘘を吐いてないぞ」
俺にとっては聞き覚えのある声だが、俺以外にとっては初めて聞く声に、騎士さん達は驚きの大小はあれど、それぞれ剣の柄に手をかけて周囲を見渡している。
そんな緊迫した空気を破ったのは、ぽやぽやとした俺が大好きな相手の声。
「そこの白い毛玉の声だ」
待ちくたびれて不機嫌なのか、無愛想な口調で告げた主様に、お貴族様を含め全員が目を見張って俺を胸毛に埋めさせている犬を見る。
絶対今言うべきことじゃないのはわかってるんだけど、どうしても黙っていれなくて俺は犬の頭へ抱きつくようにしてその金色の目を覗き込む。
そして口を開く。
「犬さ、人の言葉も話せたのに、なんで俺に教えてくれなかったんだよ」
「突っ込む点はそこではない」
熊も普通に喋り出して、熊からぶっきらぼうに突っ込み返される。
薄っすらと気付いてはいたが、俺の育て親達は少し特別な熊と犬だったらしい。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
お貴族様、こんな感じになりました。で、ざまぁ担当はあちら側のみとなる予定です。
お貴族様はちょっとお馬鹿で、商人が「酷い目に遭った動物達を保護して〜」とか言われると、バンバンお金出しちゃうんですよ。
おだてられると良い気分になって偉ぶっちゃうんですよ。
そんなお貴族様です。ちょっと可愛く見えてきてしまって…… (え?)
熊と犬は普通に人語話せるという、やっと出せた設定でした。
そろそろ主様の我慢がぷちっとしそうです。頑張れ主様(๑•̀ㅂ•́)و




