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358話目

時間軸は向こうの騒動の少し前ぐらいで。




「馬車の近くで野営でもしようかと思いましたけど、馬車も村長さんの所でしたね」

「近くにあのお貴族様がいるのは不安だけど、あの方の結界を突破出来る訳ないからそこだけは心配ないわね」

「あはは、そうですね。馬車ごと誘拐なんて無理でしょうし」

「うふふ。たぶんしようとしたら、ビリビリよ?」

「そっか、ビリビリですね」


 あはは、うふふ、と笑い合って会話する俺とアシュレーお姉さんがいるのは、通りにあった屋台の隣に置かれた木箱の上だ。

 正確にはその木箱に腰かけて、屋台で買ったお焼きぽいのを食べている。

 この木箱は椅子代わりに置いてるそうで、屋台のおじさんに許可を得て使わせてもらっている。

 ちなみに腰かけているのは俺だけで、アシュレーお姉さんは立ったままお焼きぽい物を食べている。

 アシュレーお姉さんは立ち姿も食べている姿も綺麗なので、なんかお焼きぽい物が高級料理に見えてくるから不思議だ。

 ちなみにお焼きぽい物の中身は、スパイスの効いた何かの肉そぼろだ。

 ノワは匂いを嗅いだ後、嫌そうな顔をして俺の服の中へ引っ込んでしまったので、テーミアス的には刺激が強過ぎたのかも。

「ちょっと辛いけど美味しいですね、これ」

「そうね。生地がモチモチしてて、それも良いわね」

 そんな感想を言いながら食べていたら、俺達が客寄せになったらしく屋台のおじさんから感謝の言葉と共に追加のお焼きぽい物を無料で貰ってしまった。

 うん、面倒だからもう脳内ではお焼きで良いか。

 名前を聞いたら『適当焼き』だって言われちゃったし。

「中身は今食ってる肉のやつの他に、豆を甘く煮て潰したやつと、葉っぱの炒めたやつを入れといたぞ」

 おじさんからはそう説明された。

 つまりはあんこっぽい物と野沢菜炒めっぽい物だろう、予想だけど。

「ありがとうございます!」

「うふふ、ありがたくいただくわ」

 アシュレーお姉さんと一緒にお礼を伝えて俺達はその場から歩き出したのだが、おじさんはアシュレーお姉さんの去り際の流し目に照れていた。

 まぁ、アシュレーお姉さんは色っぽい美人さんだから見惚れるのも仕方ないな。

 内心で自分のことのようにドヤッていると、アシュレーお姉さんから抱き上げられてしまう。

「あ……」

「疲れちゃったかしら、ジルちゃん」

 ドヤッていたら歩く速度が落ちていたみたいで、気づいた時にはアシュレーお姉さんの心配そうな顔が間近にあった。

 俺はアシュレーお姉さん相手に誤魔化す必要もないのでへらっと笑って、しなを作るように自分の頬に手を添えてみせる。

「アシュレーお姉さん美人でしょ、と心の中で自慢してました」

「あら、嬉しいわ。ありがとう、ジルちゃん」

 また、えへへ、うふふ、と笑い合いながら、アシュレーお姉さんに運ばれるまま村の中を進んでいく。

 相変わらず穏やかな人ばかりの村は、決して見た目が強そうと言えないアシュレーお姉さんと二人で歩いていても絡まれたりはしない。

 せいぜい「何処から来たんだい?」「うちの野菜も美味しいよ」「可愛いお子さんだね」なんて、良い方の絡まれ方をするぐらいだ。

 人によっては「ウザい」となるかもしれないが、俺もアシュレーお姉さんも気にならないタイプなのでその度に笑顔で応えて通りを歩いていく。

 黒髪銀目という少々目立つ色彩なせいか、俺がちょっと前に聖獣の森で保護された子供だと気付いた人も何人かいたようだが、元気そうで良かった、とこちらも特に絡まれるなんてことはなかった。

