341話目
本日更新2話目です、ご注意くださいm(_ _)m
「森の仲間の血じゃない? そんな訳ないよな? だって、あんなに死体もあって……」
ケレンの言葉に一瞬ホッとしかけてしまったが、即座にそれを否定出来る光景が蘇り、首を振りながら訴えていると、落ち着けとばかりに二頭が鼻面を寄せて来る。
「ヒヒン、ヒヒーン」
「ヒン」
「は? あの死体は、森の仲間じゃない?」
二頭の説明を疑う訳では無いが、俺は意識して思い出さないようにしていた光景を記憶の中から引っ張り出し、オーガによって無残に殺されていた動物達の姿を思い出そうとする。
衝撃的過ぎたせいか、網膜に焼き付いた光景は意外と簡単に蘇ってしまい、込み上げる吐き気を堪えてしっかり思い出してみると、オーガが食い散らかしていたのは、まっ白い羽と赤い鶏冠を持つ、前世で見慣れていた生き物──鶏だ。
俺も大変お世話になっている、この世界でも食肉代表の一角な鳥。もちろん卵も食べられている。
鶏に関する前世含めた自身の知識を引っ張り出した俺は、少し冷静になって首を傾げる。
「…………いや、森に鶏なんていなかったよな」
自身の脳内に突っ込みを入れ、俺はケレン達を見る。
突如現れたオーガとその食事風景、そして血溜まりによって見えていなかった……なんて言い訳にしかならないが、改めて思い出した光景の中には確かに見覚えのある森の仲間の死体は見当たらなかった気がする。
俺の希望的観測かもしれないけど、ケレンとカナフが頷いてくれたのでどうやら俺の妄想とかではないらしい。
こうなるとさっさとトラウマなんて克服して思い出してみれば良かったと思わなくもないが、二頭から聞かなければしっかりとあの光景と向き合う勇気は出なかったと思う。
「……あれは弁当として持ってきて、風景の良い所で食べてた、とか?」
だとしたらとてもシュールでとてもはた迷惑だ。
「ヒンヒン、ヒヒン、ヒンッ」
「そっか、皆無事に逃げたり、オーガどつき回したりしてたんだ」
俺を安心させようとケレンがぶんぶんと頭を振りながら森の仲間がどうなったかを教えてくれる。
「ヒン……」
カナフは「大丈夫だ」と一言囁いて、顔を寄せてきて俺の髪を撫でるように優しく寄り添ってくれる。
「……みんな、怒ってるよな?」
いくら仲間が死んだと勘違いしたとはいえ、俺はひょいひょいと主様にくっついて何も言わずに森を去ってしまった薄情者だ。
この言い方は自分でも卑怯だとは思ったが、自嘲気味に笑ってそう言うと、背後からもふもふな塊がのしかかって来る。
「がうっ!」
「そっかぁ……ありがとう……」
生きてれば良い! と言い切ってくれた猫科猛獣に顔をベロベロと舐められ、ケレンとカナフからは手荒く髪を甘噛みされ、小さめ……とはいっても今の俺には小さくない子達も遠慮なく集まってきて揉みくちゃにされる。
里帰りするにあたって唯一の懸念事項だった件が解決し、胸に刺さった棘が抜けたような感覚に、俺は泣き出しそうな安堵の中、懐かしい温もりに包まれてゆっくりと目を閉じるのだった。
●
[アシュレー視点]
保護された動物達を警護しながらジルちゃんと一緒に聖獣の森へ向かうという指名依頼を受けたアタシは、早速ジルちゃんとその動物達が待つ入るのに特別な許可のいる部屋へと向かったのだけれど……。
ノックをして入った瞬間、そこに広がっていた光景に思わず声を上げてしまう。
「あらあら、まぁ……」
慌てて口元を手で覆ったアタシを睨むのは、部屋の真ん中に集まった希少な動物達。
そしてその真ん中にはくぅくぅと可愛らしい寝息を立てるジルちゃんが守られるようにして眠っていて。
聖獣の森の定期的な見回り依頼を受けている冒険者達からは『妖精』と呼ばれていたらしいけど、この姿を見ればそう言いたくなるのは納得だわ。
少し所在なさそうに外側にいるのは聖獣の森の子じゃなく、ジルちゃんの周りをしっかりと陣取っているのが聖獣の森から来た子達って感じかしら。
