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349話目

さぁ、道中かっ飛ばして行きますぜーということで、サクサク進んでおります。



 しかし、ただのツンデレだった騎士さんを、平民を侮ってる! と勘違いしちゃうとは……。


 たまにある思い込みの激しい勘違い系の主人公みたいなことしちゃってたな、俺も。

 そういえば自分がヒロインだと勘違いしてる女の子が憎まれ役として出て来るパターンもあったような?

 ヒロインちゃんは本物のヒロインだから、これには当て嵌まらないけど、正義感強過ぎて思い込み強めなのは少し心配…………って、俺が心配するのは筋違いか。



 馬車の窓の外を流れる風景を見ながら一人でひっそり笑っていると、隣に腰かけていた主様によって引き寄せられて膝上へ抱えられる。



「すっかり追いつけなくなったみたいねぇ、あのお貴族様達」


「こちらは常に幻日様の魔法で速度を上げ、ジルヴァラくんのおかげで馬のやる気も違いますからね」



 アシュレーお姉さんとカイハクさんはのんびりとそんな会話をしているが、少し眠くなってきた俺の耳には上手く拾えない。

 馬車の揺れと主様の温もりのおかげで、かなりもう限界だ。

 主様のおかげで半分の日数で到着出来そうらしい。でも、すっ飛ばした旅路のせいで、しれっと主様との思い出の場所である野営地を通り過ぎてしまっていた。

 本当に、いつの間に!? って感じだ。


「あそこ……」


 寄りたかったなぁとふわふわした思考の中で呟きかけ……たところで、そこまで良い思い出あったっけ? とふと冷静になる。

 むぅむぅと唇を突き出して唸りながら考え込んでいると、不意に唇へ柔らかな感触が触れる。

「ん?」

 なんだろうと伏せていた目線を上げると、そこにはこちらをガン見している主様の顔がある。

「ロコ、私を見てください」

 どうやら俺がずっと外を見ていたから拗ねたらしい発言に、俺はへらっと笑って主様の髪へそっと触れる。

 そのまま艶々さらさらな手触りを楽しんでいると、お返しとばかりに頭を撫でられる。

 ついでにノワも「撫でろ」と訴えてきたので、もふもふしたお腹を遠慮なく片手で撫で回す。

 両手に花……ではなく、両手に艶々さらさらともふもふを堪能しながらニマニマしていると、こちらを微笑ましげに見つめている二対の視線に気付く。

 そこではたと同乗者の存在を思い出した俺は、主様の髪に触れていた手を離してノワを両手で抱きしめ、主様の服に顔を埋める。

 隠れられていないのは理解してるが、気分の問題だ。

 うりうりと主様の服へ顔を擦り付けていると、アシュレーお姉さんがうふふと柔らかく笑う声が聞こえる。

 その声にからかいや嫌悪なんて負の感情は欠片もなく、ただただ優しくて。

 その声を聞いて無駄な照れ隠しを止め、俺はとりあえず眠りの世界への逃亡をすることにして目を閉じて体の力抜くのだった。

[アシュレー視点]



