道すがら小話
本筋詰まったので、道中の小話を2編セットです。
どちらも双子関係で、本編に入れられなかった話をもったいない精神で書き上げました。
〇好奇心は猫をも殺すを体感する双子
[視点無し]
素直になった(?)おかげでジルヴァラとそこそこ打ち解けた数日後、恒例となりつつある街道脇にある野営地で野営の準備中、双子が見つめているのはぽやぽやと佇む赤い青年だ。
二つ名『幻日』を持つ恐ろしい相手だとは双子もわかってはいるのだ。だが、今現在視線の先でぽやぽやとしている姿を見るとほんの少し信じられなくなりそうではある。
ぽやぽやとしながら青年が見つめているのは、野営の準備の手伝いでちょこちょこと動き回っている小さな姿だ。
一際小さなその人物は元気いっぱい動き回っているので、ぽやぽやとしている青年は目線だけが忙しなく動いている。
「なぁ、ホークー。本当にあの人が、尻触った相手を四分の三殺しにしたと思うか?」
「さぁ。そういえば、何処かの国で、城を潰したって話もあったな」
火の番をしながら双子がそんな会話をしていると、背後から唐突にうふふという軽やかな笑い声が響く。
ビクッとした双子が息の揃った動きで振り返った先にいたのは、楽しそうに笑っているアシュレーだ。
「な、なんだよ、驚かせるな」
「おれ達に何か用か?」
あからさまに肩の力を抜いた双子に、アシュレーはまたうふふと笑う。
「ごめんなさいね、話が聞こえちゃったから。ちなみに、どちらも本当よ? お尻を触ったお貴族様は辛うじて生きてるぐらいだったわね。お城は跡地だけは見せてもらったわ。綺麗な更地だったわよ」
「「マジかよ……」」
揃った声を洩らして赤い青年を見つめる双子に、アシュレーはくすくすと上品な笑い声を洩らす。
「──だから、度胸試しでちょっと触ってみよう、なんて考えちゃ駄目よ?」
笑い声混じりながら、目が笑っていないアシュレーの言葉に、揃って肩を揺らした双子は無言でコクコクと首を縦に振る。
「毎年何人か馬鹿が出るらしいのよねぇ」
「おかげでそんな馬鹿が減って助かる面もあるんですけどね」
独り言のようなアシュレーの呟きに応えたのは、いつの間にか近くにいた騎士団の副団長であるカイハクだ。
人の良さそうな微笑みを浮かべている上司の姿に、双子の頷く速度が上がり、脅かしすぎたかしらと呟いたアシュレーが頬に手を宛てて首を傾げている。
自分の話題でそんな会話がなされているなんて思いもしない──というか、どうでも良い赤い青年は相変わらず目線だけで動き回る子供を見つめていたのだが……。
「あの方の機嫌は損ねたくないですが、用事があるんですよね」
そうため息を吐いて近寄って行ったカイハクに話しかけられ、赤い青年の瞳がやっと子供から離れる。
その様子を何となく流れで眺めている双子とアシュレー。
子供の側に緑の髪の騎士とオネエな騎士がいるためか、それとも何らかの方法で感知しているからかは不明だが、少しなら目を離しても大丈夫だと思ってはいる。……のだろうが、赤い青年はあからさまに落ち着かず、憂えるような表情を浮かべている。
しかし、カイハクもこの役目を任されているからには、きちんと赤い青年と話す必要があるのだ。
そうして赤い青年の視界から外れた子供が何処に行ったかというと、ふわふわと楽しそうに笑いながらこっそりと青年の背後へ迫っていた。
少し離れた位置から見ていた双子とアシュレーは、不思議そうに子供の行動を見守る。
三人の視線に気付いた子供は、唇の前に立てた指を添えて「しーっ」という動作をして、三人へ向けて悪戯っぽく笑ってみせる。
何をする気だと止めようかと悩む双子の脇で、アシュレーは微笑ましげに見つめている。
赤い青年の背後へたどり着いた子供は、背伸びして赤い青年の背中を軽く叩き、
「主様っ、ご飯出来たぜ!」
と声をかけて驚かせ──ようとしていたようだ。
