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357話目

まずは、いつも感想ありがとうございます!


商人とお貴族様がそこそこ酷い目に遭い、醜態を晒しますのでお二方の事が好きな方はご注意ください。


ちなみに、私は自分で書いたキャラながら嫌いです(え)


357話目




[視点無し]




「さぁさぁ、騎士様、どうかここでお寛ぎください」

 やたらと腰の低いひげが特徴的な男に屋敷の奥へと案内されたオズワルドとユリアン、それとマヒナとホークーの四人は、不躾に見えない程度に部屋を見渡す。

 客をもてなすための部屋と思われるそこには、テーブルとソファが置かれていてお茶の用意がされている。

 そこへ通されたのは四人だけのようで、四人は無言で視線を交わし合う。

 数秒見つめ合った後、代表して口を開いたのはオズワルドだ。

「すまないが、他の者は何処に?」

「あぁ、申し訳ありません。あちらの方々は、村長とお貴族様とのお話し合いの最中でして……」

 ヘコヘコと頭を下げる男に四人の騎士は顔を見合わせて納得した様子で安堵の表情を浮かべる。

「わかった。では、私達はここで待たせてもらおう。……これ以上の気遣いは無用だ」

 ヘコヘコしながらこちらを窺い見てくる男に、オズワルドは笑顔ながらきっぱりとこれ以上の干渉を拒んでみせる。

「は、はい! ご用がありましたらお呼びくださいっ!」

 男が去っていくのを見送ったオズワルドは、表情を緩めて苦笑いをしながら三人を振り返る。

「やっぱり、偉ぶるのは慣れないな」

 肩を竦めておどけてみせるオズワルドに、三人は揃って笑顔になって、

「うふふ。ちゃんと偉そうな貴族子弟の騎士に見えたわよ」

「だな。俺じゃ無理だ」

「おれにも無理だ」

とそれぞれオズワルドの演技を誉める。

「しかし、あの貴族はそんなに動物達が欲しいんだろうか。今の男性は、貴族と一緒にいた商人だろう?」

「うーん、そうねぇ。珍しくて綺麗な子ばかりだから欲しくなる気持ちは少しだけわかるけど……」

「俺も……少しはわかるな」

「おれはわからない」

 貴族の気持ちが少しわかるという片割れの言葉に、ホークーが「まじかよ」とガン見する一幕があったりもしたが、商人の男が戻ってくることもなく四人はこの後どうするかと話し合っていた。

 そんな四人だったがこちらへ近づいて来る足音が聞こえ、揃って扉へと視線を向けて居住まいを正す。

 ノックもなくガチャリと扉を開けて顔を覗かせたのは、夕陽色の髪を持つ類稀なる美貌の青年だ。

 この旅路の間、四人も嫌と言うほど見た顔だが、未だに慣れる事の出来ない人間離れした美貌──そもそも人外な赤い青年の登場に、先ほどの男相手には欠片もなかった緊張感が室内に漂う。

「ど、どうかされましたか?」

 いつも穏やかに浮かべている微笑みもなく、室内を不機嫌そうに見渡している赤い青年に、引きつり気味の笑顔で訊ねるオズワルド。

 ユリアンあたりに押しつけたかった役目だったが、赤い青年がじーっとオズワルドを見つめてきているためオズワルドが訊ねるしかない。

 見つめていても埒が明かないとやっと気付いたのか、赤い青年は首を傾げながら簡潔で、自身にとって何より大切とも言える問いを口にする。

「……ロコは何処ですか?」

「え?」

 その一音だけ洩らしてオズワルドが返答に詰まったのは、決して『ロコ』が誰の事かわからなかった訳ではなく、質問の意味がわからなかったからだ。

 子供を話し合いに参加はさせなくても、しっかりと懐に抱え込んでいると、オズワルドを含む四人は思い込んでいた為、顔を見合わせてから赤い青年を窺うように見やっておずおずと訊ねた。


「ジルは、あなたと一緒ではないんですか?」と。


 オズワルドの言葉を聞いた赤い青年の反応は顕著だった。


「…………謀ったな」


 穏やかに微笑んでいた赤い青年の口から出たとは思えない低い声音の呟きが溢れ、その背後で「ヒィッ」という情けない声が聞こえてくる。

「落ち着いてください。アシュレーさんもいらっしゃらないようですし、ジルヴァラくんと一緒にいるはずですから危険はないでしょう」

 情けない声を上げた人物がどうなったかオズワルド達の視界ではわからなかったが、赤い青年の背後から聞こえた落ち着き払った声に、四人は揃って小さく安堵の息を吐くのだった。

