35話目
酔っ払い注意。
この世界での飲酒年齢は15歳からです。特に関係はない設定です←
久しぶりに、ジルヴァラがショタだと再認識しました。
「いや、本当に悪気はなかったんだって! 親父殿から、今の若い奴が読んで興奮するような本を何冊か選んどいてくれって言われてたから、その通り人気のあるやつを適当に選んで渡しただけだから!」
夕食を食べている間、ずっと冷めた目で見てしまっていたらしく、わたわたと焦りまくった表情のトルメンタ様から俺へ向けてそんな弁明の言葉が出てくる。
「トルメンタ……ちゃんと相手が何歳とか聞くべきだったな」
オズ兄はトルメンタ様の肩を叩いて同情めいた台詞をかけているが、顔はちょっと笑っている。
身分的にはトルメンタ様の方が上だけど、騎士団の中で一番仲がいいだけあって、公式の場以外ではこんな感じらしい。
それで昨日もオズ兄のこと気にしてたんだな、とへにゃりと眉尻を下げて情けない顔をしてこちらを見ているトルメンタ様をじっと見上げる。
「へぇ、そうですか」
俺自身は別に気にしてないのだか、いつも以上に気のない相槌を打っている主様の瞳は、未だに冷めきった色をしていてトルメンタ様をゴミでも見るような眼差しで見ている気がする。
まあ、故意じゃないにしろ、幼児にR指定物な本を読ませちゃった訳だし。
これで俺が冗談でも「主様、ピーって何?」とか言い出したりしたら、トルメンタ様に死亡フラグ建ちそうだから、厳重にお口チャックしとかないと。
「でもフシロ団長も、若い奴が読んで興奮する本って……言葉足らず過ぎだろ」
主様へ謝り倒してるトルメンタ様を横目に、俺は隣に腰かけてのんびりとデザートを食べてるオズ兄へ話しかける。
これもトルメンタ様とオズ兄が持ってきてくれたお土産だ。
人気のある店のケーキだけあって、見た目も可愛い上、味は当然美味しい。
種類があって悩んだけど、俺が食べてるのはフルーツたっぷりなタルト。オズ兄が食べてるのは甘さ控えめなガトーショコラっぽい見た目のチョコのやつだ。
「そうだな。そもそも、団長はトルメンタじゃなく、奥様にお願いすれば間違いなかったと思う」
オズ兄も同じことを思っていたらしく小さく笑いながら頷き、トルメンタ様の横顔をチラ見して身も蓋も無い事を口にする。
「贈り先は、俺みたいな幼児だからな」
「幼児はあんまり自分を幼児だとは言わないと思うけど。……こっちも一口食べてみるか?」
肩を竦めて幼児宣言した俺に、あははと楽しそうに笑ったオズ兄は、ふと自らの食べていたケーキを一口切り分けてフォークで突き刺し、俺の方へと差し出してくれる。
「いいのか?」
「ジル、選ぶ時かなり悩んでたからな」
見られていたのかと、えへへと照れ笑いした俺は「ありがと!」と遠慮なく口を開けてケーキを口内へと運ぶ。
「んー、これも美味しい! ありがとな、オズ兄、トルメンタ様!」
メシウマな世界で良かったと改めて思いながら、口内で溶けていく濃厚なチョコの味とお酒の匂いにうっとりとしてしまう。
チョコケーキをしっかりと味わった俺は、何故かふわふわとする思考の中でお返ししなきゃと思って、タルトをフォークで切り分けてオズ兄の口元へ差し出す。
「ほら、オズにーも、あーん」
「え? おい、ジル? ジルヴァラ……?」
慌てているオズ兄の口へタルトを突っ込み、満足してふにゃふにゃ笑っていると、トルメンタ様の謝罪を受けていたはずの主様がすぐ近くまで寄ってきていた。
「ロコ?」
「ぬしさまも、たべう?」
なんだか呂律が回らなくなってきたが、それすら楽しくてふにゃりと笑った俺は、主様にも美味しいタルトを食べてみて欲しくてフォークで刺そうとするが、タルトは活きが良いのか逃げてしまう。
「たると、にげう……」
心配そうに覗き込んでくる主様に、俺は気合を示して大きく頷いて見せ、皿の上を逃げるタルトを手で捕らえ、主様の口元へとへ差し出す。
「はい!」
「いただきます」
強く握り過ぎてクリームとか色々付いていたせいか、主様はタルトを掴む俺の手ごとかぷりと口内へと入れてしまう。
「あはは、おれ、たべちゃだめー」
くすぐったさにけらけらと笑っていると、タルトを食べ終えて俺の手を離した主様が深々とため息を吐いて、珍しくぽやぽやしてない眼差しをオズ兄へと向けている。
なんだかいい気分で、足元までふわふわしてきた。まるで雲の上にいる気分だ。乗ったことないけど。
険しい顔の主様に見つめられ、真っ青になってるトルメンタ様とオズ兄を見ながら、俺は楽しくてずっと笑っていた。