しかし、忍び足を頑張り過ぎたのか背中へ触れようとして伸ばした子供の手は目測を外してしまい、赤い青年の背中ではなく臀部をポンッと叩くという結果を生み出してしまっていた。
きょとんとした表情で振り返った赤い青年は、自らの臀部へ手を置いて誤魔化すように笑っている子供を無言で見下ろす。
「ごめん……、ちょっと調子に乗っちゃった……」
無言に耐えきれず、その体勢のままバツが悪そうにしながら謝る子供。
先程聞いたばかりの赤い青年の逸話を思い出して固まっている双子。
うふふと笑っているアシュレー。それとカイハク。
「……お返しです」
しばしの静寂の後、珍しく悪戯っぽい微笑みを浮かべてそう言った赤い青年は、子供の体をひょいと抱き上げる。
どの辺りがお返しなんだろうかと赤い青年の腕の中で首を傾げている子供は、自分を抱えている青年の手が臀部辺りをがっちりホールドしている事に気付いていない。
「よくわかんないけど、怒ってないなら良かった」
「ロコなら構いません」
ぴたりと頬を寄せた青年の優しい囁きに、子供は照れ臭そうに笑って、
「そっかぁ」
とだけ口にする。
「ちなみにあれはジルちゃん限定よ? 冗談だって言いながら軽く触って、片腕無くした馬鹿を知ってるわ、アタシ」
「…………真似する気なんてさらさらねぇよ」
「右に同じだ」
アシュレーに笑顔で念押しされた双子は、顔を見合わせて大きく頷き合うのだった。
〇双子とジル
「おい、ちび。危ないぞ」
野営地近くの川で洗濯をしていた俺は、背後からそんな風に声をかけられてきょとんとしながら振り返る。
そこにいたのは不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている双子の片割れ──これはホークーさんだな。
そう判断した俺はへらっと笑って、目の前の水面をちゃぷちゃぷと揺らしてみせる。
「ここ、俺の膝ぐらいまでしか水深ないんだから、流されないよ…………主様ぐらいしか」
川の安全性を伝えようとした俺だったが、もうだいぶ前に感じているが実際は数ヶ月前のことな主様川流れ事件を思い出して、小声で付け加えておく。
「いや、幻日様が流される訳無いだろ」
呆れた表情になったホークーさんから、笑いながら突っ込まれてしまった。
「…………ソウダネ」
ここで強固に主張してまで主様の評判下げることもないかと、俺はへらっと笑って冗談だったということにする。
台詞が棒読みな上、頬が引きつっていたので、ホークーさんから怪訝そうに見られてしまったが。
「ほら、手伝ってやる。ここで何もしなくて、お前が流されたりしたら後味が悪いんだよ」
「ん。ありがと、ホークーさん」
「別に礼を言われるような事じゃない」
これは強気な不良少女とかに言って欲しかった台詞だったなぁとどうでもいいことを考えている俺の手から、濡れた洗濯物の入った籠が奪われる。
犯人は確認するまでもなくホークーさんだ。
「転ぶなよ」
「気をつけるよ。心配してくれてありがと、ホークーさん」
今度は無言でふんっと鼻を鳴らされた。
はたから見たら不機嫌そうでガラの悪い態度だが、ちらっと見えた耳が赤くなっているあたり、わかりやすくて可愛いと思う。
そこで初めて、俺はホークーさんがイヤリングをしていないことに気付く。
ホークーさんと今ここにいないマヒナさんは双子なので、当然顔がよく似ている。
口調や行動にも大きな差異はないので、騎士団の制服を着ていると友人でもどちらがどちらか悩むかもしれない。
そんな煩わしさがあったからなのか二人は見分けてもらうために、マヒナさんは右耳だけにイヤリング、ホークーさんは左耳だけイヤリングを着けているらしい。
この件はユリアンヌさんが「微笑ましいわよねぇ」とうふうふ笑いながら教えてくれたので信憑性は高い。
で、そんなイヤリングをホークーさんは今日着けていない。