「あらあら、寝ちゃったわ」



 可愛らしい照れ隠しをしていたと思ったら、くぅくぅと寝息を立て始めたジルちゃんに、アタシは微笑ましさからそんな呟きを洩らす。

 そんなアタシの声が聞こえてしまったのか、上機嫌にふわふわとしていたあの方の肩がピクリと揺れ、膝上に乗せていたジルちゃんを懐へ隠してしまう。

「ぢゅぅっ!?」

 突然過ぎてついて行き損ねたテーミアスが驚いたように声を上げ、あの方の顔を太い尻尾でたしたしと攻撃していて可愛らしい。

 とても頑張っているけど残念ながら効果はないみたいで、あの方は視線を向ける事すらしていない。

「あれ……大丈夫でしょうか」

 けれど、初めて見た副団長様が驚いて、小声で訊ねてきてアタシとあの方を交互に見ている。

「えぇ、問題ないわ。あのテーミアスがジルちゃんと仲良しなのはあの方もわかってるもの」

 そもそもあのテーミアスを害のあるものだと思ったら、あの方がジルちゃんに近づける訳が無いからと根拠の理由を告げると、副団長様の緊張がわかりやすく緩む。

 しばらく攻撃し続けたテーミアスは、やがて諦めたのか小さく「ちゃぁ」と弱々しく鳴いて所在なさげにしている。

「良かったらアタシとお話しましょ?」

「ぢゅっ?」

 可愛らしい生き物がしょぼんとしている姿を見ていられなくて声をかけたら、パッと顔を上げて不思議そうにアタシを見て首を傾げている。

 ジルちゃんが『見た目は可愛いのに男前だよなぁ』なんて言うから、たぶん今も男らしい感じの言い方かもしれないけれど、アタシから見ると可愛らしい小動物にしか見えない。

「おやつもあるわ」

 ジルちゃんによるとこのテーミアスはナッツが好きらしいので、素焼きのナッツが入った袋を揺らしてみせると、目をキラキラと輝かせてこちら側の座席へ軽々とジャンプしてくる。

 その勢いのままアタシへ警戒する様子もなく膝の上に乗ってきてくれたので、ハンカチを敷いてその上にナッツを出す。

「ぢゅぢゅ!」

 ありがとうとばかりに一声鳴いたテーミアスは、早速アタシの膝の上で遠慮なくナッツを食べ始める。

 中身は男前だとしても見た目は愛らしい小動物だから、小さな前足でナッツを抱えてかじる姿は文句無しで可愛らしい。

「お口に合ったかしら?」

「ちゃっ! ぢゅぅ」

 ジルちゃんがいないからわからないけど、たぶん『おう! 美味いぜ』みたいな感じかしらとテーミアスを見つめる。

 気付くと隣から副団長様も優しい眼差しで見つめている。


 わかるわぁ。


 子供とか動物の食事姿ってなんだかこう無心になって見つめたくなってしまう。



 一部例外はあるけれど。



 もしもだけれど、あの白い子が食べる姿を見たとしても、アタシは何にも感じない自信があるもの。


「ちゃあ?」


 想像した光景のせいで表情が歪んだのか、ナッツを食べる手を止めたテーミアスから心配そうに声をかけられる。

 でも、こてんと首を傾げるのはあざと可愛すぎると思うの。

 ジルちゃんみたいに思い切り撫でてみたいけれど、さすがに無理よねとぐっと堪える。


「……尻尾、触ってみても良いかしら?」


 結局我慢しきれずそう訊ねてしまったアタシに、テーミアスは気を悪くした様子もなく触りやすいように四つん這いになって尻尾を高く上げてくれる。



「ぢゅぢゅぢゅっ」


『好きに触れよ』



 ジルちゃんの通訳はないけれど、そんな感じの事を言ってくれたみたいなので、アタシはもふもふとして触り心地の良さそうな尻尾へそっと手を伸ばす。




「もふもふだわ」



 それしか感想が出ないぐらいもふもふしてたわ、テーミアスの尻尾。



 アタシ達の意識がテーミアスへ向かったからか、それとも自分が愛でたかったからかはわからないけれど、いつの間にか視界の端に見えている幻日様の膝上には丸くなって眠っている可愛らしい姿がある。

 アタシと副団長様はちらりと目線を交わし、無言で頷き合った。




 本日も馬車の中(・・・・)には平和で穏やかな時間が流れていて、アタシはひっそりと口の端を上げて微笑む。



 目的地はもうすぐ。何事もなく──。


 なんて、幻日様がいて叶うはずもない願いだったかしら。



 ぐっすり眠っていたはずなのに、ぱちっと目を開けて体を起こしたジルちゃんを見て、アタシは心の中で呟いて自嘲するように微笑んだ。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



ジルヴァラは一応(笑)野生児です。最近はすっかり拾われて懐いた子猫状態ですが。

そして、エノテラ以外に名前を呼んでもらえないヒドイン。

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