337話目
テーミアスに名前をつけるか、かなり悩んでしまいました。
けれど、テーミアスは種族名なため、『おい人間』って感じに呼ばれているのと一緒なので、名前をつける事にしましたm(_ _)m
「久しぶりだな、何も言わず出て行ってごめん」
ずっと探してたんだぞと訴えかけてきた友へへらっと笑いかけると、それがきっかけになったのか二頭が一声いなないて勢い良く突進してくる。
それを見た周囲から悲鳴が上がるが、慣れている俺はその場でじっとしている。
背後にいる主様も二頭に敵意がないとわかっているのか、何も言わずじっとしている。
何も知らない人からしたら、幼児が大きな馬に襲われそうに見えるから仕方ないか。
悲鳴が上がっただけで邪魔が入らなかったのはアルマナさんが止めてくれたんだろう。
俺の目の前でピタッと止まった二頭は、前足で地面を掻いてから首をグッと下げて顔を寄せて来る。
ふんふんと顔にかかる鼻息に懐かしさを覚えながら、俺は手を伸ばして二頭の鼻面を撫でる。
「ヒンッ、ヒィン!」
「……ヒン」
角のある白い馬はケレン、翼のある黒い馬はカナフ。
熊ほどじゃないけど、俺が森の中を歩き回る時はついて来てくれるぐらいに面倒見の良い二頭だった。
白馬のケレンはちょっとナルシストっぽい冗談好きで、俺を番扱いしてからかってくる。
黒馬のカナフは寡黙で落ち着いた性格で、よく俺を背中に乗せてくれた。けど、犬から何か止められて、俺を乗せて飛んでくれることは一度もなかった。
どちらも強いみたいで、たまに森の中で片方が離れたなぁと思うと、離れた所から悲鳴みたいなのが聞こえていた。
で、しばらくすると何事もなかったように戻って来て、途中で取ってきた果物とかを俺へプレゼントしてくれた。
二人……じゃなかった、二頭共、面倒見の良い近所のお兄さんって感じだな。
「って、感じです!」
こちらへ物言いたげな眼差しを送ってくるアルマナさんへ向けて二頭の説明をすると、ため息を吐いてから「ここまでとはね」と呟いて天を仰いでいる。
「……私もたくさん果物見つけられます」
主様はというと、変な所張り合って、二頭と睨み合っている。
「ブルルッ」
「ブル」
二頭が揃って鼻を鳴らして主様へ勝負を挑んでるが、今はそんなことをしている場合じゃない。
ここにきてやっと俺が何のため来たか思い出して改めて二頭の鼻先へ触れてなだめるように撫でる。
二頭が連れていた動物達は、怯えた様子もなく首を傾げてこちらを見ているので、二頭を説得すれば大人しくついて来てくれそうだ。
「急に捕まってびっくりしちゃったんだろうけど、アルマナさんは信頼出来る人だから、とりあえず皆ついて来てくれるように話してくれるか? そこにいれば安全だからさ」
「ヒヒーン、ヒヒンッ! ヒンッ!」
変な女が来て『何で自分に懐かないんだ』と騒いで、魔法まで使って脅して皆を怖がらせたと訴えるケレン。
カナフも無言で大きく首を縦に振っている。
そんなヤバい奴がいるのかと思わずアルマナさんを振り返る。
「アルマナさん……彼らが逃げ出す原因になった人って……」
「あー……大丈夫だ。もうあそこには絶対近づけさせない」
頭痛を堪えるような表情をしたアルマナさんだったが、すぐ力強い言葉と大きな首肯を返してくれる。
「だってさ。心配なら俺もついてるから。皆に怪我させたくないし、ついて来て欲しいな」
「ぢゅっ!」
俺みたいな幼児の言葉だけだと信じきれないかもしれないが、テーミアスも『自分について来い』とキリッと言ってくれたおかげで馬組二頭を含めた全員が大人しく移送用の馬車へ乗ってくれた。
「またすぐ会えるから、な?」
入りたがらなかったケレンとカナフの鼻面を抱きしめて見送ってから、説得を手伝ってくれたテーミアスへもふもふと撫で回してお礼を伝える。
「ぢゃっ! ……ぢゅぅ、ぢゅ?」
相変わらず可愛らしい見た目とそぐわない男前な一言が返ってきたが、少し言い淀んだ後に『どうして自分の名前は呼んでくれないんだ?』と首を傾げて訊ねられる。
俺があの二頭の名前を紹介したから出た質問だろうが、今度は俺の方が首を傾げて手に乗せたテーミアスへ言わないといけない。
「名前、聞いてない」と。
その瞬間、テーミアスは見事な「マジか」という顔芸を披露して、俺の手の平の上で脱力してしまうのだった。
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脱力してとろけたようになっているテーミアスを撫で回しながら、俺は今さらなことに気付いて苦笑いを浮かべていた。
