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356話目

よちよちジルヴァラ、可愛いと思います。




「……ごめん、主様。もう大丈夫だから。ほら、カイハクさんと村長さん待ってるから行ってくれよ」

「ロコ」

 初対面ではもう少し口で表してたよなぁと懐かしく思い出しつつ、さっきから不満げに俺の名前しか呼ばない主様の腕を軽く叩く。

「アシュレーお姉さんも一緒にいるんだから、大丈夫だって」

 こんな風に主様へ気安く触っても許されるようになるなんて、あの日ここを旅立った俺が知ったら驚くだろうな。

 今度はそんなことを思いながら、じっと主様を見上げて大丈夫アピールを続ける。

 これから馬車の中に閉じ込められている動物達を森の奥まで運び、そこで解放してあげる段取りをする予定になっているのだ。

 主様がいないと話にならないだろう。

 聖獣の森にいるモンスターはかなり強いらしいし。

 五年生活してた俺は熊とか犬のおかげで危ない目に遭ったことは…………あぁ、あったな。


 オーガに襲われたことじゃない。


 それより前。


 俺が今よりさらに小さくて、よちよち歩きしていた頃。

 その頃は犬は近づいてくることがなくて、離れた位置から熊と戯れる俺を眺めているだけだった。

 見るからにもふもふで真っ白な犬に触れてみたくて、熊の背中をバシバシと叩いて「だぁたぁ」と訴えたが、熊からはいつも苦笑いと共に誤魔化すように舐め回されて終わる。

 そんなやり取りを何度か繰り返して季節が冬へと差し掛かったある日。

 冬籠りの準備のため熊や他の動物達がおらず、俺は一人で洞窟の中でよちよちと歩く練習をしていた。

 洞窟からは出るなと言われていたので洞窟の中でよちよち歩いていると、洞窟の入口から見える所に白いもふもふがあることに気付く。

 その途端、俺の頭からはスコンッと熊からの注意が抜け落ちて、向かうのは白いもふもふ一直線だ。

「あうーっ」

 よっちよちと駆け寄る俺に気付き、犬の目が真ん丸く見張られて三角の耳が耳がピンッと立ち上がる。

 大きな四つ足の獣が立ち上がり、ソワソワとした落ち着きのない様子で自らへ近づいて来る俺のことをじっと見つめている。

 迎えるべきか逃げるべきか、そんな風に悩んでいるように見えて、俺は今なら触れられるんじゃないかともふもふしか見えていなかった。

「あうっ!」

 触らせてーとだいぶ離れた位置から両手を上げて接近してくる俺を、白いもふもふ──犬はじっと見つめている。

 体と同じようにもふもふで立派な尻尾は、背後で控えめにゆらゆらと揺れている。

 あれも触りたい! と目を輝かせて駆け出した俺は足元が疎かになってしまった。

 見事に張り出した木の根に足を取られ、ザザッと枯れ葉の上に勢い良く倒れ込む。

 枯れ葉のおかげで怪我はなかったが、びっくりして転んだままの体勢で固まった俺。

 目の前で勢い良く転んだ俺に驚いたのか犬も固まっていて。

 しかし、固まっていた犬はすぐ動き出し、脅すようにグルルルと低い唸り声を響かせ始める。

 転んだまま起き上がるのも忘れて、俺はきょとんとした表情で唸り声をあげる犬を見つめる。

 不思議と怖いなんて思わなくて、ただただ犬を見つめ続ける。

 唸っている犬の方はというと、ちらりと俺の方を見ただけで鋭い視線を向けられているのはどうやら俺じゃないらしい。

 あうあうとしながら何とか立ち上がって犬の視線を辿ろうとした俺だったが、そこへ犬が飛びかかってきて俺の体はもふもふな犬の腹毛の中に埋もれてしまう。

 犬のもふもふな腹毛を掻き分けて何とか見ることが出来た光景は、なんか大きな獣を犬が追い払う様子だった。



 追い払った獣が完全に見えなくなってから、やっと犬は警戒を解いた様子で唸るのを止める。

「あうー」

 俺が声をかけるとビクッとなった犬が、おずおずとした様子で腹毛に埋もれた俺へと視線を向けてくる。

「あう!」

 たしっと手を上げて元気なことをアピールする俺だったが、はぁとため息を吐いた犬から鼻先で小突かれる。

「がう」

 心配させるんじゃないと叱られ、帰って来た熊からも「勝手に出歩くなと言ったよな?」と叱られ、その冬は二頭の間からほとんど出してもらえなかった。




「……コ、ロコ?」


 懐かしい思い出に浸っていた俺は、主様の呼びかけに気付かなかったらしく、心配そうな主様が鼻先が触れ合うぐらいに顔を寄せて俺の顔を覗き込んでいた。

「ごめん、ボーッとしてた。ちゃんとアシュレーお姉さんといるから心配しないで行ってきてくれって」

 へらっと笑って先ほどとほぼ同じ内容の言葉を繰り返した俺は、コツンと額と額を軽くぶつけて笑いかける。

 アシュレーお姉さんはなんだかとても生あたたかい眼差しで俺達のやり取りを見ながら微笑んでいる。

「…………私のロコを頼みます」

 かなり不承不承だったが、主様はそんな感じのことをアシュレーお姉さんへボソリと告げて、やっと馬車を降りていった。

 主様を見送って馬車内に残ったのは、俺とアシュレーお姉さんだけ。

 あとついでに、俺の肩の上で主様へ文句を言っているノワ。

「さぁ、アタシ達も馬車を降りましょ」

「はい」

 アシュレーお姉さんと手を繋いで馬車を降りるが、俺達に注目している村人はいない。

 ほぼ全員が主様か騎士さん達を見ているので、俺達は囲まれることなく村の中を移動していく。

