335話目
今回は展開早めで行きますぜー。
「依頼達成を確認いたしました。お疲れ様でした、ジルヴァラくん。では、こちらへお願いします」
出来る秘書さんスタイルのオーアさんへ依頼達成の報告をして報酬を受け取った俺は、そのままオーアさんに案内されてギルドマスターであるアルマナさんの待つ奥へと案内される。
アシュレーお姉さんとは先ほどお別れをしたので、今案内されているのは俺一人だ。
今日の呼び出しはエジリンさんからではなくアルマナさんからだったんだなぁとボーッとしてるうちに、いつの間にかアルマナさんの部屋の前まで辿り着いていた。
「帰りはお一人でも大丈夫ですか?」
そう心配そうなオーアさんに笑って頷いて安心させてから、俺は部屋の扉をノックする。
「──どうぞー」
中から間延びした応えがあり、俺が扉を開けて中へ入ると、見た目金髪美少年なアルマナさんは大きな執務机に出来た書類の山と向き合っているところだった。
「申し訳ありません、邪魔しちゃいましたか?」
「いや、呼んだのはボクだし、ちょうど休憩したかったんだ。言い訳にさせてもらうかな」
冗談なのか本気なのか悪戯っぽく笑ったアルマナさんは、んーっと伸びをしながら立ち上がってソファとローテーブル──いわゆる応接セットの方へ歩いてくる。
そこでアルマナさんがパチンッと指を鳴らすと、湯気のたつ紅茶のカップが二つとクッキーなどのお菓子の盛られた皿がテーブルの上へ現れる。
サラッと収納魔法を使うあたり、さすが主様並みのチートな存在だ。ゲームに登場してなかったのが不思議なぐらいだ。もしかしたら俺の記憶にないだけかもしれないけど。
「さぁ、座ってくれ」
そう俺へ向けて言いながら、ソファへ腰を下ろすアルマナさん。その動きは美少年な見た目に反して、ちょっと疲れたおじさんぽい。
「はい」
緩みそうになった口元を引き結んで俺もアルマナさんの向かい合う位置のソファへ腰を下ろす。
優雅な仕草で紅茶を飲んで一息吐いたアルマナさんは、だらっとしたまま小首を傾げて口を開く。
そこから出て来たのは、予想外過ぎる一言だ。
「ジルヴァラ、里帰りしてくれないか?」
「え?」
今、里帰り推奨ブームでも来てるんだろうか。
そんなくだらない突っ込みが頭を過った。
それを口に出す訳にもいかず、俺は軽く頭を振ってからアルマナさんの顔を見つめる。
「えぇと、それは何故か訊いても?」
「一応言っておくと、別に里帰り推奨が流行ってるとかじゃないからな。俺がジルヴァラに里帰りをお願いしたいのは、きちんとした理由がある」
どうやら俺のくだらない心の中での突っ込みは顔に出ていたようだ。苦笑いしたアルマナさんから逆に突っ込まれてしまった。
俺はへらっと笑って誤魔化すと、無言でアルマナさんの言葉の続きを待った。
「実は森の守護者から聖獣の森の様子がおかしいと報告が──、
「ギルドマスター! 緊急事態です!」
──あったんだけど……その話は後にさせてもらっても構わないな?」
鋭い声と共にけたたましく叩かれるドア。
だらっとした表情から一瞬で引き締まったギルドマスターな顔をして俺を見たアルマナさんに、俺は食い気味でコクコクと頷いておく。
「入れ」
アルマナさんが呼びかけると、直ぐ様勢い良く扉が開かれて見覚えのある男性が転がりそうな勢いで飛び込んでくる。
確か冒険者ギルドの職員さんだ。何度か奥で見かけたことがあるし。
「どうした? またあの白いのが騒いでるのか?」
「はい! そのせいで、保護されていた動物達が数頭逃げ出しました!」
「軽い冗談のつもりだったんだが……あちらはジルヴァラとは違う意味で予想を裏切ってくれるな」
気配を殺して紅茶を啜っていると、アルマナさんの視線がこちらを向く。
「力を貸してくれるか、ジルヴァラ」
「はい!」
逃げ出した動物を捕まえるなら、俺の得意分野だ。
その気持ちから気合を入れた返事と共に立ち上がる。
「白いのは?」
「自分は悪くないと叫んで、何処かへ行ってしまいました」
ふんすと気合を入れている俺を他所に、アルマナさんと職員さんはそんな会話をしている。
原因となった『白いの』って、まさかヒロインちゃんじゃないよな? いくらヒロインちゃんでも騒いだぐらいじゃ動物が逃げ出すなんて……。
ないよな?
