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346話目

相手を責める場合はきちんと確認を取ってからにしましょう。


そういう話でした。



「俺達の依頼人はお貴族様なんだぞ! わかってんのか!?」



 テントの布越しなのもあり、怖くはないがうるさいので主様の胸元へ顔を埋めてじっといていると、さらに外が騒がしくなってくる。



「…………そうおっしゃるのなら、本人を見つけて差し上げるのが先だったのでは?」



 この落ち着いた声は間違いなくオズ兄だ。

 反射的に顔を上げようとしたが、寝惚けた主様によってぎゅうぎゅうと抱きしめられて叶わない。

 そのまま成り行きが気になって耳を澄ませていると、


「まったくその通りだ! 何故わしを探しに来ない! そもそもわしが何者かに襲われて森へ連れ去られたというのに、助けにも来ないとはな!」


 なんてずいぶんと元気の良い声が聞こえてくる。

 どうやら行方不明だったお貴族様は、昨夜何者かにさらわれていたらしい。

 そういえば夜中不穏な気配を感じた気もしたなぁと思いながら、主様の温もりでうつらうつらしている間も、テントの外はやんややんやと騒がしい。



「あら、その人達を庇う訳じゃないけれど、そんな貴いお方がどうして真夜中にお一人で出歩いていたのかしら?」



 今度の声はアシュレーお姉さんかな。口調だけだと騎士さんの方のお姉さんと聞き分け難いけど、声がアシュレーお姉さんだ。


「なっ!? わ、わしは、別に出歩いてなど……っ」


 お貴族様わかりやすく焦ってるなぁと欠伸を噛み殺して、主様の胸元へ額を擦りつける。


「うふふ、ずいぶんとお戯れを。護衛対象者が消えて、すぐ他人を疑うような慌て者の冒険者でも、護衛対象がテントの中からさらわれて気付かないなんてないわ」



 お貴族様の反論は聞こえてこない。小声だったのか、アシュレーお姉さんの指摘が図星だったか。

 寝惚けているらしい主様に撫でくり回されている俺にはわからない。



「…………夜中に用足しに行くから付いてくるな。腹の調子が悪いから遅くなっても心配するなと言われたんだよ」



「それでも護衛対象者から目を離すなんて愚か者よ。…………でも、それでどうしていきなりこちらを疑ったのかしら? 普通なら迷子になったか、それこそ腹痛で倒れているとでも思うんじゃないかしら?」



 お貴族様の発言にムカついたのかボソッとぶっちゃけた冒険者にアシュレーお姉さんの容赦ない突っ込みが続き、俺もうんうんと頷く。もちろんテントの中で、だが。

 さっきからの騒がしさに主様もさすがに目が覚めて、俺の現在地は胡座をかいた主様の膝上だ。

 ぽやぽやとしている主様を座椅子にした感じで腰かけながら、布越しの会話へ耳を傾けている。


「っ、それは、だな」


 言葉に詰まった感じの冒険者の反応に、俺は何となくその理由を察してしまった。



 多分だが、あの冒険者はこう考えたのだ。



『お貴族様は一人で先走り、夜中に動物達へ何かしようと忍び込んで騎士に捕まった』と。



 しかしそれを馬鹿正直に答えてしまうと、自分達が後ろ暗いことを企んでいるとバレてしまう。

 なので今言葉に詰まったのだろう。

 そして、お貴族様も何も喋ろうとしないのだろう。

 あ。もしかしたら、お貴族様はお供な商人が迎えに来て連れて行ってしまっただけかもしれないけど。



 俺ってなかなかの名推理してないかと内心で自画自賛してニマニマしていると、頭に軽い重みがかかる。

「主様?」

「はい、ロコ」

 しっかりと目が覚めた主様が俺の頭に顎を乗せたようだ。

 力を抜いて乗せてる訳では無いみたいで重くはないが、喋られると顎が当たってくすぐったい。

 俺が肩を揺らして笑うと、背後の主様はなんだか満足げな吐息を洩らす。



 外の喧騒はいつの間にか聞こえなくなったが、テーミアスのノワが俺の服から這い出てきて、俺が主様にいじめられているように見えたらしく「ぢゅぢゅっ!」と主様へ文句を言い始める。