[カイハク視点]



 ──時間は少し遡り。


 名目だけは『話し合い』というお茶会の席に着いた私は、厚顔無恥を絵に描いたようなお貴族様の姿に内心でため息を吐く。

 テーブルの上には菓子や果物が並び、白磁のティーセットからは湯気が立っていて、その向こう側にニタニタと笑っているお貴族様の顔がある。

 道中の襲撃に関しては犯人を逃してしまい、動物達の証言はあるがその正しさを証明する術がジルヴァラくんしかないので証拠としては弱い。

 それにジルヴァラくんが『動物達の言葉がわかる』なんて稀有な能力を持っていると知られたら、色々な意味で狙われるようになるだろう。

 今でさえ『幻日様の弱点』『最年少冒険者』として名が売れ、黒髪銀目という色彩と愛らしさで目立つというのに、これ以上狙われる要素は増やすべきではない。

 ジルヴァラくんの保護者が暴れる姿を想像してしまい、私はそれを振り払うように頭を小さく振る。

 そんな私の存在などいない者のように扱い、間にあるテーブルを邪魔そうにして、身を乗り出さんばかりの勢いでお貴族様は幻日様へ話しかけている。

 さらに私より空気なのは、席に着く事もさせてもらえていないこの村の村長である年老いた男性だ。

 村長であるとはいえ、このご老人が貴族に逆らうのは無理だろう。

 いくらかの同情を抱きながら、私は村長へと話しかける。

「すみません、村長。私達の連れなのですが……」

 私がそう口にし始めた瞬間、お貴族様が何を言っても全く無関心だった幻日様の表情が動いて、村長の方をじっと見つめる。

 それに気付き、あからさまにパァッと表情を輝かせたお貴族様が、勢いのままに私ではなく幻日様へ向けて、

「そ、そうですな! もちろん、幻日様の連れの方なのですから、きちんともてなしておりますぞ! このわしの指示で!」

とやたらと『わしの』を強調して満面の笑顔で言い放つ。

「そうですか」

 お貴族様の笑顔に絆された訳ではないだろうが、そこでお貴族様の言葉に初めて幻日様が相槌を打つ。

 どうやら先ほどから幻日様がやたらと不機嫌そうだったのは、ジルヴァラくんと引き離されて、ジルヴァラくんが見えない所に来てしまった為だったのだろう。

 密かに抱いていた、なんだったら目の前のお貴族様より気がかりだった幻日様の不機嫌の理由がわかり、私はまた内心で安堵の息を吐く。

 幻日様から反応があった事により、お貴族様もこの話題なら反応があると気付いたようで、使用人を呼びつけて「お連れ様をしっかりともてなせ」と言いつけて、わかりやすくご機嫌取りをしている。

 私はその間に村長と話し合いをさせてもらう。



 聖獣の森に面している村とはいえ、森の奥深くへ入る事はほぼなく、年に一度のお祭りの際に供物を祠へ捧げる程度で、その祠も森の入り口付近にあるという話だ。

 冒険者も来るが、ここへ訪れるのは冒険者ギルドから依頼を受けた森の見守りをする者達か、功名心に駆られた愚か者で。

 前者は礼儀正しく村でも過ごし、一定期間過ごした後王都へと帰っていく。

 後者は村人を小馬鹿にし、村人の注意など気にせず聖獣の森へと向かい──そして二度と帰ってくる事はないそうだ。

 聖獣の森にはもちろん危険なモンスターや凶暴な動物はいるらしいが、それらが森を出てくる事がないのは、聖獣様のおかげだろう。

 今回の私達のしようとしている事に関しては、動物達を解放するだけなので聖獣様の怒りに触れたりはしないでしょうというのが村長の結論だ。

 聖獣様はお優しいのできちんと説明すればと熱弁している村長には言えなかったが、こちらにはジルヴァラくんがいるので聖獣様の怒りに触れる可能性は……。



 そんな事を考えていた私の耳に、


 パチンッ!


