364話目
今回ちょっと短めです。
お貴族様はお馬鹿はお馬鹿でも、こんな感じのお馬鹿へ決定しました。
かなり悩みましたが、こちらの方が先を書きやすかったので……。
「……なんだか可愛く見えてきちゃったわ」
「アシュレーお姉さんもですか?」
そんな会話をしている俺達が見守っているのは、休憩として馬車の外で寛いでいる動物達──ではなく、その動物達を離れた位置からガン見しているお貴族様だ。
冒険者達をお供にして、動物達を見つめてニマニマと笑っているのだが、初対面と違って落ち着いた状態で見るその姿はなんだかとても邪気なく見える。
アシュレーお姉さんの『大声で騒がず、それ以上近寄らなければ、生で見ていて構わないわ』の言葉を聞いてぶんぶんと首を縦に振り、離れた位置で動物達を見つめる姿は、まるで幼い子供のようで。
相変わらず表情は脂下がったエロ親父にしか見えないけど。
「……どうやら、アレは利用されていただけのようね」
アシュレーお姉さんがぽつりと呟き、お貴族様達の方をちらりと見ていたが、その発言の真意は俺にはわからなかった。
ちなみにアシュレーお姉さんと普通に会話していたが、その間も俺はずっと主様の腕の中にいたりする。
そろそろ森の奥が近づいて来ているので、より警戒しているらしい。
主様がピリピリしてるおかげか、道中何にも起こらないし、後ろからついてきているお貴族様達もおとなしくて平和そのものだ。
まぁ、お貴族様自身は聖獣の森へ来れて大興奮で、お供の商人さんですら冷ややかに見ている気がする。
俺は歩かず、主様抱っこで移動しているおかげで、こうして周囲を観察出来ている。
視界の端の草むらや枝葉の間からちらちらと見覚えある顔が覗いているのは気付いてるが、主様の警戒心を煽りそうなのであえて黙っておく。
しばらくこちらを見た後、森の奥へと消えていったので、たぶん熊を呼びに行ってくれたんだろう。
熊が出て来てくれれば一番話が早い。
ケレンとカナフはともかく、他の子達は出来れば同種の子達の所へ預けたいし。
「ロコ」
無言になった俺を訝しんだのか主様から名前を呼ばれる。
主様だけが呼ぶ、俺の愛称。
「主様」
なので俺も、俺だけが呼ぶ名前を呼び返し、へらっと笑う。
そんなに心配そうな顔をしなくても、主様がいなくなれって言わない限り勝手に何処かへ行くつもりはない。
こんな自意識過剰で小っ恥ずかしいことは口に出せないので、言葉の代わりにギュッと抱きついておいた。
●
それからの道中も、お貴族様が「ほわぁ〜」という謎な感嘆の叫びっぽいのを上げてる以外は平和なものとなり、周りの風景も見覚えのある森のものへと変わってきた。
俺は懐かしいというか安心出来るものだが、アシュレーお姉さんと騎士さん達の警戒度はそれに伴って増している気がする。
「ジルヴァラくん、だいぶ奥まで来たと思うのですが……」
「これ以上は馬車じゃ進めないわね」
近寄って来たカイハクさんとアシュレーお姉さんのそんな言葉の後に、
「小さい子なら、ワタシ達が抱えて運べなくもないけれど、大きな子は無理ねぇ」
「あぁ、あの貴族の方は、歩いてついてくる気らしいですね」
「諦めるかと思ったが意外と根性あるな」
「使用人と冒険者は嫌そうな顔してるがな」
と、四人の騎士さん達のそれぞれ個性溢れる発言が続く。
ユリアンヌさん、オズ兄、マヒナさん、ホークーさんの順番で口を開いた四人が見ているのは、馬車から降りてフンッと気合を入れて歩き出したお貴族様だ。
控えめに言って太ましい体型な方なので、マヒナさんも言ってたが根性あるなぁと俺も思ってしまった。
あと、カイハクさんがいるからか、オズ兄の丁寧な口調にちょっとびっくりして、二度見からのガン見してしまった。
そのままオズ兄を見てたら、主様に気付かれてしまい、自分を見ろとばかりに頬を甘噛みされる。
「ぢゅぅっ!」
「がうーっ!!」
いつも通りブチギレたノワの声音だけは可愛らしい吠え声に、森の奥の方から重低音な獣の吠え声が重なって聞こえ、俺以外…………俺と主様以外に緊張が走る。
「ジルちゃん、今のは?」
周囲を警戒している騎士さん達を横目に、アシュレーお姉さんがこちらを見て小声で話しかけて来たので、俺は大丈夫だと安心させようとへらっと笑って頷いてみせる。
「大丈夫です、あれは俺の養い親の熊の声なんで……あっ……」
「ロコに近寄らないでください」
「がうっ!?」
訂正だ。ちょっと大丈夫じゃなかったかもしれない。
バチバチと睨み合いを始めてしまった主様と熊を前に、俺は少しの間現実逃避をする。
その上、背後で何か悲鳴とか誰かが逃げ出すような音とか聞こえてきたので、現実逃避している場合じゃないと内心で気合を入れて熊を見据える。
まずは絶対に伝えたかった言葉がある。
「あの……、久しぶりだな。その、勝手に森を出て行ってごめん!」
第一印象最悪らしい主様と熊が睨み合いを続ける中、俺は一番最初に言いたかったことを熊へ伝える。
「……がぅ?」
「違う! えぇと、主様についていこうと思ったのは俺の意思だけど、熊のこと嫌いになってなんていないから!」
嫌いになったのか? とちょっとシュンとして訊ねてきた熊に、俺はぶんぶんと首を横に振る。
「がう、がう?」
「もちろん! 大好きだよ」
じゃあ、好きか? と心配そうな熊に、俺は声を張り上げて大好きだと訴える。
「……ロコ、私は?」
「主様も大好きだよ」
熊と張り合って耳元でボソッと囁いてきた主様にも間髪入れずに答え、
「がうがう」
「どっちが一番とか決められないし、決める必要もないだろ」
痛い彼女みたいに「どっちが一番だ」とか言い出した熊には、さらっと答えておく。
たぶん熊の性格からして本気じゃないし。
「とりあえず、主様降ろしてくれよ」
何も言っては来ないが、何か熊の眼差しがじとっとしてる気がするのは、俺が主様に抱えられているせいだろう。
「ですが、ロコ……」
「心配するなって。今の俺が帰るのは主様の所だよ」
そう伝えながら主様の手を握って笑いかけると、何故かぽやぽやドヤッと微笑んだ主様は、熊の方をチラ見して鼻で笑った。
微笑みからの鼻で笑うという謎の行動は気になったが、地面へ降ろしてもらえた俺は急く気持ちのまま足を動かして熊の方へと駆け出す。
勢いを殺すことなく飛びついたが、熊のガッシリとした体は揺らぐことなく俺の体を受け止めてくれる。
そのまま、ぼふっと厚い冬毛に顔を埋めると懐かしい日だまりの匂いがした。
「……がう」
お帰りと聞こえた慈しむような優しい声に、俺は浮かびそうになった涙を隠すため熊の毛皮に顔を埋めたまま笑って、
「ただいま、熊」
と返すのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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展開を早くするため、短めですがサクサクと上げていきます。
そういえばですが、副団長が二人いたことに関して、突っ込まれないので放置してましたが、いつか矛盾点直す予定です←
本当は『ゲースがクビ』→新しい副団長という形での登場予定でした、という今さらな裏話でした。