 昨日から人目があるからと俺の服の中に隠れっぱなしだったのでストレスが溜まっていたのかもしれない。

 俺の肩の上に陣取って主様へ文句を言い続けるノワをもふりながら、俺はのんびりそんなことを考えていた。

 オズ兄が呼びに来てくれたので、顔を洗って朝ご飯の席ヘと向かう。

 焚き火を囲んでいるのはアシュレーお姉さんとカイハクさんのみで、オズ兄を始めとする他の騎士さん達は少し離れた場所で食べるようだ。

 夕ご飯の時も同じ感じだったけど、上司とか主様と一緒にご飯だと落ち着かなさそうだもんな。

 で、朝ご飯は騎士さん達の用意してくれていたのを食べてたのだが、主様が食べようとしない。

 確かに『男飯!』って感じの見た目スープと硬いパンのみの簡単なご飯だが不味くはないし、なんでだろうと主様を見ていると主様も無言で俺を見てくる。

 しばらく見つめ合った後、俺がスープをスプーンですくって口元へ運ぶと即食べた。

 自分で食べるのが面倒なのかなぁと少し呆れたが、世話を焼くのは嫌いじゃないし、それが好きな相手なら尚更嫌じゃない。

 アシュレーお姉さんとカイハクさんからは生温かく眼差しをもらったが、今さらなので気にしないようにして主様への給餌を続けてご飯を終わらせる。

 ここで時間を取られると出発が遅くなっちゃうからな。

 急げばあのお貴族様達を撒けるかもしれないし。




 主様へご飯を食べさせ終えた後は、ノワとオネエさんな騎士さんのユリアンヌさんと動物達へ会いに行き、ご飯をあげて軽く毛繕いして体調チェックをする。

 ユリアンヌさんの本名(?)はユリアンさんなんだけど、俺が聞き間違えて口にした『ユリアンヌさん』という呼び方が気に入ったらしく、そう呼んで欲しいとお願いされたのでそう呼んでる。

 口調に関しては初対面の時、オズワルド相手みたいに気を使わなくて良いのよ、と言ってくれたので遠慮なくオズ兄と同じ感じで話させてもらっている。

 もちろん時と場合によっては丁寧な言葉と使い分けるけどな。

 本当はアシュレーお姉さんみたいに『お姉さん』と呼ばれたいんだけど、さすがにそこまですると同僚騎士の目がウザいから止めとくわって言っていた。

 ちなみにアシュレーお姉さんは綺麗系お兄さんなオネエさんだけど、ユリアンヌさんは…………まぁ、うん、体育会系って感じな少し(・・)ゴツめなオネエさんだ。

 ふとした仕草が可愛らしいと俺は思うが、オズ兄とカイハクさん以外の同僚騎士さんの視線は──。

 嫌な記憶が蘇りそうになり、俺は軽く首を振って動物達の毛繕いへと意識を戻す。

「体調が悪そうな子はいるかしら?」

 自身のガタイの良さで動物達が怯えると思って優しい声で穏やかに訊ねてくれる優しいユリアンヌさんに、俺はへらっと笑って近くにいた猫科猛獣な子の首に腕を回して抱きついてみせる。

「みんながさっきから言ってる通りだよ? 馬車で酔ったりもしてないし、寝ている間に変な奴が来たりもしてないって」

 野生の動物だと具合悪いのとか隠しちゃうから心配してるんだなとユリアンヌさんの優しさと思慮深さに感心していた俺は、ユリアンヌさんが小声で「ワタシには何言ってるのかわからないの、ジルちゃん」と呟いたことなんて気付くことはなかった。


いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうありがとうございます(^^)反応いただける嬉しいです!


誤字脱字報告も助かりますので、ご遠慮なく(*>_<*)ノ


アシュレーお姉さん、サクッとヤッたと見せかけてヤッてませんでした。

後ろから『ガツンッ』とやって、あとは森へ放置です! あわよくば野生動物かモンスターにやられて死んじゃえよとぐらいは考えてたでしょうが。

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