「そういえば、アシュレーお姉さんは話し合いに参加しなくて良いんですか? 俺なら一人で留守番出来ます」

「アタシ達はここまでの護衛の依頼しか受けてないのよ? ジルちゃんの大好きなあの方が話し合いに参加するのは、特別だからって感じかしら」

 アシュレーお姉さんは何処か含みのある感じの微笑みで俺の問いに答えてくれ、そのまま二人で手を繋いで村の中をぐるりと見て回る。

 冬の終わりという季節のせいか、以前とは違って売ってる野菜とかはかなり少ない。

 せいぜい保存が効く芋や大根などの根菜類ぐらい? あとは保存食みたいなのが売ってるな。

 主様とはぐれた時用に俺の着けてるポーチの中にも似たような物が入ってる。

 乾パンのお仲間みたいなやつだ。

 これはノワのおやつにもなっている。

「ちゃっ!」

 人目があるので目立たないよう丸くなっているノワから、あれ食べたいという訴えがあったので俺が乾パンのお仲間を買おうとしたら、自然な感じでアシュレーお姉さんが支払いを済ませてしまっていた。

「アシュレーお姉さん、俺自分で……」

「うふふ。アタシに奢らせて、ね?」

 優しい微笑みながら有無を言わせぬ圧のあるアシュレーお姉さんに対し、俺は頷くことしか出来ず「ありがと」とノワと一緒にお礼を言って乾パンのお仲間を店員さんから受け取る。

 それをノワへ渡すと、早速前足で持ってガジガジと噛り始める。

 ノワの可愛らしい姿にアシュレーお姉さんが「可愛いわぁ」と頬を緩めてるのは納得がいくが、撫でられているのが俺の頭なのは少し謎だ。

 その後も村の中を歩き回り、日が落ちてきたので、俺達は主様達と合流するために村長さん宅へ向かった。

 もともと到着した時点で日が落ちかけていたので、動物達の解放は明日以降の予定になっていた。



 村長さん宅に着くと、玄関前にガタイの良い男性が立っていて、見張り番をしているようだった。

 男性は俺達を見て、不審さを隠さない様子で不快気な反応を見せたので、アシュレーお姉さんが一歩前に出て対応をしてくれる。

「アタシ達、騎士様の連れなのだけど、まだ中にいらっしゃるかしら?」

 男性の俺を見る目が、口に出すまでもなく「なんだこのガキは」だったから、俺は良い子でお口チャックだ。

 しかし、にこりと愛想良く微笑んだアシュレーお姉さんに対しても、男性の態度は変わらない。

「誰も通すなと言われている。ここは通せない」

 職務に忠実なのは誉めるべきだろうが、男性のこちらを見る目はなんか嫌だ。

 不審者を見ているというより、格下を侮蔑しているような、そんな目に見えてしまうのは俺の被害妄想だろうか。

「……そう。なら、アタシ達が来たのだけでも伝えてもらえないかしら?」

 アシュレーお姉さんは少しだけ困ったような表情で、そうお伺いをたてたけど、男性からは無言の鼻息だけが返ってくる。

 そこに男性の奥にある玄関の方から見覚えのある顔が覗き、俺達を見て明らかに蔑むような表情でニヤニヤとした笑みを浮かべる。

「薄汚い冒険者風情の話など、騎士様へ聞かせる価値もない。何をしている! さっさと追い払え!」

 誰だっけと一瞬考えてしまったが、すぐにお貴族様と一緒にいた商人だと気付く。

 見張り番はちらりと商人を見てから、面倒臭そうに口を開く。

「……実力行使されたくなくなければ去れ」

 職務だから言ってますと丸わかりな気の無い脅し文句だし、たぶん実力行使されてもアシュレーお姉さんの方が強いなぁという突っ込みも出そうになったが、ぐっと飲み込んで横にいるアシュレーお姉さんの顔を見上げる。

 アシュレーお姉さんは悪戯っぽい微笑みを浮かべていて、余裕溢れるその姿にイラッとした俺の気持ちは霧散する。

「そうおっしゃられるのなら仕方ないわねぇ、ジルちゃん。──どうなろうとアタシ達のせいだって、恨まないでね」

 知らない人が聞いたなら負け惜しみの捨て台詞だけど、アシュレーお姉さんの性格や強さを知ってる俺にはそうは聞こえない。

 何かを感じたのか訝しげな表情になった見張り番の男性はともかく、商人にはばっちり負け惜しみの捨て台詞に聞こえたらしく、ニヤニヤと嗜虐的ないやらしい笑顔で俺たちを見送ってくれた。

 商人が俺達を罵倒して追い払ったのは、村長さん宅の周りにいた野次馬が証言してくれるだろう。




「──あの方に詰め寄られて、恐怖で狂わないと良いけれど」




 手を繋いで歩くアシュレーお姉さんが何事か呟いた気がして視線を向けたが、返ってきたのは悪戯っぽい微笑みと優しく頭を撫でてくれる手で。

 特に気にすることでもないかと頭を切り替えた俺は、アシュレーお姉さんにへらっと笑いかけてそのまま二人で村長さん宅から離れるのだった。

 

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



ぽやぽやがジルヴァラの不在にキレるまで秒読み開始。

そして、それをわかっていながらサラッとジルヴァラを連れて行くアシュレーお姉さんつおい。

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何を思い出していたのか もし言っていたら もふ に やきもち妬いて魔法でミニロコに 変えてそのまま猫吸いの如く吸われそう
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