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353話目

オズ兄、流れに乗って実行すると死亡フラグが確定します。



[視点無し]




 地面に腰を下ろした赤い青年が、ガリガリと飴玉を噛み砕く音を聞きながら、カイハクとアシュレーはその青年の膝の上ですやすやと眠る子供を見ていた。


「ジルちゃんは寝てくれたから、アタシがかるーく偵察してくるわ」

「起きていたら、きっとあなたを心配するでしょうし、ついていきたがるかもしれませんから、今行くのは賛成です。ですが……」

 散歩でも行くような軽い口調でサラッと言い放ったアシュレーに、カイハクは少しためらいを見せる。

「たまにはアタシも冒険者っぽい活躍をジルちゃんに見てもらいたのよ」

 冗談めかせた言葉で誤魔化してそのまま偵察へ向かおうとしたアシュレーだったが、そこへ思いもよらぬ声がかけられる。


「……私が行きます」


 張り上げた訳でもないポツリとした一言で、一気に周囲の空気が張り詰める。

 声の主は眠る子供を膝上に乗せた赤い青年だ。

 緊張した面持ちで赤い青年を見るカイハクを横目に、すでに立ち上がっていたアシュレーはわざとらしく首を傾げて青年を見る。

 そこに緊張は見えない。

 それどころか、悪戯っぽい微笑みを浮かべて、赤い青年の顔を見てから膝上にいる子供へと意味ありげな流し目を送る。

「あら、良いのかしら。ジルちゃんが起きた時、あなたがいないと寂しがると思うのだけど……あぁ、そうね、ジルちゃんが仲良しな騎士のお兄さんに……」

「私は行きません」

 即座に食い気味で前言撤回した赤い青年は、そんな事言ってませんからと言わんばかりの態度で、膝上で丸くなっている子供をしっかりと抱きしめている。

「うふふ。じゃ、サクッと行ってきて、ゲスの顔を拝んでくるわ。ついでに回収出来そうだったら、可愛い子ちゃんも連れ帰ってくるわね」

 赤い青年の態度をまったく気にした様子もなく楽しそうに笑ったアシュレーは、ひらひらと手を振りながらまるで散歩にでも行くようなノリで森の中へと消えていく。


「……ジルちゃんに良いところ見せたいなんて」


 去り際のアシュレーが囁いた独り言。その先はカイハクには聞こえなかったが、聞こえた部分だけで先ほどの赤い青年の突然の発言の理由がわかり、そっと安堵の息を吐く。

 カイハクに無駄な緊張感を抱かせた赤い青年はというと、すでに興味を失った様子で膝上の子供の髪を梳いている。

 宝石のような妖しげな輝きの瞳は、眠る子供しか見ていない。

 子供の上で仁王立ちして、ウザそうに睨みつけてくるテーミアスの存在など目に入っていない。

「ぢゅぢゅぢっ!」

 唯一通訳出来る子供が寝ているため何を言ってるか不明だが、表情的には赤い青年への文句一択だろう。

 言われている本人はまっっったく気にしていないが。

 しばらく尻尾をぶんぶんとさせて鳴き続けていたテーミアスだったが、寝ているはず子供が「のわ……?」と呟いた瞬間、ぴたりと鳴き止んで子供の顔をそっと覗き込む。

「ちゃぁ……?」

 寝言だったようで子供は目を閉じたままもごもごと口を動かすだけで、それ以上の反応は見せない。

「騒ぎ過ぎです」

 ホッとした様子のテーミアスに、今まで無反応だった赤い青年は少し不機嫌そうに文句を口にする。

「ぢゅぢゅ……っ」

 子供を起こさないように慮ってるのか、小さめな鳴き声で反論していたテーミアスだったが、子供の手が伸びて来て捕まってしまう。

 もちろんその捕まえる力は優しく、テーミアスは抵抗する事なく子供に抱え込まれてしまう。

「のわ……あったかい……」

 すりすりと頬擦りしてくる子供に、テーミアスは満更でもない表情になると、赤い青年をちらっと見て「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔をしてみせる。

 途端、不機嫌そうだった赤い青年の顔がさらにムッとしたものに変わり、少し離れた位置にいるカイハクを無駄にドキドキさせて、胃をキリキリさせていたりする。



 そんな気苦労を赤い青年は知りもしない。



 知ったとしても、何も変わらないだろうが。

「ん……」

 空腹を感じて目を覚ました俺は、時間を確認しようと目を開けて空を見上げる。

 周囲が明るいし、そんなに長く寝てはいないだろうと考えつつ、太陽の位置で大体の時間を──なんてしなくても、視界を塞いでいる相手へ訊ねれば良いだけだな。

 そう思い直した理由は空を仰いだ俺の視界が、主様の髪の夕陽色と顔で占められて空の色は窺えないからだ。

「今何時ぐらい?」

「そろそろお昼だ、ジル。ちょうど良く目を覚ましたな」

 主様へ問いかけたつもりだったが、返ってきたのは爽やかで明るい笑い声混じりの楽しそうなオズ兄の声だ。

「呼びに来たんだが、ちょうど起きてくれてて良かった」

 体を起こして声のした方を見ると、オズ兄が爽やかに笑いながら立っている。

 だが、その笑顔は微妙に引きつり、時々視線が俺の少し上をさ迷っている。

 オズ兄が見ているのは……。

「主様?」

 オズ兄の視線を辿ると、そこには主様の顔があって、オズ兄をじっと見つめているので、小首を傾げて声をかける。

「はい、ロコ」

 角度のせいか険しく見えていた主様の表情は、少し下向きになって俺を見て答えてくれたせいか、ぽやぽやと柔らかくなった気がする。

 それが嬉しくてへらっと笑うと主様もぽやぽやと微笑んで、その流れで唐突に何の前置きもなくガッツリと頬擦りされる。

「え? なになに、どうかしたのか?」

 あまりの唐突さに俺があわあわしているのも気にせず、主様は無言で頬擦りしてくる。

 主様は無精髭なんて無縁だから、こんな野営真っ最中でも頬擦りされて痛いなんてことはない。

 俺としてはフシロ団長の髭でジョリジョリな頬擦りも嫌いじゃない……じゃなくて、なんでいきなり頬擦りされてるんだろ。

 戸惑いつつ主様をそっと見ると、何故だかノワへ向けてドヤッとした表情をした後、最後に俺の頬を甘噛みしてから解放してくれた。


「……なんだったんだ?」


 主様の膝上から降りて首を傾げて呟いていると、今度は俺の肩の上でぐーっと体を伸ばしたノワから頬擦りされる。


「へ? ノワもかよ……」


 主様と張り合うように全力で頬擦りをしてくるもふもふボディに、俺は戸惑いながらもくすぐったさから笑ってしまう。



「……えぇと、これは俺も流れで頬擦りをすべきかな?」


「落ち着いて、オズワルド。絶対、そういう流れじゃないわ。見なさいよ、あの幻日様の顔」



 くすくすと笑い転げていた俺の耳には、俺を呼びに来たオズ兄と遅れてやってきたユリアンヌさんが交わしていた会話なんて聞こえていなかった。

 ただ、視界の端で主様がオズ兄をじとりと睨みつけていたのは、なんとなく気付いていたが、いつものことなので深くは考えなかった。

「いただきます! ……あれ? そういえばアシュレーお姉さんは?」

 用意してもらってあった昼ご飯を食べ始めたところで、俺はそこにアシュレーお姉さんがいないことに気付いて周囲を見渡す。

 俺達とご飯を食べているのはカイハクさんだけで、少し離れた所にいるのは騎士さん達グループだけで、そこにもアシュレーお姉さんの姿はない。

 御者さんと食べてるのかと馬が繋がれている方をちらりと見たが、御者さんは一人で馬と一緒にご飯を食べている。

 動物達が心配で一緒にいるのかと馬車の方を見ていると、軽く咳払いをしたカイハクさんが口を開く。

「アシュレーさんでしたら、少し散歩に行くとおっしゃってましたよ」

「そうなんだ。まぁ、アシュレーお姉さんなら心配しなくても大丈夫か」

 一瞬森の中へ逃げたはずの侵入者のことを思い出したが、すぐアシュレーお姉さんなら……、と思い直して主様の顔をちらっと見てみる。


「ロコ。もっと食べなさい」


 結果、俺のご飯を食べる手が止まっていることの方が気になった主様によって俺への給餌が始まってしまい、アシュレーお姉さんの件は頭の片隅へと追いやられてしまうのだった。

 

 

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想など反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


オズ兄とトルメンタ。どちらも人付き合いよさそうですが、お人好しというか攻略対象者らしく取捨選択が下手なオズ兄に対して、トルメンタは『切り捨てる』と判断した相手はサクッと切り捨てます。

わかりやすい切り捨て方ではなく、あれ?ぐらいな感じで徐々に離れていく感じで。


今回の本編には全く関係ないです←

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