「見分けつくから、名前がないことに不便感じてなかったからなぁ」
他のテーミアスとも何回か会ったが、それぞれ顔も毛色も全然違うから今一緒にいるテーミアスと見間違うことも無かったし。
「ぢゅぢっ、ぢゅっ、ちゃぁ……」
「え? 俺が名前つけるのか? そっかぁ、人間が呼ぶ時用の名前ってないのか。まぁ、呼ぶとしたら俺が一番多くなるよな」
そうなるとあだ名みたいな物だし、そこまでかしこまって考えなくて良いか。
俺が呼びやすくて、このテーミアスだってすぐわかる名前、か。だからといって適当な名前はつけたくない。
俺の肩の上へと駆け登り、もっふもふとアピールをしてくるテーミアスを見ていて、ふと思い出したのは前世の遠い記憶だ。
小学校時代、確か中学年ぐらいだったろうか。
教室でハムスターを飼うことになった。
そして、皆で名前を決めようとなって、名前を考えてくるのが宿題になったのだ。
当時の俺は、ちょっと厨二のなりかけというか、小難しいことを言うのが格好良いと恥ずかしい勘違いをしていた時期だった。
そこで思いついたのが『外国語でハムスターの名前を考えてクラスメイトから一歩リードだ』作戦で。
今思い出すと恥ずか死にしそうだが、その時の俺は真剣に良い考えだと思っていた。
そこで選んだのは、英語ではなくフランス語だ。
英語は学校でも習うし、塾とかで習っていて話せるって自慢しているクラスメイトもいたからだ。
フランス語なら習っているクラスメイトもいないだろうし、俺でも知ってるようなフランス語の響きは格好良いと感じていた。
それで仕事から帰ってきた父を巻き込み、ネットでハムスターの名前に合いそうなフランス語を探してもらった。
見つけた数個の候補は、きちんとカタカナでノートに書き、その脇にはわざわざ意味まで書いた。
きっとクラスメイトはザワザワして「格好良い!」とかなって、俺の提案した名前がハムスターの名前になる。
そう思っていたのだが……。
結局、ハムスターの名前は『ぷるぷる』になった。
確かにぷるぷるしていて、可愛らしいハムスターだった。
俺の提案した名前に入った票は、俺の入れた一票と……たぶん友人が入れてくれた一票。
黒板に書かれた文字の物悲しさまで思い出しかけて、俺はふるふると首を横に振る。
あの時間は無駄ではなかった。
ここでこうして、あの時の名前を目の前の小さな友へと贈れるのだから。
「……ノワ。そう呼んでも良いか?」
フランス語でナッツを意味する単語だ。
響きも可愛らしいし、短くて呼びやすい。何より、ナッツ大好きなテーミアスによく似合う。
「ぢゅっ!」
もちろんだぜ! と男前な返事をしてくれたテーミアス──ノワは、体全体で俺の頬へ擦り寄って嬉しそうにしている。
その姿に俺も嬉しくなって頬を緩めていると、ずっと後ろへ向けて流れていた風景がピタッと止まる。
実は今さらだが、ノワとのやり取りの間もずっと移動はしていたのだ。
俺自身がではなく、俺を抱きかかえた主様が屋根の上を軽やかに駆けていくという、アニメの盗賊のような移動方法で。
今日はもう遅いので、また明日冒険者ギルドへ顔を出すことになっている。
というか、俺が顔を出さないとまた脱走するとあの二頭から宣言されてしまったので、顔を出さないという選択肢はない。
なので、今現在主様任せで辿り着いたのは自宅だ。
待ち構えていたプリュイによって迎えられ、あたたかい室内へと主様と手を繋いで入っていく。
「主様、迎えに来てくれてありがと」
今さら感はあったが、言ってなかったことを思い出してしたからにはと、繋いでいた主様の手をギュッと握って感謝を口にする。
一瞬、きょとんとした顔になった主様だったが、すぐふわりとした笑顔になって──せっかく手を繋いで移動へと移行したのに抱き上げられてしまった。
「おかえりなさい、ロコ」
主様が幸せそうにぽやぽやとして頬擦りしてくるので、俺は諦めてへらっと笑って「ただいま」と応えるしかなかった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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名前の付け方に関しては、ほぼ私の体験談です。書いてて、恥ずか死にしそうでした←
ソシャゲの名前とかも、意味のある名前をつけたくて、色々調べるタイプです(*ノω・*)テヘ