「ぢゅっ」
耳元でやたらと男前に「あるだろ」とテーミアスがタイミング良く呟いたのは、俺の疑問に対する答えじゃないと思いたい。
「さぁ行くぞ、ジルヴァラ」
愛らしい美少年な面には不似合いな相当な年を重ねていると思わせる微笑を浮かべ──というか、実際とんでもない年齢なんだろうなぁアルマナさんとか思いながら、差し出された手を握る俺。
そのままアルマナさんは扉から………ではなく窓からのダイナミック外出をされたので、当然手を繋いでいた俺もダイナミック外出となる。
人間慌て過ぎると逆に脳内は落ち着くのか、微妙におかしな言葉遣いのナレーションみたいなのを脳内に流しながら、俺はアルマナさんと手を繋いだまま宙を歩いて近くの建物の屋根へと着地していた。
「……せめて一言言ってください」
「うん? ジルヴァラは普段からあいつに抱えられて屋根の上移動して慣れているだろ?」
なんだかとってもファンタジーな移動をしてしまった俺は、脱力しながらアルマナさんへ軽い抗議をしたのだが、返ってきたのは俺の抗議以上に軽い答えだった。
「……主様は問答無用ですし、最近は懐に入れられてるので外は見えてないですから」
俺は斜めになっている屋根の上という足場の不安定さから、アルマナさんの手をギュッと掴みながら説明し、アルマナさんも納得した様子で俺の腰を掴んで自らの方へ引き寄せてくれる。
「それもそうか。下が見えると少し怖いか」
そう言ってくすくすと笑ったアルマナさんは俺の体をしっかり支えてくれながら、何かを探すようにぐるりと周囲を見渡している。
「逃げ出した動物達を探してるんですか?」
「そうなんだが……それより先にお迎えだ、ジルヴァラ」
アルマナさんにギュッとしがみついていると、からかうようなそれでいて呆れているような顔でそんなことを言われる。
意味がわからず首を傾げていると、背後から腰にアルマナさんではない腕が触れ、グッと引っ張られる。
それと同時にアルマナさんがパッと手を離したため、俺は背後に立った腕の持ち主の胸へ飛び込むことになる。
「ロコは誰の物かわからないのか?」
「あーもー、わかってるよ。ちょっと借りようとしただけだろ?」
俺をギュッと抱きしめた主様は、仲良しなアルマナさんと話しているせいか、いつもの丁寧な話し方ではなくたまに出るガラの悪い主様だ。
どっちの主様が好きとかは語れないぞ。
何故ならどちらも格好良いからな。
内心でドヤッとして誰にともなく主様の良さを語っていたら、二人の話し合いはいつの間にか終わっていたらしい。
さぁ行くぞとばかりにアルマナさんが俺を見たが、話を聞いていなかった俺は全く意味がわからなかったため、首を傾げて主様を見上げる。
目が合った主様からは無言で頬をむにむにと抓まれる。
「…………さては聞いてなかったな、ジルヴァラ」
「……すみません」
俺が全面的に悪かったので素直に謝ると、苦笑いしたアルマナさんからぽんぽんと頭を撫でられる。
「当初の予定通り、力を貸してもらえるか」
「もちろんです!」
主様に抱えられたまま気合を入れて答えると、耳元でボソッと主様が不服そうに低く囁く声が聞こえる。
「──私もついていきますから。離れませんから」
先ほどの話し合いはこれだったんだなと納得し、俺は過保護な主様に対してへらっと笑って頷くのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
何をやってるんだか、ヒロインちゃん。
今回ヒロインちゃん側書くか悩んでますが、短めのぶっ込むかなぁ。作者でもびっくりする事をしでかす子です←
主様の方は、相変わらず『待て』が出来ずに、ひょいひょい出て来てしまいました。
それを全て『過保護』の一言で済ませる、ジルヴァラクオリティ。




