362話目
村長さん…………(´・ω・`)
一度副団長の元へ戻ると言ってオズ兄が去った後、俺は主様の膝上に乗せられてしっかり捕獲されていた。
「おとなしくここで待機してた方がいいんだろうけど……」
落ち着かなくて思わず口から洩れた心の声に、主様からの拘束が強まる。
「……勝手に出歩いたりしないよ」
「ここが一番安全です」
俺の言葉を聞いてるのかいないのか、俺を背後から捕獲してぽやぽやドヤッとしている主様はちょっと残念可愛い。
「だな、確かにここが一番安全だ」
「ちゃぁ」
悔しいけどそれは認めるとノワも言うぐらい、主様の腕の中は安全だろう。
例え空から隕石が落ちてこようが、突然地割れが起きたとしても、主様なら何とかしそうだ。
──たまたま思いついたどちらも主様が犯人になりそうだなぁと思ったのは内緒だ。
このままメイナさんちに引きこもって、動物達の解放はアシュレーお姉さんと騎士さん達に任せれば良いと思っていたのだが、どうやらそうもいかないらしい。
「あら、村長さん。何かご用ですか?」
メイナさんが来客に対応している声が遠くから聞こえ、その内容から村長さんが来たんだなぁと思っていると「ちょっと、お待ちくださいっ!」とメイナさんの慌てた声と複数の足音が近づいてくる。
「村長さん、そんな強引な人に見えなかったけど……って、なんて表情してんだよ」
主様に会いたくて突撃してきたのかなぁと主様の顔を見上げると、感情が抜け落ちたような顔をしていて思わず突っ込みを入れて主様の頬へ手を伸ばす。
ちょんっと軽く指で頬を突くと、主様がゆっくりと瞬きをしてぽやぽやが戻って来る。
深淵のようだった宝石色の瞳にいつもの輝きが戻り、引き込まれそうになっていると物理的に引き寄せられ、頬と頬を合わせてすりすりと頬擦りをされる。
「主様、ほら村長さん来るから……」
そこまで広くないメイナさんちなので、村長さんが突入してくるまで時間がない。
いくらなんでも幼児に頬擦りしている状態で来客を迎えるのは問題があるだろう。
そう思って声をかけたのだが、村長さんが突入してくる方が早かった。
まさか、礼儀正しく見えてた村長さんが、他人の家でノックも無しに扉を開けて入ってくるとは思っておらず、ビクッとしながら開かれた扉を振り返る。
そして、俺は入って来た人物を見て目を見張って固まることになる。
「おぉ、確かに見事な黒髪に銀の目のが……子供であるな。思ったより見目も悪くない。これなら使用後もわしが使ってやろう」
突然入って来て一方的にそう捲し立てたのは、あのお貴族様だ。途中、ガキとか言いそうになってるし、言ってることもおかしいし、なんだコイツ状態だ。
背後にはニヤニヤと笑う髭面の商人さんと、アワアワとしている村長さんがいて。
お貴族様がじろじろと見ているのは、ガキとか言いかけたし、黒髪云々な発言からもわかるように主様ではなく俺だ。
冗談じゃなく鳥肌が立って身震いした俺を守るように、主様がギュッと抱きしめてくれる。
というか、未だに俺は主様の膝上抱っこなんだけど、この姿に関して突っ込まないんだなとお貴族様達の方を見る。
あ、村長さんはおやおやと微笑んで「仲がよろしいんですなぁ」と呟いてほっこりしてる。ある意味大物だ。
家の主であるメイナさん村長さんの背後で心配そうな表情でこちらを窺っているけど、相手がお貴族様だから下手に口出し出来ないんだろう。
巻き込んでも嫌だから、大丈夫だよの意味を込めてメイナさんへへらっと笑いかけたら、勘違いしたらしくお貴族様が脂下がった笑顔を浮かべる。
「よしよし、笑うとなかなか見られる顔をしておるな。この中で誰に愛想を振り撒けば良いかわかっている所も良いのう」
勘違いされた上、理由のわからない所で好感度アップしちゃったなぁ。
本当になんでお貴族様は俺の背後で不機嫌そうにぽやぽやしてる主様に気付かないんだ?
背後に控えてる髭面商人さんは気付いたらしく、ガクブルしてて今にも気絶しそうな顔色をしてる。
「………………なにをふざけた事言っている?」
俺が心配するまでもなく、主様の我慢が限界を迎えていたらしく、俺の椅子兼背もたれな主様からひやりとした冷気と共に低音の声が聞こえてくる。
口調が変わってるから相当ご立腹だ。
慣れたのか、俺にはちょっとしたひんやり感があるだけだが、お貴族様達の方はそうもいかない。
全員顔を青褪めさせて、ガクブル…………あれ村長さんだけは平気そうだ。
「おや、今日は冷えますねぇ」
あ、一応寒いらしい。寒さに強いんだな、たぶん。
お貴族様と髭面商人さんがガクブルで使い物にならないと思ったのか、村長さんが穏やかな微笑みと共に前へ出てくる。
「朝早くからすみませんが、この方がどうしても『可哀想な孤児』を保護したいと申されましてねぇ」
ほっほという笑い声が似合いそうな穏やかな声音と表情で、村長さんがそんなことを言ったのだが、なんだろう少し違和感があるような?
「この方はとても心優しい方なので、その子の故郷である聖獣の森へも付き添っても構わないとおっしゃられてるんですよ」
お貴族様の詭弁だらけの言葉を一欠片も疑ってない様子で微笑む村長さん。
さっきのは俺の気のせいだったみたいだ。
芯まで真っ白で善人過ぎて、逆に裏がありそうに見えるんだろうなぁ、この村長さん。
今その善意をこちらへ向けて欲しくなかったけど。
ちなみに反論したいところだけど、さっきから主様によって胸元へ押し付けるようにぎゅうぎゅうと抱き寄せられていて、喋るのは少し難しい。
視界は辛うじて横目で確保してるので、何とか確認している感じだ。
村長さんはそんな俺達の様子を微笑ましげに見ている。
メイナさんの姿が見えなくなったけど、さっきチラッとアシュレーお姉さんの姿が見えたから、危険が及ばないよう連れ出してくれたんだろう。
「そ、その通りだ! わしがその子供を保護し………………いや、そのだな、わしは貴族で金もある! 決して不自由な生活はさせないぞ!」
おぉ、復活したお貴族様が、唾を飛ばす勢いで叫び出し、主様の一睨みでちょっと詰まって失速し、何とか持ち直した。
他人事なら面白いけど、俺を連れ出すのが目的だからなぁ。
髭面商人さんはお貴族様の隣でこくこくと頷いて援護射撃的なものをしている。
「はっ」
漫才みたいな二人を眺めていたら主様が声を出して笑うのが聞こえて、俺は驚いて主様を仰ぎ見る。
「私がロコに不自由な生活をさせているとでも?」
主様の珍しい笑い声に驚いていた俺だったが、いかにも楽しげな声音で歌うように問いかけるという、こちらも初めて見る主様の態度に見惚れてしまい目が離せない。
気付けばふぇ〜という気の抜けた声を洩らして主様に見惚れていた俺は、その後のお貴族様とのやり取りを全く聞いていなかった。
結論として。
「高い金を払っているのだ! 死んでもわしを守るのだぞ!」
こんな感じに、とてもうるさい同行者を連れて、聖獣の森へ向かうことになっていた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
こいつはジルヴァラに対応させたくないと、主様頑張って喋りました(๑•̀ㅂ•́)و




