36話目
二日酔いジルヴァラ。
私はお腹がゆるくなるタイプです←
ちなみに、本当に小さい子に飲酒はいけません! 強要も絶対駄目です! 許されるのは創作物のみで!
「……コ、ロコ、ロコ、起きてください」
ふわふわとした幸せな夢を見てた気がする。
そんな中、主様の呼ぶ声でゆっくりと意識が浮上して、俺はパチリと目を開ける。
「主様? あれ、俺寝坊した?」
主様がバッチリ目覚めているという事態に、俺は一瞬で覚醒して勢いよく体を起こして……そのままベッドへ逆戻りした。
「ったぁ……なんだ? なんか、頭ガンガンする……」
割れるように頭が痛いし、込み上げてきた吐き気に俺は口元を手で覆い、ベッドの上で丸くなる。
「ロコ、どうしたんですか? しっかりしてください」
いつにない俺の様子に、ぽやぽやをかき消してサッと顔色を悪くした主様が、ゆさゆさと揺さぶってくるが、逆効果なので止めて欲しい。
喋ろうとすると吐きそうなので、目を固く閉じて体を丸めて頭痛と吐き気をやり過ごす。
「俺、どうしたんだっけ?」
しばらくじっとしてやっと頭痛と吐き気が少し収まったので、俺は心配そうにこちらを見ているであろう主様を見て……って、いないし。
水でも取りに行ってくれたのかな、と待っているが、いつになっても戻ってくる気配はないし、家の中は静かだ。
そもそも静かに動く主様だが、もしかしたらすでに家の中にいない?
「これって、明らかな二日酔いだよな。もしかして、あのケーキ、お酒入ってたかぁ……」
前世で嫌というほど味わったことのある苦しみに、俺は背中を丸めたままやっちまった感にため息を吐く。
「スポドリか、しじみの味噌汁……」
思わず口から出たのは、前世で二日酔いの時にお世話になったものの名前だ。
どれだけ待とうがどちらも出てくる訳はないので、とりあえず水でも飲もうと何とかベッドから這い出した俺は、ふらふらとキッチンへ向かおうとする。
そこへバンッと勢いよく寝室の扉が開き、あまりの勢いに驚いた俺はふらついていたこともあって、よたよたとしてベッドにちょこんと腰かける体勢になる。
「ジルヴァラ! 具合が悪いと聞きました!」
扉の勢いと同じぐらいの勢いで飛び込んできて、そう言い放ったのはドリドル先生だ。
主様は、どうやらドリドル先生を呼びに行ってくれてたらしい。
ただの二日酔いの俺のために。
血相を変えて息を荒らげているドリドル先生の背後で、主様もぽやぽやと落ち着きなく俺を見ている。
「えぇと、頭痛くて、気持ち悪いんだけど、昨日ちょっと、お酒の入ったケーキ食べた気がするんだよなー」
とてつもなくバツが悪く、誤魔化すようにへらへらと笑って告げたのだが、ドリドル先生の表情は険しいままだ。
何やってるんですか、とか呆れられると思っていた俺は、首を傾げてドリドル先生の反応を窺い見る。
「何をやってるんですか……」
やっとドリドル先生が口にしたのは、俺の予想通りの台詞だったが、声音は地を這うように低く、刺すような視線は俺ではなく主様を睨みつけている。
「ドリドル先生?」
「こんな小さな子に酔うほどお酒の入った食べ物を食べさせた上、酔っ払っていたのに何もしなかったと? ジルヴァラにもし何かあったらどうするつもりだったんですか?」
ドリドル先生の言葉に、心なしかしゅんとしている主様を見ていられず、俺はパタパタと手を振り回して元気ですアピールをする。
「ドリドル先生! 俺が弱すぎただけで、そんなお酒入ったケーキじゃなかったんだぜ? それに、ちょっと頭痛くて気持ち悪いだけでなんともないって!」
「ジルヴァラ、この方を庇いたいのはわかりますが、あなたはまだ小さい子供なんです。大人にとっては少しの量でも、あなたにとっては多いんです。それに、もしも夜中に吐いてしまい、それが喉に詰まったりしたら?」
俺のフォローは完全に逆効果だった。
真剣な顔をしたドリドル先生に肩を掴まれ、正論という名の武器で思い切り叩かれて項垂れていると、優しい手付きで頭を撫でられ腰かけていたベッドへ再び寝かされる。
「子供なんて、ほんの些細なことで亡くなってしまうんですから」
ドリドル先生に脅すつもりはないんだろうけど、視界の端で主様が、何ですって!? と言わんばかりに目を見張ったので止めて欲しい。
主様もよく「人間なんてすぐ死ぬ」みたいなこと言ってるけど、やっぱり医者に言われると重みが違うのかもしれないな。
