幕の外6
更新3話目は、おまけというかイラッと要員なヒドイン……ゲフンゲフン、ヒロインちゃん視点です。
幕の外
あたしが先回りして動いたせいで、色々イベントがズレてしまったり、起きなかったり……。
さすがヒロインって感じの影響力よね、あたしったら。
でも、全員を助けるを目標にしてるのに、起きないと困るイベントも起きてないのよね。
聖獣の森をモンスターで襲わせてその間に重要なアイテムを奪える予定だったのに、巨大な熊に邪魔されたってどういうことなのよ。
せっかくあたしが情報を教えてあげたのに、それを活かせないなんて無能過ぎるのよ!
一応そのアイテムを奪うのは副産物で、本来の目的は果たせていたなら大丈夫。
そう思っていたのに、本来の目的が果たせていたなら起きるはずの事件が起きなくて、結局またあたしが手を貸さなきゃいけなくなっちゃうなんて。
あたしは黒幕じゃなくてヒロインよ? 悪役じゃないんだから!
悪役といえば、悪役令嬢とか悪役令息とかも何してるのよ!
お漏らし野郎とか囃し立てて小学生みたいないじめしてるだけなんて……。あたしが目立つようにちゃんと動いてくれないと!
なんで悪役達が自分の役目を果たしてくれないのかしらと悩んでいると、情報屋から冒険者ギルドへ複数の動物達が運び込まれたという連絡が来る。
この裏の情報屋はゲームにも出ていたので見つけるのは楽だった。
お金さえ払えば大抵のことは調べてくれるから、本当に重宝しているんだけど、幻日様関係は嫌がるのよね。
しょうがないから幻日様関係は、ちょっと怪しい別の情報屋を使うしかないけど、かなり高いのよね。
まぁ、あたしは色々お金稼ぐ手を知ってるから、何とかなるんだけど!
今はそれより運び込まれた動物達よね。
あたしのファンだって言うおどおどしたギルド職員に案内されて、冒険者ギルド内にある動物達が保護されている場所へと向かう。
本当ならエノテラと来て、あたしが動物達と心を通わせる光景を見せて「さすがスリジエだ!」って惚れ直させたかったんだけど、最近のエノテラは付き合いが悪いのよ。
しかも顔を合わせる度、ちゃんと依頼を受けるんだ、とか、大声で騒がない方が良い、とか口うるさいの!
あたしが可愛らしく謝っても、前みたいな反応じゃなくて、なんか違う。うまく言えないけど、なんか違う。
ムカムカしてきてしまい、あたしは頭を振って付き合いの悪いエノテラの顔を脳裏から振り払う。
あとで親友が呪われたって泣きついてきたって助けてあげないから。
泣きつくといえば、グロゼイユも……。
「あの、スリジエちゃん? 着いたよ……」
「へ? あ! そうなの? 案内してくれてありがとう!」
「あの、その……希少な子ばかりだから、あまり怯えさせるようなことしないで欲しいな……」
「うふふ、動物達があたしに怯える訳ないじゃない。あたしを誰だと思ってるの?」
全てから愛される運命にある、この世界の主人公なんだから。
こんなモブなギルド職員に言っても伝わらないから口にはしないけど。
あたしは当然ギルド職員の注意なんて無視して、動物達の方へと近づいていく。
入ったことはないけど、ドラマとかで見た刑務所とか留置所みたいに一面が鉄格子になった広い部屋の中に、ゲームで見た希少な動物達が身を寄せ合っている。
やっぱりヒロインなあたしが気になるのか、揃ってアタシの方を見ているのが気持ち良い。
アタシの予定通りなら、餌で誘き出したモンスターを暴れさせて、聖獣を怒らせてイベント発生させるはずだったのにそれも上手くいかないなんて。
アイテムも手に入れられないし、そっちのイベントも起こせないなんて予定が狂っちゃうわ。
しかも、あたしがきちんと教えてあげたのに活かせないのが悪いのに、あたしを責めるなんてお門違いよね?
まぁ、正確には教えたのはあたしじゃなくて、謎の女占い師なんだけど、ね。
今回の件も謎の女占い師からの進言なのよ?
『聖獣の森の動物を連れ去れば聖獣が怒り出すだろう。その隙にあなたが必要とする物を奪えば良い』
こんな馬鹿な提案、受けちゃうぐらい権力が欲しいのよね。おかげで扱いやすくて助かるわ。
ま、あたしの狙いは別にあるんだけど!
ヒロインなあたしがこんな暗躍してるって知られたら……あら? 別に困らないけど、やっぱりヒロインは聖女になるんだから清廉潔白でいないといけないわよね。
鉄格子の前でうんうんと頷くあたし。
それを動物達はじっと期待に満ちた眼差しで見つめてくる。
ギルド職員は邪魔だから追い払っちゃったわ!
