347話目
お正月ストック終了しちゃいました。
また不定期更新に戻りますm(_ _)m
中身は優しいオネエさんなユリアンヌさんだが、その肉体は鍛え上げたられた騎士様そのものなので力のいるお世話もあっという間だ。
おかげであちらのお貴族様の優雅な朝ご飯が終わる前に出発出来そうだ。
「ふんっ! 獣臭いのが移るだろ!」
「まったくいくら幻日様の連れとはいえ、あんなガキに媚びを売るとはな!」
ユリアンヌさんにオズ兄以外の騎士さんが絡んでるが、ユリアンヌさん本人は気にした様子もなく「あら」といった風に笑って流しているのが視界の端に見える。
ユリアンヌさんが言い返した言葉は、こちらまで聞こえてくる大声で絡んでいた騎士さん達とは違って聞こえなかったが、騎士さん達の顔が赤くなって『ぐぬぬ』みたいな表情をしたから、ユリアンヌさんに言い負かされたのが遠目でもわかる。
気になってチラチラと見ているとアシュレーお姉さんが近寄って行ってよく言ったわ的な感じで誉めてるのか、バシバシ背中を叩いてる。
痛そうな音が聞こえてくるけど、ユリアンヌさんは嬉しそうに微笑むのみ。
あの筋肉は伊達じゃないんだな。
ふむふむと感心していると、背後から近づいて来ていた主様によって抱えられてしまう。
「オズ兄、ユリアンヌさん、また後でな! 御者さん達、よろしくお願いします!」
多少うるさいと思われようが挨拶はしたいので、離れつつある馬上の人になった二人と御者さん二人へ挨拶をして、そのまま主様によって馬車へ連れ込まれる。
「ぢゅぢゅあ?」
なんで馬車動かす人間が二人なんだ? とノワが不思議そうに首を傾げている。
そういえば昨日から馬車の外にいる時はずっと俺の服の中にいたかもしれない。
そう思った俺は主様の隣へ腰かけながら、ぽんぽんと馬車の座席を叩いてみせる。
「今回は俺達が乗ってるこの馬車の他に、あいつらを乗せた馬車があるだろ? だから、御者さんも二人いるんだよ」
「ぢゅ」
そういうことかと納得した様子のノワは、すっかり寛ぐ体勢になって俺の肩の上で毛繕いを始める。
この馬車の中にいるのは、俺達の他にアシュレーお姉さんとカイハクさんだけなので特に問題はない。
昨日はやはり少し緊張してたのか、たまにちょこっと顔だけ覗かせてすぐ引っ込んでたからな。
「テーミアスがそこまで懐くとは……」
「懐いてるっていうより、仲良くしてくれるって感じかな。俺のこと何度も助けてくれたし」
感心したようなカイハクさんの呟きに、俺はへらっと笑ってノワを手の平に乗せて、興味津々な様子のカイハクさんから見えやすいように持ち上げる。
「ぢゅぅ」
「しばらく同じ馬車に乗るんだから、ちゃんと挨拶しとけって」
毛繕いの途中だったため少し迷惑そうなノワだったが、俺の言葉に納得して俺の手の上で顔を洗うようにして毛並みを整えてからカイハクさんとアシュレーお姉さんへ体を向けて姿勢を正すと、たしっと片手を上げて見せる。
「ぢ、ぢゃっ!」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
「うふふ、よろしくね」
可愛い見た目にそぐわない「ま、よろしく頼むぜ」というノワの挨拶に、カイハクさんとアシュレーお姉さんからは優しい微笑み付きのふんわりとした挨拶が返ってくる。
挨拶を終えたノワはまた俺の肩の上へ陣取り、念入りな毛繕いを再開する。
小さな前足と口を使ってちまちまと毛繕いをする姿は可愛らしく、ついつい眺めてしまう。
見慣れている俺でもそうなるので、カイハクさんやアシュレーお姉さんが視線を奪われるのは仕方ないよな。
しかもテーミアスは幻の獣的な扱いらしいし。
俺達の視線を気にも留めず、ノワはもふもふとした立派な尻尾の毛繕いへ入る。
尻尾がもふもふして太いせいで前足が届かず難儀しているのが余計可愛らしい。
「可愛いわねぇ」
思わずといった風なアシュレーお姉さんの呟きが聞こえ、俺はへらっと笑ってノワが届かない辺りの毛並みを指でそっと整える。
「ぢゅっ」
それに気付いたノワは助かるぜと言ってから、ここも頼むと俺へ背中を向けてくる。
見ると確かに背中の真ん中辺りの毛が乱れている。
「はいはい、ここだな」
ちょいちょいと乱れた部分を直してやると、ありがとな! とノワが頭突するように俺の頬へ頭を擦り寄せて来た。
「……本当に可愛いわぁ」
またアシュレーお姉さんが呟く。
ちらりと横目で見た時、うっとりとしたアシュレーお姉さんの目が見ていたのが俺な気がするのは、いくらなんでも自意識過剰過ぎるよな。
「可愛いです」
隣に腰かけていた俺を自らの膝上に移動させ、ノワの文句を物ともせず俺の後頭部に顔を埋めている主様に関しては──たぶん自意識過剰じゃなくて、主様の目には俺が可愛く見えることもあるんだろう。
●
やたらと馬車が速い気がするなぁと思ったら、主様によって魔法でなんやかんや裏技が使われていたらしい。
なんでその裏技に気付いたかというと、本日の昼休憩の際にお貴族様の乗った馬車が現れなかったからだ。
「今日はあのお貴族様達追いついて来ないな……」
それがフラグになってしまうかもと思ったのはつい口に出して呟いてしまった後だ。
幸いというか俺にはフラグ建築士の才能がないらしく、その後もお貴族様の馬車は姿を現さず、そのまま昼休憩を終えて俺達は馬車を出発させることが出来た。
で、なんで今日は追いつかれなかったんでしょうね的な話題を振ったら、主様が魔法を使ってくれていたことが判明したのだ。
気付いてなかったのは俺だけで、アシュレーお姉さんもカイハクさんも、もちろん馬車を操っている御者さんも気付いていた。
後ろをついてきている動物達の乗る馬車にも魔法を使っているという主様は、いつも通りぽやぽやとして膝上に乗せた俺の髪を梳いている。
「継続的に二台も魔法かけて、主様大丈夫なのか?」
魔法が使えない俺にはそれがどれぐらいの負担か全然わからないけど、アシュレーお姉さんの呆れ具合からするとかなり常人離れしたことなんだと思う。
いくら主様でも、と心配になって主様の服をギュッと掴んでいると、やんわりと服を掴んでいた手を外される。
そのまま俺の手をにぎにぎと握ってくれた主様は、ぽやぽやと微笑んで「大丈夫です」と言って俺を安心させてくれた。
「馬車があと百台増えようが、何の問題もありませんから」
珍しくそんな冗談まで口にして。
「……冗談なんて事はないでしょうね」
「事実を言っただけだと思うわ」
アシュレーお姉さんとカイハクさんも主様の珍しい冗談に驚いたのか、目線を交わし合い小声で何事か会話していたのだが、何故だかその後揃ってため息を吐いていたのが少しだけ不思議だった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
なんとかサクサク森まで行ってくれると良いなぁと思ってます。