「幸いにもただの二日酔いのようなので、これを飲んでおとなしく寝ててください」
そう言って、ドリドル先生が差し出してきたのは苦そうな薬……ではなく、ガラス製の水さしだ。中には濁った水のような液体が揺れている。
「水?」
「二日酔いによく効きますよ。中身はレモンと塩と……」
ドリドル先生があげた残りの品を含めて考えると、いわゆるスポーツドリンクっぽい物らしい。
こういうところはファンタジーじゃないのかよ、と思いながら、早速ベッドの上で体を起こして、ドリドル先生に支えてもらってドリンクを飲ませてもらう。
「冷たくて美味しい……」
「あぁ、そちらの方に冷やしてもらいました」
ひんやりとした液体が喉を落ちていく感覚に、吐息混じりに呟いていると、ふ、と鼻で笑ったドリドル先生が俺の口元を拭きながらチラリと視線を主様へ向ける。
「そっか、ありがと、主様。ドリドル先生も、朝早くにごめん。来てくれてありがと」
「構いませんよ。ついでに傷の経過も診ましょう」
ニコリと優しく笑ったドリドル先生の手が上着をまくり、包帯がするすると外される。
「綺麗に塞がってきてますが、傷跡が残ってしまいそうですね」
あたたかく優しい指先が傷の跡を辿る感覚に、俺は小さく身震いしながらも、痛ましげなドリドル先生の様子にくすくすと笑ってみせる。
「女の子じゃないんだから、傷跡なんて気にしないって…………って、主様、何処行くんだよ? 出かけるのか?」
包帯を巻き直してもらい、上着を着直していた俺は、外套を手にして明らかに外へ出かける準備を始めている主様に気付いて目を見張る。
頭痛と吐き気は、ドリドル先生の持ってきてくれたドリンクのおかげで少し引いたので、俺はついていく気満々でベッドから降りようとしてドリドル先生に捕獲される。
「何処へ行く気か知りませんが、ジルヴァラは留守番です。寂しいようなら、騎士団本部へ来ますか? 皆さん、あなたを恋しがってますから。すぐジルヴァラは何してるかな、とか私に具合を聞いてきたりもしてますよ?」
「えー……あー、でも、騎士さん達に会えるなら留守番でも……」
主様についていきたいが、確かに今の体調だと足手まといだろうし、ドリドル先生からの提案もかなり魅力的だ。
そのままドリドル先生の首へ腕を回して抱き上げてもらおうとしたのだが、その前にすたすたと近づいて来た主様によりぐいっと引っ張られて、俺の体は主様の腕の中へと移動する。
「主様? 俺、ちゃんと留守番出来るけど。ドリドル先生んとこなら、安全だろうし」
「ええ。騎士団本部は王城の敷地内にありますし、何より中には屈強な騎士が待ち構えていますからね」
ドリドル先生の自身に溢れた言葉を聞いて、これは間違えて泥棒に入ったりしたらボコボコにされるやつだよなーとか思ってるうちに、主様の手によってベッドへ戻される。
「出かけません。ロコは私と一緒に家で休みます」
「……わかりました。少しでも異変があったら、すぐに私を呼んでください」
ドリドル先生はベッドへ寝かしつけられた俺ではなく、ぽやぽや言い放った主様をチラ見して深々とため息を吐き、最後まで俺を気にかけてくれる言葉を口にして帰っていった。
「なぁ主様、用事あったんじゃないのか?」
ベッドへ寝かされて、外套を脱いで隣に添い寝する体勢になった主様をチラチラと窺って問いかけるが、返って来たのはぽんぽんと優しく体を叩く手だ。
「本当に、俺、ちゃんと大人しく待ってるぜ? 確かに、留守番は嫌だとか、ワガママ言った気もするけど、我慢出来ないほど子供じゃないからな?」
拗ね気味な俺の言葉に対し、主様は少し首を傾げてぽやぽや微笑むだけで、結局何の用事だったか話してはくれなかった。
「リンクスを全て狩りつくす程度のことは片手間で出来ますから」
やっと何か呟いたと思ったら、小声過ぎて聞こえず、目線だけで訴えてみたが主様には通じず。
どれだけ見つめていても言い直してくれそうもないので、俺は体調回復のため、大人しく眠ることにしたのだった。
しばらく後、とある人物のリンクス抹殺計画に気付いた某騎士団団長は、とある黒髪の子供に頼んで「リンクスって可愛いよなーいなくなったら寂しいなー」という三文芝居を演じさせたとか、しないとか……。
そんなことは、今現在ベッドで微睡む子供は知る由もなかった。
いつも反応ありがとうございますm(_ _)m
実は間違えて次の話の前書きと後書きを書いてしまい、全部消したのは私です←