「あの子達は恥ずかしがり屋なの! あたしとしかお話しないのよ?」
そう可愛らしく伝えたら、快く出て行ってくれたのよ。
実際、ゲーム内でもそうだったから、あたしは自信満々に微笑んで動物達へ話しかける。
「ごめんなさい、来るのが遅くなって……」
動物達は揃って首を傾げてあたしを見ている。
反応はバッチリね!
「今開けてあげるから、心配しないで。あたしが助けてあげるから!」
これで動物達を聖獣の森へ連れて行けば聖獣が出て来て、あたしを見てこう言うの。
『お前は……聖女になるべき存在だ』
って。
緩みそうになる口元を微笑みぐらいで何とか引き締め、ギルド職員からこっそりと奪っていた鍵で鉄格子の扉を開く。
動物達は怯えているのか、奥で一塊になっていて動こうとしないから、あたしの方から近づいてあげることにする。
「ほら、大丈夫よ? あたしがいるのよ、心配しないでって!」
うふふと笑いながら手を伸ばすと、一塊になっていた動物達の中から真っ白いユニコーンと真っ黒いペガサスが進み出てくる。
これは、あたしを背中に乗せてくれるってことね!
「ありがとう! じゃあ、ユニコーンの方に乗せてもら……きゃあっ!」
どちらにしようか迷ったけど聖女に相応しいのは清らかな乙女を好むユニコーンだと手を伸ばしたら、二頭が威嚇するように揃って後ろ足で立ち上がる。
当たらなかったけど、思わず悲鳴を上げて体を引いてしまう。
低くいななくだけで、二頭はあたしへ話しかけてきてくれない。
他の動物達もあたしへ話しかけようとはしない。
これは──捕まえる時に相当怖がらせたのね! 本当にダメダメね!
ここは癒されるって評判のあたしの笑顔の出番よ。
「大丈夫、大丈夫よ?」
イメージは某有名アニメ映画のヒロインかしら。まぁ、あたしの方が可愛いんだけど!
動物達があたしを傷つける訳ないから、あたしは再び動物達へとゆっくり近づいていく。怯えさせないようにゆっくりと。
「はじめまして! あたしはスリジエ……ま、うふふっ! そんなに慌てないで……って、きゃあ!?」
ちょっと手を伸ばせば触れられそうな距離まで近づいて元気良く自己紹介を始めた瞬間、顔を見合わせて何か鳴き交わした動物達があたしへ向けて駆け寄ってくる。
汚れるのは嫌だけど、寛大な聖女様はこれぐらい我慢しないと思って手を広げて動物達を迎えようとしたのに、動物達はあたしを押し退けるようにして両脇をすり抜けていく。
悲鳴を上げて転んだあたしを全く見ることなく駆け抜けた動物達は、あたしが入ってきた入り口から外へと出てしまい、そのまま扉を破って何処かへ行ってしまった。
遠くの方から悲鳴や怒号が聞こえてきたが、今のあたしには気にならなかった。
「……どうして? どうしてあたしが来たのに無視するのよ? その辺の奴らもそうよ! なんであたしが話しかけてあげてるのに無視して逃げたり、攻撃してくるのよ!」
空っぽになった鉄格子の中で、床を叩きながら訴えていると、あたしをここへ案内したギルド職員が真っ青な顔で転がり込んでくる。
「な、なんでこんな……っ! ただ話してみてみたいだけと言ったじゃないか!?」
責めるような声に、あたしは床にしゃがみ込んだまま目を潤ませてギルド職員を見つめる。
「あ、あたし、なにもしてないわ……あの子達が急に暴れ出して……。止めようとしたのだけど……」
そう弱々しく訴えながら、咄嗟にさり気なく先ほど転んで出来てしまったすり傷を見せつける。
「そ、そうだったのか……まだ密猟者の影響が残っていたのか……?」
先ほどの動物達とは違って、あたしの話をきちんと聞いてくれたギルド職員は、あたしを助け起こしてそっと部屋から連れ出してくれる。
すれ違うように別のギルド職員が複数の冒険者を連れて部屋へと向かうのを横目に、あたしは新たな作戦を練るためにギルド職員へここぞとばかりに甘えてみる。
こうすれば情報は勝手にやって来るのだから。
まだあの動物達は近くにいる。すぐに挽回出来るわ、と内心で微笑んで、あたしは傷の痛みを訴え続けておく。
誰かが連絡してくれたのか、エノテラとグロゼイユもやって来て、傷の心配をしてくれた。
うふふ、やっぱり、あたしはこの世界のヒロインなのよ。
次こそは上手くやってみせるわ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
強引に進めたので、誤字脱字、大きな矛盾点出そうなので、発見された場合は教えていただけると助かりますm(_ _)m




