351話目
前回書き忘れましたが誤字脱字報告、ありがとうございます!
何故か私のスマホの予測変換『馬車』と打つと頑なに『場所』と変換したがるんですよねぇ(*´ω`*)
「……ちなみに怪我をした子はいるかしら?」
なんだかんだ怖かったぁと訴えてくるもふもふぎゅうぎゅうな集団を撫で回していると、復活したアシュレーお姉さんにそう訊ねられたので俺は改めて周囲を見渡す。
もちろん少し離れている比較的大型な子達の方もジーッと見る。
向こうも俺を見ていたのでしばらくジーッと見つめ合う。
見た感じは大丈夫そうだなと息を吐いた俺は、念の為口頭でも確認することにした。
「見えない所怪我してたり、痛かったりしたらちゃんと俺とか……あそこにいるアシュレーお姉さんとユリアンヌさんは信頼出来る人達だから、あの人達に言うんだぞ?」
俺の言葉を真剣な様子で聞いていた動物達は、それぞれ「みゃー」とか「ヒヒン」とか「ガウ」とか「ぴよ」とか「ひゃん」とか各自個性的だが揃って良い子な返事をしてくれる。
「アシュレーお姉さん、ユリアンヌさん、みんな理解してくれましたから」
これで大丈夫とアシュレーお姉さんとユリアンヌさんを振り返って笑いかけたのだが、返ってきたのは何故か困ったような微笑みだった。
「アタシ達にはわからないのよねぇ」
アシュレーお姉さんが何事か小声で呟き、ユリアンヌさんが大きく頷いて同意を示している。
仲良しオネエさん達が何を話していたかわからないが、気にする前にもふもふぎゅうぎゅうからの撫でろコールが増したので、ひとまず俺は手を動かすのだった。
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触診という名のスキンシップタイムを終わらせて、動物達自身が気付いてないような怪我もないことを確認して、俺達はカイハクさんの所へ報告へ戻る。
動物達の馬車を引いていた馬は横を通り過ぎる時に、頭かち割ってやるぅ! と叫んでいて相変わらず元気が良かった。
あの分なら御者が代わっても問題なく馬車を引いてくれそうだ。
「ジルちゃん……あの馬……」
「あはは。あの怒り具合じゃ、本当にご主人様近付いたら頭かち割られちゃいますね」
馬の怒り具合に引き気味なアシュレーお姉さんに、へらっと笑って相槌を打っておく。
「ご主人様……? あの馬、主人の頭をかち割ろうとしているのかしら?」
「え? あぁ、今はかち割るしか言ってないでしたね。さっきは、うちの馬鹿主人が申し訳ないみたいに謝ってて、でその時『あの野郎頭かち割ってやる』みたいに言ってたので……」
俺がそう答えるとアシュレーお姉さんは「そう」とだけ呟いて、何事か考え込む様子を見せる。
なんだろうとユリアンヌさんと顔を見合わせていたが、結局アシュレーお姉さんからの答え合わせはなかった。
その後、カイハクさんへ動物達のことを報告すると、安堵半分困惑半分の難しい表情になってしまった。
「……連れ去られた動物はいないですが、自分で突撃していってしまった子がいるんですね」
「えぇ、ジルちゃんが聞き取りしてくれたから間違いないわ」
カイハクさんとアシュレーお姉さんが難しい顔で話し合っている横で、俺は主様からだきあげられ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられている。
戻った直後、くんかくんかと匂いを嗅がれたので、動物達の匂いを上書きされてるんだと思う。
「ジルちゃん、ついて行っちゃった子は自力で戻って来れるのかしら?」
こちらへ顔を向けたアシュレーお姉さんからの質問に、俺は自信を込めて頷いて根拠も付け足しておく。
「ケレンとカナフによると『あれが人の作った檻程度に閉じ込められる訳が無い』だそうですから」
俺の答えを聞いたアシュレーお姉さんは、ありがとうと微笑んでお礼を言ってくれた後、視線を遠くへ向けている。
「……問題なさそうね。ただ問題は、いつ戻って来てくれるか、よね」
どうやら侵入者はモンスターをこちらの馬車の方へ追い込んでから、馬車の速度が緩まった隙に乗り込んだらしい。
まぁ、モンスターが来なくても、御者が買収されちゃってたみたいだから、なんだかんだ理由をつけて馬車は減速させられ、侵入を許してしまったと思うけど。
そんな侵入者が潜んでいたと思われるのが、思案げに呟いたアシュレーお姉さんの視線の先にある街道脇に広がる森だ。
こちらも俺にとって『思い出』のある森だったりする。
別にこちらは寄らなくても良かったんだけど、こうして馬車を停めて森を眺めることになってしまっている。
これもある意味物欲センサーのせいなんだろうか。
「こっちはイオに会えたとはいえ、あんまり良い思い出ないよなぁ……あのリンクスに襲われたし……」
思わずそんなことを洩らすと、主様の体が強張り、ぎゅうぎゅうされる力が強まる。さらに、お腹の辺りをやたらと撫で回される。
意味不明な愛でられ方にあうあうしていた俺だったが、ふとある可能性に思い至って、主様の顔を見ようと振り仰ぐ。
「……もしかして、傷跡のところ撫でてくれてる?」
俺の問いに少し不満そうなぽやぽや主様は、一度手を止めて無言でこくりと頷いてから傷跡のある辺りのなでなでを再開する。
傷跡が目に入る度にぽやぽやが曇る主様のため、少しくすぐったいのは我慢しておこう。
傷跡自体はもう痛むことはないが、ただ少し引きつった感じがする…………のは主様が気にするから秘密だ。
一人ひっそりと笑った俺は、未だに不満そうな主様のぽやぽや顔から目を離し、ある意味思い出深い森の方をちらりと見る。
別に『何かが来る!』とか格好つけたい訳ではなく、俺の肩の上にいない存在のことを気にしているからだ。
あの子は一匹で帰ってこられるとは思うが、それはそれとして心配なものは心配なので心配してソワソワしていたら、ノワが「見て来てやるぜ」と颯爽と飛んでいってしまったという流れだ。
心配が二乗になってしまったという気分なのは、いくらノワが見た目に反して男前で勇敢な性格とはいえ、戦闘能力が皆無な可愛らしいもふもふボディなせいだろう。
「……テーミアスは、普通の人間などに捕まりません」
そんな俺の気持ちを見透かしたのか、唐突に聞こえてきた主様の呟きに、俺はきょとんと主様の顔を見上げる。
『人間など』の『など』の力強さにちょっと違う不安が湧きそうになったが、主様の心遣いを無駄にしたくないので、俺はへらっと笑って頷いておく。
「あの方にあんな言い方されるなんて、テーミアスって本当に幻の獣って感じなのね」
「ジルヴァラくんの肩の上でとろけていましたけどねぇ」
そんな会話をアシュレーお姉さんとカイハクさんがしているのが耳に入り、俺は吹き出しそうになったのを主様の服へ顔を埋めて誤魔化すのだった。
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