と何かを叩くような音が聞こえた同時に、声音だけは穏やかな声が聞こえてくる。



「…………もういいですか? ロコの所へ戻ります」



 その言葉を聞いた瞬間、私はひやりと冷水を浴びせかけられた気分になる。

 私が村長と話している間、お貴族様から延々と話しかけられ、さらに触られそうになって、ついに幻日様の我慢の限界に来てしまったらしい。

 そもそもこの話し合いに幻日様は必要なかったのだ。

 それを、前回オーガを倒してもらった事を感謝している村長から、どうしてもお礼をしたいと言われ無碍にも出来ず……。

 思えばあれも幻日様を呼ぶ為にお貴族様が焚きつけたのだろう。

 さすがのお貴族様も身の危険を感じたのか、顔を青褪めさせてまるで自分がここの主人のように使用人を呼びつける。

「お、おい! 幻日様をお連れ様の所へご案内しろ!」

 お貴族様の呼ぶ声にやって来たのは、こちらも見覚えのある髭を生やしたひんそ……細身の男性だ。

 護衛をしていた筈の冒険者達は何故か(・・・)一緒ではなかったが、この商人は連れてきていたのかとどうでも良い感想を持つ。

 無言のまま、ヘコヘコしながら案内をしてくれる商人の男の後をついていく。もちろんお貴族様も一緒に歩いているが、さすがに今の幻日様へ近づく勇気はないらしい。



 いっそ尻でも触って半殺しの目に遭え──なんて冗談半分に思っていた私が悪かったのか。



 なんと到着した部屋には私の部下の騎士しかおらず、ジルヴァラくんの姿が無かったのだ。

 咄嗟にアシュレーさんの姿を探して、それを言い訳に幻日様を止める。

 実際、アシュレーさんならジルヴァラくんを一人にしないと信頼出来る。

 だがもう一つ、幻日様の気に障るだろうが私には口にしないといけない事があった。

「探知魔法はお使いにならないでください。聖獣様を刺激してしまうかもしれませんから」

 まさに探知魔法を使う寸前だったらしく、幻日様の射るような眼差しが私へと向けられる。

 直接向けられた訳でもないお貴族様と商人が発狂したような声を上げ、二人の方からすえた臭いが漂ってくる中、私は微笑んでみせる。

「申し訳ありませんが『聖獣の森の様子がおかしい』という報告が上がってきているのですから」

「だ、大丈夫です! オレ達も探しますから、すぐ見つかります……いえ、見つけます!」

「ええ、オズワルドの言う通りだわ。ワタシ達は馬車の方を見て来た方が良いわね」

「そうだな」

「ったく、ちびはどうしてここへ来なかったんだ?」

 私の言葉に幻日様が反応する前に、空気の読める部下達が個性溢れる一言と共に外へと駆け出していく。

 幻日様は情けない姿を晒している二人を無言で見下ろし、そのまま何も言わずに去っていってしまった。

 それを見送った後、私はゆっくりと二人を振り返って先ほどはあえて口にしなかった疑問を口にする。



「私達の連れだとやって来たであろう二人を何故通さなかったんでしょうか」と。



 訊ねるまでもなく答えは予想出来ていた。



「あ、あんな、薄汚い冒険者風情が……っ!?」



 幻日様の一睨みで気を失って使い物にならないお貴族様に代わり、商人が口を開いた気がするのだが手が滑った私は抜き身の剣を落としそうになってしまった。

「おや……すみません、少々手が滑りました」

 謝罪してにっこりと笑いかけると、商人はガクガクと首を横に振って気にしていないと許してくれたようで。



「で? 私の連れに何か文句がありましたでしょうか?」


「も、申し訳ございませぇん!!」


 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃな上、情けで下半身の汚れや広がった水溜りは見ないようにしているが酷い有様だ。

 脅かし過ぎたかと思いかけたが、そもそも色々な疑惑と胃痛の原因である事を思い出して少しだけあった同情心は消えていく。






 二人を放置──そっとしておいて欲しそうだったのでそうしてあげて外へと向かい歩き出した私は、ふと気付いた事実に大変申し訳ない気持ちを抱く事になる。




「………………ここは村長のお宅でしたね」





 お貴族様なのだから、清掃費用ぐらい出してくれるだろう。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


ここの村人自体は善人ばかりなので、さすがの主様も暴挙には出られません。

お貴族様とそのお連れ様に関しては存じ上げません。

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