●
「ロコに何を食べさせたんですか?」
ふわふわと微笑む麗人に見つめられ、年下の友人であるオズワルドは、真っ青な顔をして首を横に振っている。
ついでにおれも見つめられて動けないんだが。
「たぶん、オズワルドが食べてたケーキのせいかな、と。ほんの少しお酒が入ってて甘さ控えめだと説明されてたんで。まさか、ここまでジルヴァラが弱いとは……」
おれが何とか引きつった顔でそれだけ説明すると、わざとでないこととヤバい物ではなかったとわかってくれたのか、幻日サマからの圧が少し弱まる。
「ぬしさま……」
すっかりふにゃふにゃになってるジルヴァラを膝に乗せ、本物の子猫のように撫で回してるせいかもしれないが。
「ロコ、気持ち悪くありませんか?」
「んー、ふわふわするー」
とろりと甘やかすような声音に、お酒で蕩けた無垢な子供の声が無邪気に応えている。
体の方に異常はないらしい。
そのことにおれが安堵していると、隣でオズワルドも安堵している様子を見せている。
「申し訳ありません! オレが気付かなかったせいで……」
やっと動けたらしいオズワルドが、幻日サマへ向けて勢いよく頭を下げて謝罪する。
「ふへへ、おずにぃ、なにしたの?」
いつもの快活で人懐こい姿も愛らしいが、酔っ払ってふにゃふにゃになって笑ってる姿は幼く見えて、さらに可愛らしい。
ここが外なら幼児趣味な変態が束でホイホイされそうな姿だ。
「ごめんな、ジル」
「いいよー」
何故謝られてるのか絶対わかっていないだろうジルヴァラから、そんな軽い許しの言葉が発せられると、幻日サマからおれ達への興味は完全に失せたらしい。
「重ね重ね、すみません! ジルヴァラにも謝っといてもらえますか? 残りのケーキ、置いていきますんで。あ、もう酒入りはないですから、ご安心を」
幻日サマを刺激しないようにさらっと勢いで謝ったおれは、オズワルドの腕を掴むと、じゃ! と挨拶とも言えない挨拶をして幻日サマの答えを聞く前にさっさと退散してしまう。
ここは逃げるが勝ちだ。
「ばいばーい、オズにー、トルメンタさまー」
ふにゃふにゃなジルヴァラの声に送られて幻日サマの自宅を出たおれとオズワルドは、揃って深々とため息を吐く。
「オズワルド、おれ、殺されるかと思ったぞ?」
「奇遇だな、トルメンタ。オレもだよ」
そう言って顔を見合わせたおれ達は、夕暮れの街並みの中、無言で酒場へと向かって歩き出した。
絶対親父殿に文句を言うと心へ決めて。
●
「ふたり、かえっちゃったなー」
場所を寝室へと移動して、ベッドの上で上機嫌でふにゃふにゃしてるジルヴァラを膝に乗せ、夕陽色の青年は悪戯っぽくふわふわと笑う。
「ロコは、私と二人きりは嫌なんですか?」
「んーん? ぬしさま、ひとりじめできてるから、うれしい」
責めるような青年の言葉に、ジルヴァラはふへへと笑って、本物の猫のように青年の膝へ額を擦り寄せて懐いている。
「そうですか」
いつもより幼くあどけないジルヴァラの仕草に、青年は柔らかく目を細めて微笑んでいる。
「私は人ではないんですよ?」
「しってるよー」
今に喉でも鳴らしそうな表情で目を細めたジルヴァラは、控えめに青年の腰へ腕を回して、ギュッとしがみついた。
「ぬしさまは、ぬしさまらよ……」
そのまま呂律の回ってない口調ながら力強く宣言したジルヴァラは、言い終わると同時に糸が切れたように目を閉じてしまい、ただでさえふにゃふにゃしていた体から力が抜ける。
一瞬驚いた様子で目を見張った青年だったが、ただ眠っただけだと気付くと、布団を引き寄せて眠るジルヴァラへと掛けて包む。
「おやすみなさい、ロコ」
「にゅ」
何かを答えようとしたのか、ジルヴァラの口がうっすらと開くが、そこから出てきたのは謎の一言で、シパと瞬きをした青年はすぐにくすくすと笑い出す。
青年はそのままジルヴァラを潰さないように気をつけて、寄り添ったままベッドへ横になる。
「似合いそうですね」
くぅくぅと聞こえてくる規則的な寝息に目を細め、そっと伸びた青年の手が触れるのはジルヴァラの細く頼りない首筋だ。
感触を確かめるように何度もジルヴァラの首筋を撫でてから、青年は満足した様子で目を閉じて眠りに落ちていった。
いつも反応ありがとうございますm(_ _)m
ジルヴァラ、倒れ過ぎだろうとかちょっと自分で思ってます←
ちなみにかなり丈夫な子なんで、倒れたあと放置されててもケロッと復活します(`・ω・´)ゞ
酔っ払ったジルヴァラは、ふにゃふにゃしてて可愛いと思います。