そこそこ大きいイヤリングだし、寝る時は外してるのかもしれないなぁと思いながら、指摘すると照れ隠しに怒鳴られそうなので、俺は気付かなかったことにした。
別にイヤリングがなくても見分けられるから。
●
[マヒナ視点]
「あいつ、いないと思ったら……」
気付いた時にはいなかった片割れを探していた俺は、黒髪の子供と洗濯物を干している姿を見つけ、思わずそんな呟きを洩らしてしまう。
俺にも声をかけろよなと内心で吐き捨てて二人の姿を眺めていた俺は、ホークーがイヤリングを忘れている事に気付く。
「あの馬鹿が……」
わかりやすい所に黒子や傷でもあれば見分けがつくだろうが、俺達双子にはそういう特徴がないため、両親ですら俺達を見分けられない。
両親が俺達を見分けられないのは、興味がないせいかもしれないが。
「具合でも悪いのか?」
嫌な思い出が蘇りかけ、小さく頭を振った俺へかけられたのは、片割れの声ではなく声変わり前の子供の声だ。
「っ!? ……いや、大丈夫だ」
不意打ちで驚いてしまった照れ臭さもあり、ぶっきらぼうに答えてしまったが、子供は気にした様子もなく笑って俺を見上げながら首を傾げてみせる。
「そうか? あ、ホークーさん、手伝ってくれてありがとな」
そこへちょうど戻って来たホークーへ礼の言葉を声をかけてから、子供は俺達へ向けて手を振ってパタパタと軽い足音と共に去っていった。
「……あぁ、そうか。俺はちゃんとイヤリングしているから、ホークーだとわかったのか」
イヤリングをしていないホークーをホークーだと見分けていた様子の子供の声かけに、俺は一瞬驚いたがすぐ自分の方がきちんとイヤリングを着けていた事を思い出して自嘲するように笑う。
俺の方がマヒナだとわかれば、消去法で自分と一緒にいたのがホークーになるのは子供でもわかる簡単な話だ。
俺の独り言にホークーは自らがイヤリングをしていなかった事に今気付いたらしい。
驚いたように目を見張って、バッと勢い良く子供が去った方へ顔を向けている。
「どうしたんだよ?」
驚いた俺が問うと、ホークーは驚きを隠せない顔で俺を見ながらイヤリングのない耳へ触れて何処か呆然とした表情で口を開く。
「……普通におれがホークーだってわかってた、あのちび」
その言葉を聞いた俺も、反射的に子供の姿を探す。その姿は幻日様に捕獲されてしまっていて、こちらからは黒い髪ぐらいしか見えなくなっている。
「は? 見分けられてたのか、あいつ」
ホークーと顔を見合わせていると、気持ち悪い特徴的な笑い方をしながら通りすがったユリアンが、
「あら、ワタシもオズワルドも見分けられてるわよ? まぁ、初対面なのに見分けちゃうジルちゃん程すぐに見分けられた訳じゃないけれど」
と言ってきて、俺達の反応を見る事もなく通り過ぎる。
「なんか俺ら格好悪かったな」
「……だな」
脱力しながら見合わせたホークーの顔は、なんとも情けない笑い顔で、俺もきっと同じ顔で笑っているんだろう。
──次の日。
出発前の野営地で、少しだが当たりの柔らかくなった双子に首を傾げる子供と、微笑ましげにそれを見守るオネエさんの姿があったりしたかは本人達しか知らない。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想など反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
誰も俺達を見分けられないぜとか思ってた双子。
意外とみんな見分けてもらえてるんだと肩透かし。
というか、サラッと出て来た毒親っぽい親が悪いですよねぇ。我が子見分けられないなんて。
オズワルドとユリアンは、それこそ長い付き合いなので見分けられ、ジルヴァラは何となくで見分けています。
こういう所で野生の勘的なの発揮するのが、うちのジルヴァラです。