「うふふ、可愛いわねぇ」
アタシの独り言に中心にいて一番近くでジルちゃんを守っている二頭が反応して、じっと窺うようにこちらを見ている。
真っ白な一角獣と漆黒の天馬。
敵意はないと両手を上げて見せても、その眼差しの鋭さは変わらない。
彼らにとって、アタシもジルちゃんを森から連れ出した人間っていう括りなのね、きっと。
ジルちゃんが起きるのを待つしかないかしらとアタシが悩んでいると、ジルちゃんの首周りの茶色いもふもふが動いて、見慣れてきたテーミアスの姿が現れる。
くしくしと顔を洗っていたテーミアスは、アタシの姿に気付くと「ぢゅぢゅっ」と周囲の動物達へ何事かを話しかけている。
何を言ってたかは動物達の反応で何となく察せたので、アタシは微笑んで紳士なテーミアスへお礼を言う。
「あら、ありがとう。アタシが敵じゃないって説明してくれたのね」
睨みつける視線がなくなり、各々寛ぎだした動物達の姿をちらりと見ながら、アタシはゆっくりとジルちゃんの元へと歩み寄る。
「少しお話したいから起こしても良いかしら?」
天馬の方は寡黙らしくブルルンと答えたのは一角獣の方。
拒否ではなさそうだったので、アタシはジルちゃんの肩へ手を置いて、軽く揺さぶる。
寝起きの良いジルちゃんは、先ほどのテーミアスのように顔をくしくしと擦りながら体を起こし、アタシを見つけるとふにゃふにゃと笑ってくれる。
可愛らしさに身悶えしそうなアタシを他所に、ジルちゃんは両側に陣取る一角獣と天馬の鼻面を優しく撫でている。
「おはよう、ジルちゃん。アタシも護衛依頼を受けたから、少しこの子達と話させてもらっても良いかしら?」
「はい! アシュレーお姉さんがいるなら心強いです。主様強いけど、護衛とかには向かないので……」
ふにゃふにゃなまま困ったように笑うジルちゃんは、相変わらず幻日サマ大好きと全身で語っていて可愛らしい。
思わずぎゅうぎゅうと抱きしめると、動物達がピクッと反応してアタシを睨み、ジルちゃんがふにゃふにゃと笑ったままなことに気付くと警戒を解いてくれる。
「うふふ、そうね。幻日サマは護衛向きではないわね。お貴族サマは見せびらかす用に護衛させようとするみたいだけど、幻日サマが護衛依頼を受けるのは王族のみという暗黙の了解があるらしいわ」
「へぇ、そうなんですね。あ、そうだ! 皆を紹介しますね!」
幻日サマの話を聞けて嬉しいのか、銀色の瞳をキラキラと輝かせていたジルちゃんは、構えとばかりに鼻面を寄せて来る二頭に気付いてパンと小さく手を叩く。
そのまま幻日サマの話を聞いていた時と同じような表情で動物達を紹介してくれるジルちゃんは、キリッとしてみせようとしていて、でもそれが可愛らしい。
いい子いい子と頭を撫でると、ふにゃっと笑ってから、ハッとしたようにまたキリッとしてみせる。
そんな感じで可愛らしい動物達の紹介をしてもらっていると、ジルちゃんの肩にいたテーミアスがジルちゃんへ何かを囁く。
それを聞いたジルちゃんは少し表情が硬くなり、アタシと動物達を交互に見て悩む様子をみせる。
「何か訊きたい事でもあるのかしら? 遠慮なんてしなくて良いのよ、アタシはジルちゃんの後見なんだから」
悪戯っぽく軽い口調で告げると、ジルちゃんはホッとした様子でアタシを見上げて口を開く。
そこから出て来た質問は、とても予想外というか、妙に嫌な予感がするもので。
「俺が主様に聖獣の森で助けられたって話は知ってると思うんですけど……モンスターって獲物を弁当みたいにして持ち歩くんですか?」
アタシが質問の答えを口にする前に、ジルちゃんへ質問の理由を訊ねることにしたのは仕方ないことよね。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
仲間が死んでなかったぜーという展開、好きなんです、すみませんm(_ _)m