 フラグ立たなかったなぁと内心で呟いて俺だったが、俺のフラグなんかよりよっぽど重要な案件を思い出し、バッとアシュレーお姉さんの顔を見る。

「そういえば、聖獣の森に異変が起きてるって話でしたけど、村には影響ないんでしょうか」

「確かにそうね。特にピリピリしてたらもしないし、空気も悪くないわね。……確認する為にも少し森の近くへ行ってみましょ」

 俺の言葉を聞いて同意を示したアシュレーお姉さんは、さりげなく周囲を見渡してから、そのまま森の方へと歩き出す。

「はい。何かわかると良いですが……」

 俺の方は抱かれたままなので、アシュレーお姉さんの首に腕を回して小声で返しながら、こくりと頷いて返す。

 一人なら怒られそうだからおとなしくしておくが、今は頼りになるアシュレーお姉さんと一緒だから大丈夫だろう。

 周囲から微笑ましげな視線を向けられながら森へと向かおうと通りを歩く俺達だったが、突然走り込んできた人物によって進路を塞がれてしまい、足を止める。

「何かアタシ達にご用かしら?」

 相手が女性とはいえ、少し警戒心を滲ませたアシュレーお姉さんに対し、俺はぶんぶんと首を横に振ってみせる。

「ジルちゃん?」

「大丈夫です、あの女の人は保護された俺に優しくしてくれた人なんです」

 訝しげなアシュレーお姉さんにそう説明して、俺は目の前で息を整えている女性──メイナさんへへらっと笑いかける。

「メイナさん、久しぶり!」

「ジ、ジルぼうやが、帰ってきたって聞いて、走ってきたんだよ」

 息を整えてからあの時と同じ優しい笑顔を浮かべていたメイナさんだったが、不意にその表情が険しくなり、アシュレーお姉さんをキッと睨みつける。

「今さら親面して、よくここへ来れたもんだね! ジルぼうやを森へ捨てたくせにノコノコと! 聖獣様とジルぼうやが許しても、あたしは一発殴ってやらないと気が済まないね!」

 一気にまくし立てたせいか、メイナさんはまた肩でゼェゼェと息をしている。それでもアシュレーお姉さんを睨みつけたままだ。

 どうやら久しぶりに会ったメイナさんはとんでもない勘違いをしているらしいと、数秒遅れてやっと気付いた俺は、しぱしぱと瞬きをしてアシュレーお姉さんの反応を窺い見る。

「あら、アタシ、ジルちゃんの親だと思われたのね。うふふ、光栄だわ」

 アシュレーお姉さんは全く気分を害した様子もなく微笑んで、仲良しだとアピールするためなのか顔を寄せてきて、俺の頬へ自らの頬をぴたりとつけてくる。

 うん、今日のアシュレーお姉さんも、スキンケアばっちりでつるつるしてるな。

「そんなに似ているかしら? でも、残念ながらアタシは産ませた記憶も、産んだ記憶もないの」

 台詞の前半はともかく、後半は絶対ないやつだよなと思ったが、もしかしたら異世界だと男も産めるのかと余計なことを考え込む俺をよそに、アシュレーお姉さんは恐縮するメイナさんに悪戯っぽい笑顔を向けている。

 そのまま二人は打ち解け、俺の話題で盛り上がって意気投合し、最終的に俺達はメイナさん宅に泊まらせてもらえることになった。




 ちなみにメイナさん宅に到着後、落ち着いて話を聞いたんだけど、メイナさんがアシュレーお姉さんを俺の生みの親だと勘違いしたのは、田舎特有ともいえる噂話の広がる速さのせいだった。

 俺達を見かけた村人が『あの子供は聖獣の森で保護された子だ』と気付いていたのは、俺でもわかったぐらいにわかりやすい反応だった。

 しかし、そこから『連れの美人にやたらと懐いている』『保護者だろうがあの懐き方はもしかしたら本物の親なのでは』『美人の方も猫可愛がりしている』『まるで本物の親子、いや本物なんだ』『きっとそうに違いない』というトンデモ理論な感じで噂話が広がっているとは想像すら無理だよな。

 あと原因の一端は、あのお焼きの屋台のおじさんらしい。

 話好きだなぁとは思っていたが、噂好きでもあったみたいで、あっという間に俺達の話をあちこちへ広げてくれたようだ。

 その結果、メイナさんの耳に入ったのは、かなりひらっひらな尾ひれが付いた話で、俺は本当の親と聖獣の森へ里帰りしてきたことになってた。


 唯一、里帰りだけはあってるんだけどな。


 相変わらず意気投合してキャッキャウフフしている二人を横目に、俺が何をしているかというと……。


 

「大丈夫よ、アタシは何処にも行かないから、ゆっくり休みなさい」


「小さいうちは、寝るのも仕事だからね」



 そんな感じの甘やかす言葉を二人からかけられながら、ベッドに寝かしつけられていた。



 慈愛溢れる笑顔で見つめてくる二人を前に、俺は色々諦めて目を閉じて寝たフリをすることにする。








 ──しばらく後、ベッドからはすやすやと穏やかな寝息が聞こえてきて、見守る二人はよく似た表情を浮かべながら目線を交わし合い、小さく微笑み合う。




 この穏やかな空間がとある赤色によって壊されるまで、あと少し。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


さすがとある赤。探知魔法無くても、無事に見つけられたようです。

これで勝手に森へ行ってた場合、監禁コース一択でしたね←


あと、田舎の噂の広がり具合怖いっす。

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